骨折リスクと転倒リスクは別々に評価し、最後に統合します
骨折リスクと転倒リスクは関連しますが、同じものではありません。FRAXやDXA、既往脆弱性骨折などは「骨折しやすさ」を考える情報であり、転倒歴、歩行、バランス、筋力、薬剤、生活環境などは「転びやすさ」を考える情報です。
リハビリでは、どちらか一方だけで判断せず、骨折リスクと転倒リスクを別々に確認し、2軸を統合して介入の優先度を決めることが重要です。本記事では、FRAXの値が比較的低くても転倒リスクが高いケースなど、PT・OTが迷いやすい場面を中心に整理します。骨折リスク評価全体の流れを先に確認したい場合は、骨折リスク評価の進め方をご覧ください。
骨折リスク評価と転倒リスク評価では「見ているリスク」が違います
骨折リスク評価では、将来の脆弱性骨折につながる背景を確認します。一方、転倒リスク評価では、実際に転ぶ可能性や、どの場面で転倒が起こりやすいかを確認します。
| 比較項目 | 骨折リスク評価 | 転倒リスク評価 |
|---|---|---|
| 主に見ること | 骨折が起こる可能性、骨脆弱性、既往骨折 | 転ぶ可能性、転倒につながる場面・要因 |
| 代表的な情報 | FRAX、DXA、既往脆弱性骨折、年齢、薬剤など | 転倒歴、歩行、バランス、筋力、移乗、補助具、環境など |
| 結果から考えること | 骨折予防、検査・治療状況の確認、安全な活動設定 | 転倒場面の特定、運動療法、移動方法、環境調整 |
| 注意点 | 数値だけで転倒しやすさは判断できない | 転倒しやすさだけでは骨脆弱性を判断できない |
たとえば、骨密度が低くても歩行が安定し、転倒歴がない方はいます。反対に、FRAXの算出値が相対的に低く見えても、反復転倒、著しいバランス低下、夜間の危険な生活動線などを認める方もいます。
「骨折しやすいか」と「転びやすいか」を分けて確認することが、この記事で最も重要なポイントです。
FRAXは骨折確率を推定しますが、転倒リスク評価の代わりにはなりません
FRAXは、臨床的危険因子と必要に応じて大腿骨頸部BMDを用い、主要骨粗鬆症性骨折と大腿骨近位部骨折の10年確率を推定するツールです。骨折リスクを整理するうえで有用ですが、FRAXには転倒歴を直接入力する項目がありません。
FRAXの公式FAQでは、転倒が重要な骨折危険因子であることを認めたうえで、モデル作成に使われた各コホートで転倒の測定方法が統一されていなかったことなどから、直接の入力項目には採用されていないと説明されています。したがって、「FRAXに転倒歴が入っていない=転倒を見なくてよい」という意味ではありません。
NOGG 2024でも、FRAXへ入力できる因子を超える臨床リスクがある場合には、臨床判断を加えることが推奨されています。特に転倒しやすさは、骨代謝へ作用する治療だけでは十分に解決できないリスクとして別に確認する必要があります。
FRAXそのものの入力項目、BMDなしでの計算、10年骨折確率の読み方については、FRAXの使い方|入力と読み方で詳しく整理しています。
転倒リスクは歩行テスト1つではなく、多因子で確認します
転倒リスク評価では、「TUGが何秒だったか」「歩行速度が遅いか」だけで判断を完結させません。特に高齢者では、転倒歴、歩行・バランス、筋力だけでなく、薬剤、循環、認知、視覚、足部・履物、補助具、生活環境などを必要に応じて組み合わせて確認します。
World Falls Guidelinesでは、転倒高リスクの地域在住高齢者に対して、多職種による多因子転倒リスク評価を行い、個別の危険因子に応じて介入することが推奨されています。評価項目は対象者や場面によって変わりますが、リハビリでは次のように整理すると実務へつなげやすくなります。
| 領域 | 確認例 | 介入につなげる視点 |
|---|---|---|
| 転倒歴 | 回数、日時、場所、動作、転倒方向、受傷 | 再現しやすい危険場面を特定する |
| 身体機能 | 歩行、バランス、下肢筋力、立ち上がり、移乗 | 改善可能な運動・動作要因を整理する |
| 全身状態 | めまい、起立時症状、疼痛、疲労、認知機能 | 運動機能だけでは説明できない転倒要因を探す |
| 薬剤・補助具 | 服薬状況、歩行補助具、装具、履物 | 医師・薬剤師への共有や用具調整につなげる |
| 環境 | 段差、照明、床面、手すり、トイレ・ベッド周囲 | 実際の生活場面で転倒要因を減らす |
骨折リスク×転倒リスクの2軸で介入を考えます
骨折予防では、骨折リスクと転倒リスクを一つの点数へ無理にまとめる必要はありません。まず別々に評価し、その組み合わせから「何を優先するか」を考える方が実務では整理しやすくなります。

骨折リスクが高く、転倒リスクも高い場合
最も注意したい組み合わせです。骨脆弱性を示す情報に加えて、反復転倒、歩行不安定、移乗時の危険、環境上の問題などが重なっている場合は、骨折を起こす機会そのものも増えます。
PT・OTは、運動療法だけで完結させず、移動方法、補助具、生活環境、介助方法を早めに見直します。同時に、骨粗鬆症の診断・治療状況や既往骨折を確認し、必要な情報を医師・看護師・薬剤師などへ共有します。
骨折リスクが高く、転倒リスクが目立たない場合
現時点で歩行が安定していても、骨折リスクそのものがなくなるわけではありません。既往脆弱性骨折、低い骨密度、骨折リスクを高める薬剤などがある場合は、疾患・治療状況や運動上の注意点を確認します。
一方で、骨折を恐れて必要以上に活動を制限すると、筋力やバランス、活動量が低下する可能性があります。医師からの運動制限や疼痛、骨折部位などを確認しながら、安全な範囲で身体機能と活動を保つ視点が必要です。
骨折リスクが低く見えても、転倒リスクが高い場合
この記事で特に見落としたくないケースです。FRAXの算出値が相対的に低く見えても、反復転倒、著しい歩行不安定、起立時症状、危険な住環境などがあれば、転倒予防の必要性は残ります。
FRAXが低いことを、転倒予防を行わない理由にはしません。転倒場面を具体的に確認し、歩行・バランス、筋力、補助具、環境など、実際に変更できる要因から介入します。
骨折リスク・転倒リスクともに高くない場合
現時点で緊急性の高い問題が少ない場合でも、評価を永久に終了するわけではありません。加齢、疾患、薬剤、活動量、移動能力、生活環境は変化します。
転倒や新規骨折が生じた場合だけでなく、歩行能力低下、補助具変更、入退院、生活場所変更などがあれば、どちらのリスクが変化したのかを改めて確認します。
2つの評価が食い違うときほど、介入の優先順位が見えます
骨折リスク評価と転倒リスク評価の価値は、結果が一致したときだけではありません。むしろ、両者が食い違ったときに「何を追加で確認すべきか」が見えやすくなります。
| 場面 | 避けたい判断 | 追加で確認すること |
|---|---|---|
| FRAXの値は低く見えるが反復転倒がある | 「骨折リスクが低いから問題ない」と判断する | 転倒場面、歩行・バランス、薬剤、循環、環境 |
| 骨密度が低いが転倒歴はない | 活動を必要以上に制限する | 既往骨折、治療状況、安全な運動条件、将来の転倒要因 |
| 歩行テストは良好だが自宅で転倒する | 検査値だけで転倒リスクが低いと判断する | 夜間動線、段差、履物、二重課題、実生活での行動 |
| 脆弱性骨折後に歩行が大きく低下した | 骨の評価だけで終了する | 再転倒要因、移動方法、介助量、補助具、退院環境 |
PT・OTは「変えられる転倒要因」と「共有すべき骨折要因」を分けます
リハ職が骨折リスクを評価する目的は、骨粗鬆症を独自に診断することではありません。評価結果から、リハ場面で変更できる要因と、他職種へ共有すべき要因を整理することが重要です。
歩行、バランス、筋力、移乗、補助具、生活環境などは、PT・OTが直接評価・介入しやすい領域です。一方、骨粗鬆症治療の必要性、薬剤調整、追加検査などについては、情報を整理して医師・薬剤師などへ共有します。
特に既往脆弱性骨折がある場合は、「FRAXの数値を確認してから動く」のではなく、骨折部位・発生機転・治療状況と、転倒が関与したかを並行して確認します。骨折後は身体機能や移動方法が変化し、次の転倒リスクも変わるためです。
記録は「骨折リスク情報」と「転倒リスク情報」を分けて残します
記録では、すべてを「骨折リスク高」の一言にまとめると、なぜ介入が必要なのか分からなくなります。骨折リスク側と転倒リスク側の根拠を分け、その後に統合した判断と介入を書くと、多職種で共有しやすくなります。
| 記録項目 | 記載する内容 |
|---|---|
| 骨折リスク情報 | 既往脆弱性骨折、FRAX、DXA、骨粗鬆症治療状況、関連薬剤など |
| 転倒リスク情報 | 転倒歴、転倒場面、歩行・バランス、移乗、補助具、環境など |
| 統合判断 | 何が骨折につながる主な問題なのか、どちらを優先するか |
| 対応 | 運動療法、移動方法、環境調整、多職種共有など |
| 再評価条件 | 転倒、新規骨折、機能変化、薬剤変更、生活環境変更など |
たとえば、「FRAX値は相対的に高くないが、過去3か月に夜間トイレ移動で2回転倒。方向転換時の不安定性と暗い廊下を認める。転倒リスクへの介入を優先し、夜間動線の環境調整、歩行方法・補助具を再評価する」のように、数値と生活場面をつなげて記録します。
再評価は「数値の期限」より、リスクが変わった出来事を確認します
骨折リスクと転倒リスクは、常に同じタイミングで変化するわけではありません。そのため、一律に「○週間後」と決めるだけでなく、リスクが変化する出来事を再評価のトリガーとして決めておくと運用しやすくなります。
- 新たな転倒・ニアミスがあった
- 新規骨折が生じた
- 歩行・移乗能力や介助量が変化した
- 骨や転倒へ影響し得る薬剤が変更された
- 補助具・装具・履物を変更した
- 退院・転居などで生活環境が変わった
- 疼痛、めまい、起立時症状など新しい問題が出現した
初回評価後の見直し時期や差分記録の組み立て方は、記事末の再評価記事で詳しく整理しています。
よくある質問(FAQ)
FRAXが低ければ転倒リスク評価は不要ですか?
不要にはなりません。FRAXには転倒歴を直接入力する項目がなく、歩行・バランス・生活環境などを評価するツールでもありません。FRAXの算出値が相対的に低く見えても、転倒歴や身体機能、生活環境から転倒リスクが高い場合は、転倒予防を別に検討します。
FRAXには転倒歴が含まれていますか?
転倒歴を直接入力する項目はありません。FRAX公式FAQでは、転倒が骨折の重要な危険因子であることを認めつつ、モデル開発時のコホート間で転倒の評価方法が統一されていなかったことなどから、直接の入力項目には採用していないと説明されています。
DXAで骨密度が低くなければ骨折リスクは低いですか?
骨密度は重要な情報ですが、それだけで骨折リスク全体を判断するものではありません。年齢、既往骨折、薬剤などの臨床的危険因子に加え、実際の骨折につながる転倒リスクも別に確認します。
転倒リスクはTUGだけで判断できますか?
TUGなどの身体機能評価は有用ですが、単一の検査だけで転倒リスク全体を判断するのは避けます。特に高齢者では、転倒歴、筋力、薬剤、循環、認知、視覚、履物、補助具、生活環境などを必要に応じて組み合わせて評価します。
次の一手
A:骨折リスク評価シリーズ全体から確認する
B:評価後の見直し方法を決める
参考文献
- 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版. 東京: ライフサイエンス出版; 2025. 日本骨粗鬆症学会
- Kanis JA, Johnell O, Oden A, Johansson H, McCloskey E. FRAX and the assessment of fracture probability in men and women from the UK. Osteoporos Int. 2008;19(4):385-397. doi: 10.1007/s00198-007-0543-5
- National Osteoporosis Guideline Group. Clinical guideline for the prevention and treatment of osteoporosis. NOGG 2024. Updated December 2024. NOGG
- FRAX. Frequently Asked Questions. FRAX official site. Accessed September 20, 2026.
- Montero-Odasso M, van der Velde N, Martin FC, et al. World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age Ageing. 2022;51(9):afac205. doi: 10.1093/ageing/afac205
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

