遂行機能障害ドリル|OTが見る反応・課題選択・生活へのつなげ方

臨床手技・プロトコル
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遂行機能障害ドリルは「生活の困りごと→反応→支援→生活場面」で考える

遂行機能障害ドリルは、正答率や「できた/できない」だけで評価するものではありません。OTが確認したいのは、生活上のどの場面で困っているか、課題のどこで止まる・脱線する・修正できなくなるか、どの支援があれば遂行できるかです。

この記事では、遂行機能障害が疑われる方に対して、生活上の困りごとから課題を選び、課題中の反応を観察し、注意・記憶など他の要因も確認しながら介入方法を考える流れを整理します。紙面課題で終わらせず、ADL・IADLや病棟・自宅などの生活場面で効果を確認するところまでが中心です。

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まず見るのはドリルの点数ではなく生活上の困りごと

遂行機能障害への介入は、紙面課題を先に選ぶのではなく、本人が実際の生活で何をやり遂げられないのかから考えます。遂行機能障害は、目標に沿って行動を組み立て、実行し、必要に応じて修正する過程に関わるため、同じ「失敗」でも原因は一様ではありません。

たとえば「更衣の準備が進まない」という困りごとでも、必要物品を思い出せない、何から始めればよいか決められない、途中で別の行動へ移る、誤りに気づいても直せないなど、観察される反応は異なります。

生活上の困りごとから遂行機能を観察する例
生活上の困りごと 確認したい反応 課題で見るポイント
準備を始められない 目的や開始点を決められるか 課題の目的を説明し、自分から開始できるか
手順が前後する 順序や優先順位を組み立てられるか 複数の工程を整理して実行できるか
途中で別のことを始める 目標を保持しながら行動を続けられるか 脱線後に元の課題へ戻れるか
同じ失敗を繰り返す 誤りへの気づきと修正があるか 振り返りや手がかりによって修正できるか

ドリルは、こうした仮説を確認するための一つの手段です。課題成績だけで遂行機能障害の有無や程度を決めるのではなく、神経心理学的検査、面接、作業観察、ADL・IADLでの反応と組み合わせて解釈します。

遂行機能障害ドリルの臨床推論フロー。生活上の困りごと、課題中の反応、注意・記憶などの他要因、方略・支援の選択、生活場面での再確認を順に整理した図
図.遂行機能障害ドリルの臨床推論フロー。紙面課題の成績だけでなく、生活上の困りごとから支援方法と生活場面での再確認までつなげます。

課題中は「開始・計画・実行・自己モニタリング」の反応を見る

課題中の反応は、開始、目標設定、計画、実行、自己モニタリングなどの視点から整理すると、次の介入を考えやすくなります。ただし、これらを固定された4段階や公式の分類として扱うものではありません。

国立障害者リハビリテーションセンターでは、遂行機能障害の評価に関わる要因として、自己認識、ゴールセッティング、プランニング、発動性、自己モニタリングなどを挙げています。課題では、どの反応がみられたかを具体的に記録することが重要です。

遂行機能障害ドリルで観察する反応
観察する場面 みられる反応の例 追加で確認すること
開始前 目的を決められない、指示後も開始しない 指示理解、発動性、記憶、疲労など
計画時 手順を組めない、優先順位が定まらない 必要情報を保持できているか、課題を理解しているか
実行中 目標から外れる、工程を飛ばす、別の行動へ移る 注意、記憶、環境刺激、課題量の影響
終了・振り返り 誤りに気づかない、気づいても修正方法を選べない 自己認識、自己モニタリング、フィードバックへの反応

「途中で止まったから計画障害」「誤りを繰り返したから自己モニタリング障害」と一つの反応だけで決めないことがポイントです。同じ行動は、注意・記憶・理解、課題の難しさ、疲労、環境などによっても生じます。

注意・記憶など別の要因を同時に確認する

遂行機能障害を考えるときは、注意障害や記憶障害などによって課題遂行が崩れていないかを確認します。遂行機能には複数の認知機能が関わるため、「段取りが悪い」という結果だけでは原因を絞れません。

課題中の失敗から次に確認すること
みられた反応 遂行機能の視点 あわせて確認すること
目的は覚えているが段取りを作れない 計画・問題解決の難しさ 課題理解、必要情報の整理
途中で目的や指示そのものを忘れる 目標保持への影響 記銘・保持、ワーキングメモリ
周囲の刺激で頻繁に脱線する 目標へ戻る制御 選択性・持続性注意、環境刺激
後半になるほど誤りが増える 自己調整の変化 疲労、覚醒、課題時間、情報量
誤りを指摘されても問題を認識しにくい 自己認識・自己モニタリング 指摘内容の理解、フィードバック方法

特に「覚えていない」のか、「情報は保持できているが目標達成のために使えない」のかは介入方法が変わります。両者の見分けに迷う場合は、記憶障害と遂行機能障害の違いで、生活場面と課題中の反応から整理できます。

介入は「失敗した機能名」ではなく反応に合わせて選ぶ

介入では、できなかった課題を繰り返すだけでなく、本人が目標に戻るために何が必要かを考えます。遂行機能障害に対する認知リハビリテーションでは、メタ認知的方略、目標管理、自己モニタリング、フィードバック、外的手がかりなどが検討されています。

INCOG 2.0は主に中等度〜重度の外傷性脳損傷を対象としたガイドラインであるため、すべての原因疾患へ同じ方法をそのまま当てはめるものではありません。一方、後天性脳損傷を対象としたGoal Management Trainingのレビューでも、個人目標、外的手がかり、日常生活に近い課題などを組み合わせる考え方が示されています。

課題中の反応に合わせた介入の考え方
主な反応 検討する支援 再評価すること
目的が曖昧になる 目標を短く言語化する、目標を見える位置に置く 支援後に自分で目標へ戻れるか
手順を組み立てにくい 工程の整理、チェックリスト、外的手がかり 手がかりを使って次の工程を選べるか
途中で脱線する 刺激量の調整、目標確認、立ち止まる手順 脱線後に自分で課題へ復帰できるか
誤りに気づきにくい 振り返り、予測と結果の比較、具体的なフィードバック 次の試行で行動を修正できるか
方法は分かるが生活で使えない 実際のADL・IADLで同じ方略を練習する 別の場面でも方略を選択・使用できるか

重要なのは、「声かけを増やして正答させること」ではなく、どの支援によって本人の行動が変わったかを確認することです。支援者がすべて修正すると課題は完遂できますが、本人が目標へ戻る過程や自己修正の能力は評価しにくくなります。

紙面課題で改善しても生活へ汎化したとは判断しない

遂行機能障害ドリルで成績が上がっても、それだけで日常生活の遂行機能が改善したとは判断できません。学習した方略が実際の生活課題でも使われるかを確認する必要があります。

後天性脳損傷に対するGoal Management Trainingのシステマティックレビューでは、机上課題だけでなく、個人目標や外的手がかり、日常生活に関連した活動と組み合わせることが重要とされています。したがって、課題内の正答率より「生活で使えるか」を再評価する視点が欠かせません。

ドリルから生活場面へつなげる確認例
段階 確認する場面 見るポイント
構造化された課題 順序課題、計画課題、問題解決課題など どこで崩れるか、どの支援が有効か
生活に近い課題 物品準備、予定管理、複数工程の作業など 学習した方略を使えるか
実際の生活場面 ADL、IADL、病棟生活、自宅生活など 必要な支援量、失敗時の自己修正
別の場面 条件や課題が変わった場面 方略を自分で選び直せるか

たとえば、順序並べ替え課題ができるようになった後は、「更衣物品を準備する」「一日の予定を確認して行動する」など、本人に必要な生活行為で再確認します。机上課題と生活課題を別々に評価するのではなく、課題で見つけた支援方法が生活でも機能するかをつなげて考えます。

難易度は固定の合格率ではなく「何を変えたか」で調整する

遂行機能障害ドリルに、すべての患者へ共通して適用できる「80%なら次へ」「60%なら難課題」といった進級基準はありません。難易度は、疾患、認知機能、目標、課題特性、必要な支援量などを踏まえて個別に調整します。

比較したい場合は、条件を無計画に変えるのではなく、何を変更した結果、反応がどう変わったかを残します。一つの条件だけを変更すると影響を解釈しやすい場面がありますが、これは評価を整理するための実務上の工夫であり、必ず一条件ずつ変更するという公式ルールではありません。

遂行機能障害ドリルで調整できる条件
調整項目 負荷を下げる例 負荷を上げる例
工程数 工程を減らす、分けて提示する 複数工程をまとめて扱う
手がかり 手順表やチェックリストを使う 自分で手がかりを選択する
環境刺激 静かな環境で実施する 生活場面に近い刺激を含める
課題の新規性 経験のある活動を使う 初めての条件へ応用する
時間条件 時間制限を設けない 生活上必要な範囲で時間を意識する
同時処理 一つの課題へ集中する 必要に応じて複数条件を扱う

難しくすること自体が目的ではありません。支援を減らしたときに崩れるのであれば、その支援が現在も必要であることが分かります。反対に、本人が自発的に方略を選び、誤りから立て直せるようになれば、より生活に近い条件へ移す判断材料になります。

記録は「結果」より支援量と自己修正を残す

遂行機能障害の記録では、完遂したかどうかだけでなく、どこで困り、何を支援し、その後本人がどう修正したかを残します。これにより、次回の課題選択だけでなく、多職種で必要な支援方法を共有しやすくなります。

遂行機能障害の課題で記録したい項目
記録項目 記載する内容 再評価で見ること
生活上の目標 何を自分で行えるようにしたいか 実際の生活場面で変化したか
実施した課題 課題内容と主な条件 前回と何が異なるか
崩れた場面 開始、手順、脱線、誤りなど具体的な反応 同じ場面で再発するか
必要な支援 声かけ、視覚的手がかり、環境調整など 支援量を減らせるか
自己修正 誤りへの気づき、修正方法、自発性 自分から立て直せるか
生活場面での確認 ADL・IADLで同じ問題や方略がみられたか 別の場面へ汎化しているか

たとえば「課題完遂」とだけ記録するより、「手順3で次工程を選べず停止。手順表を提示すると再開し、その後は自発的に表を確認して完遂。病棟での更衣準備でも同じ手順表を使用できるか確認予定」のように、反応・支援・修正・次の生活場面まで残すと介入につながります。

よくある失敗は「課題成績だけで判断すること」です

遂行機能障害ドリルでは、課題を実施したことよりも、その結果をどう生活へつなげるかが重要です。特に、課題の正答率だけで改善を判断すると、外部支援への依存や生活場面で残っている問題を見落とす可能性があります。

遂行機能障害ドリルで避けたい判断
よくある判断 問題点 確認し直すこと
課題ができない=遂行機能障害 注意・記憶・理解など他の要因でも失敗する 失敗の起こり方と関連する認知機能
声かけで完遂=改善 外部支援によって成立している可能性がある 支援量と本人の自己修正
紙面課題の得点上昇=生活改善 生活場面への汎化は別に確認する必要がある ADL・IADLで方略を使えるか
一定の正答率で一律に難しくする 個人の目標や必要な支援を反映できない 何を変える必要があるかと生活目標

ドリルは「遂行機能障害を治す問題集」として使うのではなく、本人の反応を把握し、必要な方略を練習し、生活で使えるかを確かめるために活用すると位置づけやすくなります。

よくある質問

Q1. 紙面課題ができれば、遂行機能障害はないと考えてよいですか?

紙面課題だけでは判断できません。構造化された場面では遂行できても、複数の情報処理や予定変更が必要な生活場面で問題が表れることがあります。課題結果に加えて、ADL・IADL、病棟、自宅、就労など本人に必要な場面で確認します。

Q2. 記憶障害や注意障害との違いはどう確認しますか?

一つの反応だけで区別せず、指示や目標を保持できているか、注意を維持できているか、その情報を使って計画・実行・修正できるかを順に確認します。複数の認知機能が同時に影響している場合もあります。

Q3. いつ課題を難しくすればよいですか?

一律の正答率では決めません。現在の条件で本人が方略を使えるか、必要な支援が減っているか、誤りから自発的に立て直せるかを確認し、生活目標に必要であれば工程数・環境刺激・新規性などを調整します。

次の一手

遂行機能障害の課題を選ぶときは、まず生活上の困りごとと課題中の反応を整理し、その反応を確認できる課題へ進みます。高次脳機能障害全体から課題を探したい場合と、具体的な初級課題を確認したい場合で、次に読む記事を分けると迷いにくくなります。


参考文献

  1. 国立障害者リハビリテーションセンター. 高次脳機能障害情報・支援センター:医学的リハビリテーションプログラム.
  2. Jeffay E, Ponsford J, Harnett A, et al. INCOG 2.0 guidelines for cognitive rehabilitation following traumatic brain injury, part III: executive functions. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):52-64. doi:10.1097/HTR.0000000000000834 / PubMed
  3. Kennedy MRT, Coelho C, Turkstra L, et al. Intervention for executive functions after traumatic brain injury: a systematic review, meta-analysis and clinical recommendations. Neuropsychol Rehabil. 2008;18(3):257-299. doi:10.1080/09602010701748644 / PubMed
  4. Krasny-Pacini A, Chevignard M, Evans J. Goal Management Training for rehabilitation of executive functions: a systematic review of effectiveness in patients with acquired brain injury. Disabil Rehabil. 2014;36(2):105-116. doi:10.3109/09638288.2013.777807 / PubMed
  5. Stamenova V, Levine B. Effectiveness of Goal Management Training® in improving executive functions: a meta-analysis. Neuropsychol Rehabil. 2019;29(10):1569-1599. doi:10.1080/09602011.2018.1438294

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、リハビリテーション実務に役立つ情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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