予測的バランス( APA )とは?(定義と臨床意義)
予測的バランス( anticipatory postural adjustment:APA )は、立ち上がり・持ち上げ・方向転換など動作の直前に身体を用意する調整です。ここが遅れると開始直後に COM が BOS から外れ、躊躇や停止、痛み回避の代償が生じます。疼痛・恐怖・注意の偏りは APA を阻害しやすく、転倒や活動回避に直結します。
用語や全体像はバランス概念ハブを参照。本記事は APA の評価と訓練に特化し、Mini-BESTest・FGA・mCTSIB と結び付けて運用します。
評価:どこで“構え”が遅れている?
Mini-BESTest では「立ち上がり」「方向転換」「歩行中課題」の所見が APA を反映します。FGA では速度変化・障害物・ヘッドターンでの準備性を観察。感覚統合の問題が背景にある場合は mCTSIB で視覚/体性感覚/前庭のリウェイティングを確認してから介入順序を決めます。
観点は ①準備動作の出現(前方足圧・股関節屈曲・視線先行)、②タイミングの遅れ、③恐怖・疼痛による抑制。心理面は ABC・FES-I で把握・補完します。
※この表は横にスクロールできます。
評価所見 | 想定要因 | 初期介入 | 発展介入 | 再評価の指標 |
---|---|---|---|---|
立ち上がり直後にふらつく | 前方への COM 準備不足 | 前方重心誘導(足位置・股関節屈曲のリハーサル) | 速度変化の立ち上がり・段差 | Mini-BESTest 該当項目 |
方向転換で停止/躊躇 | 回旋前の APA 欠如・恐怖 | 小回りから段階化・視線先行の練習 | FGA の方向転換課題の現場化 | FGA 該当項目・ABC |
持ち上げで腰背部に痛み | 準備不足→代償動作の増大 | 荷重前の呼吸・骨盤設定・足圧誘導 | 重量・高さ・方向の複合操作+段階増加 | ABC・FES-I の改善 |
訓練:プライミングと課題特異性
APA は事前の“構え”を学習させる介入が中心です。動作直前の視線・呼吸・足圧・股関節前傾を揃える「プライミング」を短時間で反復し、成功の予測を高めます。環境設定(足幅・支持面・視覚情報)は mCTSIB の考え方を援用して段階化しましょう。
- 立ち上がり:足位置(後方寄せ)→上体前傾→素早い起立→速度変化
- 方向転換:視線先行→肩→骨盤の順で回旋→カットバック
- 持ち上げ:対象重量・高さ・距離の漸増+事前吸気/呼気の使い分け
介入の全体像は PTキャリアガイドのフロー も参考にし、評価→介入→再評価を1サイクルで設計して汎化を促します。
デュアルタスク × APA(現実場面への橋渡し)
日常生活では認知課題の併存が常態です。早期から少量のデュアルタスク(逆唱・名詞列挙・計算など)を重ね、妥当な負荷で成功体験を積みます。恐怖の強い症例は ABC・FES-I の変化をフィードバックに活用します。
よくある質問(FAQ)
APAを強化すると何が変わる?
動作開始直後の不安定や代償が減少し、立ち上がり・方向転換・持ち上げ等の安全性と効率が向上します。
どの評価から始めれば良い?
まず Mini-BESTest で全体像を掴み、FGA で歩行中の準備性を確認。必要に応じ mCTSIB で感覚統合を確認します。
訓練の失敗パターンは?
プライミングの省略、進行が急すぎる段階づけ、恐怖や疼痛への配慮不足です。安全管理と成功体験の設計を優先します。