Pusher現象の評価は「麻痺側へ傾く」だけで判断しません
Pusher現象(lateropulsion)を疑うときは、麻痺側への傾斜だけで判断せず、非麻痺側上下肢による能動的な押し、正中・非麻痺側方向への修正に対する抵抗、どの姿勢・動作で所見が現れるかを組み合わせて確認します。さらに、運動麻痺、感覚、視空間認知、注意・認知などの併存障害を確認したうえで、必要に応じてSCP・BLS・4PPSなどの尺度評価へ進みます。
この記事では、脳卒中患者でPusher現象/lateropulsionを疑ったPT・OTが、最初に何を見て、何を追加評価し、尺度評価へどうつなげるかを整理します。各尺度の詳しい採点・判定は別記事へ分け、ここでは評価の入り口となる臨床推論に集中します。
最初に押さえるポイント:「麻痺側へ傾いている」ことと「Pusher現象/lateropulsion」は同義ではありません。姿勢の偏倚に加えて、能動的な押しや非麻痺側方向への荷重移動・姿勢修正に対する抵抗を確認し、他の神経学的障害も含めて評価します。
Pusher現象を疑ったら3つの所見を組み合わせて確認する
Pusher現象/lateropulsionを疑う入り口では、姿勢の傾斜、非麻痺側からの押し、姿勢修正への抵抗を分けて観察します。いずれか1つだけを見て判定するのではなく、どの所見が、どの場面で出現しているかを整理することが重要です。
| 観察すること | 確認するポイント | 注意点 |
|---|---|---|
| 姿勢の傾斜 | 座位・立位などで、より障害の強い側へ身体が傾くか | 傾きだけではPusher現象と断定しない |
| 非麻痺側からの押し | より障害の少ない側の上下肢を使い、身体をより障害の強い側へ押すような反応があるか | 単なる支持やバランス保持との違いを動作中も確認する |
| 姿勢修正への抵抗 | 正中やより障害の少ない側へ身体を移そうとしたとき、能動的な抵抗がみられるか | 痛み、恐怖、不安、指示理解の問題などによる抵抗と区別して考える |
「pusher syndrome」「pusher behavior」など複数の呼称がありますが、国際的な専門家による検討では、より包括的な用語としてlateropulsionの使用が提案されています。lateropulsionは、身体をより障害の強い側へ能動的に押すこと、またはより障害の少ない側への荷重移動に能動的に抵抗することを含む概念として整理されています。
麻痺側への傾きだけではPusher現象と決めない
麻痺側へ身体が傾いていても、その原因がlateropulsionとは限りません。運動麻痺や体幹機能低下、感覚障害、視空間認知の問題、注意・認知機能などが姿勢に影響している可能性を並行して確認します。
| 評価領域 | 確認例 | Pusher評価との関係 |
|---|---|---|
| 運動機能 | 上下肢・体幹の麻痺、随意性、支持能力 | 能動的な押しなのか、支持能力低下による傾きなのかを整理する |
| 体性感覚 | 表在感覚、位置覚など | 身体位置や荷重の認識に影響する障害がないか確認する |
| 視空間認知 | 半側空間無視など | 空間探索や姿勢・動作への影響を確認する |
| 認知・注意 | 指示理解、注意の持続・転換、自己認識 | 姿勢修正への反応を解釈するときの前提条件になる |
| 姿勢・垂直性の知覚 | 本人がどの姿勢を「まっすぐ」と感じているか | 実際の姿勢と本人の認識にずれがないかを考える |
2026年のLateropulsion Clinical Roadmapでも、lateropulsionの重症度だけでなく、感覚・運動・知覚・認知などを含む神経学的障害を十分に評価し、その結果を課題難易度や環境を含めた臨床判断へつなげることが提案されています。
適用範囲:本記事で中心に扱うのは、主に大脳半球の脳卒中後にみられるcontralesional lateropulsion/Pusher behaviorです。脳幹・小脳病変でもbody lateropulsionは生じ得ますが、病態や傾く方向が異なる場合があるため、同じ枠組みだけで判断しません。
座位だけでなく移乗・立位・歩行まで「どこで出るか」を見る
lateropulsionは、姿勢や課題の難易度によって見え方が変わります。座位では目立たなくても、立ち上がり、移乗、立位、歩行など支持基底面や課題条件が変わると、所見が明確になることがあります。
| 場面 | 主に見ること | 記録するとよいこと |
|---|---|---|
| ベッド上動作 | 寝返りなどで方向による動作差や抵抗がみられるか | 方向、介助量、支持条件 |
| 座位 | 自然な姿勢の傾斜、非麻痺側上下肢の使用、修正への反応 | 支持物、足底接地、介助条件 |
| 移乗・立ち上がり | より障害の少ない側への移動を妨げる押しや抵抗が出るか | 移動方向、手すり・支持物、介助量 |
| 立位 | 左右への荷重移動と姿勢修正への反応 | 支持条件、装具、上肢支持、介助量 |
| 歩行 | 歩行場面でlateropulsionが残存・増強するか | 歩行補助具、装具、介助、出現する場面 |
評価時には「Pusherがある/ない」だけではなく、どの姿勢・動作なら保てて、どこからlateropulsionが明確になるのかを確認します。この場面差は、介入課題の設定や再評価で変化を追うときにも役立ちます。
lateropulsionと併せて神経学的障害を確認する
尺度の点数だけでは、その患者がどの感覚・運動情報を利用できるかまでは分かりません。lateropulsionを確認したら、少なくとも運動、体性感覚、視空間認知、注意・認知、姿勢・垂直性の知覚を臨床所見と組み合わせて整理します。
半側空間無視などの視空間認知障害が併存している場合でも、「Pusher現象=半側空間無視」と考えるわけではありません。それぞれを別の問題として評価し、両者が姿勢制御や動作へどう影響しているかを確認します。
垂直性の知覚はlateropulsionの病態を考えるうえで重要な研究対象ですが、特殊な測定を行わなければPusher現象を評価できないわけではありません。まずはベッドサイドで観察できる所見と標準化されたlateropulsion尺度から臨床像を整理し、必要に応じて追加評価を検討します。
所見を確認したら目的に合う尺度へ進む
Pusher現象/lateropulsionが疑われたら、臨床観察だけで終わらせず、必要に応じて標準化された尺度でベースラインを残します。尺度ごとに評価する姿勢・動作やスコア構造が異なるため、「どれが一番よいか」ではなく今回何を把握したいかで選びます。
| 尺度 | 主な特徴 | 選択を考えやすい場面 |
|---|---|---|
| SCP | 座位・立位でPusher behaviorを構成する所見を整理する | 自発姿勢、非麻痺側上下肢による押し、姿勢修正への抵抗を分けて確認したい |
| BLS | 寝返りから歩行まで複数の機能的場面を評価する | 動作場面ごとのlateropulsionや経時変化を追いたい |
| 4PPS | lateropulsion/Pusher behaviorの重症度を0〜3点で簡潔に表す | 短時間で重症度を把握したい |
各尺度には評価範囲の違いがあり、同じ患者でも結果が完全に一致するとは限りません。尺度ごとの評価範囲、採点方法、使い分けについては、SCP・BLS・4PPSの比較と使い分けで詳しく整理しています。
Pusher評価は「観察→関連機能→場面→尺度」の順で整理する
実務では、自然な姿勢とPusher behaviorを構成する所見を確認し、関連する神経学的障害、出現する動作場面、必要な尺度へ順に進むと、「麻痺側へ傾いているからPusher」と短絡しにくくなります。

- 自然な姿勢を観察する:座位・立位などで身体の傾斜と転倒方向を確認する。
- 能動的な押し・抵抗を確認する:より障害の少ない側の上下肢の使い方と、正中・より障害の少ない側への修正に対する反応を見る。
- 関連する神経学的障害を評価する:運動、感覚、視空間認知、注意・認知などを確認する。
- 姿勢・動作場面を広げる:安全に配慮しながら、座位だけでなく移乗、立位、歩行などで所見の変化を見る。
- 目的に合う尺度でベースラインを残す:SCP・BLS・4PPSなどから評価目的に合う尺度を選択する。
これは単一の公式尺度の実施手順ではなく、文献と各尺度の役割を踏まえて臨床情報を整理するための流れです。尺度を使用するときは、それぞれの正式な実施・採点方法に従います。
再評価は固定した週数ではなく、臨床判断に必要なタイミングで行う
Pusher/lateropulsionの再評価を「必ず週1回」など一律に固定するのではなく、状態変化、離床・移動能力の変化、介入内容の変更、カンファレンスなど、評価結果を次の判断に使うタイミングで行います。
経時変化を見る場合は、前回と同じ尺度を用い、可能な範囲で評価条件をそろえます。一方、患者の能力が変化して新しい姿勢・動作へ進んだ場合には、座位だけでは分からなかったlateropulsionが立位・歩行で表面化する可能性があります。そのため、総得点だけでなく「どの場面で所見が変化したか」も確認します。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 尺度 | 前回と同じ尺度・同じ判定方法か |
| 支持条件 | 上肢支持、手すり、歩行補助具、装具などに変化がないか |
| 介助条件 | 介助量や介助位置が大きく変わっていないか |
| 動作場面 | 座位・移乗・立位・歩行のどこでlateropulsionが残っているか |
| 関連障害 | 麻痺、感覚、注意・認知、視空間認知などに変化がないか |
記録は「尺度結果+どの場面で何が起きたか」を残す
Pusher評価では尺度の結果だけでなく、姿勢・動作場面、観察されたlateropulsion、評価条件を残すと、再評価や多職種共有に使いやすくなります。
| 記録項目 | 記載する内容 | 記載例 |
|---|---|---|
| 場面 | どの姿勢・動作で評価したか | 「端座位、立ち上がり、立位で確認」 |
| 観察所見 | 傾斜、非麻痺側からの押し、修正への抵抗 | 「端座位で麻痺側傾斜。非麻痺側上肢による押しあり」 |
| 尺度 | 使用した尺度と結果 | 「SCP実施。各構成所見を前回と比較」 |
| 条件 | 支持物、装具、補助具、介助量 | 「上肢支持なし、下肢装具あり、体幹軽介助」 |
| 場面差 | 所見が増減する動作 | 「座位では軽減したが、立位で非麻痺側への荷重移動に抵抗あり」 |
記録では、公式尺度の結果と臨床観察を混同せず、尺度の結果は尺度名とともに記載します。独自の観察所見は、その所見がどの場面で確認されたかを具体的に残します。
Pusher評価で避けたい4つの判断
Pusher評価で避けたいのは、1つの所見だけからPusher現象を決めることです。特に次の4つは、評価の解釈をずらしやすいポイントです。
| 判断のずれ | 修正するポイント |
|---|---|
| 麻痺側へ傾く=Pusherとする | 能動的な押し、修正への抵抗、関連する神経学的障害まで確認する |
| 座位だけで有無を決める | 必要に応じて移乗・立位・歩行まで場面を広げる |
| 尺度の総得点だけを見る | どの項目・どの動作場面で所見が残っているかを見る |
| 毎週同じ日に測ればよいと考える | 臨床判断に必要なタイミングで、比較可能な条件を意識して再評価する |
Pusher評価のよくある質問
麻痺側へ傾いていればPusher現象ですか?
傾きだけでは判断しません。より障害の少ない側の上下肢による能動的な押しや、正中・より障害の少ない側への姿勢修正に対する抵抗を確認し、運動麻痺、感覚、視空間認知、注意・認知など他の要因も評価します。
Pusher現象と半側空間無視は同じですか?
同じではありません。半側空間無視が併存する場合はありますが、lateropulsionとは別の障害として評価します。両者が姿勢・動作へどのように影響しているかを分けて確認することが重要です。
SCP・BLS・4PPSはどれを使えばよいですか?
一律に1つを優先するのではなく、評価目的と確認したい姿勢・動作で選びます。SCPは座位・立位でPusher behaviorの構成所見を整理するとき、BLSは寝返りから歩行まで機能的場面を追うとき、4PPSは短時間で重症度を簡潔に把握するときに選択肢になります。
Pusher評価はどのくらいの頻度で再評価しますか?
一律に「週1回」と決めるのではなく、状態変化、離床・動作能力の進行、介入方針の変更など、結果を次の臨床判断に使うタイミングで再評価します。経時比較では同じ尺度を用い、比較可能な評価条件を意識します。
次に確認すること
Pusher/lateropulsionが疑われたら、まず本記事の流れで臨床像を整理し、その後に評価目的へ合う尺度を選択します。Pusher以外も含めた脳卒中評価全体の組み立てを確認したい場合は、評価ライブラリから必要な評価へ進んでください。
参考文献
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- Babyar SR, Peterson MGE, Bohannon R, Pérennou D, Reding M. Clinical examination tools for lateropulsion or pusher syndrome following stroke: a systematic review of the literature. Clin Rehabil. 2009;23(7):639-650. doi:10.1177/0269215509104172. PubMed
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rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

