ICF 環境因子( e )の書き方|「阻害( − )/促進( + )」で 1 行記載にする
ICF の環境因子( e )は、本人の機能だけでは説明しきれない「生活のしづらさ」を、介入可能な形に翻訳するための要素です。現場で止まりやすいのは「家族あり」「手すりあり」の事実列挙で、活動への影響と次の対応が書かれていないケースです。
本記事は、環境因子を阻害( − )/促進( + )で整理し、対象 → 影響 → 対応の 1 行テンプレで記録を揃える実装版です。退院支援・在宅調整・多職種連携で、そのまま使える形に絞って解説します。
まずはテンプレ(結論)| e は「対象 → 影響 → 対応」で 1 行にする
環境因子の最短テンプレは、対象(何が)→ 影響(どう困る / どう支える)→ 対応(どう整える)です。阻害( − )と促進( + )を併記すると、介入の優先順位が明確になります。
- 阻害( − )テンプレ:(対象)が(影響)を増やし、(活動)に支障 →(対応)を検討
- 促進( + )テンプレ:(対象)が(影響)を減らし、(活動)を支える →(継続条件)を明確化
4 つに分けると迷わない|段差/補助具/人的支援/制度
書けない原因の多くは、情報が散らばって焦点がぼけることです。まずは e を 4 つに箱分けし、各箱を 1 行ずつ埋めるだけで漏れが減ります。
| 箱 | 代表例 | 阻害( − )の書き方 | 促進( + )の書き方 |
|---|---|---|---|
| 物理環境 | 段差、手すり、動線、照明、床材 | 段差がつまずきを増やし外出が減る → 動線調整/手すり | 手すりが移乗を安定させ転倒不安を減らす → 設置位置を維持 |
| 補助具・福祉用具 | 杖、歩行器、装具、車いす、自助具 | 補助具が不適合で疲労が増える → サイズ再調整 | 適合した歩行器で活動範囲が拡大 → 点検頻度を決める |
| 人的支援 | 家族、介護者、見守り、声かけ | 介助者不在で入浴が実施できない → サービス導入 | 見守りで屋外歩行が実施できる → 役割分担を明確化 |
| 制度・サービス | 訪問/通所、住宅改修、介護保険、就労支援 | サービス未導入で訓練が継続できない → 申請手続き支援 | 通所で運動機会が確保できる → 目標と頻度を揃える |
記載例(コピペ用)|阻害( − )と促進( + )を並べて書く
環境因子は「ある/ない」ではなく、活動にどう影響するかを記録して初めて意味を持ちます。下の短文を基準に、語尾だけ施設運用に合わせて調整してください。
| 箱 | 阻害( − )の例 | 促進( + )の例 | 誰が/いつまで |
|---|---|---|---|
| 物理環境 | 玄関段差がつまずきを増やし外出頻度が低下 → 手すり/踏み台を検討 | 廊下手すりで移動が安定し転倒不安が軽減 → 夜間照明も維持 | PT・家族・福祉用具担当/退院前までに設置確認 |
| 補助具 | 杖の高さ不適合で肩の痛みが増える → 高さ調整と歩容再学習 | 適合した歩行器で 30 m の移動が可能 → 定期点検を家族と共有 | PT/初回評価当日〜 1 週以内に再確認 |
| 人的支援 | 独居で見守りがなく入浴が実施できない → 訪問介護の導入を調整 | 家族の声かけで運動実施率が上がる → タイミングを固定 | ケアマネ・家族/サービス担当者会議までに役割確定 |
| 制度 | サービス未申請で支援が途切れる → ケアマネと申請手続きを確認 | 通所で運動機会が確保できる → 目標と頻度を統一 | ケアマネ・相談員/申請開始から 2 週以内に導入可否確認 |
現場の詰まりどころ|「書けない」を 3 つで解く
止まりやすいのは、①情報が多すぎる ②抽象語で終わる ③担当と期限が書かれない、の 3 点です。ここを潰すだけで e は介入に変わります。
10 分で回す運用フロー| e を「介入」に変える 3 ステップ
e は書いて終わりではなく、調整案に変換して初めて価値が出ます。最短は「阻害を 1 つ減らす」「促進を 1 つ増やす」を同時に進めることです。
- 阻害( − )を 1 つ特定:段差、用具不適合、支援不足、制度未整備のどれかに絞る
- 促進( + )を 1 つ確保:手すり、適合用具、見守り、サービス導入から 1 つ決める
- 再評価条件を固定:どの環境で/誰の支援で/何ができたかを同条件で追う
よくある失敗( OK / NG )|抽象化を防ぐコツ
「ある/ない」の列挙から、介入可能な文へ変換するのがポイントです。下の表を記録前チェックとして使ってください。
| NG(起きがち) | なぜダメ? | OK(直し方) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 「家族あり」「手すりあり」で終了 | 影響と対応が読めず、連携が止まる | 対象 → 影響 → 対応で 1 行にする | 阻害( − )/促進( + )を付ける |
| 環境が複数で焦点がぼける | 何から変えるべきか決まらない | 阻害 1 つ、促進 1 つに絞る | 「次の 1 手」を明記する |
| 制度名だけで具体策がない | 実施者(誰が)と期限(いつ)が不明 | 担当(誰)+期限(いつ)を一言で入れる | ケアマネ/家族/医療職の役割分担 |
よくある質問( FAQ )
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Q1. e が多すぎて書けません。最初に何を書けばいい?
最初は「阻害( − )を 1 つ」「促進( + )を 1 つ」だけで十分です。4 つの箱(物理環境/補助具/人的支援/制度)から 1 つ選び、対象 → 影響 → 対応で 1 行化してください。
Q2. 家族支援はどこまで具体的に書くべき?
「見守り」だけでなく、どの場面で、何を、どの頻度で行うかまで書くと再現性が上がります。例:夕食後 10 分歩行の同行、入浴時は更衣のみ介助など。
Q3. 修飾子はどのタイミングで揃える?
実務では d(活動)→ b / s(機能・構造)→ e(環境)の順で支援案を作り、最後に修飾子を揃えるとブレにくくなります。
Q4. 阻害( − )と促進( + )は両方書くべきですか?
はい。阻害のみだと問題列挙で終わりやすく、促進のみだとリスク把握が甘くなります。両方 1 つずつで十分なので並記してください。
Q5. ICF 環境因子( e )は何を書けばいい?最小 1 行の書き方は?
最小形は「対象 → 影響 → 対応」です。例:玄関段差がつまずきを増やし外出頻度が低下 → 手すりと踏み台を導入。これに阻害( − )/促進( + )を付けると、介入優先度が明確になります。
次の一手
- 運用を整える:ICF の書き方・記載例(実務版)(全体像)
- 共有の型を作る:ICIDH と ICF の違い・読み替え方(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health ( ICF ). Geneva: WHO; 2001. WHO 公式ページ
- Stucki G, Ewert T, Cieza A. Value and application of the ICF in rehabilitation medicine. Disabil Rehabil. 2002;24(17):932-938. doi: 10.1080/09638280210148594. PubMed
- Stucki G, Cieza A, Melvin J. The International Classification of Functioning, Disability and Health: a unifying model for the conceptual description of physical and rehabilitation medicine. J Rehabil Med. 2007;39(4):286-292. doi: 10.2340/16501977-0044. PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


