高齢者のリハビリテーション栄養:エネルギー・たんぱく質の攻め方

栄養・嚥下
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結論:PT は「栄養×機能」を同時に設計する

臨床の土台を整えつつキャリアも整理したい方へ: PT の学び方と働き方をまとめたガイドを見る

低栄養は ADL 低下や入院長期化に直結します。PT は GLIM による低栄養診断の前提(表現型+病因の少なくとも各 1 つ)を共有し、体重・筋量・筋力・摂取量・炎症を最初の 1 週間で把握。以降は週 1 回のミニ再評価と月 1 回の KPI 再設定で、食事・ ONS ・運動をセットで回します。リンク:評価ハブ

「設定」は エネルギー( kcal )× たんぱく( g/kg/日 ) を軸に、目標体重・活動量・疾患ストレスで調整します。食塩・水分・微量栄養素は原疾患の指示が最優先、未指示なら公的基準に準拠しつつ、摂取量低下を招く過度な制限は避けます。

実務フロー(初回 1 週間)

Day 0–2: GLIM の項目収集(体重変化・ BMI ・筋量 proxy・摂取量・炎症)、 GNRI 、食事聞き取り、嚥下・咀嚼、併存症。機能は握力・ 5 回椅子立ち上がり・歩行速度でベースライン化。

Day 3–7: 目標設定(体重・歩行・ ADL )、エネルギー・たんぱくを暫定処方、 ONS /食形態・間食・運動(レジスタンス+歩行)を組み合わせ、摂取実績と体重で調整。関連:6 分間歩行テスト活動量 23 Ex/週ガイド

エネルギーとたんぱくの設定

エネルギー: 原則は 間接熱量測定が最適。機器が無ければ Mifflin–St Jeor 等で BEE を算出し、TEE = BEE × 活動係数 × ストレス係数で見積もります。体重増加を狙う場合は「攻めの栄養療法」を用い、エネルギー蓄積量7,500 kcal × 目標増加体重( kg )÷ 目標日数( 日 )を 1 日あたり 200 ~ 750 kcal 程度で上乗せします。

たんぱく: 高齢者は 1.0 ~ 1.2 g/kg/日、疾患時は 1.2 ~ 1.5 g/kg/日、重症や著明な低栄養では最大 2.0 g/kg/日までを文献範囲で検討します。エネルギー不足はたんぱく需要を押し上げるため、まずエネルギー不足を是正しつつ、運動療法(特にレジスタンス)と併用します。

参考の根拠(要点)

  • 間接熱量測定がゴールドスタンダード。式は過小・過大推定のリスクあり。
  • ONS は少なくとも 400 kcal/日・たんぱく 30 g/日を目安に継続( ≥ 1 か月)。
  • 体重増加のエネルギーコストは成人で約 7,500 kcal/kg、高齢者では幅が大きい報告あり。

CKD 併存時の注意(非透析)

CKD では一律のたんぱく制限は推奨されず、重症度・サルコペニア・ PEW の有無をふまえ個別化します。KDOQI 2020 の推奨では、代謝安定時の CKD G3–G5(非透析)では 0.6–0.8 g/kg/日 が選択肢ですが、筋量・機能低下があれば優先課題は栄養不良の是正です。腎専門医・管理栄養士と協働し、十分なエネルギー( 25–35 kcal/kg/日 目安)を確保します。

食塩・カリウム・リンは腎指示に従います。PT はむくみ・起立性低血圧・運動時高 K リスクなど臨床所見の変化を日々共有し、運動処方を微調整します。

リフィーディング症候群の回避

長期低栄養の方は、開始直後の急速な増量で低 P /低 K /低 Mg 、心不整脈、浮腫などのリスクがあります。初日は 10–20 kcal/kg/日 程度から開始し、 1–2 日ごとに目標の 33% ずつ段階的に増量、電解質を連日チェック、ビタミン(特にチアミン)を補います。

高リスク(著明な体重減少、長期の摂取不良、電解質低値など)では、院内栄養サポートチームと連携し、運動負荷の上げ幅も緩やかにします。

ONS・経腸栄養の使い方(要点)

ONS: 400 kcal/日以上でたんぱく 30 g/日相当を 1 か月以上継続し、月 1 回は体重・食欲・機能を再評価。嚥下障害にはテクスチャ調整品を選択し、嗜好に合わせて味・形態をローテーションします。

経腸: 経口が見込み薄で 3 日超不可能、または 1 週間で必要量の 1/2 未満が続く場合に適応を検討。予後とリスク・ベネフィットを個別に見極めます。

KPI(毎月)とカットオフ

PT が追うべき KPI と目安
領域 指標 目安・カットオフ 備考
栄養 体重・体重変化 月 +0.5 ~ +2.0 kg むくみ・脱水を併記
栄養 GNRI > 98 低リスク/ 92–98 軽度/ 82–<92 中等度/<82 高度 Alb と体重から算出
機能 握力 AWGS 2019:男 < 28 kg、女 < 18 kg で低下 ハンドグリップ
機能 5 回立ち上がり ≥ 12 秒で低下目安 SPPB の一部
持久 6MWT 前月比 +30 m 目標 6MWT 手順
ADL BI / FIM 月 +10 点を目安 BI と FIM の使い分け

よくある NG と OK(現場の落とし穴)

落とし穴と対策(スマホ横スクロール可)
NG なぜ問題? OK PT の具体策
極端な減塩で食下がり 総摂取エネルギーが落ちて逆効果 段階的減塩+うま味活用 味覚確認・食札メモを病棟で共有
たんぱくだけ先に増やす エネルギー不足だと筋同化しにくい まずエネルギー確保→たんぱく増量 間食・ ONS の時間割を一緒に設計
CKD に一律制限 サルコペニア進行のリスク 個別化(腎×栄養×機能で判断) 腎・栄養と週次カンファ標準化
初日から全量投与 リフィーディング症候群の危険 10–20 kcal/kg/日で開始し漸増 電解質・バイタルを日次で追う

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おわりに

実地では「栄養状態の把握 → エネルギー・たんぱくの設定 → 食事・ ONS ・運動の組み合わせ → KPI の再評価」というリズムが重要です。GLIM や GNRI の数値だけに頼らず、体重・筋力・歩行・ ADL の変化を一体として追うことで、チームの方針と患者さんの目標がずれにくくなります。

上で紹介したチェックシートも活用しながら、日々の臨床で蓄えた経験を整理し、栄養評価とリハビリテーションをセットで設計できる体制づくりを進めていきましょう。

参考文献

  1. GLIM criteria(2019). PubMedPDF
  2. ESPEN Practical Guideline: Clinical nutrition & hydration in geriatrics(2022). PDF
  3. 「攻めの栄養療法」提言(日本リハ栄養学会 2016):体重増加のエネルギー蓄積量の考え方。J-Stage
  4. KDOQI Clinical Practice Guideline for Nutrition in CKD(2020). AJKD/要約 EAL
  5. NICE CG32: Nutrition support for adults(2006, 更新継続). PDF
  6. 日本人の食事摂取基準 2025 年版(厚労省). PDF
  7. Mifflin MD, et al. Am J Clin Nutr. 1990;51:241–247. PubMed
  8. GNRI 原著:Bouillanne O, et al. Am J Clin Nutr. 2005;82:777–783. PDF

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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