認知症の注意課題ドリルは「短時間・同条件・手がかり記録」で運用すると再現しやすくなります
認知症介入で注意課題ドリルを使う場面では、課題の種類より「どの条件で実施したか」をそろえることが重要です。持続注意や選択注意の評価は、環境刺激や疲労の影響を受けやすいため、同条件で反復できる設計にすると経時変化を読み取りやすくなります。
本記事は、作業療法士が現場で回しやすいように、適応判断、実施手順、難易度調整、拒否時の切替、SOAP記録までを実装手順として整理します。全体フローは認知症介入の紙面課題プロトコル(総論)で確認できます。
どんなときに使う?|適応と不適応を先に決めます
注意課題は「集中の持続」「不要刺激の抑制」「指示の保持」を確認したいときに有効です。とくに、日中活動で離席や手順逸脱が増えるケースでは、短時間の注意課題で介入起点を作りやすくなります。
一方で、強い眠気、疼痛増悪、せん妄様症状、視覚・聴覚入力の著しい低下がある日は、無理に紙面課題を継続しない判断が安全です。実施可否を最初の 30〜60 秒でスクリーニングしてから開始します。
| 観点 | 実施しやすい状態(OK) | 見合わせ・条件変更(要調整) |
|---|---|---|
| 覚醒 | 声かけで注意が向き、着席継続できる | 眠気が強く、開始直後に離席する |
| 理解 | 1 段階指示が通る | 指示理解が不安定で混乱が強い |
| 感覚入力 | 文字・図形が視認できる | 視認困難、補聴環境不良 |
| 体調 | 疼痛・息切れが軽度で 10 分程度座位可能 | 疼痛増悪、強い倦怠感、せん妄様変動 |
実施手順|導入 3 分 → 実施 10〜15 分 → 振り返り 2 分
注意課題の基本は短時間運用です。導入で目的を共有し、実施で手がかり量を調整し、振り返りで「次に活かす行動」を 1 つ決めます。長時間化より、同条件で取り直せる構成のほうが臨床では機能します。
開始前に机上環境(照明、騒音、座位)を整え、課題は 1 セッション 1 目的に絞ると、評価と介入の一貫性が保ちやすくなります。評価設計の土台は評価ハブもあわせて確認しておくと運用が安定します。
実施のステップ
| ステップ | 実施内容 | 記録するポイント |
|---|---|---|
| 導入 | 本日の目的を 1 文で共有(例:最後まで集中して取り組む) | 開始時の覚醒・不安・拒否の有無 |
| 実施 | 10〜15 分で課題実施(途中で短い休止を許容) | 完遂時間、ヒント回数、離席回数 |
| 振り返り | できた点を本人と確認し、次の生活場面へ接続 | 次回の調整点(量/密度/時間) |
難易度調整|「量・刺激密度・制限時間・手がかり」を 1 つずつ変えます
難易度は一度に複数変えず、1 変数ずつ調整します。これにより、成績変化の理由を解釈しやすくなります。認知症介入では、その日の体調変動も大きいため、変更点を明確に残すことが重要です。
易しい設定から始め、成功体験を作ってから負荷を上げると拒否が減りやすくなります。課題の正答率だけでなく、持続時間や再開までの時間も合わせて見ます。
| 調整軸 | 下げる(易しくする) | 上げる(難しくする) | よくある失敗 |
|---|---|---|---|
| 課題量 | 設問数を減らす | 設問数を増やす | 最初から量を多くする |
| 刺激密度 | 余白を広く、刺激を減らす | 似た刺激を増やす | 視認性を下げすぎる |
| 時間制約 | 制限時間なし | 制限時間あり | 焦りを強めて拒否を招く |
| 手がかり | 口頭・視覚ヒントを増やす | ヒントを最小化 | ヒント量を記録しない |
現場の詰まりどころ|拒否・中断・成績ばらつきへの対応
注意課題で詰まりやすいのは、拒否への対応と成績のばらつき解釈です。拒否時は「やる/やらない」の二択にせず、課題量の縮小、時間短縮、非紙面課題への切替を選べるようにすると継続しやすくなります。
また、成績の上下を能力変化だけで解釈すると誤差が大きくなります。環境刺激、実施時間帯、疼痛、睡眠などの背景を併記し、変動の理由をチームで共有できる形にすることが大切です。
| 詰まりどころ | 背景 | 対処 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 開始拒否 | 課題負荷の見通し不安 | 時間を先に提示し、量を半分で開始 | 拒否の言語内容、開始までの時間 |
| 途中中断 | 疲労・疼痛・刺激過多 | 1〜2 分休止、刺激を減らして再開 | 中断時点の設問数、再開可否 |
| 日ごとのばらつき | 体調・時間帯・環境差 | 実施条件を固定し、変数を 1 つずつ変更 | 時間帯、騒音、ヒント量 |
記録テンプレ|SOAP で「取り直せる」情報を残します
実務で役立つ記録は、正答率だけでなく「どの条件でできたか」を残した記録です。注意課題では、手がかり量、完遂時間、離席・中断、再開の可否をセットで記録すると、次回の調整が明確になります。
この書式は電子カルテでも紙記録でも使えます。評価→介入→再評価の循環を早くするため、記録項目は最小限に絞るのがコツです。
SOAP 記載例(注意課題)
- S:開始時「今日は集中できるか不安」と発言。拒否はなし。
- O:選択注意課題 10 分。口頭ヒント 2 回で完遂。離席 0 回。
- A:刺激密度を下げた条件で持続可能。時間制約追加は時期尚早。
- P:次回は同条件で設問数のみ +20% 。終了後に服薬確認課題へ接続。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
注意課題は 1 回何分くらいが適切ですか?
目安は 10〜15 分です。長時間化より、同条件で反復できる設計を優先すると、経時変化を解釈しやすくなります。
正答率が低いと中止したほうがよいですか?
正答率のみで中止は判断しません。ヒント量、離席、中断理由、終了後の疲労を合わせて見て、負荷調整で継続可能かを検討します。
拒否が出た日は何を優先しますか?
課題量の縮小、時間短縮、非紙面課題への切替を優先します。拒否の背景を記録して次回条件を修正すると、再開率が上がります。
机上課題を生活につなげるには?
毎回 1 つの生活行為に接続します。例えば、予定確認、服薬手順、買い物メモなど、当日中に実行しやすい行為を選ぶと定着しやすくなります。
次の一手
まずは本記事の手順で 1 週間運用し、ヒント量と完遂時間の推移を確認してください。条件を固定して取り直せるようになると、介入方針の修正が速くなります。
環境面(教育体制・記録文化・人員)まで含めて働き方を点検したい場合は、マイナビコメディカルの無料チェックシートも判断材料になります。
参考文献
- Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet. 2020;396(10248):413-446. DOI
- World Health Organization. Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines. 2019. Guideline
- 日本作業療法士協会. 認知症関連情報. 公式サイト
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

