FADIR テストのやり方|鼠径部痛を “関節内の疑い” に寄せる最短チェック
FADIR テスト( Flexion / Adduction / Internal Rotation )は、鼠径部痛や内旋制限があるときに 関節内( FAI / 関節唇など) の関与を疑う入口として使われます。ポイントは「陽性 / 陰性」よりも、どこに痛みが出たか(鼠径部か、外側か、殿部か) と、可動域制限(特に内旋) をセットで残すことです。
本記事では、① 最短手順( 30 秒) → ② 陽性の読み方 → ③ 次にやる 2 テスト → ④ よくある失敗と回避チェック の順に、 FADIR を “ブレない運用” に固定します。
股関節テスト全体の “順番” を先に固定する:迷うときは親記事の 5 分フローから整えると、評価と再評価が安定します。
関連:整形外科的テスト一覧(部位別ハブ) / 次に読む:FABER テスト(殿部痛 / SIJ の切り分け)
いつ使う?| FADIR は “関節内の疑い” を拾う入口
FADIR は、股関節屈曲位で内旋・内転方向に詰まりを作り、痛みを再現しやすいテストです。報告では感度が高めに出る一方、特異度は高くないことがあり、単独で診断を確定する用途には向きません。そのため「除外(スクリーニング)」と「仮説の絞り込み」に寄せて使うと失敗しにくいです(PubMed、PubMed)。
- 使う場面:鼠径部痛、内旋制限、引っかかり感、歩き始めや立ち上がりでの深部痛
- 注意:急性炎症で強い痛みがあるときは “角度と圧” を小さくし、再現確認で止める
やり方( 30 秒)|角度より “痛みの部位” を優先して記録
手順はシンプルですが、最も大事なのは 痛みの部位 と 内旋の詰まり を言語化することです。無理に最終域まで押し込むほど、過剰な疼痛誘発になりやすいので注意します。
| 手順 | 操作 | 観察 | 記録の型( 1 行) |
|---|---|---|---|
| ① 体位 | 背臥位。骨盤が浮かないように近位を軽く固定 | 防御性収縮、恐怖、代償 | 背臥位・骨盤固定(有 / 無) |
| ② 屈曲 | 股関節をおよそ 90° まで屈曲(痛みが強ければ浅く) | 屈曲での鼠径部痛 / クリック | 屈曲で痛み(部位) |
| ③ 内転+内旋 | 内転 → 内旋方向へ(圧は最小) | 痛みの部位(鼠径部 / 外側 / 殿部)と内旋制限 | FADIR:鼠径部痛+内旋詰まり(右)など |
| ④ 停止 | 痛みが急増 / 防御が強い時点で中止 | 増悪の有無 | 中止理由(痛み急増 / 防御 / 術後制限) |
陽性の読み方| “鼠径部” と “内旋制限” のセットで仮説を絞る
FADIR の “陽性” は 1 種類ではありません。どこが痛いかで次の一手が変わります。感度が高めでも特異度が低めになり得るため、痛み部位 + ROM(特に内旋) で “関節内に寄せるか / それ以外も疑うか” を決めるのが安全です(PMC)。
| 反応 | 示唆 | 次にやる確認(最小) | メモ |
|---|---|---|---|
| 鼠径部痛が再現 | 関節内の関与( FAI / 関節唇など)を優先 | Scour( Quadrant )、Log roll、内旋 ROM | 「場所」を最優先で残す |
| 外側痛が再現 | 外側股関節(中殿筋 / 大転子周囲)も疑う | Trendelenburg、片脚立位で疼痛 | 支持で増悪するか |
| 殿部痛が再現 | 腰椎 / SIJ 由来の併存も疑う | FABER(痛み部位確認)、腰椎スクリーニング | 決め打ちしない |
| 痛みはないが内旋が硬い | ROM を “ルールイン” に使う考えも有効 | 内旋 ROM(条件固定) | ROM の条件を揃える |
FADIR と FABER の違い|迷ったら「痛み部位」で使い分ける
FADIR と FABER はどちらも股関節周囲の疼痛評価で使いますが、目的は同じではありません。実務では「どこに痛みが出るか」を軸に使い分けると、次の検査選択が速くなります。
| 項目 | FADIR | FABER |
|---|---|---|
| 主な目的 | 関節内( FAI / 関節唇など)の疑いを拾う | 股関節前面〜殿部痛、 SIJ 由来の切り分け |
| 再現されやすい痛み | 鼠径部痛(前方) | 前面痛 or 殿部痛(後方) |
| 読み方のコツ | 痛み部位 + 内旋制限で仮説を絞る | 痛み部位(前方/後方)で関節内か SIJ かを推定 |
| 単独判定 | 確定診断には使わない | 確定診断には使わない |
| 次の一手 | Scour / Log roll / 内旋 ROM | 腰椎・SIJ スクリーニング / 追加股関節テスト |
関連記事:FABER テスト(殿部痛 / SIJ の切り分け)
症例ショート( 1 例 )|FADIR 陽性を “次の 2 テスト” につなぐ
症例:40 代、立ち上がりと歩き始めで右鼠径部痛。安静時痛は軽度。股関節内旋は右で制限あり。
| ステップ | 所見 | 解釈 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| FADIR | 右鼠径部痛を再現。内旋終末で詰まり感 | 関節内関与の疑いを優先 | Scour と Log roll を追加 |
| Scour | 前上方で不快感増悪、クリックなし | 圧縮時疼痛あり(関節内仮説を補強) | 刺激量を上げすぎず再現性確認 |
| Log roll | 他動外旋で軽度疼痛、過度な緩みなし | 関節内寄りだが単独確定はしない | ROM 条件固定で再評価計画 |
記録 1 行例:右 FADIR で鼠径部痛再現(内旋終末で詰まり)。Scour で前上方痛増悪。Log roll 軽度痛。次回は同条件で内旋 ROM と動作時痛を再評価。
次にやる 2 テスト| Scour と Log roll で “関節内” を補強する
FADIR 単独では絞り込みが弱くなりやすいので、最小でも 2 つ追加 して仮説を固めます。
- Scour( Quadrant ):圧縮しながら回旋し、痛みやクリックの有無を確認
- Log roll:他動外旋で “遊び” と痛みをみる(刺激は軽め)
続けて読む:股関節の整形外科テスト一覧( 5 分フロー)。
現場の詰まりどころ|よくある失敗 → 回避チェック
ここは “読ませるゾーン” なので、ボタンは置かずに最短導線で整理します。
よくある失敗(あるある 5 つ)
- 最終域まで押し込みすぎる:痛みの再現確認で止める(角度と圧は最小)。
- 陽性 / 陰性だけ記録:痛み部位(鼠径部 / 外側 / 殿部)を書かないと鑑別が進まない。
- 骨盤が浮いたまま実施:代償が混ざり、再現性が落ちる。
- “関節内確定” と誤解:FADIR は診断確定ではなく、仮説を絞る入口。
- 再評価で毎回フルセット:追うテストは 1〜3 個に固定。
回避チェック(この順に直す)
| チェック | 見ること | 直し方(最小) |
|---|---|---|
| ① 条件 | 骨盤固定、屈曲角度、代償 | まず骨盤の位置を揃え、浅い角度で再現できるか確認 |
| ② 刺激量 | 圧が強すぎて “強制陽性” | 圧を半分、角度も浅くして部位だけ読む |
| ③ 記録 | 再評価で比較できない | 「痛み部位 + 内旋詰まり + 代償」を 1 行で統一 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
FADIR が陽性なら、関節唇損傷や FAI が確定ですか?
確定ではありません。FADIR は感度が高めでも特異度が低めになり得るため、単独で診断確定には使いにくいとされています。痛みの部位(鼠径部など)、内旋制限、動作時痛(歩き始め / 立ち上がり)を合わせて仮説を絞り、必要なら Scour や Log roll、ROM を追加して “関節内に寄せるか” を判断します。
痛みが強い症例でも FADIR はやるべきですか?
痛みが強いときは、角度と圧を小さくして “再現の有無” を確認するに留めます。防御性収縮や痛みの急増があれば中止し、安全確認と ROM 条件の固定を優先します。
FADIR の次に、最低限やるなら何を足すのが良いですか?
最小なら Scour( Quadrant )と Log roll を追加し、関節内の関与を補強します。加えて内旋 ROM を条件固定で測ると、再評価で比較しやすくなります。
FADIR と FABER はどう使い分けますか?
FADIR は鼠径部痛など “関節内の疑い” を拾う入口、FABER は殿部痛や SIJ を含めた切り分けに有用です。どちらか 1 つで決め打ちせず、痛み部位と ROM を並べて解釈すると誤判定を減らせます。
次の一手
評価は “実施” で終わらせず、共有できる型 に落とすほど再現性が上がります。次の 3 つをセットで進めると迷いが減ります。
- 全体像をそろえる:股関節の整形外科テスト一覧( 5 分フロー)
- すぐ実装する:ROM 検査のやり方(条件固定)
参考文献
- Shanmugaraj A, et al. How useful is the flexion-adduction-internal rotation test for femoroacetabular impingement? Clin J Sport Med. 2020;30(1):76-82. PubMed
- Reiman MP, et al. Diagnostic accuracy of clinical tests for the diagnosis of hip pathology: a systematic review with meta-analysis. Br J Sports Med. 2015;49(12):811. doi:10.1136/bjsports-2014-094302. PubMed
- Pålsson A, et al. Combining results from hip impingement and range of motion tests can increase diagnostic accuracy in patients with FAI syndrome. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2020;28(11):3382-3392. doi:10.1007/s00167-020-06096-4. PMC
- Fernandes DA, et al. Diagnostic accuracy of clinical tests and imaging examinations for femoroacetabular impingement syndrome: an umbrella review. PM R. 2022;14(3):310-331. doi:10.1002/pmrj.12693. PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


