PHQ-9・HADS・SRQ-D の違いと使い分け(結論:目的で 1 つに絞る)
抑うつ・不安のスクリーニングは、「どれが一番良いか」ではなく“何を拾って、何につなぐか”で決まります。本記事は PHQ-9 / HADS / SRQ-D を、場面別に迷わず選ぶための比較(使い分け)に特化して整理します。
ポイントは 3 つです。①入口(拾い上げ)か、②二軸(不安+抑うつ)か、③施設運用(教育・地域)か。さらに点数を「共有できる情報」に変換して再評価まで回すと、測って終わりを防げます。
結論:使い分け早見表(場面 → 第一候補)
まず迷いを止めるために、場面ごとの第一候補を固定します。迷ったら第一候補で開始し、必要なときだけ補助尺度を足すほうが運用が安定します。
下の表は「入口で拾う」「不安も同時に拾う」「配布・教育で回す」を最短で選べるように並べています。
※表は横にスクロールできます。
| 場面 | 第一候補 | こういうとき補助で足す | ねらい |
|---|---|---|---|
| 外来(初診・フォロー) | PHQ-9 | 不安が前景/身体合併が多い → HADS | 拾い上げ+重症度の把握 |
| 一般病棟・回復期 | PHQ-9 | 不安も同時に整理したい → HADS | 経時変化(同条件で再評価) |
| 地域・教育・配布運用 | SRQ-D | 追跡の軸を 1 つに固定したい → PHQ-9 | 簡便に傾向を把握して共有 |
| 不安+抑うつを同時に見たい | HADS | 抑うつの追跡を明確にしたい → PHQ-9 | 二軸で「詰まり」を見つける |
5 分フロー:拾う → 点数化 → 共有 → 再評価
比較記事のゴールは「選んで終わり」ではなく、点数をチームで共有できる情報に変換して再評価まで回すことです。運用フローを 1 枚で押さえるなら、抑うつ評価の流れ(スクリーニング → 重症度 → 再評価)もあわせて使うと詰まりにくいです。
このページでは、PHQ-9/HADS/SRQ-D の選択を迷わないために、現場で回る順番だけ先に固定します。
- 前提確認(30 秒):疼痛・息切れ・睡眠・薬剤変更・環境変化(転棟/退院調整)・せん妄/見当識・重い失語/注意障害を先に押さえます。
- 尺度を 1 つ選ぶ(30 秒):入口= PHQ-9 / 二軸= HADS / 配布運用= SRQ-D。
- 条件を固定(1 分):実施タイミング、同席者、聞き取り(自己記入 or 面接)、補助の有無を記録します。
- 点数+背景メモ(1 分):合計点だけでなく「上がっている領域」「身体症状の影響(痛み・睡眠など)」を 1 行で残します。
- 共有+再評価(2 分):誰に・いつ・どの条件で取り直すかを決めて、同条件で再評価します。
各尺度の基本スペック(比較の軸をそろえる)
カニバリを避けるために、このページでは“使い分けに必要な最小スペック”だけを表に集約します。採点の細部は各論(個別記事)で深掘りする設計が最も安定します。
目安カットオフは「施設で明文化して共有」するための参考値として扱い、スコア単独で断定しないのが安全です。
※表は横にスクロールできます。
| 項目 | PHQ-9 | HADS | SRQ-D |
|---|---|---|---|
| 主目的 | 抑うつの重症度を把握(入口+追跡) | 不安(A)・抑うつ(D)を二軸で拾う | 抑うつ傾向のスクリーニング(配布運用に強い) |
| 項目数 | 9 | 14(A 7/D 7) | 18(非症状 6 項目は 0 点固定) |
| 合計点 | 0–27 | 各下位尺度 0–21 | 0–36 |
| 目安カットオフ | ≥ 10 を要配慮の目安(施設で調整) | 8–10 境界/≥ 11 異常の目安(施設で調整) | ≥ 16 を抑うつ傾向の目安(施設で調整) |
| 所要時間(目安) | 約 2–3 分 | 約 5–7 分 | 約 3–5 分 |
| 得意 | 入口 → 経過追跡の一貫運用 | 不安と抑うつを同時に把握 | 教育・地域・施設での初期スクリーニング |
| 弱み/注意 | 身体症状が強いと過大・過小の可能性 | 合算ではなく下位尺度ごとに解釈 | 施設内で「判定の扱い」を明文化しないとブレる |
各尺度の特徴(得意・苦手と注意点だけ押さえる)
比較記事で重要なのは、各尺度の“弱点”を先に知っておくことです。特に身体合併、認知・失語、疲労が強い場面では、スコアが臨床像を反映しにくくなります。
ここでは項目の全文には触れず、運用上の落とし穴と、点数の読み方のコツに絞って整理します。
PHQ-9:入口(拾い上げ)と追跡を 1 本で回したいとき
PHQ-9 は 0–27 点で、入口のスクリーニングから重症度の把握までを一貫して扱いやすいのが強みです。目安として 10 点前後を要配慮域として運用する施設が多い一方、身体症状(疼痛・息切れ・睡眠)の影響で点数が動く点は前提に置きます。
運用のコツは、合計点に加えて「どの領域が上がっているか」と「身体要因の影響」を 1 行で残すことです。これだけで、カンファで“話が早くなる”情報に変わります。
続けて読む:PHQ-9 運用プロトコル(採点・解釈・記録・再評価)
HADS:不安と抑うつを二軸で整理したいとき
HADS は不安(A)と抑うつ(D)をそれぞれ 0–21 点で把握でき、「不安で動けないのか」「抑うつで意欲が落ちているのか」を分けて考えやすいのが利点です。解釈は合算ではなく、必ず下位尺度ごとに見ます。
境界域(例:8–10)を「要観察」として再評価条件を固定し、介入(説明・予測可能性・負荷設定・環境調整)とセットで追うと、数値が“次の一手”につながります。
SRQ-D:配布・教育・地域で “ まず拾う ” を回したいとき
SRQ-D は 18 項目のうち一部が非症状項目( 0 点固定)として扱われ、合計は 0–36 点になります。配布運用や教育場面でも回しやすく、短時間で傾向を把握する入口として実務的です。
目安として 16 点以上を抑うつ傾向域とする資料が多い一方、ここもスコア単独で断定せず、「どの背景(痛み・睡眠・環境変化)が強いか」を併記して共有するとブレません。
運用プロトコル(点数を “ 共有できる情報 ” に変換する)
心理スクリーニングは、点数の正確さよりも条件の再現性(同条件で取り直せる設計)が価値になります。測った日に終わると、回遊(関連記事)も伸びにくいので、運用まで含めてページ内で完結させます。
おすすめは、下の 4 点セットをカルテ・共有メモに固定することです(テンプレとしてコピペ運用できます)。
- 尺度名+実施条件:実施日、タイミング、自己記入 or 面接、同席者、補助の有無
- 点数:合計(HADS は A/D を別々に)
- 背景メモ:疼痛、息切れ、睡眠、薬剤変更、環境変化(転棟/退院調整)
- リハへの影響:離床の遅れ、自主練の不成立、外出・参加の低下 など
現場の詰まりどころ/よくある失敗(OK / NG 早見表)
つまずきやすいのは、尺度そのものより“運用”です。特に「カットオフで即断」「複数を漫然と併用」「点数だけ残して共有されない」が多発ポイントになります。
下の OK / NG をチームで共有しておくと、点数が“使える情報”に変わりやすくなります。なお、面談準備の抜け漏れを減らすチェックとして マイナビコメディカルの面談準備チェック&職場評価シート を使うと、聞き取りと共有が早くまとまります。
※表は横にスクロールできます。
| テーマ | NG(起きがち) | OK(こう直す) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| カットオフ | 点数だけで「うつ」と断定 | 臨床像+背景(痛み・睡眠など)と併読 | 点数+背景メモを 1 行で残す |
| 併用 | 同日に 3 つ配布して整理できない | 目的で 1 つに絞り、必要なら補助を 1 つだけ | 主目的(入口/二軸/教育)を明記 |
| 共有 | 点数だけカルテに残して終わる | 点数+背景+リハ影響の 1 セットで共有 | 報告先(主治医/上級職)と期限を決める |
| 再評価 | 条件が毎回バラバラで変化が読めない | 同条件で取り直す(タイミング・形式を固定) | 実施条件をテンプレで固定 |
| リスク対応 | 「点数が高くないから様子見」で止める | 危険兆候はスコアと切り離して即共有 | 報告先・観察ポイントを事前に決める |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
重症度の追跡にはどれが向いていますか?
運用を 1 本化して追跡するなら PHQ-9 が扱いやすいことが多いです。不安も同時に整理したいときは HADS を検討し、二軸で“詰まり”を見つけます。
スクリーニングだけなら何を選べば良いですか?
外来では PHQ-9 を基本にし、身体合併や不安が前景なら HADS を検討します。教育・地域で配布して傾向を見る運用なら SRQ-D が回しやすいです。
同日に複数尺度を使っても問題ありませんか?
可能ですが、回答負担と整理コストが上がります。「入口」「二軸」「教育」など目的を先に固定し、主尺度 1 つ+補助 1 つまでを目安にすると破綻しにくいです。
高齢者や認知機能低下がある方にも使えますか?
理解力や注意力によって回答の信頼性が下がるため、面接形式での聞き取りや家族情報、行動観察と合わせて慎重に解釈します。条件を固定して再評価できる設計が重要です。
次の一手(回遊)
参考文献
- Kroenke K, Spitzer RL, Williams JBW. The PHQ-9: validity of a brief depression severity measure. J Gen Intern Med. 2001;16(9):606–613. DOI: 10.1046/j.1525-1497.2001.016009606.x
- Zigmond AS, Snaith RP. The hospital anxiety and depression scale. Acta Psychiatr Scand. 1983;67(6):361–370. DOI: 10.1111/j.1600-0447.1983.tb09716.x
- 自己診断チェックシート( SRQ-D / 東邦大式 )採点と判定目安( 16 点以上 など ). 自治体配布 PDF
- 東邦大学 心療内科:東邦大式抑うつ尺度( SRQ-D Ⅱ )情報. 公式ページ
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


