離床の中止基準|J-ReCIP 2023をもとに再評価・再開判断を解説

臨床手技・プロトコル
記事内に広告が含まれています。

離床の中止基準|J-ReCIP 2023をもとに中止後の再評価まで整理

離床中にバイタルや症状が変化したときは、単一の数値だけで継続・中止を決めるのではなく、開始時からの変化、症状、一過性か持続性か、患者固有の病態を合わせて判断します。J-ReCIP 2023では重症患者の離床・運動療法について中止基準案が示されていますが、すべての患者に共通する絶対値ではありません。

本記事では、呼吸数・SpO2・心拍数・血圧などの目安と、意識・呼吸困難・不整脈・ライン異常など数値以外の中止サインを整理し、中止した後に何を再評価し、どのように再開可否へつなげるかを解説します。

この記事の要点

  • J-ReCIP 2023では、離床・運動療法の中止基準について統一されたコンセンサスは確立していません。
  • 中止基準案として、RR、SpO2、HR、sBP、MAPなどの具体的な目安が示されています。
  • 基準値に達していなくても、開始時から著しい心拍数・血圧変化があれば一時中止と相談を検討します。
  • 中止後は症状とバイタルを再評価し、病態・症状が安定してから再開可否を個別に判断します。

結論|中止基準は「絶対値」ではなく患者の変化と合わせて判断します

J-ReCIP 2023では、重症患者の離床・運動療法中に状態が不安定となる可能性があるため、中止基準を設定することが重要とされています。一方で、すべての患者・施設に共通する中止基準は確立していません。

したがって、RR 40回/分超、HR 130 bpm超、sBP 180 mmHg超などの数値を「超えたら機械的に中止」「超えていなければ継続可能」と扱うのではなく、症状、開始前からの変化、一過性か持続性か、疾患、治療状況、主治医指示、院内基準を合わせて判断することが重要です。

J-ReCIP 2023で示される主な中止基準案の数値
項目 中止を検討する目安 判断時の注意
呼吸数(RR) 5回/分未満 または 40回/分超 一過性の変化を除き、呼吸努力や症状も合わせて確認
SpO2 88%未満 または 90%未満 患者の酸素化、目標SpO2、変化の持続を踏まえて設定
心拍数(HR) 40 bpm未満 または 130 bpm超 基準内でも開始時から著しい変化があれば中断・相談を検討
収縮期血圧(sBP) 90 mmHg未満 または 180 mmHg超 普段から基準外の場合は医師を含むチームで個別の基準を設定
平均血圧(MAP) 60 mmHg未満 または 100 mmHg超 血圧変化、症状、循環動態を合わせて判断
離床中止後の再評価フロー。離床中の変化から安全確保、症状・バイタルの再評価、再開可否判断、医師・看護師への共有、次回条件の記録までを整理
図:離床を中止した後は、安全確保 → 症状・バイタル・原因の再評価 → 再開可否の個別判断 → 必要時共有 → 次回条件の記録までを一続きで考えます。

J-ReCIP 2023の中止基準は「重症患者の離床・運動療法」が対象です

この記事で主根拠とするJ-ReCIP 2023のCQ8は、重症患者に対する離床・運動療法の実施中に、どのような条件で中止するかを扱っています。

ここでいう離床・運動療法には、ベッドから離れて行う活動や運動療法が含まれます。一方、ポジショニング、ベッド上の関節可動域運動、神経筋電気刺激、嚥下リハビリテーションなどは、このCQでいう離床・運動療法には含まれていません。

そのため、以下の基準をすべての一般病棟患者や疾患へそのまま適用するのではなく、重症患者における中止基準案を参考にしながら、患者個別の病態と施設基準へ調整するという位置づけで使用します。

離床中止を検討する所見|数値だけでなく症状・意識・デバイスも確認します

離床中止を判断するときは、呼吸・循環だけを見るのでは不十分です。J-ReCIP 2023では、自覚症状、神経系、呼吸器系、循環器系、デバイス、出血・創部など複数領域から中止基準案が整理されています。

離床・運動療法の中止を検討する主な所見
領域 確認する所見 判断のポイント
自覚症状 耐えがたい痛み・苦痛・疲労、突然の呼吸困難 数値が保たれていても、患者が継続困難と感じる症状を軽視しない
意識・神経 開始時より意識レベルが低下、苦悶、顔面蒼白、チアノーゼ、不穏・危険行動、四肢脱力 開始前の状態との比較が重要。新たな神経学的変化は中止・相談につなげる
呼吸 RR 5回/分未満・40回/分超、SpO2低下、急な呼吸努力増大 一過性か持続するか、呼吸苦、酸素条件、呼吸パターンを合わせて確認
人工呼吸器 調整しても改善しない非同調、バッキング、気管チューブ抜去リスク 患者だけでなく気道・人工呼吸器との関係も再評価する
循環 HR 40 bpm未満・130 bpm超、sBP 90 mmHg未満・180 mmHg超、MAP 60 mmHg未満・100 mmHg超 絶対値に達していなくても開始前からの著明な変化を確認する
心電図 治療を要する新たな不整脈、心筋虚血が疑われる変化 胸部症状や循環変化を伴う場合は速やかに中断・共有する
ライン・デバイス カテーテル抜去リスク、実際の抜去、挿入部出血、流量低下 バイタルが安定していてもデバイス事故リスクがあれば継続しない
その他 患者からの中止希望、活動性出血を疑う排液、創部離開、多量の発汗・冷汗 患者の訴えと治療部位の変化も中止判断へ含める

重要:この表はJ-ReCIP 2023の中止基準案を実務で確認しやすいように整理したものです。診断や個別の治療指示を置き換えるものではありません。主治医指示、疾患固有の制限、術後指示、院内プロトコルがある場合はそれらを優先します。

基準値に達していなくても中止を検討する場面があります

離床で迷いやすいのは、数値が基準値をわずかに超えた場面だけではありません。むしろ実務では、基準値には達していないものの、開始時から大きく変化している患者をどう扱うかが重要です。

J-ReCIP 2023では、心拍数や血圧について、中止基準の数値に達していなくても著しい低下・上昇がある場合には、離床・運動療法を中断し、医師への相談を検討する考え方が示されています。

開始前との変化を見る

たとえばHRが130 bpm未満だから安全、sBPが90〜180 mmHgだから必ず継続可能、とは判断できません。開始前から急激に変化している場合は、患者にとって許容できない負荷となっている可能性があります。

離床前値、端座位や立位での値、中止後の回復値を並べると、単一時点の数字よりも負荷との関係を判断しやすくなります。

症状を数値より軽く扱わない

めまい、冷汗、呼吸困難、耐えがたい疲労、苦痛などが出現した場合は、モニター上の数値が大きく崩れていなくても中断して再評価する場面があります。

特に「いつもと違う」という変化が急に出現した場合は、離床の継続可否だけでなく急変対応が必要かも確認します。院内のRRS / RRT起動基準との関係は、RRS / RRTの呼びどきと急変コール基準で整理しています。

一過性か持続性かを確認する

J-ReCIP 2023では、RR、SpO2、HR、血圧の一部について、一過性の変化を除外する考え方が示されています。そのため、一瞬だけ数値が変化した場合と、姿勢を戻しても異常が続く場合を同じように扱うべきではありません。

ただし、「一過性なら必ず継続してよい」という意味ではありません。症状や原因が明らかでない場合、同じ変化を繰り返す場合、回復が遅い場合は、一度中断して状況を整理します。

離床を中止した直後|まず安全確保してから原因を再評価します

離床を中止した直後は、再開を急いで判断するより、患者を安全な状態へ戻し、何が起きたのかを整理することが先です。

離床中止後に確認する項目
確認 見る内容 次の判断につながる情報
安全確保 姿勢、転倒リスク、ライン・デバイス 安全な姿勢へ戻せたか、新たな事故がないか
症状 呼吸苦、めまい、冷汗、疼痛、疲労、胸部症状など 消失・軽減・持続・増悪のどれか
バイタル RR、SpO2、HR、血圧など 開始前値、中止時値、回復後値の推移
原因 体位変化、負荷量、呼吸状態、循環、疼痛、不安、薬剤、ライン条件など 今回の変化を説明できる要因があるか
共有の必要性 新規症状、持続する異常、再発、治療変更が必要な可能性 医師・看護師などへの相談が必要か

ここで重要なのは、「数値が戻った=再開可能」と直結させないことです。なぜ変化したのか、再び同じ負荷を加えたときに再現する可能性があるかまで確認します。

再開判断|「1段階下げれば再開できる」という一律ルールではありません

J-ReCIP 2023では、離床・運動療法を中止した場合、自覚症状とバイタルサインを注意深く確認し、病態や症状が安定した後に再開を検討する考え方が示されています。

一方で、「何分待てば再開できる」「必ず1段階負荷を下げれば再開できる」「同じ日に1回だけ再試行する」といった共通の再開ルールが示されているわけではありません。

中止後に再開可否を判断するときの確認事項
確認項目 再開を検討するために見ること
症状 中止につながった症状が安定・改善しているか
バイタル 患者個別の目標範囲と経時変化を踏まえて安定しているか
原因 中止につながった要因が修正可能か、未解決のまま残っていないか
新規リスク 意識・呼吸・循環・ラインなどに新たな問題が生じていないか
チーム方針 主治医指示や院内基準との矛盾がなく、必要な共有が済んでいるか
次の負荷 同じ負荷へ戻すのか、負荷量・体位・介助方法・実施時間を変更するのか

つまり再開は、単純な「数値が戻ったか」ではなく、中止原因が整理され、患者が次の負荷に耐えられると考えられる状態かを確認して判断します。同一セッション内で再開するか、当日は見送るか、次回へ持ち越すかも患者ごとに異なります。

中止後の記録|「中止した」だけで終わらせない

離床を中止したときは、次の担当者が再評価できる情報を残します。重要なのは「離床中止」とだけ記載するのではなく、何をしたとき、何が変化し、どう対応して、どう回復したかを残すことです。

離床中止後の記録で残したい最小項目
項目 記録する内容
実施段階 ベッドアップ、端座位、立位、歩行など
中止理由 症状、意識変化、呼吸・循環変化、ライン異常など
経時変化 開始前 → 中止時 → 回復後の症状とバイタル
対応 姿勢変更、休息、安全確保、医療スタッフへの共有など
再評価 症状・バイタルがどう変化したか
次回条件 次回に再確認する項目、実施前に相談すべき条件

記録例|公式基準と実務上の記録を分けます

以下はガイドラインの定型文ではなく、経過を残すための実務上の記録例です。

端座位後にめまい・冷汗が出現したため離床を中断。開始前と比較して血圧低下を認め、臥位へ戻して再評価した。症状は軽減し、バイタルも回復傾向。看護師へ経過を共有し、本日は立位へ進まず終了。次回は離床前値と端座位時の循環反応を再確認する。

医師・看護師へ報告するときのSituation、Background、Assessment、Recommendation / Requestの組み立て方は、離床中止時のSBAR報告・記録テンプレで詳しく整理しています。

一般病棟で使う場合|J-ReCIPの数値をそのまま院内基準にしない

J-ReCIP 2023の中止基準案は、重症患者の離床・運動療法を想定しています。そのため、回復期、療養病棟、一般病棟などで「この数値を超えたら全患者が一律中止」と運用するのは適切ではありません。

慢性的に低酸素血症がある患者、平常時から血圧が低い患者、心拍数を抑える薬剤を使用している患者、術後や循環器疾患で個別の活動制限がある患者では、基準値そのものよりもその患者の通常値、目標値、開始前からの変化、症状、治療方針が重要になります。

院内基準を作成する場合も、J-ReCIP 2023の表をそのまま転記するのではなく、対象患者、施設機能、相談ルート、疾患別の例外、緊急時対応まで含めて医師・看護師・リハ職などで調整します。

よくある失敗|中止基準を「数字の暗記」にしない

離床中止基準の運用で起こりやすい失敗
よくある判断 問題点 見直し方
基準値内だから続ける 開始時からの急変や強い症状を見落とす可能性がある 絶対値だけでなく変化量・症状・持続性を見る
数値を1回測って決める 一過性なのか持続しているのか分からない 中断後に再測定し、回復過程まで確認する
中止したら自動的に当日終了 中止原因や回復状態を評価せず、一律運用になる 病態・症状の安定を確認して再開可否を個別判断する
数値が戻ったら自動的に再開 原因が未解決でも再負荷してしまう可能性がある 症状、原因、新規リスク、チーム方針まで確認する
「中止」の一言だけ記録 次の担当者が再開条件を判断できない 中止理由・経時変化・対応・再評価結果を残す

よくある質問

SpO2が89%になったら必ず離床を中止しますか?

89%という数値だけで全患者を一律に判断するわけではありません。J-ReCIP 2023ではSpO2 88%未満または90%未満が中止基準案として示されていますが、患者の酸素化状態、目標SpO2、開始前値、低下が一過性か持続性か、呼吸苦や呼吸努力を合わせて判断します。

血圧が中止基準内なら離床を続けてもよいですか?

基準内でも必ず継続できるわけではありません。開始時から著しい血圧低下・上昇がある場合や、めまい、冷汗、意識変化などを伴う場合は一度中断して再評価します。患者固有の血圧目標や主治医指示も優先します。

一度中止したら、その日は再開しない方がよいですか?

一律には決められません。J-ReCIP 2023では、中止後に自覚症状とバイタルを確認し、病態や症状が安定してから再開を検討します。同じセッション内で再開するか、当日は終了するかは、中止原因、回復状況、疾患、治療方針などから個別に判断します。

一般病棟でもJ-ReCIP 2023の数値をそのまま使えますか?

参考にはできますが、すべての患者へ一律適用する基準ではありません。J-ReCIP 2023のCQ8は重症患者の離床・運動療法を対象としており、施設体制や疾患、生理学的状態に合わせて調整することが前提です。

次の一手|離床前・離床中・中止後の役割を分けて確認する

離床の安全管理では、「開始してよいか」と「実施中に止めるべきか」を分けて考えると整理しやすくなります。本記事は実施中の中止判断と中止後の再評価に特化しています。

離床全体の流れを確認したい場合

離床ハブ|安全確認から再評価まで確認する


参考文献

  1. 日本集中治療医学会 集中治療早期リハビリテーション委員会. 重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023). 日集中医誌. 2023;30(Suppl 2):S905-S972. 日本集中治療医学会 公式PDF.
  2. Japanese Clinical Practice Guidelines for Rehabilitation in Critically Ill Patients 2023 (J-ReCIP 2023). J Intensive Care. 2023;11:47. doi:10.1186/s40560-023-00697-w.
  3. Schaller SJ, Scheffenbichler FT, Bein T, et al. Guideline on positioning and early mobilisation in the critically ill by an expert panel. Intensive Care Med. 2024;50:1211-1227. doi:10.1007/s00134-024-07532-2.

著者情報

rehabilikun blog運営者の理学療法士rehabilikun

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

運営者プロフィール / 編集・引用ポリシー / お問い合わせ