ADL 区分とは?医療区分との違いと評価のポイント

制度・実務
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ADL 区分とは?|医療療養病棟で使う日常生活自立度の区分

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ADL 区分は、医療療養病棟などで入院基本料を算定する際に用いられる「日常生活自立度」の区分です。ベッド上の可動性・移乗・食事・トイレの 4 項目を、それぞれ 0(自立)〜6(全面介助)の 7 段階で評価し、合計 0〜24 点のスコアから ADL 区分 1〜3 を判定します。点数が高いほど ADL 介助量が多く、ケア負担が大きい患者像を反映する仕組みです。

ADL 区分は、疾患・状態や医療処置などを示す「医療区分」と組み合わせて、療養病棟入院基本料の評価に用いられます。つまり、医療区分が「医療的な重症度」、ADL 区分が「生活面の重症度」を表し、その掛け合わせで包括点数が決まるイメージです。本記事では、リハビリ職や看護師・医事担当者が現場で迷いやすいポイントを中心に、「ADL 区分とは何か」「どう評価し、どう活かすか」を整理します。

ADL 得点(0〜24 点)の付け方|4 項目× 7 段階の考え方

ADL 区分の評価対象は、①ベッド上の可動性、②移乗、③食事、④トイレの使用の 4 項目です。各項目を 0(完全自立)〜6(全面介助)の 7 段階で評価し、4 項目の合計が 0〜24 点になります。評価は「過去 3 日間、すべての勤務帯を通じて最も頻度の高い状態」を基本とし、一時的な良い場面・悪い場面ではなく、日常的なケア量を反映させることが求められます。

評価の原則として、①患者自身が行っている動作を優先して判定する、②安全のための「見守り」や「準備のみ」は自立に含めるかどうかを事前にチームで整理する、③一度決めた基準を病棟内で統一して運用する、の 3 点が重要です。正式な定義や具体的な評価基準は、厚生労働省が公開している評価票や Q&A を必ず参照し、院内のローカルルールが逸脱しないよう確認しておきましょう。

ADL 区分 1〜3 のイメージと判定の迷いどころ

ADL 区分は、0〜24 点の合計点から 3 段階に分類されます。一般的には、0〜10 点が ADL 区分 1、11〜22 点が ADL 区分 2、23〜24 点が ADL 区分 3 とされ、数値が大きいほど生活動作の介助量が多いとみなされます。イメージをつかむうえでは、「どの程度の場面で常時介助を要するか」「ケアのマンパワーをどのくらい必要とするか」に着目すると整理しやすくなります。

ADL 区分 1〜3 の概要(成人・医療療養病棟)
ADL 区分 合計点の目安 状態イメージ
区分 1 0〜10 点 基本的には自立〜軽介助。ベッド上・食事・トイレなど多くが自立し、一部の場面で見守りや準備のみを要する。
区分 2 11〜22 点 移乗やトイレでの部分介助が増え、複数場面で継続的な身体介助が必要。中等度の ADL 低下レベル。
区分 3 23〜24 点 ほぼ全ての場面で全介助またはそれに近い状態。体位変換・おむつ交換・経管栄養などケア負担が高い。

実務上の悩みどころは、「見守り」や「準備のみ」をどこまで自立とみなすか、「ボディタッチを伴う軽介助」をどの段階に分類するか、といったグレーゾーンです。また、日によって調子が変動する患者さんでは、良い日の状態に合わせるのか、平均像で評価するのかが問題になります。これらは評価者ごとにばらつきが出やすいため、病棟内で具体例を持ち寄り、ケースカンファレンスを通して基準をすり合わせておくことが大切です。

医療区分との組み合わせで何が決まる?|令和 6 年改定のざっくり整理

医療区分は、疾患・状態(状態像)と、酸素療法・点滴・ドレーン管理などの医療処置の有無から、患者さんの医療的重症度を 3 段階で分類する指標です。令和 6 年診療報酬改定では、この医療区分の定義が見直され、「状態像」と「処置」を整理したうえで、より患者像に即した評価になるよう再構成されています。一方、ADL 区分は従来どおり 3 区分で運用され、医療区分と掛け合わせて包括点数を決める仕組みは維持されています。

実務で意識したいのは、「医療区分 × ADL 区分」が示すのは、あくまで報酬上の立ち位置だという点です。たとえば、医療区分が高く ADL 区分も 3 の患者さんは、医療処置も ADL 介助量も多いハイケア患者を意味しますが、「点数のために ADL 区分を上げる/下げる」ことは本末転倒です。あくまで、患者さんの状態像とケア負担を客観的に示す枠組みとして位置づけつつ、詳細な機能評価は FIM や Barthel Index などの評価指標や、院内で整理した評価ハブ(例:評価のまとめ記事)と組み合わせて活用していくことが重要です。

PT・OT・ST が ADL 区分をどう活かすか|評価・目標設定・退棟の見立て

リハビリ専門職にとって、ADL 区分は「包括点数のための指標」というイメージが先行しがちですが、使い方次第で臨床的な示唆も得られます。たとえば、区分 3 → 2、区分 2 → 1 への変化は、ケア負担の軽減や在宅復帰の可能性にも直結します。日常の機能評価(筋力・バランス・歩行など)とあわせて経時的にモニタリングすることで、「どの ADL 場面の改善が区分の変化につながりやすいか」を把握したり、退棟・転棟の目安を立てたりする助けになります。

ただし、ADL 区分は FIM や Barthel Index のように細かい項目構成ではなく、「包括的な ADL 介助量のレベル」をざっくり捉える指標です。そのため、「FIM の総点は改善したが ADL 区分は変わらない」「Barthel では在宅レベルだが、入院中のケア実態から ADL 区分 2 のまま」といったズレが起こり得ます。このギャップをそのままにせず、「なぜズレているのか」「どの場面でケア負担が残っているのか」をカンファレンスで言語化することで、多職種連携の議論を深める材料として活用するとよいでしょう。

現場の詰まりどころ|評価のばらつきと医療区分との“距離感”

ADL 区分で最もよく聞かれるのは「評価者によって結果が変わる」という悩みです。例えば、ある看護師は軽介助と判断した場面を、別のスタッフは「見守り主体」と評価することがあります。また、日勤帯では見守りレベルだが、夜勤帯は転倒リスクを考えてしっかり介助しているケースもあり、「過去 3 日間の最も頻度の高い状態」をどのように捉えるかで解釈が分かれます。

対策としては、①代表的なケースをピックアップして「これは何点か?」を部署内でディスカッションする、②ローテーションで複数職種が共同評価を行い、感覚の統一を図る、③評価変更時には理由(体力低下・環境調整・介入効果など)を記録に残す、などが有効です。また、医療区分・ADL 区分はあくまで報酬上の枠組みであり、「点数を守るために介助量を変える」「在宅復帰の方向性より点数を優先する」といった逆転が起きないよう、倫理面の視点をチーム全体で共有しておく必要があります。

よくある質問(FAQ)

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Q1:ADL 区分はどのくらいの頻度で見直すべきですか?

診療報酬上は、医療区分・ADL 区分の評価票を一定のタイミングで提出することが求められますが、臨床上の見直しは「状態変化のタイミング」で行うのが基本です。具体的には、①急性増悪・転倒などで ADL が明らかに低下したとき、②リハビリ介入や環境調整で ADL が明らかに改善したとき、③退棟・転棟や在宅復帰を検討するカンファレンス前後、が見直しの主なタイミングとなります。形式的に月 1 回だけ見直すよりも、状態変化に応じて柔軟に評価する方が、患者像を適切に反映しやすくなります。

Q2:日によって ADL が変動する患者さんは、どのように評価すればよいですか?

日内・日差変動が大きい患者さんの場合、「一番良い日」や「一番悪い日」ではなく、過去 3 日間を通じて最も頻度の高い状態で評価することが原則です。例えば、週に 1 回だけ食事が全量自立でも、それ以外の多くの場面で介助が必要なら、介助レベルに合わせて点数を付けます。どうしても悩む場合は、評価時点の状態だけでなく、変動の幅や原因(全身状態・睡眠・薬剤など)を記録に残し、リハビリや主治医とも相談しながらチームで方針を決めることが重要です。

Q3:FIM や Barthel Index と ADL 区分の結果が一致しません。どちらを重視すべきですか?

FIM や Barthel Index は、より詳細な項目構成とスコアリングで ADL 能力を評価する指標であり、ADL 区分とは目的や性質が異なります。ADL 区分は「療養病棟の包括点数を決めるための、ケア負担レベルの大づかみ指標」として位置づけるのが妥当です。そのため、生活機能や介入効果を判断する際には FIM・Barthel などの結果を優先しつつ、「ケア量・マンパワー」の観点を補う情報として ADL 区分を参照する、という使い分けが現実的です。

Q4:ADL 区分が改善すると、入院基本料の点数も必ず下がるのでしょうか?

医療区分・ADL 区分は包括点数の算定要素であり、ADL 区分が改善すれば、組み合わせによっては点数が変化する可能性があります。ただし、実際の点数設定や届出・算定ルールは診療報酬の通知・解釈通知に従う必要があり、施設ごとの運用にも違いがあります。リハビリ職としては、「点数が下がるから改善させない」といった発想ではなく、患者さんの QOL や在宅復帰の可能性を高めることを第一に考えつつ、必要に応じて医事部門と連携して影響を確認する姿勢が重要です。

おわりに|制度の指標を“生活のイメージ”につなげる

ADL 区分は、療養病棟の入院基本料に直結する「制度の指標」でありながら、ベッド上可動性・移乗・食事・トイレといった生活の基礎動作を軸に構成されています。評価を単なる点数付けで終わらせず、「どの場面でどのくらい介助が必要なのか」「どの ADL が改善すればケア負担が軽くなるのか」といった具体的な生活像に落とし込むことで、リハビリの目標設定や家族説明にも活かしやすくなります。

医療区分・ADL 区分という制度上のフレームに振り回されるのではなく、「患者さんの生活とケア負担をチームで共有するための共通言語」として捉え直すことが重要です。評価のばらつきや運用の悩みは、ケースを持ち寄ったカンファレンスや多職種での共同評価を通じて少しずつ解消していけます。本記事が、現場での ADL 区分の理解と運用を見直すきっかけになれば幸いです。

参考文献

  1. 厚生労働省. 療養病棟入院基本料等に係る評価票(医療区分・ ADL 区分)について. 厚生労働省; 発出年不詳. (インターネット). 利用可能: https://www.mhlw.go.jp/
  2. 厚生労働省. 令和 6 年度診療報酬改定の概要(入院医療). 厚生労働省; 2024. (インターネット). 利用可能: https://www.mhlw.go.jp/
  3. 日本慢性期医療協会. 医療区分・ ADL 区分の最新動向と慢性期医療への影響. 日本慢性期医療協会; 公開年不詳.

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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