肩関節不安定性テスト|Apprehension・Relocation・Sulcus

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肩関節不安定性テストは「症状再現・支持での変化・下方弛緩」で分けて読む

肩関節不安定性を疑うときは、Apprehension test・Relocation test・Sulcus signを同じ「陽性テスト」として扱わず、役割を分けて解釈します。Apprehensionは前方不安定性に伴う「外れそう」「怖い」という症状の再現、Relocationは後方支持によるapprehensionの変化、Sulcus signは主に下方laxity(弛緩性)を確認するテストです。

とくに重要なのは、痛み=Apprehension陽性、Sulcus sign陽性=多方向性不安定症と短絡しないことです。本記事では、3テストのやり方・陽性所見・使い分けから、記録・再評価まで整理します。肩の整形外科的テスト全体から選びたい場合は、先に肩関節の整形外科テスト一覧をご確認ください。

Apprehension・Relocation・Sulcus signの役割
テスト 主に確認すること 重視する反応 単独では判断しないこと
Apprehension test 前方不安定性に伴う症状再現 外れそうな感覚、apprehension、防御・回避 痛みだけで陽性としない
Relocation test 後方支持による症状の変化 apprehensionの軽減 痛み軽減だけで判断しない
Sulcus sign 下方へのlaxity 肩峰下の陥凹、下方移動、左右差、症状 陽性だけで多方向性不安定症としない
肩関節不安定性テストの見方。Apprehension testは症状再現、Relocation testは後方支持での変化、Sulcus signは下方弛緩を確認する図版
図|肩関節不安定性テストは、Apprehension=症状再現、Relocation=後方支持での変化、Sulcus sign=下方laxityとして分けて読みます。

Apprehension testのやり方と陽性所見

Apprehension testでは、肩を外転・外旋方向へ誘導したときに「痛いか」だけでなく、「外れそう」「これ以上動かしたくない」というapprehensionが再現されるかを確認します。

基本的な実施方法

  1. 脱臼・亜脱臼歴、受傷機転、反復の有無、症状が出る肢位を先に確認します。
  2. 患者を背臥位など肩を安定して観察できる姿勢にします。
  3. 肩関節をおよそ90°外転、肘関節を約90°屈曲した位置から開始します。
  4. 上肢を十分に支持しながら、肩をゆっくり外旋方向へ誘導します。
  5. 「外れそう」「怖い」という訴え、防御収縮、回避反応が出るかを確認します。
  6. 強いapprehensionが出た場合は、それ以上の誘発を目的に押し進めず、肢位・角度・反応を記録します。

外転90°・外旋位は前方不安定性を疑う場面で用いられる代表的な検査肢位ですが、臨床では「何度まで外旋できたか」だけを競うテストではありません。患者が症状を訴えた位置と反応を残すことが重要です。

陽性は「痛み」よりapprehensionを重視する

前方不安定性を考えるうえでは、単なる肩痛よりも前方へ外れそうな感覚、恐怖感、筋性防御、検査を止めようとする反応を重視します。外転・外旋で痛みだけが再現された場合は、「Apprehension陽性」と一括せず、疼痛が主反応だったことを分けて記録します。

Apprehension testで分けて記録したい反応
反応 記録例 解釈のポイント
Apprehension 外転外旋位で「外れそう」と訴え、上肢を戻そうとする 前方不安定性を考える重要な反応
防御・回避 外旋途中で筋性防御が強まり、検査継続困難 apprehensionと併せて記録する
痛みのみ 前方痛あり、外れそうな感覚はなし 痛みだけで不安定性陽性と断定しない

Relocation testのやり方と陽性所見

Relocation testでは、Apprehension testで症状が出た肢位において、上腕骨頭へ後方へ向かう支持を加えたときにapprehensionが軽減するかを確認します。

Apprehensionに続けて後方支持を加える

  1. Apprehension testと同様の外転・外旋位を基本とします。
  2. 患者がapprehensionを示した位置を確認します。
  3. 上腕骨頭前面から後方へ向かう力を穏やかに加えます。
  4. 同程度の肢位でも「外れそうな感じ」が軽減するかを確認します。
  5. apprehension、痛み、防御反応がそれぞれどう変化したかを記録します。

Relocationという名称から肩を大きく動かす操作を想像しやすいですが、評価したいのは前方への不安感が、後方支持によってどう変化するかです。強い力で押し込むことを目的にしません。

「安心した」「外れそうな感じが減った」を拾う

後方支持によってapprehensionが明らかに軽減する場合は、前方不安定性の仮説を補強する所見になります。一方、疼痛だけが減少した場合には、apprehensionの変化と分けて記録します。

たとえば、「外転外旋位で外れそうな感覚あり。上腕骨頭への後方支持でapprehension軽減」と残すと、単なる「Relocation+」よりも何が変化したのかを共有しやすくなります。

Sulcus signのやり方|下方laxityと症候性不安定性を分ける

Sulcus signは、主に上腕骨頭の下方へのlaxityを確認するテストです。陥凹が見えたことだけで、症候性の多方向性不安定症と判断しないことが重要です。

基本的な実施方法

  1. 患者を座位などでリラックスさせ、上肢を体側に下垂させます。
  2. 肩甲帯の位置を観察し、上肢を下方へ牽引できるように保持します。
  3. 上腕骨を下方へ穏やかに牽引します。
  4. 肩峰下に陥凹(sulcus)が出現するかを観察します。
  5. 左右差、下方移動の程度、患者の痛み・不安感などを併せて記録します。

下方移動量を段階化する方法もありますが、報告によって区分方法が異なるため、臨床記録では「陽性・陰性」だけで終わらず、実際に観察した左右差や移動の程度、症状再現の有無を残しておくと再評価しやすくなります。

laxityとinstabilityは同じではない

Laxityは関節の移動性を示す所見であり、instabilityはその移動性によって痛み、apprehension、亜脱臼感、機能障害などの症状が生じている状態を含めて考えます。

そのため、無症候でもSulcus signを認めることがあります。反対に、症候性不安定性では、問診での脱臼・亜脱臼歴や不安定感、前方・後方など他方向の症状と組み合わせて評価する必要があります。

Sulcus signを解釈するときの分け方
所見 考え方 次に確認すること
Sulcusあり・症状なし 下方laxityとして記録する 左右差、他方向のlaxity、既往歴
Sulcusあり・症状再現あり 症候性の下方要素を疑う 前方・後方を含む症状と評価所見
複数方向で症状あり 多方向性不安定性も鑑別に入れる 症状が複数方向に存在するかを整理する

3テストの結果はどう組み合わせて解釈するか

肩関節不安定性は、1つのテスト結果だけで決めず、既往歴・症状が出る方向・Apprehension・Relocation・laxity所見を組み合わせて仮説を作ります。

Apprehension・Relocation・Sulcus signを組み合わせた考え方
評価所見 解釈 記録・確認ポイント
Apprehensionあり 前方不安定性を疑う症状再現 どの肢位・角度で、何を感じたか
Apprehensionあり+Relocationで軽減 前方不安定性の仮説を補強する 後方支持でapprehensionがどの程度変化したか
痛みのみ+Relocationで疼痛軽減 不安定感の変化とは分けて解釈する 痛みとapprehensionを別々に記録する
Sulcusあり・無症候 下方laxityとして扱う 左右差や他方向の所見を確認する
Sulcusあり+複数方向の症状 症候性の多方向性不安定性を含めて検討する 症状方向、既往、機能障害を統合する

ApprehensionとRelocationは前方不安定性を考えるうえで有用ですが、整形外科的テストは診断を単独で確定するものではありません。受傷機転、脱臼・亜脱臼歴、反復性、可動域、筋力、疼痛部位などと組み合わせます。

実施前・中止時に確認すること

不安定性テストでは、最大可動域まで誘発することよりも、安全に症状を再現し、必要な情報が得られた時点で終了することを優先します。

外傷直後で脱臼が疑われる場合や、強い症状がある場合には、provocation testを繰り返すことが評価の優先事項ではありません。必要な医学的評価を優先します。

肩関節不安定性テストの中止・見直しポイント
状況 対応 残す記録
強いapprehensionが出た それ以上の誘発を避ける 肢位、角度、患者の表現
筋性防御で評価困難 無理に力を加えず終了する 防御反応と実施できた範囲
痛みだけが強い 不安定性陽性と決めつけず再検討する 痛みの部位・肢位・apprehensionの有無
急性外傷で評価継続が不適切 誘発を中止し、医学的評価へつなぐ 受傷機転、症状、実施しなかった理由

よくある判断ミス|痛み・apprehension・laxityを混同しない

肩関節不安定性テストで最も避けたいのは、異なる意味を持つ反応をすべて「陽性」にまとめてしまうことです。

肩関節不安定性テストで起こりやすい判断ミス
判断ミス 問題点 修正方法
Apprehensionで痛めば陽性 疼痛性病態との区別がつきにくくなる 痛みとapprehensionを分けて記録する
Relocationで痛みが減れば前方不安定性 本来確認したい不安感の変化が抜ける 後方支持でapprehensionが軽減したかを確認する
Sulcus sign陽性=MDI 無症候性laxityを不安定症と誤認しやすい 症状再現と複数方向の不安定性を別に確認する
陽性を確認するためさらに外旋する 不要に恐怖や防御を強める可能性がある 必要な反応を確認した時点で終了する
テスト名だけ記録する 再評価時に何が変化したか比較できない 肢位・症状・支持による変化を残す

記録と再評価|「何が・どこで・どう変わったか」を残す

再評価では、陽性・陰性だけでなく、同じ条件でapprehensionが出る位置や反応がどう変わったかを比較します。

初回評価では、脱臼・亜脱臼歴、症状が出る方向と肢位、Apprehensionの患者表現、Relocationでの変化、Sulcus signの左右差と症状再現、中止理由まで残しておくと比較しやすくなります。

肩関節不安定性テストの記録例
項目 記録例
既往 右肩前方脱臼歴あり、外転外旋位で不安感を訴える
Apprehension 外転外旋で「外れそう」と訴え、防御反応あり
Relocation 上腕骨頭への後方支持でapprehension軽減
Sulcus sign 左右差あり。下方牽引で不安感の再現なし
解釈 前方不安定性を疑う。Sulcusは下方laxityとして記録
再評価 同一肢位でapprehension出現範囲と支持による変化を再確認

記録では、患者本人の「怖い」「抜けそう」という表現も重要な情報です。検査者側の「陽性」という結論だけで置き換えず、患者の反応と検査条件を併記します。

肩関節不安定性テスト 記録・再評価シート|Excel・PDF

Apprehension・Relocation・Sulcus signについて、問診、症状再現、支持による変化、下方laxity、中止理由、再評価まで1枚で整理できる記録シートを用意しました。

Excel版は院内運用に合わせて入力・保存したい場合、PDF版は印刷して手書きで使用したい場合に利用できます。テスト名だけでなく、痛み・apprehension・laxity・instabilityを分けて残すことを目的としたシートです。

肩関節不安定性テスト 記録・再評価シート

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よくある質問

Apprehension testは痛みが出れば陽性ですか?

痛みだけではなく、「外れそう」「怖い」というapprehensionや防御・回避反応を重視します。痛みだけが再現された場合は、疼痛あり・apprehensionなしと分けて記録すると解釈しやすくなります。

Relocation testでは、どちら向きに力を加えますか?

Apprehensionが出る外転外旋位で、上腕骨頭前面から後方へ向かう支持を加えます。その支持によってapprehensionが軽減するかを確認します。

Sulcus signが陽性なら多方向性不安定症ですか?

それだけでは判断できません。Sulcus signはまず下方laxityを示す所見として扱います。症候性の多方向性不安定性を考える場合は、複数方向での不安定症状、apprehension、既往歴、機能障害などを併せて確認します。

左右ともSulcus signが出る場合はどう解釈しますか?

無症候性の関節弛緩性でもSulcus signを認めることがあります。左右差だけでなく、その所見によって患者の痛みや不安定感が再現されるか、他方向にも症状があるかを確認します。

強いapprehensionが出ても最後まで外旋した方がよいですか?

必要ありません。評価に必要なapprehensionや防御反応が確認できた場合は、無理に誘発を強めず、症状が出た肢位・角度・患者の反応を記録して終了します。

次に確認すること|肩のテスト全体へ戻って鑑別する

Apprehension・Relocation・Sulcus signは、不安定性を疑ったあとの詳細評価です。痛みが主症状でapprehensionがはっきりしない場合や、腱板・肩峰下・関節唇など別の病態も考える場合は、肩関節の整形外科テスト一覧へ戻り、問診・可動域・筋力を含めて評価仮説を組み直します。

参考文献

  1. Farber AJ, Castillo R, Clough M, Bahk M, McFarland EG. Clinical assessment of three common tests for traumatic anterior shoulder instability. J Bone Joint Surg Am. 2006;88(7):1467-1474. doi:10.2106/JBJS.E.00594
  2. Valencia Mora M, Ruiz Ibán MA, Diaz Heredia J, et al. Physical Exam and Evaluation of the Unstable Shoulder. Open Orthop J. 2017;11:946-956. doi:10.2174/1874325001711010946
  3. Olds M, Ellis R, Parmar P, Kersten P. A systematic review and meta-analysis of tests for shoulder instability. Phys Ther Sport. 2019;36:150-163. doi:10.1016/j.ptsp.2019.02.009
  4. Housset V, Ho SWL, Lädermann A, Phua SKA, Hui SJ, Nourissat G. Multidirectional instability of the shoulder: a systematic review with a novel classification. EFORT Open Rev. 2024;9(4):285-296. doi:10.1530/EOR-23-0029

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療・リハビリテーション現場で活用できる実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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