深部腱反射(DTR)総論:上肢・下肢を一気通貫で
深部腱反射(DTR)は、末梢―脊髄―中枢の反射弓機能を簡便に評価でき、UMN/LMN 鑑別と病態把握に直結します。本稿は上肢(Biceps/BR/Triceps)と下肢(KJ/AJ)を1ページに統合し、体位・ランドマーク・打鍵角度・判定・記録までを標準化できる形で整理しました。総論はピラー:反射検査 完全ガイド
反射は 0〜4+ のスコアだけでなく、左右差、誘発条件(Jendrassik など)、再現性、疼痛・不安などの影響も含めて解釈します。
共通手順:体位・脱力・打鍵の基本
脱力位を最優先。腱のテンションは軽く、打鍵器は腱に対し斜め約45°で“軽快に弾く”。同一点の連打は habituation を招くため避けます。寒冷・騒音・痛みの軽減、明確な説明(痛くない・すぐ終わる)が成功率を左右します。
比較は「左右 → 近位遠位 → 上肢下肢」の順を固定。反応が乏しければ Jendrassik 操作 や注意分散・呼吸タイミングを併用。術後直後・皮膚病変・強い疼痛は刺激強度/部位を配慮。
上肢DTR:Biceps/BR(腕橈骨)/Triceps
Biceps:坐位、肘軽度屈曲・前腕回外。腱を触診し腱直上を打鍵(期待=肘屈曲)。
BR(腕橈骨):坐位、前腕中間位で橈骨遠位1/3を軽打(肘屈曲+回外)。前腕全体が跳ねる強打は禁物。
Triceps:肩外転90°・肘弯曲位。肘頭上の腱を打鍵(肘伸展)。
出にくいとき:支えの再調整、注意分散や呼気タイミングを活用。痙縮や共同運動が強い場合は無理に強打せず、ランドマークと脱力の作り直しを。病的反射の併置評価:病的反射の手順と判定
早見表:上肢DTRの体位・打鍵ポイント
反射 | 体位/固定 | ランドマーク/打鍵 | 期待反応 | コツ/注意 |
---|---|---|---|---|
Biceps | 坐位。肘軽屈曲・前腕回外 | 腱を触診し腱直上を軽快に打鍵 | 肘屈曲 | 腱テンションの張りすぎ注意 |
BR | 坐位。前腕中間位 | 橈骨遠位1/3の骨膜上を軽打 | 肘屈曲+回外 | 強打で全腕が跳ねないように |
Triceps | 肩外転90°・肘弯曲 | 肘頭の腱を打鍵 | 肘伸展 | 上肢支持で脱力を維持 |
下肢DTR:KJ(膝蓋腱)/AJ(アキレス腱)
KJ:端座位で下腿を遊脚させ、膝蓋腱中央を軽打(期待=膝伸展)。仰臥位では膝20〜30°屈曲位を支持。
AJ:腹臥位または短坐位で足部を軽く背屈保持し腱を打鍵(期待=底屈)。足趾把持は抑えます。
反応が乏しければ Jendrassik で増強し、角度・強度を微調整。痛みや恐怖がある場合は反応が過大/不安定になりやすいので、声かけと呼吸誘導で脱力を作る。判定テンプレ(DL):0〜4+ 判定と記録テンプレ
早見表:下肢DTRの体位・打鍵ポイント
反射 | 体位/固定 | ランドマーク/打鍵 | 期待反応 | コツ/注意 |
---|---|---|---|---|
KJ | 端座位(遊脚)/仰臥位(膝20〜30°屈曲) | 膝蓋腱中央を軽快に打鍵 | 膝伸展 | 遊脚で脱力、強打しない |
AJ | 腹臥位/短坐位。足部軽背屈保持 | アキレス腱を打鍵 | 足関節底屈 | 足趾把持を抑え、角度は45°目安 |
判定(0〜4+)と左右差・誘発条件の扱い
0=消失、1+=減弱、2+=正常、3+=亢進、4+=著明亢進(clonus)を基本に、左右差(1段階以上)と再現性を重視。通常条件→誘発条件の順に記録(例:KJ 1+/4 → 2+/4(JM+))。クローヌスは回数・持続もメモ。
スコアは年齢・緊張・疼痛で変動します。単発所見で断定せず、病的反射や筋緊張、運動/感覚所見と組み合わせ解釈を。詳細とDL:0〜4+ 判定と記録テンプレ
出ない/出すぎる時のトラブルシューティング
出ない:脱力不足、腱テンション過多、打鍵面ズレ、寒冷・不安 → 体位再調整、ランドマーク再確認、注意分散/呼気、Jendrassik、軽ストレッチの順。連打を避け、数十秒おいて再確認。
出すぎる:疼痛・力み・恐怖 → 打鍵を軽く、呼気タイミングで再試行。痙縮が強い時は姿勢を工夫、必要なら誘発法を止めて通常条件で再判定。関連:Jendrassik 操作|病的反射
記録テンプレとSOAP(略記の統一)
略語凡例:Biceps/BR(腕橈骨)/Triceps/KJ(膝蓋腱)/AJ(アキレス腱)、JM=Jendrassik、Clonus=クローヌス。
記録例:Biceps 2+/4=左右差なし、BR 2+/4、Triceps R1+/L2+、KJ R1+→2+(JM+)、AJ 2+/4、Clonus −。病的反射:Babinski −/−。
SOAP例:S)検査不安あり。O)上記DTR+誘発条件・疼痛を併記。A)下肢DTR軽度亢進の可能性(機能所見と整合)。P)転倒リスク評価・痙縮管理、1週間後再評価。判定の詳細とExcel版:無料ダウンロード
禁忌・注意(安全第一)
術後直後、強い疼痛・皮膚損傷、DVT疑い肢では刺激や把持を回避/軽減。抗凝固療法中は皮下出血に配慮。プライバシー確保と体位安定を前提に、動画記録は同意の上で必要最小限に。高齢者・骨粗鬆症では不用意な衝撃を避けます。
小児・原始反射は評価目的が異なるため、別記事(Moro/ATNR/STNR など)で整理推奨。
参考文献
- Rodriguez-Beato FY, Urribarri O. Physiology, Deep Tendon Reflexes. In: StatPearls [Internet]. 2025–. PubMed
- Zimmerman B, Menon RS. Deep Tendon Reflexes. In: StatPearls [Internet]. 2025–. PubMed
- Walker HK. Tendon Reflexes and Reflex Testing. In: Walker HK, Hall WD, Hurst JW, eds. Clinical Methods. 3rd ed. 1990. NCBI Bookshelf
- Ertuglu LA, Karacan I, Yilmaz G, Türker KS. Standardization of the Jendrassik maneuver in Achilles tendon tap reflex. Clin Neurophysiol Pract. 2017;3:1–5. DOI
- Passmore SR, Bruno PA. Remote muscle contraction facilitates patellar tendon reflex reinforcement; mental activity does not. Chiropr Man Therap. 2012;20:29. DOI
最終更新:2025-10-03