- ALSのコミュニケーション方法は「今使う方法」と「次に備える方法」を同時に考える
- 文字盤・意思伝達装置・視線入力は「現在の操作」と「次の変化」で使い分ける
- AACとは|発話を補う・置き換えるコミュニケーション手段の総称
- ALSのコミュニケーション支援はいつから?発話が保たれる時期から準備する
- コミュニケーション方法を選ぶ前に確認する7項目
- 文字盤・意思伝達装置・視線入力の特徴と注意点
- 「今使う・次に準備・代替」の三段構えで意思表出の空白を防ぐ
- 見直しは「決まった日だけ」でなく操作性が変わった時点で行う
- 記録は「使った方法」だけでなく成功条件と次の候補まで残す
- ALSコミュニケーション手段 選択・見直しシート【Excel・PDF】
- よくある質問(FAQ)
- 次に確認すること
- 参考文献
- 著者情報
ALSのコミュニケーション方法は「今使う方法」と「次に備える方法」を同時に考える
ALSでは、発話が難しくなってから初めて代替手段を探すのではなく、話せる時期から文字盤・筆談・タブレット・スイッチ・意思伝達装置・視線入力などを知り、今使える方法と次に必要になりそうな方法を並行して準備することが重要です。
この記事では、PT・OT・STや病棟・在宅スタッフ向けに、ALSのコミュニケーション方法を「現在の発話・上肢操作・視線・疲労・支援体制」から整理します。個別製品のスペック比較ではなく、何を今使い、何を次に試し、使えない場面に何を残すかを判断できることを目標にします。
ALS評価の全体像を先に確認したい方へ
呼吸・嚥下・栄養・コミュニケーションを含む評価項目と再評価の考え方は、ALSリハビリ評価の全体像で整理しています。
文字盤・意思伝達装置・視線入力は「現在の操作」と「次の変化」で使い分ける
ALSのコミュニケーション手段は、病期だけで一律に決めるのではなく、現在どの身体機能を安定して使えるか、疲労すると何が崩れるか、次にどの操作が難しくなりそうかを見て選びます。1つの方法へ固定するより、主手段・次の候補・代替手段を持つ方が、意思表出が途切れにくくなります。

| 現在の状態 | 今使う候補 | 次に準備する候補 | 確認すること |
|---|---|---|---|
| 発話が実用的 | 発話、短いYes/No | 筆談、文字盤、タブレットなどを試す | 聞き返し、会話疲労、長い会話の負担 |
| 発話が聞き取りにくい | 筆談、文字盤、定型句、タブレット | スイッチ入力、意思伝達装置など | 書字・タッチの速度、上肢疲労、伝達に要する時間 |
| 手指操作が難しくなった | 文字盤、透明文字盤、残存運動を使うスイッチ | 走査入力、視線入力など | 実用的に使える随意運動、姿勢、固定方法 |
| 上肢操作が実用的でない | 視線入力、透明文字盤、スイッチ入力など | 別部位のスイッチや他の入力方法を検討 | 眼精疲労、眼球運動、キャリブレーション、介助者の設定 |
| 機器が使えない場面がある | Yes/No、文字盤、口文字など | 非常時の共通ルールを固定 | 停電・外出・体調不良時でも伝えられるか |
この表は「この状態なら必ずこの機器」という判定表ではありません。本人の希望、視覚・聴覚、理解・読み書き、生活環境、支援者の操作負担も合わせて確認し、実際の場面で試して調整します。
AACとは|発話を補う・置き換えるコミュニケーション手段の総称
AAC(augmentative and alternative communication:拡大・代替コミュニケーション)は、発話だけでは意思を十分に伝えにくいときに、筆談、文字盤、ジェスチャー、タブレット、意思伝達装置、スイッチ、視線入力などでコミュニケーションを補う、または置き換える考え方です。
「ローテクAAC」と「ハイテクAAC」のどちらが優れているかで決めるのではなく、場面に応じて複数を組み合わせます。文字盤など電源を必要としない方法は、機器トラブルや停電時の代替手段にもなります。一方、電子機器は長い文章、音声出力、通信などへ用途を広げやすいという特徴があります。
ALSのコミュニケーション支援はいつから?発話が保たれる時期から準備する
ALSでは、コミュニケーション機器が実際に必要となる前から、将来の選択肢について情報提供し、本人や支援者が準備しておくことが大切です。日本神経学会のALS診療ガイドライン2023では、まだ音声によるコミュニケーションが可能な段階を、今後の機器利用に備えて可能性を理解し、さまざまな手段を知っておく時期として位置づけています。
また、2026年のシステマティックレビューでも、ALSでコミュニケーション支援が必要となる時期には個人差が大きく、発話の変化を継続的に確認しながら適切な時期に支援へつなげることの重要性が示されています。診断からの期間だけで一律に決めるのではなく、本人の発話・運動機能・生活上の困りごとの変化を追います。
「まだ話せる」時期に何をする?
すぐに主手段を機器へ変更する必要はありません。発話を使いながら、文字盤やタブレットなどを知る・短時間試す・本人がどの方法を希望するか確認するところから始めます。将来の手段を一方的に先行導入するのではなく、本人の受け止め方も含めて段階的に進めます。
コミュニケーション方法を選ぶ前に確認する7項目
機器名から選び始めるより、どの入力が安定しているか、どの条件で失敗するかを先に整理すると候補を絞りやすくなります。初回だけでなく、状態変化時にも同じ視点で確認します。
| 確認項目 | 具体的に見ること | 選択・調整へのつなげ方 |
|---|---|---|
| 1. 発話 | 明瞭度、聞き返し、声量、会話時間による低下 | 発話を残しながら補助手段を追加するか考える |
| 2. Yes/No | 瞬き、表情、指、視線などで一貫した合図が取れるか | 緊急時や複雑な手段が使えない場面の基礎にする |
| 3. 上肢・残存運動 | 書字、タッチ、マウス、単一スイッチに使える動き | 直接入力か、スイッチ・走査入力かを検討する |
| 4. 視線 | 注視、視線移動、眼精疲労、眼球運動の変化 | 透明文字盤・視線入力の実用性と使用時間を確認する |
| 5. 疲労・呼吸・姿勢 | 時間帯、連続使用時間、呼吸状態、頭頸部・体幹支持 | 成功しやすい姿勢と使用時間を整理する |
| 6. 視覚・聴覚・理解 | 文字の見え方、音声指示、読み書き、注意・理解 | 文字サイズ、配置、提示方法、質問方法を調整する |
| 7. 支援体制・生活場面 | 家族やスタッフの設定能力、使用場所、伝えたい内容 | 本人だけでなく支援者が継続できる方法を選ぶ |
文字盤・意思伝達装置・視線入力の特徴と注意点
同じALSでも、必要な方法は生活場面と残存機能によって異なります。ここでは代表的な手段について、機能を列挙するだけでなく、どの条件を確認して使うかを整理します。
筆談・文字盤・透明文字盤・口文字
筆談や文字盤は電子機器がなくても始めやすく、電子機器が使えない場面のバックアップにもなります。文字盤は、文字の大きさ・配置・よく使う語句などを本人に合わせて調整します。
透明文字盤では視線を読み取り、口文字では介助者が順に文字を示しながら合図を確認するなど、本人と受信側で共通した手順が必要です。重要な意思決定や長い内容では、伝わった内容を復唱し、必要に応じて記録します。
タブレット・PC・意思伝達装置・スイッチ入力
タブレットやPCは、直接タッチ、マウスなどのポインティング、スイッチ、走査入力など、身体機能に応じて操作方法を変更できます。現在操作できる部位だけでなく、進行したときに別の入力方法へ変更できるかも確認します。
機器を導入しただけではコミュニケーションは成立しません。本人の操作に加えて、設置・固定・充電・起動・入力設定を家族やスタッフが扱えるか、実際に使う生活場面で確認します。
視線入力
視線入力は、上肢操作が難しくなった場合にもコミュニケーションを広げられる可能性があります。一方で、視線入力=最終段階で必ず使える方法ではありません。ALSの進行に伴う眼球運動機能の変化や、長時間使用による眼精疲労も考慮します。
試行時は、姿勢、頭部位置、画面との位置関係、キャリブレーション、照明、連続使用時間、眼精疲労などを確認します。初回の成功・失敗だけで適否を決めず、条件を調整して再確認します。実用性が低い場合に備え、スイッチ・走査入力や文字盤など別の方法も残します。
「今使う・次に準備・代替」の三段構えで意思表出の空白を防ぐ
ALSでは、現在使えている操作が進行に伴って難しくなる可能性があります。現在の主手段が使えなくなってから次を探すのではなく、今使う方法、次に準備する方法、機器が使えないときの代替手段を同時に考えておくことが重要です。
| 役割 | 決めること | 記録例 |
|---|---|---|
| 今使う方法 | 現在もっとも安定して意思を伝えられる方法 | 午前は発話+筆談、長文はタブレットを使用 |
| 次に準備する方法 | 現在の操作が低下したときに移行する候補 | 上肢疲労増加を見越し、単一スイッチ入力を短時間試行 |
| 代替手段 | 体調不良・機器トラブル・停電時にも使う方法 | Yes/Noと文字盤を病室・外出時とも共通化 |
日本神経学会のALS診療ガイドライン2023でも、進行によって利用できる方法が変化するため、現在使える方法だけでなく、次の段階で利用する方法についても準備を始める考え方が示されています。ただし、本人が将来の手段をまだ受け入れにくい時期もあるため、希望や心理面に配慮しながら進めます。
見直しは「決まった日だけ」でなく操作性が変わった時点で行う
コミュニケーション手段は、導入時に決めて終わりではありません。聞き返しが増えた、伝達に時間がかかる、入力ミスが増えた、疲労で使えない、姿勢や可動域が変わった、眼精疲労が増えた、本人の希望が変わったときは、設定や手段を見直します。
特にALSでは進行速度や障害される部位に個人差があります。あらかじめ一律の切替日を決めるより、「どの変化があったら次の方法を試すか」を本人・家族・支援者で共有しておくと、意思表出が難しくなってから慌てて検討する状況を減らせます。
| 変化 | 確認すること | 次の対応 |
|---|---|---|
| 聞き返し・伝達時間が増えた | 発話、文字入力、質問方法のどこで時間が増えたか | 補助手段の追加、定型句・文字盤配置などを検討する |
| 誤入力が増えた | 残存運動、スイッチ位置、固定、姿勢、疲労 | 入力部位・スイッチ・固定条件を再評価する |
| 疲労や呼吸状態で使いにくい | 時間帯、連続使用時間、姿勢、操作負担 | 短時間化や代替手段への切替条件を決める |
| 視線入力がつらい | 眼精疲労、眼球運動、画面位置、連続使用時間 | 使用条件を変え、別の入力方法も比較する |
| 担当者で読み取りが違う | Yes/Noの合図、質問順、復唱方法 | 共通ルールを申し送り・記録に残す |
記録は「使った方法」だけでなく成功条件と次の候補まで残す
「視線入力を実施」「文字盤を使用」だけでは、次の担当者が同じ条件を再現できません。記録では、何を使ったか・どの条件なら成功したか・何が崩れたか・次に何を試すかまで残します。
記録例
午前は発話と筆談で意思伝達可能。午後は発話疲労と上肢操作速度低下により聞き返し増加。文字盤を代替手段として病室に常備し、次候補として単一スイッチ入力を短時間試行する。次回は午後の疲労時に同条件で再評価する。
ALSコミュニケーション手段 選択・見直しシート【Excel・PDF】
初回相談や状態変化時に、発話・Yes/No・上肢操作・視線・疲労・支援体制を確認し、「今使う方法」「次に準備する方法」「代替・非常時の方法」「切替・再評価のトリガー」を1枚で整理できる記録シートを用意しました。
Excel版は院内や事業所の運用に合わせて入力・編集したい場合、PDF版はA4で印刷して手書きで使用したい場合に向いています。機器の適合判定そのものではなく、病棟・外来・在宅でコミュニケーション支援の方針を共有する補助として使用してください。
PDFプレビューを表示する
表示に時間がかかる場合やスマートフォンで見づらい場合は、上の「PDF版を開く・ダウンロードする」から直接開いてください。
よくある質問(FAQ)
ALSのコミュニケーション方法を選ぶときに迷いやすい点を整理します。
ALSのコミュニケーション手段は、話せなくなってから準備すればよいですか?
話せなくなってから初めて探すのではなく、まだ音声で意思疎通できる段階から選択肢を知り、必要に応じて試しておくことが大切です。ただし、将来の機器を一方的に押しつけるのではなく、本人の希望や受け止め方に合わせて段階的に進めます。
ALSでは文字盤と意思伝達装置のどちらを使うべきですか?
どちらか一方に固定する必要はありません。文字盤はすぐ使いやすく、電源がない状況の代替手段にもなります。意思伝達装置は入力方法や音声出力、通信などを広げられます。現在の身体機能と生活場面に合わせ、複数の方法を組み合わせます。
視線入力は上肢がまったく動かなくなってから導入しますか?
必ずしもそうではありません。将来の選択肢として早めに情報提供や試行を行う場合もあります。上肢操作だけでなく、視線、眼精疲労、姿勢、画面位置、支援者による設定などを含めて実用性を確認します。
視線入力がうまくいかない場合は不適合ですか?
初回の結果だけでは決めません。姿勢、頭部位置、画面との位置関係、照明、キャリブレーション、連続使用時間、眼精疲労などを確認して再調整します。それでも使いにくい場合に備え、スイッチ入力や文字盤など別の方法も残します。
コミュニケーション手段はいつ見直しますか?
定期的な確認に加えて、聞き返しや伝達時間の増加、誤入力、疲労、姿勢・可動域の変化、視線入力の負担、本人の希望の変化などがあれば見直します。ALSは変化の速さや障害部位に個人差があるため、固定した周期だけでなく状態変化を再評価のトリガーにします。
Excel版とPDF版はどう使い分けますか?
記録をPCで入力・保存・共有する場合はExcel版、A4で印刷してその場で書き込みたい場合はPDF版が便利です。確認項目と記録内容は共通なので、運用環境に合わせて選んでください。
次に確認すること
コミュニケーション手段の変更時期を考えるときは、発話だけでなく、上肢機能・粗大運動・呼吸を含む全体の機能推移も確認します。経時変化を共通の尺度で追いたい場合は、ALSFRS-Rの評価方法・点数の見方へ進んでください。
参考文献
- 日本神経学会 監修. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023. 東京: 南江堂; 2023. 日本神経学会
- Judge S, Ballesteros K, McDermott CJ, Bloch S. Timing of communication and technology control support in ALS – a systematic review. Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener. 2026;27(5-6):504-512. doi:10.1080/21678421.2026.2627899
- Beukelman DR, Fager S, Nordness A. Communication Support for People with ALS. Neurol Res Int. 2011;2011:714693. doi:10.1155/2011/714693
- Nobematsu A, Takahashi K. Timing of Communication Device Introduction Defined by ALSFRS-R Score in Patients with Amyotrophic Lateral Sclerosis. Prog Rehabil Med. 2020;5:20200013. doi:10.2490/prm.20200013
- Caligari M, Godi M, Guglielmetti S, Franchignoni F, Nardone A. Eye tracking communication devices in amyotrophic lateral sclerosis: impact on disability and quality of life. Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener. 2013;14(7-8):546-552. doi:10.3109/21678421.2013.803576
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

