ECS(Emergency Coma Scale)とは:覚醒定義を拡張し、Ⅲ桁を 5 段階で表現する
PT のキャリア設計も一緒に整える:臨床の武器(評価・記録)を増やしつつ、働き方の選択肢も把握しておくと迷いが減ります。
ECS(Emergency Coma Scale)は、JCS の 3 桁構造をベースにしながら「覚醒」の定義を開眼だけに限定せず、発語や合目的動作も含めて判断できるよう拡張した意識レベル評価です。さらに、JCS では粗くなりがちなⅢ桁(痛み刺激でも覚醒しない領域)を5 段階(A〜E)で表現し、急性期・救急での経時変化を追いやすく設計されています。
評価スケールの全体像(どの指標をどんな場面で使うか)は、評価ハブに整理しています。ECS を単発で覚えるより、「初期評価→再評価→申し送り」の流れに置くと運用が安定します。
ECS の位置づけ:JCS の速さと、GCS の表現力の“間”を埋める
JCS は初期トリアージで扱いやすい一方、評価軸が「開眼」に寄りやすく、Ⅲ桁の変化が記録に残りにくいことがあります。GCS は E/V/M の 3 要素で詳細に表現できますが、現場では採点のばらつきや記録負担が課題になりがちです。
ECS は JCS に近い感覚で段階づけしつつ、Ⅲ桁を 5 段階で細分化することで、救急〜病棟まで同じスケールで経時比較しやすくします。「JCS だけでは変化が伝わりにくい」「GCS ほど細かくは要らない」場面に向きます。
覚醒の定義と実務上の注意点
覚醒ありは「自発的な開眼」または「発語」または「合目的動作」のいずれかを認める状態です。開眼がなくても、指示に合う動きや場に合った発語があれば評価に反映します。
刺激は原則として呼名 → 大声 → 有害刺激の順で短時間に行い、再評価では同じ条件(体位・刺激の種類・強さ・持続)で比較します。外傷部位・新鮮術創への刺激は避け、過大な刺激は行いません。
Ⅰ・Ⅱ 桁の考え方:覚醒の有無と、刺激での反応を揃えて記録する
Ⅰ桁は「刺激がなくても覚醒(覚醒定義を満たす)」、Ⅱ桁は「刺激で覚醒する」状態です。どの刺激で反応が得られたか(呼名・大声・有害刺激)を併記すると、再評価での比較が一気に楽になります。
現場で詰まりやすいのは「覚醒の定義が人によって違う」「刺激条件が毎回違って比較できない」の 2 点です。ここを先に統一すると、Ⅲ桁の判定もぶれにくくなります。
Ⅲ 桁 5 段階(A〜E):運動反応の質で重症度と変化を捉える
Ⅲ桁は「痛み刺激でも覚醒しない」領域です。ECS はこの領域を 5 段階に分け、合目的動作→定位→逃避→異常屈曲(除皮質)→伸展(除脳・無反応)の流れで評価します。
| 段階 | 反応(要約) | 観察・記録のコツ |
|---|---|---|
| Ⅲ-A | 強い有害刺激で合目的動作 | 刺激条件(部位・種類・持続)と左右差を併記 |
| Ⅲ-B | 定位・払いのけ(刺激部位を狙う) | 逃避(引っ込め)との違いを言語化して申し送り |
| Ⅲ-C | 逃避(刺激から引っ込める) | 回避の有無を明確に。左右差が出やすい |
| Ⅲ-D | 異常屈曲(除皮質) | 屈曲優位を明確に。持続肢位なら動画共有も有用 |
| Ⅲ-E | 伸展(除脳)またはほぼ無反応 | 伸展/無反応を区別し、併存所見(呼吸・瞳孔)も同時に記録 |
JCS・GCS との違いと使い分け
JCS は初期トリアージの共通言語として強く、GCS は詳細な神経学的評価(研究報告や外傷領域)で有用です。ECS は「JCS の速さ」と「Ⅲ桁の表現力」を両立させ、初期評価〜再評価の流れを一本化しやすい点が強みです。
施設内で併用する場合は、初期は JCS(あるいは ECS)で統一し、必要に応じて GCS を追加する運用にすると、記録が過密になりにくいです。
記録と共有:略記・再評価の原則
記録は「段階」だけでなく、刺激条件(種類・部位・持続)と左右差をセットで残します。評価者が変わっても再現できることが、経時比較の質を決めます。
| 記録したい要素 | 書き方(例) | 狙い |
|---|---|---|
| 刺激条件 | ECS Ⅱ(呼名)/ECS Ⅱ(大声)/ECS Ⅲ-C;爪床圧迫 5 秒 | 再評価で “同条件比較” できる |
| Ⅲ桁の段階 | ECS Ⅲ-B(定位)/ECS Ⅲ-C(逃避) | 変化が申し送りで伝わる |
| 左右差 | 右>左/左のみ反応あり/右反応乏しい | 麻痺・病変側の解釈を補助する |
| 同時所見 | 瞳孔 3/3、対光(+)/呼吸パターン | 急変の拾い上げに役立つ |
印刷して使える:ECS 早見(運用メモ)+判定チェック(PDF)
現場でそのまま使えるように、ECS の要点(覚醒定義/刺激の段階化/Ⅲ桁 5 段階)に加えて、ECS 判定(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)のチェック欄をまとめた A4 PDF を用意しました。
PDF プレビューを表示(タップで開く)
ケース・ミニ問題(ECS)
問題 1:大声での呼名では開眼しない。爪床圧迫で右上肢が刺激部位に向かって手を伸ばすように動く。瞳孔 3/3、対光反射あり。このときの ECS は?
答え:ECS Ⅲ-B(定位・払いのけ)。刺激部位を狙うような動きがあり、単なる逃避より高次の反応と判断します。
問題 2:強い爪床圧迫で両上肢に伸展優位の反応を認める。呼名・発語はなく、開眼もみられない。このときの ECS は?
答え:ECS Ⅲ-E(伸展/除脳)またはほぼ無反応。伸展反応が優位で、覚醒所見がないためです。
FAQ
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鎮静中や挿管中はどう記録すればよいですか?(発語が評価できない)
ECS は覚醒の定義に合目的動作を含めるため、発語が評価できない状況でも刺激反応と運動所見で段階化できます。鎮静や挿管の事実を明記し、刺激条件・左右差・瞳孔所見を併記して、同条件での経時変化を重視します。
片麻痺がある場合、Ⅲ 桁の「定位」や「逃避」はどう判定しますか?
左右差を必ず併記し、刺激部位に向かう合目的動作の有無で段階を決めます。健側で明らかな定位があれば Ⅲ-B とし、「右優位」「左反応乏しい」などを追記すると、解釈の補助になります。
次の一手
ECS は “覚える” より、同じ条件で比較できる形にして運用するほど価値が出ます。まずは院内で「刺激の順序」と「記録の型」を小さく固定して、申し送りの手戻りを減らしましょう。
次にやることは、①刺激条件の固定、②記録テンプレの統一、③環境要因(教育・記録文化)まで含めた点検、の 3 点です。ここが揃うと、評価者が変わっても経時変化が読みやすくなります。
- 運用を整える:呼名 → 大声 → 有害刺激の順序と、刺激条件(部位・種類・持続)をチームで固定する
- 共有の型を作る:段階+刺激条件+左右差(必要なら瞳孔)をセットで残す
- 環境の詰まりも点検:「評価が人でブレる」原因を洗い出すチェックに 無料のチェックシートを見る
参考文献
- 高橋千晶, 奥寺 敬. 新しいスケール:Emergency Coma Scale の開発の経緯と有用性の検討. 日本交通科学協議会誌. 2017;16(1). J-STAGE
- Takahashi C, et al. Validation of the Emergency Coma Scale. Am J Emerg Med. 2011;29:196–202. doi:10.1016/j.ajem.2009.09.018
- Teasdale G, Jennett B. Assessment of coma and impaired consciousness. Lancet. 1974;2(7872):81–84. doi:10.1016/S0140-6736(74)91639-0
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


