遂行機能障害ドリル中級 10 問|割り込み・制約・自己修正を生活場面へつなぐ
初級で「目標 → 計画 → 実行 → 自己修正」の型が安定したら、次は中級です。中級の狙いは、単純な正答ではなく、割り込みや制約が入っても計画を保ち、自己修正して完遂できるかを確認することです。
この記事では、OT が現場で使いやすい中級 10 問、25 分の運用、採点、難易度調整、記録の残し方をまとめます。総論や初級の詳しい考え方は別記事に任せ、本記事では「中級をどう回し、どう記録するか」に絞ります。
対象読者とこの記事で決まること
対象は、遂行機能障害の介入を「課題ができるか」から「条件が増えても生活で崩れにくいか」へ進めたい OT です。病棟や訓練場面ではできるのに、割り込み・時間圧・複数手順が入ると崩れるケースに向いています。
この記事で決まることは、中級に上げる基準、1 セッションの組み方、中級 10 問の使い分け、採点、記録項目です。認知機能全般の評価や初級課題の作り方は深掘りせず、必要時は総論へ戻して整理します。
中級に上げる前のチェック(初級の基準線)
| 観点 | 目安 | 現場での見え方 | 記録の例 |
|---|---|---|---|
| 完遂 | 同条件で安定 | 開始が遅れず、終点まで到達する | 完遂/未完遂、所要時間 |
| 脱線 | 脱線が少ない | 途中で別行動に移らず戻れる | 脱線回数、脱線の内容 |
| 自己修正 | 自発が出る | 誤りに気づき、手順を戻せる | 自発修正の有無、修正までの時間 |
| 支援量 | 最小で成立 | 誘導が増えずに成立する | 手がかりの種類(声かけ/指差し など) |
使い方|1 セッション 25 分で条件を固定する

中級は、割り込み回数・制約数・時間圧を先に固定してから実施します。毎回条件が変わると、改善なのか条件差なのかが判別できません。
1 回のセッションは「目標設定 → 問題選択 → 同条件で実施 → 振り返り」の順で固定します。調整は 1 つずつ行い、次回に比較できる記録を残します。
| 手順 | 内容 | 目安時間 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 1 | 本日の主目標を 1 つ設定(制約を 1 つ明記) | 2〜3 分 | 目的/制約/到達点 |
| 2 | 中級 10 問から 4〜6 問を選択 | 1 分 | 要素の偏り |
| 3 | 同条件で実施 | 15〜18 分 | 制約違反/脱線/復帰時間/自発修正 |
| 4 | 振り返りと次回調整を記録 | 3〜4 分 | 何を 1 つ変えるか |
遂行機能障害ドリル中級 10 問
中級では、割り込み・複数制約・時間圧を意図的に入れます。重要なのは、条件を増やしても自己修正が育つ設計にすることです。
介入者が正解へ寄せすぎると、自己点検と復帰が育ちにくくなります。まず本人が気づく時間を確保し、そのうえで必要最小限の手がかりに絞ります。
割り込みの固定例(短く終わるものを使う)
| 割り込みの種類 | 例 | 終わりの合図 | 記録 |
|---|---|---|---|
| 確認 | 道具の場所を 1 回だけ確認 | 確認できたら終了 | 復帰までの時間 |
| 指示 | 短い追加指示を 1 文だけ提示 | 復唱できたら終了 | 迷い/脱線の有無 |
| 選択 | 二択で 1 回だけ選ばせる | 選択できたら終了 | 選択後の再開 |
| No. | 要素 | 設問(課題) | 合格目安 | 観察ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 目標設定 | 目標文に「制約(時間 or 順序)」を 1 つ加えて書く | 目的+制約+到達点が入る | 制約を意識した目標化 |
| 2 | 目標設定 | 同じ目標に対し「失敗しやすい場面」を 2 つ予測して書く | 予測が具体的 | 場面と理由の具体性 |
| 3 | 計画 | 8 手順を順序化し、優先順位(上位 3)も決める | 順序と優先の整合が取れる | 順序+優先の保持 |
| 4 | 計画 | 途中で「時間が 5 分短縮」になった想定で計画を作り直す | 削る手順が妥当 | 更新の速さ、固着の有無 |
| 5 | 計画 | 制約 2 つを守るためのチェックポイントを決める | いつ何を見るかが具体的 | 自己点検の設計 |
| 6 | 実行 | 割り込み 2 回(内容固定)後に手順へ復帰して完遂する | 復帰 1 分以内が 2 回 | 復帰の速さと質 |
| 7 | 実行 | 並行タスク 1 つを追加し、確認後に復帰して完遂する | 脱線 1 回以内 | 切替と戻り方 |
| 8 | 実行 | 制約 3 つ(時間+順序+道具制限)で課題を完遂する | 制約違反 1 回以内 | 違反の種類 |
| 9 | 自己修正 | 実施中に自己点検タイムを 2 回入れ、自分で修正する | 自発修正 1 回以上 | 修正の自発性 |
| 10 | 自己修正 | 失敗の原因を 1 つに絞り、次回の予防策を 1 つ決める | 原因と対策が対応 | 再発予防の具体性 |
採点早見|点数より条件と自己修正を残す
中級も採点は 0〜2 点で整理します。ただし、中級で重要なのは点数だけではなく、制約違反と自己修正がどう変化したかです。
支援量が増えた場合は、点数が同じでも質的に後退している可能性があります。採点と同時に、割り込み回数・制約数・時間圧の設定値を必ず残してください。
| 点数 | 基準 | 次回調整 |
|---|---|---|
| 0 | 条件下で成立せず、制約違反が多い/復帰が止まる | 制約数を 1 つ減らす |
| 1 | 部分達成。支援で成立するが自己修正が弱い | 同条件で反復し、点検タイムを入れる |
| 2 | 自立して達成。制約を守り自己修正できる | 割り込み回数または制約を 1 つ微増 |
難易度調整|割り込み・制約・時間圧を 1 つずつ動かす
中級での調整は、課題そのものを毎回変えるより、割り込み回数、制約数、時間圧の 3 つを 1 つずつ動かします。複数を同時に動かすと、何が崩れた原因か分かりにくくなります。
崩れた場合は、まず制約数を 1 つ戻し、自己点検タイム(No. 9)を入れてから再挑戦します。自己点検を抜いたまま条件だけ上げると、失敗の反復になりやすいです。
| 調整対象 | 上げ方(例) | 下げ方(例) | 見る指標 |
|---|---|---|---|
| 割り込み | 1 回 → 2 回 | 2 回 → 1 回 | 復帰までの時間 |
| 制約数 | 2 つ → 3 つ | 3 つ → 2 つ | 制約違反回数 |
| 時間圧 | 制限を 10% 短縮 | 制限を 10% 延長 | 脱線回数 |
記録の型|次回調整に直結する 5 項目
中級の記録は、できた・できないだけで終わらせず、次回に何を調整するかまで残します。特に、条件設定と自己修正の有無が抜けると、介入の再現性が下がります。
記録では「設定条件」「結果」「崩れた場面」「支援量」「次回調整」を 1 セットで残します。高次脳機能障害ドリル全体の整理は、高次脳機能ドリル OT ハブから確認できます。
| 項目 | 記録する内容 | 記載例 |
|---|---|---|
| 設定条件 | 割り込み回数、制約数、時間圧 | 割り込み 2 回、制約 2 つ、15 分以内 |
| 結果 | 完遂、未完遂、所要時間、点数 | 2 点、13 分で完遂 |
| 崩れた場面 | 脱線、制約違反、復帰困難 | 2 回目の割り込み後に手順へ戻るまで 90 秒 |
| 支援量 | 声かけ、指差し、再提示など | 声かけ 1 回で再開 |
| 次回調整 | 何を 1 つ変えるか | 割り込み 2 回は維持し、自己点検タイムを追加 |
記録シート(A4・2 ページ)
中級でも、記録は同じフォーマットで統一すると比較が速くなります。初級と同一シートで「制約(何を増やしたか)」と「割り込み回数」を書き足してください。
プレビューを表示する
現場の詰まりどころ|先回りせず、復帰を記録する
中級で増える詰まりは、割り込みを入れた瞬間に介入者が先回りしてしまうことです。復帰の機会を奪うと、自己修正が育ちにくくなります。
もう 1 つは、制約を増やしすぎて失敗が連続することです。中級は失敗を使う段階ですが、成立が消えると離脱につながります。制約は 1 つずつ増やし、自己点検タイムをセットで運用してください。
教育体制・相談相手・記録文化を見直したい場合は、PT の働き方と学び方を整理したガイドも参考になります。
よくある失敗|中級で崩れやすい 4 パターン
| 失敗 | 理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 割り込みの内容が毎回違う | 条件差で比較できない | 割り込み内容・回数を固定 | 割り込みの定義 |
| 制約を同時に増やす | 原因が特定できない | 割り込み/制約/時間圧を 1 つずつ | 変えた条件 |
| 誘導が増える | 自己修正が育ちにくい | 点検タイムを先に確保 | 自発修正の有無 |
| 失敗が続くのに続行 | 成立が消え、離脱につながる | 制約を 1 つ戻して成立を作る | 終了判断の理由 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 中級はいつ始めるのがよいですか?
初級で、完遂が安定し、脱線が少なく、自己修正が出てきたタイミングが目安です。初級の課題を増やすより、中級で条件を固定して比較するほうが生活場面に近づきます。
Q2. 割り込みは何を使えばよいですか?
内容は毎回固定し、回数だけを調整します。「確認 1 回」「二択 1 回」など短く終わる割り込みが扱いやすいです。割り込みが長くなるほど、復帰の評価が難しくなります。
Q3. つい誘導してしまいそうです
誘導が増えると自己修正が育ちにくくなります。先に点検タイムを入れ、本人が再開する時間を確保してから、必要最小限の手がかりに絞ってください。
Q4. 記録で何を一番残すべきですか?
中級では「変えた条件(割り込み回数・制約数・時間圧)」と「制約違反・復帰時間・自発修正」の 3 点が最優先です。次回調整の根拠になります。
次の一手
中級が安定したら、生活場面へ移す前に「意思決定の軸」をそろえ、次の段階へ進めます。判断がぶれやすい場合は、まず比較でズレを補正してください。
参考文献
遂行機能障害の介入では、自己点検・自己調整を含むメタ認知的アプローチや、生活課題へつなぐ戦略学習が議論されています。以下は臨床で参照されやすい一次情報です。
- Cicerone KD, Goldin Y, Ganci K, et al. Evidence-Based Cognitive Rehabilitation: Systematic Review of the Literature From 2009 Through 2014. Arch Phys Med Rehabil. 2019;100(8):1515-1533. doi: 10.1016/j.apmr.2019.02.011 / PubMed
- Levine B, Robertson IH, Clare L, et al. Rehabilitation of executive functioning: An experimental–clinical validation of Goal Management Training. J Int Neuropsychol Soc. 2000;6(3):299-312. doi: 10.1017/S1355617700633052 / PubMed
- Krasny-Pacini A, Chevignard M, Evans J. Goal Management Training for rehabilitation of executive functions: a systematic review of effectiveness in patients with acquired brain injury. Disabil Rehabil. 2014;36(2):105-116. doi: 10.3109/09638288.2013.777807 / PubMed
- Polatajko HJ, Mandich AD, Miller LT, Macnab JJ. Cognitive Orientation to daily Occupational Performance (CO-OP): Part III—The protocol in brief. Phys Occup Ther Pediatr. 2001;20(2-3):107-123. doi: 10.1080/J006v20n02_07 / PubMed
- Toglia J, Johnston MV, Goverover Y, Dain B. A multicontext approach to promoting transfer of strategy use and self regulation after brain injury: An exploratory study. Brain Inj. 2010;24(4):664-677. doi: 10.3109/02699051003610474 / PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

