CBS評価(半側空間無視)|実施と判定の要点

評価
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CBS(Catherine Bergego Scale)とは?

臨床で使える評価の揃え方(PTキャリアガイド)を見る

CBS は、日常生活動作(ADL)場面の観察に基づき半側空間無視の存在・重症度を 10 項目(各 0–3 点)で評価し、合計 0–30 点で表す機能的評価です。検査課題よりも「生活行為における見落とし」を敏感に捉えられる点が強みで、標準化手順として KF-NAP を用いると再現性が高まります(本記事では公式の項目文・採点語句は掲載しません)。

スコアの読み方(0–30)

スコアと臨床の目安(自施設向け運用例)
合計 臨床の目安
0無視所見なし左側の探索やセルフケアが自発的に可能
1–10軽度促しがあれば修正可能。食事や整容で左側の取りこぼしが散発
11–20中等度左側物体との接触や経路誤りが頻発。繰り返しの声かけが必要
21–30重度一貫した左側の無視。安全や ADL 自立に大きな影響

再評価は同時刻・同環境で行い、同一観察セッション内で 10 項目を記録すると信頼性が高まります。新人~若手向けの評価導線は こちら

配布:記録用テンプレート(非公式/互換)

※ 実施手順・採点定義の詳細は Kessler FoundationKF-NAP マニュアルをご確認ください(Manual 2015Manual 2023)。

各ドメインの解説(趣旨・判定基準・観察ポイント・閾値)

10 ドメインの実践ガイド(本文は自施設向けに調整可)
ドメイン 趣旨(何を見るか) 判定基準の軸(0→3) 観察ポイント(具体場面) 閾値(運用目安)
視線の向き 左方向への自発的定位・探索の有無と一貫性 0: 自発定位/1: ときどき遅延/2: 促し必要/3: 右向き固着 歩行・室内移動での頭部回旋/掲示の読み始め位置 ≧2 で安全配慮(導線・掲示位置の左寄せ)
患側認識(四肢) 左上肢の存在・位置への気づきと ADL 使用 0: 自発使用/1: 使用頻度低下/2: 促しで一時使用/3: 持続的非使用 端座位での左手位置/移乗時の左手保護 ≧2 で左上肢保護+タスク内使用訓練
聴覚的注意 左側からの音・呼名への定位と反応 0: 即時反応/1: 時々遅延/2: 繰返し促しで反応/3: 反応ほぼなし 左側からの呼名/左右同時提示の定位優先 ≧2 で音源配置・呼名の工夫を共有
私物の探索 眼鏡・リモコン等の左側探索 0: 左右均等/1: 左見落とし散発/2: 右優位持続/3: 左探索ほぼなし ベッドサイド左配置/置き直し後の反応 ≧2 でレイアウト固定+探索手順訓練
更衣 左袖・左脚の操作と衣類位置合わせ 0: 自立/1: 軽度取りこぼし/2: 継続的声かけ必要/3: 介助でも困難 袖通し順/ズボン左側の引き上げ ≧2 で手順カード+鏡使用を導入
整容 顔面・髭・髪の左半分への配慮 0: 均等実施/1: 左抜け散発/2: 左抜け頻発/3: 左半分一貫未実施 鏡前の洗顔・髭剃り/タオル拭き残し ≧2 で鏡位置を左寄せ+手順化
移動(経路把握) 左空間の利用・回避行動 0: バランス良好/1: 左に寄りにくい/2: 回避に繰返し促し/3: 左空間ほぼ未使用 病棟コース歩行/方向転換・コーナリング ≧2 でフットプリント・床テープ等の視覚手掛かり
左側物体との接触 車いす・歩行での左側接触/衝突頻度 0: 接触なし/1: 散発/2: 頻発(環境調整必要)/3: 危険レベル ドア枠・ベッド柵・掲示物との距離 ≧1 で即時注意喚起、≧2 で動線修正
食事 皿・トレー左側の摂取と食べ残し 0: 均等摂取/1: 左残菜散発/2: 左に一貫した残菜/3: 左ほぼ未摂取 皿回転・トレー配置での改善有無 ≧2 で配置最適化+探索訓練(栄養低下に注意)
口腔内清掃 左頬・口角の食渣残留と気づき 0: 残留なし/1: 時々残留/2: 繰返し残留(促しで改善)/3: 一貫して残留 綿棒・ガーゼでの拭き取り/飲水後の再確認 ≧2 で左優先の口腔ケア手順を共有(ST と連携)

KF-NAP 2023 準拠の明記(2015 からの整流点)

本記事の解説・運用は KF-NAP 2023(最新版)に準拠します。2015 版からの主な整流点は、カテゴリ順の整理採点基準の明確化スコアシート/試験者キットの一体化 などで、評価の原則は不変です。最新版の入手先と概要は公式ページをご参照ください(KF:GuideKF-learn:Manuals)。

閾値の運用例(院内ルール化のヒント)

  • 合計 ≥ 1 点:無視の疑い。1 週間以内に再評価+環境調整を検討。
  • 合計 ≥ 11 点:中等度。動線・掲示・配膳の左優先を病棟で統一。
  • いずれか 3 点:危険源。該当タスクを手順書化+スタッフ周知(当日)。
  • 自己−観察 乖離 ≥ 5 点:病識低下を疑い、家族説明カードを用いて安全目線を共有。

※上記は臨床運用上の目安です。研究・施設基準の報告は KF-NAP の定義に合わせてください。

自己評価と観察者評価の乖離(病識の手掛かり)

CBS は同一の 10 ドメインを患者自己評価でも聴取できます。観察スコアとの差は病識低下(失認)の手掛かりになり、乖離が大きいほど安全上のリスクが残りやすいと解釈します。乖離が小さいのに ADL で危険が目立つ場合は、状況依存・注意資源の不足を疑い、評価時間帯や環境を統一して再評価します。

紙筆検査との違い(使い分け早見)

紙筆検査 vs CBS(ADL 直結度とスクリーニングの補完関係)
観点 紙筆検査(線分二等分など) CBS(KF-NAP) 臨床の使い分け
評価文脈 机上課題・短時間・標準化容易 日常場面の観察・ADL 直結 初期は紙筆でスクリーニング、ADL 影響の把握は CBS を主軸に
敏感度の特徴 軽症~注意波及の拾い上げに有用 「生活での取りこぼし」検出に強い 併用で取り逃しを最小化
記録・連携 スコア解釈は臨床翻訳が必要 行動例に紐づき共有が容易 多職種で同じ声かけ文言に統一

実装のコツ(評価→介入への橋渡し)

  • 評価導線の固定:評価は同時刻・同環境で、10 ドメインを一括セッションで記録。
  • 左チェックの埋め込み:更衣・整容・食事に「左確認」をステップ化し、手順カードを病棟へ。
  • 環境スイッチ:鏡・掲示・配膳位置を左寄せで統一(転棟時に引き継ぎ表で担保)。
  • 多職種の合言葉:「左を見て→触れて→使う」の 3 語で声かけを揃える。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

CBS 評価方法の要点は?(KF-NAP 2023 との関係)

評価は ADL 場面の行動観察を 10 ドメインで 0–3 点採点。KF-NAP 2023 に準拠すると観察順・定義が明確で再現性が高まります。2015 版の原則は不変です。

KF-NAP 2015 を使っています。2023 へ切替必須?

必須ではありませんが、院内標準化や新人教育では 2023 版の採用を推奨します(資材が統合され、説明が簡潔)。

日本語版(CBS/KF-NAP-J)のエビデンスは?

国内で信頼性・妥当性を支持する報告があります。日本語運用でも再現性向上の示唆があります。

自己評価はどう扱う? 観察との乖離は?

10 ドメインを患者に平易語で自己採点してもらい、観察スコアとの差を乖離指標として扱います。乖離が大きい場合は病識低下を疑い、安全配慮を強化します。

参考文献

  1. Chen P, Hreha K, Fortis P, Goedert KM, Barrett AM. Functional assessment of spatial neglect: a review of the Catherine Bergego Scale and an introduction of the Kessler Foundation Neglect Assessment Process. Top Stroke Rehabil. 2012;19(5):423–435. doi: 10.1310/tsr1905-423. PubMed: 22982830
  2. Azouvi P, Olivier S, et al. Behavioral assessment of unilateral neglect: study of the psychometric properties of the Catherine Bergego Scale. Arch Phys Med Rehabil. 2003;84(1):51–57. PubMed: 12589620
  3. Kessler Foundation. KF-NAP 2015 Manual. PDF: link
  4. Kessler Foundation. KF-NAP 2023 Manuals & Examiner’s Kit. Access: kflearn.org / Overview: kesslerfoundation.org
  5. Nishida D, et al. Behavioral Assessment of Unilateral Spatial Neglect with the CBS Using the KF-NAP in Patients with Subacute Stroke during Rehabilitation. Biomed Res Int. 2021;2021:8825192. doi: 10.1155/2021/8825192
  6. Rehabilitation Measures Database. Catherine Bergego Scale (CBS). URL: https://www.sralab.org/rehabilitation-measures/catherine-bergego-scale
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