痙縮に対するボツリヌス療法後 2 週間リハビリ【理学療法プロトコル】
結論:ボツリヌス療法( BoNT-A )後の最初の 2 週間は、①時系列で優先順位を固定し、② 40–60 分のセッションをテンプレ化し、③再評価( D7 / D14 )を先に予定しておくと、効果の “ 取りこぼし ” を減らせます。発現〜ピークのタイムコースを踏まえ、伸びた可動域を機能へ転写する設計が要です。
本記事は「注射後に何をするか」を 0–14 日の運用に絞って整理します。痙縮の評価そのもの( MAS / MTS )は別記事で手順を深掘りしています:MAS / MTS 。
最初に押さえる 3 点( 60 秒まとめ )
- 優先順位:「短縮筋の持続伸張 → 拮抗筋の随意性 → 課題特異的練習」の順で固定
- 再評価:D7(発現の立ち上がり)と D14(ピークへ向かう)で、同じ条件で取り直す
- よくある失敗:ストレッチ “ だけ ” で終わり、改善した可動域を ADL / 歩行に転写しない
注射後 0–14 日の全体スケジュール( 1 枚表 )
下表は成人の痙縮を想定した「注射後 2 週間」の最小プロトコルです。施設の枠(外来/訪問/回復期)に合わせて、まずは評価日と優先順位だけ固定してください。
| 時期 | ねらい | PT の優先 | 再評価(推奨) | 家庭内(最小セット) |
|---|---|---|---|---|
| D0–2 | 安全確保と “型” の共有 | ポジショニング/痛み管理/持続伸張(短時間×回数) | ベースライン固定(可動域・ MAS / MTS ・歩行/動作) | 夜間/日中スプリントの時間、伸張の回数、禁忌サイン |
| D3–7 | 発現期:随意性を引き出す | 拮抗筋促通、関節運動の質、軽い課題特異的 | D7:同条件で取り直し(変化が出る) | “ できる動作 ” を 1 つ決めて毎日反復 |
| D8–14 | ピークへ:機能へ転写 | ADL / 歩行など連続課題、装具/キャスティング検討 | D14:次の 4–12 週計画へ接続 | セルフ管理(装着・歩数/回数・疲労)を記録 |
1 回 40–60 分のセッション構成(テンプレ)
担当交代があってもブレないよう、時間配分を “型” にします。下表は最小セットなので、病期や目標に応じて「課題特異的」の枠を増やすのが基本です。
| パート | 目安 | ねらい | 実例(例) | 記録(最小) |
|---|---|---|---|---|
| ポジショニング | 5–10 分 | 短縮筋の持続伸張と痛み軽減 | 骨盤/肩甲帯ニュートラル、スプリント位置の微調整 | 痛み( 0–10 )、装着時間 |
| モビリティ | 10–15 分 | 柔軟性と随意性の土台 | 持続伸張、関節モビ、拮抗筋の反復促通 | 可動域、抵抗感の質 |
| 課題特異的 | 15–25 分 | 改善した可動域を機能へ転写 | 更衣 → 物品操作、立ち上がり → 方向転換 → 連続歩行 | 反復数、介助量、速度 |
| セルフ管理 | 5–10 分 | 家庭内で再現し維持 | 1 日合計の伸張時間、歩数/休憩目安を確認 | 宿題( 1 つ )、実施率 |
併用療法(装具・キャスティング・運動療法)の使いどころ
BoNT-A は “ 単独 ” で完結しません。運動療法・装具・必要ならキャスティングを、時系列に合わせて組み込みます。全体設計の考え方は、痙縮リハの総論にも整理しています:痙縮のリハビリ総論 。
| 手段 | 入れどき | 目的 | 注意点 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|---|
| スプリント/装具 | D0–14(早期から) | 持続伸張、アライメント、課題の再現性 | 皮膚トラブル、痛み、装着過多で随意性が落ちる | 装着時間、皮膚、痛み |
| キャスティング | D7–14(必要時) | 短縮・拘縮の改善を “伸ばし切る” | 循環/皮膚、感覚、疼痛、禁忌の確認が必須 | 適応理由、禁忌チェック、観察間隔 |
| 運動療法(反復/課題) | D3–14(発現期から増量) | 機能への転写( ADL / 歩行 ) | 疲労と代償で “質” が崩れる | 反復数、休憩、介助量 |
安全管理(赤旗)とフォローアップ
最初の 2 週間は “攻める” ほど、中止・連携の基準が必要です。迷ったら「症状の変化を固定条件で再現できるか」を軸にします。
| 兆候 | 想定 | その場の対応 | 次アクション |
|---|---|---|---|
| 痛み/腫脹が強い | 局所炎症、過負荷、装具不適合 | 負荷を落として原因探索 | 医師/看護へ共有、装具調整 |
| 急な筋力低下で動作が崩れる | 過度の弛緩、代償パターンの破綻 | 課題を分解し “質” を回復 | 目標の再設定、頻度/内容の調整 |
| 皮膚トラブル | 装具/キャストの圧 | 直ちに除圧 | 再発防止(装着時間/当て方) |
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
- “伸ばしただけ” で終わる:可動域が出たら、同日に 1 つでも ADL / 歩行へ転写する(課題特異的を削らない)。
- 再評価日が決まっていない:D7 / D14 を先に確保し、同条件で取り直す(条件が変わると “効いた/効かない” が曖昧になります)。
- 装具・セルフ管理が回らない:説明は “文章力” ではなくチェックリスト化が速いです。面談準備や説明の型づくりに使える無料チェックもあるので、指導前に一度型を確認しておくとブレにくいです:マイナビコメディカルの資料(チェック付)
よくある質問( FAQ )
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Q1. 介入頻度は週何回が目安?
A. 枠に左右されますが、少なくとも D3–14 は “反復が確保できる頻度 ” が有利です。頻度が取れない場合は、セッション内で「家庭で再現できる課題」を 1 つに絞って宿題化し、実施率を上げます。
Q2. 効果は何日で出て、いつがピーク?
A. 一般に発現は数日後から立ち上がり、数週でピークへ向かいます。臨床では D7 と D14 に同条件で取り直すと “変化の方向” が掴みやすいです。
Q3. 注射当日は何を避ければいい?
A. 強い痛みや腫脹がある日は、過負荷を避けてポジショニングと軽い可動域、指導(装具/宿題)を優先します。翌日以降に “課題特異的” を戻します。
Q4. 筋力が落ちた感じがして怖い…どう組み立てる?
A. まず課題を分解し、拮抗筋の随意性とアライメントを整えてから、反復量を積みます。動作が崩れる日は “量を増やさない” ことが安全です。
Q5. キャスティングはいつ検討?
A. D7–14 で「短縮が強く、装具と運動だけでは伸びが頭打ち」になり、かつ禁忌がない場合に検討します。皮膚/循環の観察と適応判断が必須です。
次の一手|このあと何を読めば迷わない?
- 臨床手技・プロトコルのハブ:運用記事をまとめて引きたいとき
- 痙縮のリハビリ総論:評価→介入→再評価の全体設計に戻る
- MTS(改訂タルデュー): “反射要素と短縮” を分けて記録したいとき
参考文献・一次情報( Vancouver 風 )
- Verduzco-Gutierrez M, Raghavan P, Pruente J, et al. AAPM&R consensus guidance on spasticity assessment and management. PM R. 2024;16(8):864-887. doi: 10.1002/pmrj.13211
- Royal College of Physicians. Spasticity in adults: management using botulinum toxin (National guidelines, 2nd ed.). 2018. 配布ページ
- Ledda C, Tosto R, Tringali G, et al. Clinical pharmacodynamics of onabotulinumtoxinA in spasticity: a systematic literature review. Toxins. 2022;14(2):79. doi: 10.3390/toxins14020079
- Wortley K, Carda S, Ganzert C, Farag J, Reebye R. Upper limb casting application post-botulinum toxin injection for elbow spasticity: a guided casting protocol. Am J Phys Med Rehabil. 2024;103(7):645-649. doi: 10.1097/PHM.0000000000002487 (PubMed: 38630558)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


