筋緊張評価の視診と触診は「抵抗の正体」を当てる前処理です
筋緊張( muscle tone )の評価は、いきなり MAS や MTS を付ける前に、視診と触診で「何が抵抗を作っているのか」を仮説化すると精度が上がります。硬い=痙縮と決め打ちせず、痙縮、拘縮、痛み・防御収縮、浮腫・軟部組織の硬さを切り分けることが第一歩です。
本記事では、PT / OT が明日から使えるように、視診 → 触診 → 条件固定 → 記録の最小手順に絞って整理します。被動性検査や MAS / MTS は、ここで立てた見立てを答え合わせする評価として扱います。
現場の詰まりどころ:硬いだけで「痙縮」と決めてしまう
筋が硬く触れると、つい「痙縮が強い」と表現したくなります。しかし臨床で触れる抵抗は、反射要素だけでなく、拘縮、疼痛、防御収縮、浮腫、皮膚・筋膜の滑走低下が混ざった結果です。
まずは安静で見る → 遅く動かして痛みと終末感を見る → 速く動かして速度依存性を見るという順番に固定します。この順番にすると、痙縮らしさと構造的な硬さを分けて記録しやすくなります。
毎回同じところで評価や記録に迷う場合は、個人の努力だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無などの環境要因も影響します。
PT キャリアガイドを見る視診で決めること:触る前に抵抗の候補を絞る
視診では、触診前にどの筋群・どの条件で緊張が出やすいかを絞ります。安静時の肢位だけでなく、努力、注意、疼痛、立位・歩行での変化を見ると、単なる硬さではなく「出やすい条件」が見えてきます。
| 観察ポイント | 所見例 | 考えること | 次の確認 |
|---|---|---|---|
| 安静肢位 | 尖足、内反、肘屈曲、手指屈曲位 | 痙縮、共同運動、拘縮 | 関節を整えて触診する |
| 左右差 | 肩甲帯挙上、骨盤回旋、体幹側屈 | 姿勢戦略、痛み、固定性の硬さ | 疼痛部位と誘発条件を確認する |
| 筋量・輪郭 | 萎縮、筋腹の凹み、局所の盛り上がり | 廃用、局所過緊張 | 筋腹の弾性を触診する |
| 皮膚・浮腫 | 光沢、圧痕、皮膚可動性低下 | 筋以外の軟部組織抵抗 | 皮膚・皮下組織から触る |
| 誘発時の変化 | 努力、注意、立位で固さが増える | 防御収縮、連合反応、不安 | 声かけと支持面をそろえる |
| 疼痛サイン | 表情変化、逃避、息止め、拒否 | 痛み、防御収縮 | 速い動きの前に疼痛を確認する |
触診で決めること:安静・遅い動き・速い動きで反応を分ける
触診は「硬いか柔らかいか」を言うだけでは不十分です。同じ部位を触り続けながら、安静 → 遅い動き → 速い動きの順に反応を追うと、抵抗の正体を分けやすくなります。
| 段階 | 確認する所見 | 示唆 | 記録に残す言葉 |
|---|---|---|---|
| 安静 | 圧痛、熱感、浮腫、皮膚可動性、筋腹の弾性 | 疼痛、炎症、軟部組織要素 | 圧痛あり、圧痕あり、皮膚可動性低下 |
| 遅い動き | 終末感、可動域制限、抵抗の立ち上がり | 拘縮、関節包、筋短縮 | 遅い伸張で終末感硬い |
| 速い動き | 速度で抵抗が増える、反射様収縮が乗る | 速度依存要素、痙縮 | 速い伸張で抵抗増加、反射様収縮あり |
抵抗の正体を分ける早見表
視診・触診で迷ったときは、抵抗を 1 つに決めつけず、以下のように主因と混在要素で整理します。臨床では痙縮単独よりも、拘縮や疼痛が混ざっていることが多いため、記録でも「痙縮疑い+拘縮要素あり」のように残すと共有しやすくなります。
| 候補 | 見分ける手がかり | 確認の順番 | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 痙縮 | 速い伸張で抵抗が増える。筋腹に反射様収縮を触れる。 | 遅い動きで痛みを確認後、速い動きで確認 | 速い伸張で抵抗増加。速度依存要素あり。 |
| 拘縮 | 遅い動きでも可動域制限があり、終末感が硬い。 | 関節軸と開始肢位をそろえて遅く確認 | 遅い伸張で終末感硬く、可動域制限あり。 |
| 痛み・防御収縮 | 表情変化、逃避、息止め、声かけで抵抗が変化する。 | 触診、疼痛確認、支持面調整を先に行う | 伸張時に表情変化あり。防御収縮混在。 |
| 浮腫・軟部組織 | 圧痕、皮膚可動性低下、筋腹以外の重さを感じる。 | 皮膚・皮下組織から触り、筋腹と分ける | 圧痕あり。軟部組織抵抗の影響あり。 |
条件固定:評価者間のばらつきを減らす
筋緊張評価は、体位、把持、速度、声かけが少し変わるだけで所見が変わります。評価者の感覚に頼りすぎず、最低限の条件を固定すると、次回比較や他職種共有がしやすくなります。
- 体位:背臥位、座位などを明記する
- 開始肢位:関節中間位など、始める角度をそろえる
- 把持:近位を支持し、遠位だけで振り回さない
- 速度:遅い動きと速い動きを分ける
- 脱力:声かけ、呼吸、支持面の安定をそろえる
よくある失敗:NG を潰すと所見が再現しやすくなる
筋緊張評価の失敗は、知識不足よりも条件ブレで起きることが多いです。以下の NG を先に潰すと、痙縮・拘縮・疼痛の誤認が減り、介入前後の比較もしやすくなります。
| よくある NG | 起きること | 修正ポイント |
|---|---|---|
| いきなり速く動かす | 驚きや痛みで防御収縮が混ざる | 遅い動きで痛みと終末感を先に確認する |
| 関節軸がずれている | 関節包や靱帯の抵抗を筋緊張と誤認する | アライメントを整えてから評価する |
| 遠位だけを把持する | テコで抵抗が誇張される | 近位支持と筋腹の触診を併用する |
| 疼痛サインを見落とす | 防御収縮を痙縮として記録してしまう | 表情、逃避、息止め、拒否を必ず確認する |
| 毎回順番が違う | 前回との比較ができない | 安静 → 遅い動き → 速い動きに固定する |
記録の型:体位・速度・反応・終末感を 1 行で残す
記録は長文にするより、次回も同じ条件で再現できる情報を残すことが大切です。おすすめは、体位、開始肢位、速度、反応、終末感、疼痛サインを 1 行にまとめる形です。
例:「背臥位、足関節中間位。遅い背屈で終末感は軽度硬い。速い背屈で抵抗増加し、腓腹筋筋腹に反射様収縮あり。疼痛サインなし。」
次の評価へつなぐ:視診・触診の見立てを答え合わせする
視診・触診で抵抗の正体に当たりを付けたら、次は被動性検査で速度条件と反応をそろえて確認します。スケールを付ける場合も、まず「何を測っているのか」を決めてから MAS や MTS を選ぶと、記録と介入がつながりやすくなります。
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
痙縮と拘縮は、視診・触診だけで分けられますか?
完全には分けきれませんが、当たりは付けられます。遅い動きでも終末感が硬く、可動域制限が強い場合は拘縮要素を考えます。速い動きで抵抗が増え、筋腹に反射様収縮が乗る場合は速度依存要素、つまり痙縮が疑われます。
触診で硬い筋は、すべて痙縮と考えてよいですか?
硬い筋すべてが痙縮ではありません。疼痛、防御収縮、浮腫、筋膜の滑走低下、廃用による組織変化でも硬く触れます。安静、遅い動き、速い動きの 3 段階で反応を分けて確認します。
評価前にリラクゼーションは必要ですか?
必要です。痛み、不安、寒さ、支持面の不安定さがあると防御収縮が混ざり、筋緊張を過大評価しやすくなります。声かけ、呼吸、ポジショニングで脱力しやすい条件を作ってから評価します。
評価者間のばらつきを減らすには何を書けばよいですか?
体位、開始肢位、把持位置、速度、疼痛サイン、終末感を記録します。特に「遅い動き」と「速い動き」の反応を分けて書くと、次回評価や他職種共有で再現しやすくなります。
次の一手:視診・触診から被動性検査へつなぐ
参考文献
- Bohannon RW, Smith MB. Interrater reliability of a modified Ashworth scale of muscle spasticity. Phys Ther. 1987;67(2):206-207. DOI: 10.1093/ptj/67.2.206 / PubMed
- Pandyan AD, Johnson GR, Price CIM, Curless RH, Barnes MP, Rodgers H. A review of the properties and limitations of the Ashworth and modified Ashworth Scales as measures of spasticity. Clin Rehabil. 1999;13(5):373-383. DOI: 10.1191/026921599677595404 / PubMed
- Trompetto C, Marinelli L, Mori L, Pelosin E, Currà A, Molfetta L, et al. Pathophysiology of spasticity: implications for neurorehabilitation. PM R. 2014;6(11):974-981. DOI: 10.1016/j.pmrj.2014.02.009 / PMC
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


