BRS 判定で迷う境界まとめ|ステージ III–IV・IV–V をブレずに決めるコツ
結論はシンプルです。ステージ III–IV と IV–V の境界は、「共同運動が主か/分離が主か」だけで決めないことが再現性の鍵です。まず評価条件を固定し、次に同じ課題で観察し、最後に「段階+条件」で記録すると、日差や評価者差のブレを減らせます。
本記事は、境界で迷いやすい場面を早見表(OK/NG)で整理し、さらに現場の詰まりどころと運用ログテンプレートまでまとめた、実装重視の構成です。
まずは結論だけ:境界で迷わない 3 ステップ
境界判定の精度は、技術よりも順番の固定で上がります。評価条件を揃え、観察の焦点を統一し、記録を定型化するだけで、評価者間のズレは大きく減らせます。
この 3 ステップをチームで共通化すると、同じ患者でも判定の説明可能性が上がり、介入方針の合意が速くなります。
- 条件固定:体位、開始肢位、口頭指示、促通の有無、疼痛・疲労を揃える
- 観察固定:同じ課題で「共同運動」か「分離運動」かを確認する
- 記録固定:段階だけでなく、条件を 1 行添える(例:座位、促通なし、疲労あり)
境界早見:III–IV・IV–V の見方(OK/NG 付き)
境界は一発判定より、複数所見の一致で決める方が安定します。III–IV は「共同運動優位の中に分離の芽があるか」、IV–V は「分離が主役として安定しているか」が焦点です。
次の表は、早合点を防ぐために、判定軸を最小限にまとめた運用版です。
| 境界 | 判定の軸(見るポイント) | OK:この所見なら “上” を検討 | NG:早合点しやすいポイント | 記録の一言例 |
|---|---|---|---|---|
| III → IV | 共同運動 “主” から、分離の芽が出るか | 同じ開始肢位・同じ指示で、共同運動に依存せず一部分離が再現する | 促通・代償が強い状態での単発成功を採用する | 「座位・促通なしで分離の芽あり(再現)」 |
| IV → V | 分離運動 “主” へ移行しているか | 分離課題が複数で安定し、共同運動が主役でない | 1 課題だけ偶然できた結果で判断する | 「分離課題 2 つ以上で安定、共同運動は副次」 |
現場の詰まりどころ
境界で迷う最大要因は、患者の変動より評価条件の揺れです。特に開始肢位・指示文・促通の強さが揺れると、同一患者でも段階が上下して見えます。
迷ったら、まずは次の 3 点を固定してください。
よくある失敗:境界がブレる原因は “条件の揺れ” が最多
「今日は IV、昨日は III」という揺れは、患者要因だけでなく評価条件の差で増幅します。促通の有無、開始肢位、口頭指示の長さや曖昧さは、境界で特に影響が大きい要素です。
対策は、固定項目を先に決めることです。以下を病棟の共通ルールにすると、評価者間誤差が下がります。
| ブレの原因 | 起きやすい場面 | 固定する項目 | 運用のコツ |
|---|---|---|---|
| 開始肢位が毎回違う | ベッド上・車椅子で姿勢が変わる | 体位、体幹支持、開始角度 | 「姿勢セット→評価」の順を固定 |
| 口頭指示が評価者で違う | 指示が長い/曖昧 | 短い固定フレーズ | チームで指示文を共有する |
| 促通の強さが違う | できる動作を引き出したいとき | 促通の有無(有なら方法) | 「促通あり/なし」を必ず併記 |
| 疲労・疼痛を見落とす | 午後、訓練直後、痛み増悪時 | 時間帯、疼痛、疲労 | 変動要因を段階より優先して記録 |
運用ログテンプレート:評価時間帯・疲労を加えて境界判定を安定させる
BRS の境界( III–IV / IV–V )を安定させるには、段階だけでなく「そのときの条件」を同時に残す運用が有効です。以下の表は、病棟でそのまま使える最小構成です。まずは 2 週間、同一患者で同じ書式を継続してください。
続けて読む:ブルンストロームステージ( BRS )の評価方法と判定のコツ
| 日付 | 時間帯 | 評価前後 | 体位・開始肢位 | 口頭指示 | 促通 | 疲労 | 疼痛 | 観察要点(共同/分離) | 判定 | 信頼度 | 次回条件メモ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2026-02-09 | AM | 訓練前 | 座位・肩 0°肘 90°開始 | 「肘をゆっくり伸ばしてください」 | なし | 3/10 | 1/10 | 共同運動優位、分離の芽は 1 課題で再現 | III→IV 境界 | 中 | 同条件で 48 時間以内に再確認 |
| 2026-02-10 | PM | 訓練後 | 座位・同条件 | 同一フレーズ | なし | 7/10 | 2/10 | 共同運動優位、分離は不安定 | III 寄り | 低 | 翌 AM・訓練前で再評価 |
| 2026-02-12 | AM | 訓練前 | 座位・同条件 | 同一フレーズ | なし | 2/10 | 1/10 | 分離課題 2 つで再現、共同は副次 | IV | 高 | IV→V 境界課題を追加 |
運用ルール(病棟でブレを減らす最小セット)
境界判定を安定させるには、記録フォーマットの統一が最短です。次の 3 つだけ先に固定してください。
- 同一患者で最低 3 回、同じ書式で記録する
- 判定は「段階のみ」禁止、段階+条件で残す
- 信頼度「低」は確定扱いにせず、時間帯を変えて再評価する
| 信頼度 | 判定の目安 | 運用アクション |
|---|---|---|
| 高 | 同条件で再現し、所見が一致 | 判定を採用し、次回も同条件で追跡 |
| 中 | 一部再現あり、条件差の影響が残る | 条件を 1 つ固定して再評価 |
| 低 | 再現しない、疲労/疼痛/促通の影響が大きい | 段階確定を保留し、翌 AM 訓練前で再評価 |
週 1 回レビュー:早見表を育てる観点
次の 4 点を週 1 回・10 分で確認し、記事内の「記録の一言例」に反映すると、境界判定の再現性が上がります。
- PM で段階が下がる傾向があるか
- 疲労が高い日に III 側へ寄るか
- 促通ありでのみ “上位判定” になっていないか
- 信頼度「低」が集中する条件(時間帯・体位)がないか
| 観察された傾向 | 早見表へ反映する文言例 | 現場ルール化の例 |
|---|---|---|
| PM で分離が不安定 | 「PM は疲労の影響を注記し、翌 AM 再確認」 | 境界判定は原則 AM 訓練前を優先 |
| 促通ありでのみ上位化 | 「促通ありの成功は単独採用しない」 | 判定は促通なし所見を主情報にする |
| 疼痛増悪日に判定低下 | 「疼痛 4/10 以上は判定保留を検討」 | 疼痛コントロール後に再評価 |
記録のコツ:段階だけ書かない(条件を 1 行添える)
境界判定の合意は、段階名よりも記録の再現性で決まります。段階だけでは次の評価者が同条件を再現できず、判定が揺れます。
おすすめは「段階+条件」の 2 点セットです。これだけで上下動の理由を説明しやすくなり、介入優先度が決めやすくなります。
- 最低限:体位、促通の有無、疼痛・疲労
- 境界で迷うとき:開始肢位、口頭指示、注意・理解
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. III–IV の境界は、分離が少し出たら IV と判断してよいですか?
A. 単発所見だけでは判断しません。条件固定(体位・指示・促通)で再現するかを確認し、再現しない場合は段階を上げず「条件付きで出現」として記録するのが実務的です。
Q2. IV–V は何を満たすと V を検討しやすいですか?
A. 分離課題が複数で安定し、共同運動が主役ではないことが目安です。1 課題のみの成功は、疲労や注意の影響を除外して再評価してください。
Q3. 日によって段階が上下します。どう扱えばよいですか?
A. まず評価条件を固定し、それでも変動するなら「変動要因(時間帯・疼痛・疲労)」を主情報として扱います。上下そのものより、再現条件を共有する方が介入に直結します。
Q4. BRS だけで経過を追ってもよいですか?
A. チーム共通語として有用です。ただし微細変化の追跡は、目的に応じて他指標の併用を検討すると、課題設定と再評価がより明確になります。
次の一手
- 運用を整える:評価ハブで全体像を整理する(全体像)
- 共有の型を作る:BRS の標準手順を確認する(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Brunnstrom S. Motor testing procedures in hemiplegia: based on sequential recovery stages. Physical Therapy. 1966;46(4):357-375. DOI:10.1093/ptj/46.4.357
- Shah SK, et al. Reliability of the Original Brunnstrom Recovery Scale Following Hemiplegia. Australian Journal of Physiotherapy. 1984. DOI:10.1111/j.1440-1630.1984.tb01473.x
- Naghdi S, Ansari NN, Mansouri K, Hasson S. A neurophysiological and clinical study of Brunnstrom recovery stages in the upper limb following stroke. Brain Injury. 2010;24(11):1372-1378. DOI:10.3109/02699052.2010.506860
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


