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この記事は「呼吸困難の評価方法」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
呼吸困難とは呼吸の際に感じる不快な主観的感覚であり、認識される経路やメカニズムは複雑です。また、呼吸困難は身体的因子の他に多くの生理的、心理的、社会的、環境的因子の影響を受けるため、呼吸困難の表出に関しては、個人差が大きくなります。そのため、その個人に適した評価方法にて呼吸困難を評価することが必要となります。
そこで今回、最新の呼吸困難の評価方法について解説していきたいと思います。

【簡単に自己紹介】
30代の現役理学療法士になります。
理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。
現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。
臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。
そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。
現在、理学療法士として得意としている分野は「脳卒中」「褥瘡」「栄養」「呼吸」「摂食・嚥下」「フレイル・サルコペニア」についてです。そのため、これらのジャンルの記事が中心となっております。
主な取得資格は以下の通りです
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
呼吸困難とは

呼吸困難とは、呼吸時に「苦しさ」「不快感」「努力感」「抵抗感」「吸いにくさ・吐きにくさ」などの主観的な不快感を自覚する症状を指します。すなわち、呼吸困難は患者自身が訴える自覚症状であり、「呼吸困難=呼吸不全」ではありません。
呼吸困難の原因は多岐にわたり、呼吸器疾患や循環器疾患にとどまらず、代謝性疾患、神経筋疾患、悪性腫瘍など、さまざまな病態でみられます。特に慢性呼吸器疾患(COPD や間質性肺疾患など)、心不全、悪性腫瘍の終末期においては、呼吸困難の出現頻度が高く、臨床現場でも対応に苦慮する場面が少なくありません。
呼吸困難の発現には、身体的因子に加えて、生理的・心理的・社会的・環境的な要素が複雑に関与しています。そのため、基礎疾患の重症度と呼吸困難の訴えの強さが一致しない場合もあり、症状の現れ方には個人差が大きいのが特徴です。
呼吸困難は患者の生活の質(QOL)を大きく損ない、運動耐容能や日常生活動作(ADL)の低下を招くことで、身体活動の制限や生命予後にも悪影響を及ぼします。
したがって、呼吸困難という症候を単なる訴えとして捉えるのではなく、その病態生理を理解し、適切な評価と介入を行うことが重要です。特に理学療法においては、呼吸困難を多面的にアセスメントし、身体機能や心理状態、生活環境との関連を踏まえた対応が求められます。呼吸困難の評価は、治療の選択・効果判定・患者支援のいずれにおいても重要な臨床的アプローチとなります。
呼吸困難のメカニズム

呼吸困難は多因子的かつ主観的な症状であり、その発症メカニズムは未だ完全には解明されていません。しかし、現在の医学的知見では、呼吸困難は以下の 3 つの状態において生じるとされています。
- 血液ガス異常(PaO₂ や PaCO₂ の変化)
血中の酸素分圧(PaO₂)や二酸化炭素分圧(PaCO₂)が正常範囲を逸脱すると、化学受容器が反応し、呼吸中枢を介して換気量を調整しようとする反射が生じます。この過程で呼吸困難が発現します。
【PaCO₂の上昇】
二酸化炭素は血液脳関門(BBB)を容易に通過し、脳脊髄液(CSF)に溶け込む性質があります。
延髄腹側表面の直下に位置する中枢性化学受容器がPaCO₂の上昇を迅速に感知し、延髄の呼吸中枢を刺激することで換気を促進します。この反応により呼吸努力が増し、呼吸困難として自覚されます。
【PaO₂ の低下】
低酸素血症は主に末梢性化学受容器(頸動脈小体や大動脈小体)によって感知されます。これらは血流が豊富な glomus 細胞から構成されており、PaO₂ の低下や血流減少に伴う酸素供給低下を検知します。その情報は舌咽神経や迷走神経を通じて延髄の呼吸中枢に伝えられ、換気量を増加させようとする反応を誘発します。
このように、呼吸不全による PaO₂ 低下や、循環不全による酸素供給低下のいずれもが、呼吸困難を引き起こすメカニズムを有しています。
- 呼吸仕事量の増加
血液ガスに異常がなくとも、換気を維持するために必要な呼吸努力が増加した場合、呼吸困難を感じることがあります。
たとえば、気道抵抗の増加(COPD や喘息)、肺コンプライアンスの低下(間質性肺疾患、肺水腫など)、胸郭の可動制限、あるいは呼吸筋の筋力低下(神経筋疾患など)などが原因です。
このような状態では、換気量を確保するために呼吸筋の活動が過剰になり、努力呼吸が持続することで「呼吸が苦しい」と感じるようになります。
- 精神・心理的要因による呼吸困難
生理学的には明確な異常がみられなくても、不安やパニックなどの心理的要因が過換気を誘発し、呼吸困難を訴えるケースがあります。特に慢性疾患や終末期医療の現場では、不安・抑うつ・死の恐怖といった情動が呼吸感覚に影響を及ぼすことが少なくありません。
このような呼吸困難は「感覚過敏型呼吸困難」とも呼ばれ、換気量自体は十分でも、患者が呼吸を「苦しい」と感じてしまう心理的背景が強く関与しています。
呼吸困難は複雑な症状であり、発生メカニズムは完全には解明されていませんが、基本的な考え方として以下の 3 つの状態の時に呼吸困難が発生すると考えられます。
呼吸困難の評価方法

呼吸困難は、「空気飢餓感」「呼吸努力感」「締めつけ感」「頻呼吸感」「吸い込めない感覚」「窒息感」など様々に表現されます。
その表出は個別性が高く複雑で多面的側面を有します。多くの場合、呼吸不全により呼吸困難が引き起こされますが、必ずしも両者は一致せずその重症度も相関しません。
呼吸不全があっても呼吸困難の訴えが乏しいこともありますし、逆に不安や緊張の高い患者では PaO2 が正常であっても呼吸困難を強く訴えることがあります。
主観的評価法
呼吸困難の評価は主観的評価が主体で可能な限り患者自身による評価が基本となりますが、現在まで妥当性と信頼性が十分に検証された評価尺度はありません。
現在推奨されているいくつかの評価尺度について量的・質的・機能的側面に分類して解説します。
量的評価
呼吸困難の主観的な量(程度、強度)を測定する単領域性の尺度となります。
特徴としては、簡便で、同一対象内における呼吸困難の相対的な経時的推移を測定するのに適しています。
しかし、測定値が対象者の主観性に大きく左右されるため異なる群間での比較には限界があります。
Numerical Rating Scale(NRS)
0 と10を最端とし、間に数値によるアンカーポイントが記載されています。VAS に比べ少ないサンプルサイズでの検出が可能で、電話や口頭による調査にも使用できます。COPD、がん患者による信頼性が検証されています。

Visual Analogue Scale(VAS)
水平あるいは垂直に引かれた 100 mm の直線上でその両端に両極端の状態を記載し、患者は自分の状態が最もあてはまる点を線上にマークします。COPD を対象とした妥当性と信頼性の検証がなされています。

修正Borgスケール
垂直に引かれた線上を 0 ~ 10 まで分類し(12 段階)アンカーとなるポイントには、その状態を示す用語が記載されています。運動負荷時の呼吸困難の評価として妥当性と信頼性が検証され広く用いられています。

modified British Medical Research Council(mMRC)
間接的に呼吸困難を評価する尺度となります。
呼吸困難を生じさせる日常での活動レベルを 0 ~ 4 の 5 段階で評価するもので、健康関連 QOL や気流閉塞の重症度との相関が示されています。

質的評価
呼吸困難の感覚は原因となる病態や呼吸困難をきたすメカニズムにより質的に大きく異なります。呼吸困難の出現する頻度や持続時間、増悪因子や緩和因子、関連する症状についてもできる限り患者自身の言葉で聞き取っておくことが必要となります。
呼吸困難は 1 つの感覚ではなく、その認知・表出には個人差があります。呼吸困難を感覚的に描写する場合、空気飢餓感、努力感(呼吸時の労力感)、絞扼感、窒息感などのいくつかのカテゴリーに分類されます。
そのため呼吸困難を質的に評価するには身体的側面と心理的・情緒的側面を含めた多面的評価が求められることになります。
Dyspnea-12(D-12)
身体的コンポーネントと情緒的コンポーネントの計 12 項目で構成され、各々 0 ~ 3 の 4 段階で回答(合計スコア0 ~ 36)するもので、呼吸困難が強いほどスコアは高くなります。COPD をはじめ間質性肺炎、肺がんなど多くの疾患で信頼性と妥当性が検証されています。
Cancer Dyspnea Scale(CDS)
日本で開発されたがん患者の自己記入式呼吸困難調査票であり、英語版の妥当性も確認されています。

Multidimensional Dyspnea Profile(MDP)
全体的呼吸不快感のスコアと呼吸困難感の質問 5 項目のスコアの合計が直感的領域のスコアとなり、呼吸困難に対する 5 つの情動反応のスコアの合計が精神的領域のスコアとなります。臨床研究と基礎研究において信頼性と妥当性が検証されています。
呼吸困難を感覚的側面と情緒的側面の両面から評価するため全体的呼吸不快感、呼吸困難感の質(5 項目)、呼吸困難に対する情動反応(5 項目)に関する計 11 項目について 0 ~ 10 の 11 段階で回答してもらいます。
機能的評価
呼吸困難が身体機能や日常生活に及ぼす影響は個々の生活パターンにより大きく影響されます。
そのため、できる限りオープンクエスチョンで生活への支障の程度を尋ねるべきです。呼吸困難は精神的影響を受けることが多く、不安・不眠・抑うつなどについて評価することも有用です。
生活への影響として食事や排泄・睡眠などの基本動作や社会的参加への影響についても聞き取りする必要があるでしょう。
MD Anderson Symptom Inventory(MDASI)
がん患者を対象とした直近 24 時間における症状の強さと生活への支障を評価する質問票となります。日本語版も作成されており緩和ケアの臨床で使用されています。
Chronic Respiratory Disease Question-naire(CRQ)
COPD 患者を対象とした健康関連 QOL の評価尺度となります。患者の主観性に基づいた面接式調査票で、患者へのインタビューから重要と認識された 4 つの領域(呼吸困難、倦怠感、情緒、自己コントロール感)から構成されています。
St. George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)
COPD における疾患特異的健康関連 QOL の代表的評価尺度となります。症状による社会的影響や心理的影響の経時的変化が評価でき医療介入による変化の描出にも優れています。
COPD Assessment Test(CAT)
COPD 患者の健康状態を評価する質問表で症状と QOL に関する 8 項目について各々 0 ~ 5 点で回答し、その合計点で評価します。
従来の質問票に比べて簡便で短時間で回答することができ、健康関連 QOL の代表的質問票 SGRQ との良好な相関が検証されています。
国際的ガイドラインである GOLD や日本のガイドラインをはじめ世界中で広く採用されています。
Motor Neuron disease-Dyspnea Rating Scale(MDRS)
神経筋疾患患者の呼吸困難と身体活動性の評価を目的に開発された評価尺度となります。
13 の日常生活動作から自分にとって最も重要な 5 つの動作を選択し、その動作を行うことにより自覚される呼吸困難を 5 段階で評価するものとなっております。
患者の主観性を重視した機能評価尺度で状態が悪化した時期の評価にも有用と考えられています。
客観的評価
自己評価が困難な患者(全身状態不良、認知機能低下)では、表情などの代理的指標や呼吸不全の指標である SpO2 、呼吸数、呼吸パターン、医療者・家族の評価などを参考にして総合的に判断します。
認知症に限らず何らかの理由で自分自身で苦痛を訴えることができない患者における呼吸困難の客観的評価ツールとして Respiratory Observation Scale(RDOS)があります。
これは心拍数、呼吸数、落ち着きのなさ、奇異性呼吸パターン、呼吸補助筋の使用、呼気終末の呻吟、鼻翼の拡張、恐怖の表情の 8 項日について 0 ~ 2 点で採点します。合計が 3 点以上であれば中等度以上の呼吸困難があり緩和のニーズがあると判断します。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「呼吸困難」をキーワードに解説させて頂きました。
呼吸困難は様々な側面を持つ主観的苦痛であるため、多面的に捉えることの重要性が提唔されてい
ますが、安当性と信新性が十分検証された単一の評価尺度はありません。
こちらの記事を読むことで呼吸困難についての理解が深まり、臨床における呼吸リハビリテーションへの一助となれば幸いです。
参考文献
- 中村健,岡村正嗣,佐伯拓也.息切れの評価法.Jpn J Rehabil Med.2017,54,p941-946.
- 宮本顕二.呼吸ケアのアセスメント.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌.第18巻,第 3号,p203-207.
- 小野寺悠, 中根正樹.”呼吸困難” はなぜ発生するのか.みんなの呼吸器Respica.22(2),p150-158,2024.