胸郭振動・叩打法とは?(結論)
“強く長く” をやめて、最小の刺激で排痰につなげる。 PT キャリアガイド|臨床の組み立て方を見る
胸郭振動( vibration )と叩打法( percussion )は、呼吸周期に合わせて胸壁へ短時間の機械刺激を加え、分泌物の移送(末梢→中枢)と喀出を補助する気道クリアランス手技です。臨床で一番大切なのは「効かせる強さ」ではなく、安全に続けられる最小量で、体位調整・呼吸介助・ハフィング( FET )などの“出口”へつなげる設計にすることです。
この手技は、骨・皮膚・循環・呼吸状態の影響を受けやすいため、禁忌・中止基準と観察ポイントを先に決めてから実施します。「強く叩く」「長時間続ける」「疼痛が出ても継続する」は、効果よりリスクが上回りやすいので避けます。
適応の目安(どんなときに使う?)
胸郭振動・叩打法は「分泌物があるが、自己喀出がうまくいかない」場面で検討します。典型は、痰が粘い/疲労で咳が続かない/臥床や術後で換気が落ちやすいなど、痰を動かす補助が必要なケースです。
一方、分泌物が少なく自己喀出が十分な場合や、胸部痛・骨脆弱性が強い場合は、他手技(体位、呼吸コントロール、呼気延長、加湿、適切な咳・ハフィング練習)を優先する方が安全です。
禁忌・注意(安全管理の前提)
胸壁への刺激は、骨折・出血・疼痛増悪・循環不安定のリスクになり得ます。禁忌・要注意は「骨」「出血」「皮膚」「循環」「肺(気胸など)」の 5 つで整理すると迷いにくいです。
| 区分 | 例 | 現場の対応 |
|---|---|---|
| 中止・回避 | 治療抵抗性の気胸、循環不安定(ショック、重篤な不整脈など)、活動性の喀血、胸部外傷で不安定 | 全身管理を優先。導入は医師・上位者と合意してから。 |
| 要注意(骨・疼痛) | 骨粗鬆症、肋骨痛/骨折疑い、術後早期、強い胸部痛 | 叩打法は避け、必要なら “軽い振動+短時間” に限定。痛みが出たら即中止。 |
| 要注意(出血・皮膚) | 抗凝固療法中、皮下出血が出やすい、皮膚脆弱(褥瘡・皮膚損傷) | 刺激量を最小化し、皮膚状態を前後で確認。痣が出る介入は行わない。 |
| 要注意(神経・頭部) | 頭蓋内圧亢進が疑われる、強い不安・過換気 | 刺激よりも呼吸コントロール・説明を優先。苦しくなる前に終了。 |
中止基準(ベッドサイドの実用ライン)
この手技は「続ければ効く」ではなく、悪化サインが出たら即停止が基本です。特に SpO₂ の低下、疼痛、循環応答、咳の制御不能は優先して見ます。
| 項目 | 観察ポイント | 中止・減量の目安 |
|---|---|---|
| SpO₂ | 安静比からの低下、回復の遅れ | 90% 未満、または安静比 −4% 以上の低下が持続する |
| HR/血圧 | 過剰な上昇、不整脈、めまい | HR 安静比 +20% 超、不整脈新規出現、SBP < 90 mmHg など |
| 疼痛 | 胸部痛、肋骨痛、表情の変化 | 疼痛が増悪したら即中止( “痛いけど我慢” は不可 ) |
| 咳・呼吸 | 咳の連発、息切れ増悪、過換気 | 制御不能なら中止し、呼吸コントロールへ戻す |
| 皮膚 | 発赤、皮下出血、皮膚損傷 | 新規出現なら中止(刺激量・部位の再設計が必要) |
やり方( “最小有効量” で行う手順 )
手順のコツは、①体位を整える、②呼吸周期に合わせる、③短時間で評価する、④出口(ハフィング/咳)へつなげる、の 4 つです。まずは短く行い、反応が良ければ回数を増やします。
0)準備( 30〜60 秒 )
- 体位:セミファウラー〜側臥位など、呼吸困難が増えない姿勢を優先。
- 確認:SpO₂、HR、呼吸数、呼吸困難感( 0–10 )、疼痛。
- 狙う部位:聴診や呼吸音、痰の絡み感などから “1〜2 か所” に絞る。
1)叩打法( percussion )
手掌を軽く丸め(カップ状)、胸壁へリズミカルに軽く刺激を入れます。骨突出部(鎖骨・胸骨・肋骨弓の前面など)や疼痛部位は避け、衣服越し/タオル越しで皮膚刺激を減らします。
- タイミング:基本は呼気に合わせて(苦しければ呼吸が落ち着く範囲で)。
- 時間:まず 15〜30 秒で反応を見る(長く続けない)。
- 強さ:痣が出る、痛い、息が止まる強さは過量。
2)胸郭振動( vibration )
手掌で胸壁を包むように当て、呼気相に合わせて細かい振動を入れます。叩打法より刺激が穏やかにしやすく、疼痛や骨脆弱性が気になる場合は振動を優先します。
- タイミング:呼気を “少し長く” してもらい、その間だけ振動を入れる。
- 時間: 3〜5 呼吸分 → 休息を 1 セットとして考える。
- ポイント:息を止めさせない(過換気や苦しさが出たら即休息)。
3)出口を作る(ハフィング/最小の咳)
刺激で痰が動いたサイン(ゼロゼロ音が上がる、胸の奥が動く感覚、咳が “出そう” )が出たら、ハフィング( FET )を 1〜2 回、必要最小限の咳でまとめます。咳を連発すると疲労で破綻しやすいので、まずは “少ない回数で出す” を狙います。
4)回数の目安( 5〜10 分 )
初回は 5〜10 分以内で十分です。反応が良い場合でも、長時間にせず「短時間×次回へ」が安全です。痰の喀出、SpO₂、呼吸困難感の変化を見て終了します。
現場の詰まりどころ(効かない/悪化するパターン)
うまくいかないときは、手技の種類よりも “設計” が原因になりがちです。次の 3 つは特に多いので先に修正します。
- 刺激が強すぎる:疼痛・防御収縮・呼吸停止が出て効果が落ちる。
- 長く続けすぎる:疲労・過換気・SpO₂ 低下で中断になる。
- 出口がない:刺激だけしてハフィング/咳へつながらず、痰が残る。
よくあるミスと修正(早見表)
| よくあるミス | 起きやすい状況 | 修正ポイント |
|---|---|---|
| 強く叩いてしまう | 痰を急いで出したい | 強さを下げ、 15〜30 秒で反応評価。痛みが出たら即中止。 |
| 長く続けて疲労させる | “やればやるほど効く” 思考 | 3〜5 呼吸→休息を 1 セットに。合計 5〜10 分で終了。 |
| 骨突出部を叩く | 部位の目印が曖昧 | 鎖骨・胸骨・肋骨弓前面は避け、衣服越し/タオル越しで実施。 |
| 息を止めさせてしまう | 緊張が強い/痛い | 説明を短くし、呼気に合わせて “短く” 。苦しければ中断して呼吸を整える。 |
| 痰が出ない | 出口がない/体位が合わない | 体位を変える、短時間で評価、ハフィング 1〜2 回でまとめる。 |
記録の取り方(最低限のテンプレ)
再現性を上げるには「どこに」「どれくらい」「反応はどうか」を残すのが最重要です。最低限、以下をセットで記録します。
- 目的:排痰/無気肺予防/呼吸困難の調整( 1 つに絞る )
- 体位:セミファウラー/側臥位など
- 部位:右下肺野など( 1〜2 か所 )
- 手技:叩打法/振動、実施時間(例: 30 秒× 2 セット )
- 反応:SpO₂、HR、呼吸困難感( 0–10 )、疼痛、咳・ハフィング回数
- 分泌物:量(少/中/多)、性状(粘稠度・色調)
- 次回:刺激量を下げる/体位変更/出口(ハフィング)を増やす など 1 行
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 叩打法は強いほど効きますか?
強いほど疼痛・防御・呼吸停止が出やすく、結果的に効果が落ちます。まずは最小の刺激で 15〜30 秒だけ行い、痰が動くサインが出るかを評価します。
Q2. 振動と叩打法はどちらを選べばいいですか?
疼痛や骨脆弱性が気になる場合は振動を優先しやすいです。叩打法は刺激が強くなりやすいので、短時間で反応評価し、痛みが出るなら行いません。
Q3. どれくらいの時間が目安ですか?
初回は合計 5〜10 分以内が目安です。長く続けるより、短時間で反応を見て “次回へつなぐ” 設計が安全で効果も出やすくなります。
Q4. 皮下出血が出たらどうしますか?
刺激量が過量のサインです。以後は中止し、皮膚状態と出血リスクを確認したうえで、体位・呼吸コントロール・加湿・ハフィング指導など他手技へ切り替えます。
おわりに
胸郭振動・叩打法は、「禁忌・中止基準の確認 → 体位調整 → 短時間の刺激 → 出口(ハフィング/最小の咳) → 再評価」というリズムを守るほど、安全に効果が出やすくなります。介入の判断軸を手元に残したい方は、面談準備チェック&職場評価シート(ダウンロード)も活用して、評価と記録の流れを整えてみてください。
参考文献
- Strickland SL, Rubin BK, Drescher GS, et al. AARC clinical practice guideline: effectiveness of nonpharmacologic airway clearance therapies in hospitalized patients. Respir Care. 2013;58(12):2187-2193. DOI: 10.4187/respcare.02925. PubMed: PMID:24222709
- McCool FD, Rosen MJ. Nonpharmacologic airway clearance therapies: ACCP evidence-based clinical practice guidelines. Chest. 2006;129(1 Suppl):250S-259S. DOI: 10.1378/chest.129.1_suppl.250S. PubMed: PMID:16428718
- Hill AT, Sullivan AL, Chalmers JD, et al. British Thoracic Society guideline for bronchiectasis in adults. BMJ Open Respir Res. 2018;5(1):e000348. DOI: 10.1136/bmjresp-2018-000348
- Herrero-Cortina B, Lee AL, Oliveira A, et al. European Respiratory Society statement on airway clearance techniques in adults with bronchiectasis. Eur Respir J. 2023. DOI: 10.1183/13993003.02053-2022
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

