意識レベルの評価(総論):JCS/GCS/ECS の使い分けと観察項目
本ページは「意識レベル 評価」の総論です。一次評価の流れ、JCS/GCS/ECS の要点と使い分け、観察項目のチェックポイントを整理し、最後に既存の練習問題で理解を定着させます。一般化しすぎない実務寄りの要点に絞り、各スケールの原典・検証研究への外部リンクを併記します(外部リンクは新規タブ)。
評価フロー(ベッドサイドの基本手順)
- 一次安全確認:ABC・循環・外傷の有無、SpO₂・血圧・血糖などの緊急所見を同時に把握。
- 呼名/刺激→覚醒の有無:呼名→大声→痛み刺激(爪床圧迫など)と段階的に。
- スケール選択と記録:施設 SOP に従い JCS または GCS(必要時 ECS を補助)で速やかに記録。
- 併存情報:瞳孔径・対光反射、左右差、呼吸パターン、痙攣、麻痺肢、外傷部位。
- 再評価サイクル:治療や時間経過で変化しやすい。同条件・同刺激で反復評価。
痛み刺激の注意:外傷部位への刺激や胸骨強圧などは避け、爪床圧迫を短時間で実施。持続的・過大な刺激は禁忌。挿管中や失語が疑われる場合は V(言語)評価に代替表記(例:V=NT)を用い、E/M を明示して合計点の可読性を担保します。
スケールの要点早見表
| 桁 | 覚醒レベル | 代表サブカテゴリ例 | 記録例 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ桁 | 刺激なしでも覚醒 | 0(清明)/ 1(見当識障害)/ 2(錯乱)/ 3(簡単な質問に答えられない) | JCS 1、JCS 3 など |
| Ⅱ桁 | 刺激で覚醒 | 10(呼名)/ 20(大声+肩叩き)/ 30(痛み刺激) | JCS 20 など |
| Ⅲ桁 | 痛みでも覚醒しない | 100(払いのけ)/ 200(逃避・しかめ)/ 300(無反応) | JCS 200 など |
| 要素 | 段階数 | 評価の観点(抜粋) | 点数範囲 |
|---|---|---|---|
| E(開眼) | 4 | 自発/呼名/痛み/なし | 1–4 |
| V(言語) | 5 | 見当識会話/混乱会話/不適切語/理解不能/なし | 1–5 |
| M(運動) | 6 | 命令に従う/痛み部位定位/逃避/異常屈曲/伸展/なし | 1–6 |
| 合計点 | 3–15(高いほど良い) | ||
| 重症度 | 合計点 | 備考 |
|---|---|---|
| 軽症 | 14–15 | 経時的に再評価 |
| 中等症 | 9–13 | 画像・モニタリングの検討 |
| 重症 | 3–8 | 気道・循環の優先管理 |
| 領域 | ECS の要点 | 利点(抜粋) |
|---|---|---|
| Ⅰ・Ⅱ桁 | JCS の小分類を 2 段階に簡素化 | 記録の一貫性向上、判断時間の短縮 |
| Ⅲ桁 | 除脳・除皮質を含む 5 段階 | 脳幹障害や運動反応の表現力が向上 |
| 覚醒の定義 | 開眼・発語・合目的動作のいずれか | 「開眼のみ」依存からの脱却 |
観察項目チェックリスト
| 順 | 項目 | 見るポイント | 注意・次アクション |
|---|---|---|---|
| 1 | 呼名反応 | 普通声→大声での反応差 | 差がなければ痛み刺激へ段階移行 |
| 2 | 痛み刺激 | 爪床圧迫で短時間の反応判定 | 外傷部位は避ける/過大刺激禁止 |
| 3 | 開眼・発語・合目的動作 | 自発/呼名/痛みでの変化 | スケールへ直結(JCS/GCS/ECS) |
| 4 | 瞳孔・対光反射 | 左右差・固定・散大 | 急変サイン:医師へ即時共有 |
| 5 | 呼吸パターン | Cheyne–Stokes 等の異常 | ガス交換・循環と併せ評価 |
| 6 | 再評価間隔 | 治療・時間での変化 | 同条件・同刺激で記録を統一 |
JCS(Japan Coma Scale)概説
1974 年に国内で提案された簡便なスケール。大分類(Ⅰ=自発覚醒、Ⅱ=刺激で覚醒、Ⅲ=覚醒せず)に基づき、現場での素早い共通言語として有用です。一方で「開眼依存」の限界や評価者間ばらつきが指摘され、状況により GCS や ECS と併用します。
練習問題(JCS)
70 歳の男性が交通事故で搬送された。呼びかけで開眼せず、大きな声で呼びかけながら痛み刺激を加えると、かすかに開眼するが直ぐに眼は閉じてしまう。【答え:JCS 30】
在宅生活をしている 86 歳の女性。朝起きた時から、いつもと様子が違うことに同居家族が気付き、救急外来を受診した。開眼はしており、声かけに対する返事はあるが自分の名前や生年月日が言えない。着衣を観察すると失禁していることが判明した。【答え:JCS 3-I】
GCS(Glasgow Coma Scale)概説
1974 年、Teasdale らにより提唱。E(開眼 1–4)・V(言語 1–5)・M(運動 1–6)の 3 要素で構成し、合計 3–15 点。脳幹徴候や運動反応の表現力が高く、外傷領域を中心に国際的に汎用されます。挿管や失語時は V を “NT” などの注記で扱い、E/M を確実に記載します。
練習問題(GCS)
自発的に開眼している。困惑している様子があり日時や生年月日を正しく答えることができない。会話は文章レベルで成立する。「両手をあげてみてください」「太ももを持ち上げられますか?」の指示通りに手足を動かすことができている。【答え:GCS14(E4V4M6)】
閉眼しているが呼びかけにより開眼し、時間が経つと再び閉眼する。「○○さん!聞こえますか?」と声をかけると「あー」「うう」と声を発するが、単語レベルではない。手足を動かすように指示すると反応はなく、痛み刺激に対しては伸展反応を示す。【答え:GCS7(E3V2M2)】
ECS(Emergency Coma Scale)概説
2003 年、日本神経救急学会 × 日本脳神経外科救急学会の合同委員会により提案。JCS の枠組みを保ちつつ、Ⅰ・Ⅱ桁を簡素化、Ⅲ桁を 5 段階(除脳・除皮質を含む)に細分化。覚醒の定義を「開眼・発語・合目的動作のいずれか」と再定義し、評価の迅速性と再現性を高めます。国内実務で徐々に活用が広がり、JCS/GCS を補完する位置づけです。
FAQ(1問)
挿管中や失語疑いの患者では、GCS の V(言語)をどう扱う?
発声が評価できない状況では V=NT(Not Testable など施設規定に従う)と注記し、E と M を明示して合計点を併記(例:E3 M5 V=NT(合計 8T) のように T を付す運用など)。経時変化の比較が目的なので、同じ基準・同じ刺激方法で再評価・再記録します。
参考文献
- Teasdale G, Jennett B. Assessment of coma and impaired consciousness. Lancet. 1974;2(7872):81–84. doi:10.1016/S0140-6736(74)91639-0
- 高橋千晶, 奥寺 敬. 新しいスケール:Emergency Coma Scale の開発の経緯と有用性の検討. 日本交通科学協議会誌. 2017;16(1):3–. J-STAGE
- 卜部貴夫. 意識障害. 日本内科学会雑誌. 2010;99(5):168–175. J-STAGE
- Takahashi C, et al. Validation of the Emergency Coma Scale. Am J Emerg Med. 2011;29:196–202. doi:10.1016/j.ajem.2009.09.018
おわりに
実地では「安全の確保 → 段階刺激 → スケール記録 → 再評価」というリズムが最重要です。各スケールの長所と限界を理解し、患者背景(挿管・失語・外傷など)に応じて表記を工夫すれば、チーム内での情報伝達が一段と精密になります。
働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック(A4・5分)と職場評価シート(A4)を無料公開しています。印刷してそのまま使えます。ダウンロードはこちら
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


