痙縮に対するボツリヌス療法後 2 週間リハビリ
痙縮に対する ボツリヌス療法(ボツリヌス治療、 BoNT-A ) は、一般に 2–5 日で発現・3〜6 週でピーク・およそ 3 か月持続する薬理プロファイルを持ちます。本稿では、ボツリヌス 痙縮 に対する ボツリヌス 理学療法(ボツリヌス リハビリ) を「効き始め〜立ち上がり」の 2 週間にしぼり、伸張・ポジショニング・拮抗筋強化・課題特異的練習 をセットで組み込むプロトコルとして整理します(AAPM&R 2024 コンセンサス/ RCP 2018 ガイドライン)。
注射前(〜当日):評価とゴール設定
ボツリヌス療法の効果を最大限に活かすには、「打つ前から」理学療法側の準備を整えておくことが重要です。 BoNT-A の対象筋・用量だけでなく、どの機能をどの順番で改善させたいかを患者と共有し、評価・治療・記録の流れを一本化しておきます。
- ベースライン評価:可動域(受動/能動)、筋緊張、疼痛、 ADL /参加、歩行をひと通り確認します。姿勢や装具適合は動画・写真で記録し、後日の比較に備えます。
- ゴール設定:患者に意味のある SMART ゴール を 1〜3 件に絞ります(例:手指衛生のしやすさ、装具の着脱、歩行時の足クリアランス改善など)。GO-FAST などのツールを参考に、「なぜこの筋に何単位打つのか」を、医師と共有できる言葉で明文化しておきます(AAPM&R 2024/近年レビュー)。
- 同意と教育:発現時期( 2–5 日)、ピーク( 3〜6 週)、持続(約 3 か月)と再注射サイクルを説明し、「注射だけで完結する治療ではなく、ボツリヌス療法後のリハビリ(ボツリヌス 理学療法)が重要である」ことを共有します(RCP 2018)。
2 週間プロトコル( Day 0–14 )
ここでは、外来・回復期病棟・在宅いずれでも流用しやすいように、痙縮に対するボツリヌス リハビリの流れを Day 0〜14 の 4 フェーズに分けて整理します。施設事情に合わせて、実際の来院頻度や訪問回数に落とし込んでください。
- Day 0(注射日):局所への強い揉捏やマッサージは避け、軽い持続伸張 と姿勢最適化にとどめます。疼痛・内出血・違和感の有無を確認し、セルフモニタリングのポイントを伝えます。
- Day 1–3:発現前〜発現初期の時期です。筋短縮を進ませないよう 低負荷・長時間の持続伸張 を基本に、関節アライメントの是正と 拮抗筋の促通・軽負荷筋力トレーニング を行います。必要に応じて夜間スプリントを調整し、「リセットポジション」を共有します。
- Day 4–7:効果発現期( 2–5 日目以降)に入り、可動域や筋緊張の変化を感じやすくなります。ここからは 課題特異的練習(手指衛生、衣類操作、装具着脱、歩行の初期接地など)を増量し、装具・靴・杖の 再適合 を並行して行います。必要なら短期の キャスティング/スプリント で伸張位を保持します。
- Day 8–14:立ち上がり〜安定期です。改善した可動域を「使い切る」ために、拮抗筋の筋力・パワー・持久性 と、連結課題(到達→把持→操作、立ち上がり→方向転換→連続歩行など)を重点化します。ホームプログラムを個別最適化し、セルフストレッチやスプリント着用時間を紙面で明文化します。
※併用療法のエビデンスは介入により質が異なります。キャスティング/スプリント は BoNT-A の効果を増強し得る報告がある一方で、電気刺激など は結果が一定せず「症例選択」が前提とされています(系統的レビュー)。
1 回 40–60 分のセッション構成(テンプレ)
ボツリヌス療法後の理学療法セッションを、 40〜60 分のテンプレとして構造化しておくと、担当者が変わっても「どの時間に何を優先するか」が共有しやすくなります。以下は成人痙縮患者を想定した 2 週間の基本フォーマットです。
| パート | ねらい | 実例 |
|---|---|---|
| ポジショニング( 5–10 分) | 短縮筋の持続伸張と痛み軽減 | 坐位〜立位での骨盤・肩甲帯ニュートラル、夜間スプリントの位置と時間の確認 |
| モビリティ( 10–15 分) | 柔軟性と随意性の土台づくり | 持続伸張、関節モビライゼーション、拮抗筋の促通(例:足背屈の反復練習・一時的なテーピング) |
| 課題特異的( 15–25 分) | 改善した可動域を機能へ転写 | 手指衛生→衣類操作、立ち上がり→方向転換→連続歩行 6〜10 分など、生活場面に直結する連続課題 |
| セルフ管理( 5–10 分) | 家庭内での再現と維持 | 1 日合計のストレッチ時間、スプリント装着時間、歩数/休憩目安をチェックシートに記入 |
併用療法と装具(要点)
ボツリヌス 痙縮 のマネジメントでは、薬剤効果だけでなく、装具や併用療法との「組み合わせ設計」が重要になります。ここでは実務上の意思決定ポイントを整理します。
- キャスティング/スプリント:短縮筋の伸張保持と、機能課題への転写を橋渡しするツールです。短期集中的に用いつつ、皮膚トラブル・循環障害・疼痛などの 合併症チェック を毎回行います。
- 電気刺激・ロボティクス:一部で活動量や機能改善を示す報告がありますが、費用や設備、人員の負担も大きく、「どの患者に何をねらって行うか」を明確にしたうえで選択します。
- 薬物・口腔薬との併用:全身性鎮痙薬の併用時は、ふらつきや全身筋力低下のリスクを念頭に、歩行や ADL の変化を再評価しながら用量調整を検討します。
安全・フォローアップ
ボツリヌス療法後の理学療法では、「いつ・何をチェックし、どのタイミングで医師へフィードバックするか」をあらかじめ決めておくと、安全性と効率が高まります。タイムコースと中止基準をチーム全体で共有しておきましょう。
- タイムコース:発現は 2–5 日、ピークは 3〜6 週、 6〜10 週ごろから徐々に効果が減弱し、12〜16 週 をめどに再評価と次回計画を行う流れが一般的です。
- 副作用:局所痛・皮下出血・倦怠感のほか、稀に全身性筋力低下が報告されています。頸部や嚥下関連筋への投与では、嚥下障害や呼吸状態の変化に特に注意します。
- 中止/受診基準:発熱、説明困難な広範な筋力低下、嚥下/呼吸の明らかな変化、強い疼痛や腫脹が出現した場合は、速やかな主治医への報告と医療機関受診が必要です。
記録テンプレ(コピーして使う)
ボツリヌス 理学療法 の記録は、「ゴール・標的筋・ホームプログラム・次回評価時期」の 4 点を常に残すことがポイントです。以下はそのままカルテやワークシートに転記できる最低限のテンプレです。
- ゴール( SMART ):_____________________
- 標的筋・用量(総単位):___________________
- 装具/スプリント:日中 __ h /夜間 __ h
- ホームプログラム:ストレッチ __ 分/日、歩数 __ 歩/日
- 再評価予定: Day 14(簡易)、週 6(ピーク)、週 12〜16(次回計画)
関連リンク
ボツリヌス リハビリの効果を見える化するには、バランスや歩行のアウトカム指標が役立ちます。評価とモニタリングの補助として、BBS×TUG などのバランス評価スケールも併用すると、介入効果を可視化しやすくなります。
現場の詰まりどころ
ボツリヌス療法と理学療法の連携では、次のような「詰まりどころ」が繰り返し登場しがちです。あらかじめチーム内で話題にしておくと、運用がスムーズになります。
- 「打てば勝手に良くなる」前提になってしまう:患者もスタッフも BoNT-A 単独の効果に期待し過ぎると、伸張や課題練習の優先度が下がり、機能転換のチャンスを逃します。
- 標的筋とゴールがカルテに残っていない:「どの筋に、どのゴールのために打ったのか」が記録されていないと、再注射のたびに議論が振り出しに戻ってしまいます。
- 注射直後の安静指示が長すぎる:不必要に長い安静でポジショニングや持続伸張が止まると、薬理学的な立ち上がりと運動学的な変化が噛み合わなくなります。
- ホームプログラムが「ストレッチしておいてください」で終わる:時間・姿勢・回数・スプリント着用時間などが具体化されていないと、在宅場面で再現性が得られません。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
ボツリヌス療法後の理学療法は、どのくらいの頻度が理想ですか?
エビデンスとして「週何回が絶対に良い」という統一見解はありませんが、少なくとも 発現〜立ち上がりの 2 週間 は、週 2〜3 回を目安に介入できると理想的です。頻度よりも、「 Day 0〜14 のフェーズごとに何を優先するか」を明確にし、来所日以外のホームプログラムで補完することが重要です。
ボツリヌス療法は誰でも適応になりますか?
適応の判断は医師が行いますが、理学療法士としては、痙縮が「機能を妨げているのか/補償として役立っているのか」を評価し、姿勢や歩行への影響、患者の負担(痛み・衛生・介護量)を整理して情報提供することが大切です。関節拘縮が強く、十分な受動可動域がない場合などは、期待できる効果や目標を慎重にすり合わせる必要があります。
高齢の方や多剤併用の方でも、ボツリヌス療法後のリハビリは同じで良いですか?
基本方針は同じですが、高齢・多剤併用・フレイルが強い方では、 疲労し過ぎない負荷設定 と 転倒リスクの管理 がより重要になります。立位や歩行の課題練習では休憩を多めに取り、日中の眠気やふらつきが強い場合は、鎮痙薬の影響も含めて主治医と情報共有しましょう。
在宅や通所リハでも、この 2 週間プロトコルは使えますか?
はい、訪問リハや通所リハでも、「 Day 1–3 はポジショニングと持続伸張を中心に」「 Day 4–7 から課題特異的練習を増やす」といった考え方はそのまま応用できます。実際には来所頻度が限られるため、家族や介護スタッフとホームプログラムを共有し、短時間でも毎日続けられるメニュー設計を意識するとよいでしょう。
おわりに
痙縮に対するボツリヌス療法は、単独ではなく「評価→注射→ 2 週間の集中的リハ→ 12〜16 週の再評価」という 1 サイクルで捉えることで、機能改善と再発予防の両立をねらいやすくなります。理学療法士にとってのキーポイントは、薬理学的なタイムコースを理解したうえで、伸張・ポジショニング・拮抗筋強化・課題特異的練習を噛み合わせることです。
患者さんやご家族、医師・看護師・装具士と情報を共有しながら、「いつ・何を・どこまで行うのか」を具体的な言葉に落とし込むことで、チームとしての再現性と説得力が高まります。本記事のプロトコルや記録テンプレをベースに、施設の状況に合ったボツリヌス リハビリの運用フローを整えていただければ幸いです。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
参考文献
- AAPM&R Consensus guidance on spasticity assessment and management. PM&R. 2024. Wiley
- Royal College of Physicians. Spasticity in adults: management using botulinum toxin. 2nd ed. 2018. RCP/PDF
- Picelli A, et al. Early BoNT-A within 3 months after stroke reduces tone. Toxins. 2021;13(6):438. PMC
- Jacinto J, et al. GO-FAST:ボツリヌス治療の目標設定と標的筋選定. Toxins. 2023;15(12):676. PMC
- Wortley K, et al. Casting as an adjunct post-BoNT. PM&R. 2024. PubMed
- Lindsay C, et al. Early BoNT trial(平均 18 日)で 2–12 週の痙縮低下. Eur J Phys Rehabil Med. 2020. PMC
- Jeong H, et al. Time-to-onset and peak( 2–5 日/3〜6 週 )に関する総説. Front Neurol. 2020. Full text
- Simpson DM, et al. AAN practice guideline update. Neurology. 2016. PMC


