失語症ドリル(OT)|理解・表出・会話を「難易度別」で回す
失語症の練習は、課題を増やすほど迷いやすく、「結局その場で頑張っただけ」で終わりがちです。そこで本記事は、OT が現場で回せるように理解(聴理解)・表出(呼称/発話)・会話を難易度別に整理し、実施ルールと記録(0/1/2 点)まで 1 セットでまとめます。
ドリルは正答率よりも、「ヒントの入り方」「自己修正」「伝達できたか」を同条件で比較するのがポイントです。関連するドリル一覧は 高次脳機能障害ドリル OT ハブ にまとめています。
対象読者とこの記事のゴール
対象は、失語症の練習を「その場の声かけ」から再現できる運用へ整えたい OT です。SLT が主に担当する場面でも、OT が生活場面のやり取りを支えるために、共通言語(難易度・ヒント・記録)を持つと連携が速くなります。
ゴールは、(1) 難易度を固定して反復できる、(2) ヒント量と成果を同じ枠で記録できる、(3) 生活場面(会話/依頼/確認)へ橋渡しできる、の 3 つです。
実施ルール(最小セット)
| 項目 | ルール | ねらい |
|---|---|---|
| 時間 | 1 セッション 20〜25 分(導入 3 分→実施 15 分→振り返り 5 分) | 疲労と成否を切り分ける |
| 課題数 | 1 回あたり 4〜6 問(多すぎない) | 質(ヒント/自己修正)を観る |
| 難易度 | 同じ難易度を 2 回は固定して比較(いきなり変えない) | 何が効いたか分かる |
| ヒント | ヒントは「段階」で運用(後述の 0/1/2 点と一致) | 支援量を定義して共有する |
| 振り返り | 成功/失敗を 1 つに絞り、次回の条件を 1 つだけ変える | 改善が積み上がる |
難易度の作り方(この 3 つだけ動かす)
失語症ドリルの難易度は「問題の難しさ」だけでなく、語の頻度、選択肢の有無、文脈(手がかり)で決まります。調整は 3 つのうち1 つだけを動かします(複数同時は比較不能)。
| 要素 | 易しくする | 難しくする | 観察ポイント |
|---|---|---|---|
| 語の頻度 | 身近・高頻度語 | 低頻度語/抽象語 | 語検索の立ち上がり |
| 選択肢 | 2 択/3 択 | 自由回答 | 誤り方(意味/音) |
| 文脈 | 場面提示あり | 文脈なし | 手がかりの利用 |
失語症ドリル(難易度別)
ここでは「理解」「表出」「会話」をそれぞれ初級/中級/上級で回せる形にします。ポイントは、同じ枠のまま条件だけを変えて比較することです。
1) 理解(聴理解)ドリル
| 難易度 | 課題 | 条件固定 | よく見る点 |
|---|---|---|---|
| 初級 | 2 択で「どっち?」(物/動作) | 語は高頻度、文脈あり | 聞き返し、指さしの迷い |
| 中級 | 3〜4 択で「指示に従う」(1 ステップ) | 選択肢数を固定 | 取り違えの型(意味/近接) |
| 上級 | 2 ステップ指示(順序あり) | 語は同等、手がかり減 | 保持と順序の崩れ |
2) 表出(呼称/発話)ドリル
| 難易度 | 課題 | 条件固定 | よく見る点 |
|---|---|---|---|
| 初級 | 物品呼称(高頻度)+語頭音ヒント | ヒント段階を固定 | 語頭で出るか、遅延か |
| 中級 | 動作説明(「〜している」) | 文型を固定 | 動詞が出るか、迂回できるか |
| 上級 | カテゴリ想起(例:果物を 5 つ) | 時間 60 秒固定 | 探索の戦略(まとまり/切替) |
3) 会話(生活場面)ドリル
| 難易度 | 課題 | 条件固定 | よく見る点 |
|---|---|---|---|
| 初級 | Yes/No で意思確認(痛い/寒い等) | 質問数 10 固定 | 誤反応の場面(疲労/焦り) |
| 中級 | 依頼(「〜してください」)を 1 文で伝える | 場面カードを固定 | 伝達成功/修正の有無 |
| 上級 | 説明(出来事を 3 文で) | 構成(いつ/どこ/なに)固定 | 要点保持と脱線 |
採点(0/1/2 点)とヒント段階
採点は「できた/できない」ではなく、どこまでヒントで回復したかを残します。OT と ST で共有しやすいよう、ヒント段階を採点に直結させます。
| 点数 | 定義 | ヒント例 | 次回調整 |
|---|---|---|---|
| 0 | 成立せず(ヒントでも回復しない) | 選択肢提示しても不一致 | 難易度を 1 つ戻す |
| 1 | 部分達成(ヒントで成立) | 語頭音/選択肢/文脈提示 | 同条件で反復して安定化 |
| 2 | 自立して達成(ヒントなし) | 無提示で成立 | パラメータを 1 つだけ上げる |
実施シート+記録シート(A4・2 ページ)
本記事の内容は、PDF にすると「そのまま回せる」形になります。構成は1 枚目=実施(難易度別メニュー+実施ルール)/2 枚目=記録(0/1/2 点+メモ)です。同条件で反復し、ヒントの入り方と伝達成功がどう変化したかを残してください。
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現場の詰まりどころ
詰まりやすいのは、難易度を一気に動かすことです。語の頻度・選択肢・文脈を同時に変えると、改善なのか偶然なのか判断できません。まずは 1 要素だけ動かし、同条件で 2 回は比較してください。
もう 1 つは、会話ドリルで「正しい言い方」に寄せすぎることです。生活場面の目標は、伝わったかと自己修正できたかです。言い換え・ジェスチャー・書字など「通る手段」を残しつつ、成功経験を積み上げます。
よくある失敗
| 失敗 | 理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 毎回メニューを変える | 条件差で比較できない | 同難易度を 2 回固定して比較 | 固定した条件 |
| 難易度を同時に動かす | 原因が特定できない | 語の頻度/選択肢/文脈を 1 つずつ | 変えた要素 |
| 言い直しを強要する | 失敗反復になりやすい | まず伝達成功を優先、修正は 1 回まで | 修正の回数 |
| 会話の枠がない | 脱線しやすい | 構成(いつ/どこ/なに)を固定 | 構成の保持 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. OT が失語症ドリルをやってもよいですか?
OT は生活場面(会話/依頼/確認)の成立を支える立場として、条件固定での反復や環境調整を得意とします。担当や役割は施設の方針に従いつつ、ST と「難易度・ヒント・記録」を共有できる形にしておくと連携が速くなります。
Q2. 何を指標に「上げる/下げる」を決めますか?
0/1/2 点と、誤り方(意味/音の近さ、保持、順序)を見ます。2 点が安定したら 1 要素だけ上げ、0 が続くなら 1 要素だけ下げます。
Q3. 会話ドリルがうまくいきません
会話は「構成(いつ/どこ/なに)」を固定すると成立しやすいです。まずは 3 文で終える枠を作り、伝達成功と自己修正を評価します。
Q4. 介入者が言い直させてしまいます
言い直しは負荷が高く、失敗反復になりやすいです。まずは「伝達できたか」を優先し、言い直しは 1 回だけなどルール化すると運用が安定します。
次の一手
失語症は、注意・記憶・遂行など他の要素と重なって“崩れ方”が変わります。クラスター内で併せて確認しておくと、評価と共有が速くなります。
体制面の詰まりを点検する場合は、無料チェックシート で共有フローも整理しておくと定着が早くなります。
参考文献
- Brady MC, Kelly H, Godwin J, Enderby P, Campbell P. Speech and language therapy for aphasia following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2016;CD000425. DOI: 10.1002/14651858.CD000425.pub4 / PubMed: 27245310
- NICE. Stroke rehabilitation in adults (NG236) Recommendations (Communication). 2023. NICE NG236
- American Heart Association/American Stroke Association. Improving Access to Stroke Rehabilitation and Recovery. 2025. DOI: 10.1161/STR.0000000000000493
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

