遂行機能障害ドリルは「評価→課題設計→記録」で運用します
遂行機能障害ドリルは、「できた/できない」だけで見ると介入方針がぶれやすくなります。まず、目標設定・計画・実行・自己修正のどこで崩れるかを分け、1 要素 1 目的で課題を組むことが重要です。
この記事では、OT が現場で使いやすいように、遂行機能障害ドリルの見立て方、課題選定、難易度調整、記録テンプレまでを 1 本の運用手順として整理します。初級・中級の具体問題に入る前に、評価と記録の型をそろえるための記事です。
この記事で決めること
この記事で決めるのは、遂行機能障害ドリルを「どの要素に対して、どの課題を、どの基準で進めるか」です。課題の数を増やす前に、評価軸と記録軸をそろえることで、担当者が変わっても介入方針を共有しやすくなります。
一方で、具体的な問題セットの大量提示は本記事では深掘りしません。実施量を確保したい場合は、初級 10 問・中級 10 問の記事へ進む構成にします。
まず 4 要素に分けて見立てる
遂行機能障害ドリルの入口は、目標設定・計画・実行・自己修正の 4 要素に分けることです。どの要素で崩れているかを先に決めると、課題の目的と記録項目が一致します。
たとえば、途中で止まる場合でも、目標が曖昧なのか、手順が組めないのか、実行中に脱線するのか、誤りに気づけないのかで介入は変わります。混在している場合も、最初は主軸を 1 つに絞ると効果判定がしやすくなります。
| 要素 | 観察の視点 | 初期の狙い | 課題例 |
|---|---|---|---|
| 目標設定 | 目的の言語化、到達点の明確さ | 開始条件をそろえる | 目標文作成、ゴール確認 |
| 計画 | 手順化、優先順位、時間配分 | 段取りの安定化 | 手順分解、順序並べ替え |
| 実行 | 開始遅延、脱線、完遂率 | 課題完遂を増やす | 制約付き実行課題 |
| 自己修正 | エラーへの気づき、修正の自発性 | 再発防止を促す | 自己点検チェック課題 |
評価は「どこで崩れたか」を時系列で見る

評価では、点数よりも失敗の出現タイミングを見ます。開始前で止まるなら目標設定、途中で順序が乱れるなら計画、作業中に脱線するなら実行、同じ誤りを繰り返すなら自己修正が主問題になりやすいです。
条件差が大きいと、改善なのか環境差なのか判断しづらくなります。課題量、時間制限、環境刺激、指示方法は一定期間そろえ、同条件で比較できるようにしてください。
| 順番 | 確認すること | 崩れた場合の見立て | 次に行うこと |
|---|---|---|---|
| 1 | 目的を本人が説明できるか | 目標設定の弱さ | 到達点を短く言語化する |
| 2 | 手順を並べられるか | 計画の弱さ | 手順数を減らして再構成する |
| 3 | 途中で脱線せず実行できるか | 実行制御の弱さ | 刺激量・制約を調整する |
| 4 | 誤りに気づき修正できるか | 自己修正の弱さ | 点検時間を設定する |
課題は「1 要素 × 1 目的 × 3 段階」で組む
課題選定は、1 要素に対して 1 目的を設定するのが基本です。「手順 6 項目を順序どおり実施する」「自己点検でエラー 1 回以内にする」など、測定できる目的にすると記録が安定します。
難易度は易・中・難の 3 段階を準備します。完遂率、脱線回数、自己修正回数を共通指標にすると、担当者の主観だけで難易度が変わることを防ぎやすくなります。
| 要素 | ドリル例 | 主な狙い | 調整ポイント |
|---|---|---|---|
| 目標設定 | 目標文作成、成果基準の確認 | 開始条件をそろえる | 目標の具体性、達成条件 |
| 計画 | 手順分解、優先順位づけ、時間見積もり | 段取りの安定化 | 手順数、制約数、時間枠 |
| 実行 | 制約付き作業課題、二重課題下の実行 | 完遂率の向上 | 刺激量、制約強度、介助量 |
| 自己修正 | 自己点検表、エラー検出・再試行課題 | 再発防止の定着 | 点検頻度、フィードバック量 |
進行は「完遂率・脱線・自己修正」で判断する
ドリルの進行は、完遂率だけで判断しないことが重要です。完遂できても、毎回多量の声かけが必要であれば、生活場面への汎化はまだ不十分です。
自己修正が増え、脱線が減り、完遂率が安定してきたら次の段階へ進みます。疲労、混乱、拒否が増える場合は負荷を戻し、成功体験を保てる条件に調整してください。
| 段階 | 負荷設定 | 合格目安 | 次段階への条件 |
|---|---|---|---|
| 易 | 手順少・外部支援あり・制約少 | 完遂率 80% 以上 | 脱線が少なく自己点検が可能 |
| 中 | 手順中・外部支援最小・制約中等度 | 完遂率 70% 以上 | 修正行動が自発化する |
| 難 | 手順多・複数制約・時間圧あり | 完遂率 60% 以上 | 生活場面へ汎化可能 |
記録テンプレは 5 項目に固定する
記録は長く書くより、比較できる形にそろえることが重要です。本日の目的、実施課題、脱線場面、自己修正、次回調整案の 5 項目を固定すると、担当交代時も介入方針を共有しやすくなります。
特に、完遂率だけでなく「どこで脱線したか」「自己修正が自発的だったか」を残すと、次回の難易度調整に直結します。
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| 項目 | 記載例 | 次回に活かす視点 |
|---|---|---|
| 本日の目的 | 手順 6 項目を順序どおり実施 | 目的達成率で負荷調整 |
| 実施課題 | 手順分解→制約付き実行課題 | 要素ごとの適正負荷を判断 |
| 脱線場面 | 中盤で順序飛ばしが 2 回 | 脱線トリガーを特定 |
| 自己修正 | 点検表で 1 回自発修正 | 修正の自発性を強化 |
| 次回調整案 | 手順維持で時間制約を 10% 強化 | 成功体験を維持して進行 |
現場の詰まりどころ
現場で詰まりやすいのは、実行不良だけに注目して、目標設定や計画の問題を見落とすことです。その場で声かけを増やせば完遂できても、自己修正が育たなければ同じ失敗を繰り返しやすくなります。
まずは主問題を 1 つに固定し、同じ条件で短期間比較してください。高次脳機能のドリル全体を整理したい場合は、高次脳ドリル OT ハブに戻ると、記憶・注意・遂行機能の位置づけを確認できます。
よくある失敗は「混在・支援過多・条件不一致」です
遂行機能障害ドリルの失敗は、課題そのものより運用の崩れで起こりやすいです。要素を混ぜすぎる、介入者が修正しすぎる、毎回条件が違うという 3 つを防ぐだけでも、記録と再評価が安定します。
| 失敗 | 理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 要素を混在して実施 | 主問題の特定が曖昧 | 目標・計画・実行・修正の主軸を 1 つ固定 | 本日の主要素 |
| 支援過多で進める | 完遂率のみを優先 | 自己修正機会を先に確保する | 修正の自発率 |
| 制約条件が毎回違う | 比較条件を固定していない | 期間内は同条件で実施する | 完遂率の推移 |
| 課題内成績のみで終了 | 生活汎化の確認不足 | 病棟・自宅場面で再現性を確認 | 場面別の実行可否 |
ミニ症例で見る修正ポイント
たとえば、病棟の準備手順を最後まで行えない方に対して、毎回声かけで完遂させている場合、「実行できた」と判断してしまうことがあります。しかし、同じ誤りを繰り返すなら、計画と自己修正の問題が残っている可能性があります。
この場合は、手順を 6 項目に分解し、開始前に本人が復唱します。実行後はすぐ訂正せず、点検表で 1 回だけ自己確認する時間を設けます。記録には完遂率だけでなく、脱線回数と自己修正の自発性を残します。
| 観察 | 誤りやすい解釈 | 実際の主問題 | 介入の修正 |
|---|---|---|---|
| 途中で順序が崩れる | 実行が弱い | 計画が弱い | 手順を分解し、本人の復唱で開始条件を固定 |
| 同じ誤りを繰り返す | 理解不足 | 自己修正が弱い | 点検 1 回を設定し、即時訂正を減らす |
| 声かけで完遂できる | 改善した | 外部支援で成立している | 脱線回数と自己修正の自発率を記録する |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. どの要素から始めるべきですか?
評価で最も崩れている要素から始めます。迷う場合は、目標設定または計画を先に整えると、実行課題の成績を比較しやすくなります。
Q2. 記憶障害が併存する場合はどうしますか?
最初は主症状を 1 つに固定します。「思い出せない」のか「段取りが組めない」のかを分け、目的・条件・記録の軸をそろえると判断が安定します。
Q3. フィードバックはどのくらい出すべきですか?
正答をすぐ示すより、自己点検の機会を残します。まず本人の修正を待ち、必要最小限の支援に絞ると自己修正の練習になります。
Q4. 記録を短く保つコツはありますか?
目的・課題・脱線場面・自己修正・次回案の 5 項目に固定し、各 1 行で記載します。自由記載を増やしすぎないほうが、比較しやすくなります。
次の一手
次は、運用の型を保ったまま、具体問題で実施量を確保します。初回は初級 10 問で反応を見て、安定してきたら中級課題へ進めると調整しやすくなります。
参考文献
- Velikonja D, Tate R, Ponsford J, et al. INCOG 2.0 guidelines for cognitive rehabilitation following traumatic brain injury, part III: executive function and self-awareness. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):52-64. doi:10.1097/HTR.0000000000000834 / PubMed
- Kennedy MRT, Coelho C, Turkstra L, et al. Intervention for executive functions after traumatic brain injury: a systematic review, meta-analysis and clinical recommendations. Neuropsychol Rehabil. 2008;18(3):257-299. doi:10.1080/09602010701748644 / PubMed
- Krasny-Pacini A, Chevignard M, Evans J. Goal Management Training for rehabilitation of executive functions: a systematic review of effectiveness in patients with acquired brain injury. Disabil Rehabil. 2014;36(2):105-116. doi:10.3109/09638288.2013.777807 / PubMed
- Stamenova V, Levine B. Effectiveness of Goal Management Training® in improving executive functions: a meta-analysis. Neuropsychol Rehabil. 2019;29(10):1569-1599. doi:10.1080/09602011.2018.1438294
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


