失語症ドリル(OT)|理解・表出・会話を難易度別に

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失語症ドリル(OT)|理解・表出・会話を「難易度別」で回す

失語症の練習は、課題を増やすほど迷いやすく、「結局その場で頑張っただけ」で終わりがちです。そこで本記事は、OT が現場で回せるように理解(聴理解)・表出(呼称/発話)・会話難易度別に整理し、実施ルールと記録(0/1/2 点)まで 1 セットでまとめます。

ドリルは正答率よりも、「ヒントの入り方」「自己修正」「伝達できたか」を同条件で比較するのがポイントです。関連するドリル一覧は 高次脳機能障害ドリル OT ハブ にまとめています。

チームで同じ「やり方」と「記録の型」を持つと、ドリルが続きます。全体像を 5 分で確認しておきましょう。 PT キャリアガイドを見る

対象読者とこの記事のゴール

対象は、失語症の練習を「その場の声かけ」から再現できる運用へ整えたい OT です。SLT が主に担当する場面でも、OT が生活場面のやり取りを支えるために、共通言語(難易度・ヒント・記録)を持つと連携が速くなります。

ゴールは、(1) 難易度を固定して反復できる、(2) ヒント量と成果を同じ枠で記録できる、(3) 生活場面(会話/依頼/確認)へ橋渡しできる、の 3 つです。

実施ルール(最小セット)

失語症ドリルの運用ルール(条件固定で比較する)
項目 ルール ねらい
時間 1 セッション 20〜25 分(導入 3 分→実施 15 分→振り返り 5 分) 疲労と成否を切り分ける
課題数 1 回あたり 4〜6 問(多すぎない) 質(ヒント/自己修正)を観る
難易度 同じ難易度を 2 回は固定して比較(いきなり変えない) 何が効いたか分かる
ヒント ヒントは「段階」で運用(後述の 0/1/2 点と一致) 支援量を定義して共有する
振り返り 成功/失敗を 1 つに絞り、次回の条件を 1 つだけ変える 改善が積み上がる

難易度の作り方(この 3 つだけ動かす)

失語症ドリルの難易度は「問題の難しさ」だけでなく、語の頻度選択肢の有無文脈(手がかり)で決まります。調整は 3 つのうち1 つだけを動かします(複数同時は比較不能)。

難易度の調整パラメータ(1 つずつ動かす)
要素 易しくする 難しくする 観察ポイント
語の頻度 身近・高頻度語 低頻度語/抽象語 語検索の立ち上がり
選択肢 2 択/3 択 自由回答 誤り方(意味/音)
文脈 場面提示あり 文脈なし 手がかりの利用

失語症ドリル(難易度別)

ここでは「理解」「表出」「会話」をそれぞれ初級/中級/上級で回せる形にします。ポイントは、同じ枠のまま条件だけを変えて比較することです。

1) 理解(聴理解)ドリル

理解ドリル(初級〜上級)
難易度 課題 条件固定 よく見る点
初級 2 択で「どっち?」(物/動作) 語は高頻度、文脈あり 聞き返し、指さしの迷い
中級 3〜4 択で「指示に従う」(1 ステップ) 選択肢数を固定 取り違えの型(意味/近接)
上級 2 ステップ指示(順序あり) 語は同等、手がかり減 保持と順序の崩れ

2) 表出(呼称/発話)ドリル

表出ドリル(初級〜上級)
難易度 課題 条件固定 よく見る点
初級 物品呼称(高頻度)+語頭音ヒント ヒント段階を固定 語頭で出るか、遅延か
中級 動作説明(「〜している」) 文型を固定 動詞が出るか、迂回できるか
上級 カテゴリ想起(例:果物を 5 つ) 時間 60 秒固定 探索の戦略(まとまり/切替)

3) 会話(生活場面)ドリル

会話ドリル(初級〜上級)
難易度 課題 条件固定 よく見る点
初級 Yes/No で意思確認(痛い/寒い等) 質問数 10 固定 誤反応の場面(疲労/焦り)
中級 依頼(「〜してください」)を 1 文で伝える 場面カードを固定 伝達成功/修正の有無
上級 説明(出来事を 3 文で) 構成(いつ/どこ/なに)固定 要点保持と脱線

採点(0/1/2 点)とヒント段階

採点は「できた/できない」ではなく、どこまでヒントで回復したかを残します。OT と ST で共有しやすいよう、ヒント段階を採点に直結させます。

0/1/2 点(ヒント段階と一致)
点数 定義 ヒント例 次回調整
0 成立せず(ヒントでも回復しない) 選択肢提示しても不一致 難易度を 1 つ戻す
1 部分達成(ヒントで成立) 語頭音/選択肢/文脈提示 同条件で反復して安定化
2 自立して達成(ヒントなし) 無提示で成立 パラメータを 1 つだけ上げる

実施シート+記録シート(A4・2 ページ)

本記事の内容は、PDF にすると「そのまま回せる」形になります。構成は1 枚目=実施(難易度別メニュー+実施ルール)/2 枚目=記録(0/1/2 点+メモ)です。同条件で反復し、ヒントの入り方と伝達成功がどう変化したかを残してください。

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現場の詰まりどころ

詰まりやすいのは、難易度を一気に動かすことです。語の頻度・選択肢・文脈を同時に変えると、改善なのか偶然なのか判断できません。まずは 1 要素だけ動かし、同条件で 2 回は比較してください。

もう 1 つは、会話ドリルで「正しい言い方」に寄せすぎることです。生活場面の目標は、伝わったか自己修正できたかです。言い換え・ジェスチャー・書字など「通る手段」を残しつつ、成功経験を積み上げます。

よくある失敗

失語症ドリル運用の失敗と対策
失敗 理由 対策 記録ポイント
毎回メニューを変える 条件差で比較できない 同難易度を 2 回固定して比較 固定した条件
難易度を同時に動かす 原因が特定できない 語の頻度/選択肢/文脈を 1 つずつ 変えた要素
言い直しを強要する 失敗反復になりやすい まず伝達成功を優先、修正は 1 回まで 修正の回数
会話の枠がない 脱線しやすい 構成(いつ/どこ/なに)を固定 構成の保持

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. OT が失語症ドリルをやってもよいですか?

OT は生活場面(会話/依頼/確認)の成立を支える立場として、条件固定での反復や環境調整を得意とします。担当や役割は施設の方針に従いつつ、ST と「難易度・ヒント・記録」を共有できる形にしておくと連携が速くなります。

Q2. 何を指標に「上げる/下げる」を決めますか?

0/1/2 点と、誤り方(意味/音の近さ、保持、順序)を見ます。2 点が安定したら 1 要素だけ上げ、0 が続くなら 1 要素だけ下げます。

Q3. 会話ドリルがうまくいきません

会話は「構成(いつ/どこ/なに)」を固定すると成立しやすいです。まずは 3 文で終える枠を作り、伝達成功と自己修正を評価します。

Q4. 介入者が言い直させてしまいます

言い直しは負荷が高く、失敗反復になりやすいです。まずは「伝達できたか」を優先し、言い直しは 1 回だけなどルール化すると運用が安定します。

次の一手

失語症は、注意・記憶・遂行など他の要素と重なって“崩れ方”が変わります。クラスター内で併せて確認しておくと、評価と共有が速くなります。

体制面の詰まりを点検する場合は、無料チェックシート で共有フローも整理しておくと定着が早くなります。


参考文献

  • Brady MC, Kelly H, Godwin J, Enderby P, Campbell P. Speech and language therapy for aphasia following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2016;CD000425. DOI: 10.1002/14651858.CD000425.pub4 / PubMed: 27245310
  • NICE. Stroke rehabilitation in adults (NG236) Recommendations (Communication). 2023. NICE NG236
  • American Heart Association/American Stroke Association. Improving Access to Stroke Rehabilitation and Recovery. 2025. DOI: 10.1161/STR.0000000000000493

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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