結論:まず「自信」か「不安」かを決める
転倒リスクの評価で迷ったら、最初に決めるべきは「何を測りたいか」です。歩行能力(できる/できない)ではなく、本人の主観(自信・不安)を扱うのが PROM(患者報告アウトカム)です。結論として、“できる自信”を見たいなら ABC スケール、“転ぶかも”という不安を見たいなら FES 系を先に選ぶと、介入の優先順位がぶれにくくなります。
主観は介入の入口を決めるのに有効ですが、単独運用ではズレることがあります。本記事では、ABC・FES 系を「どう選び、どう使い分け、どう併用するか」に絞って整理します。
PROM(主観尺度)は何のために使う?
PROM は、患者さんが「どの活動をどれくらい不安に感じているか」「どの場面ならできると思っているか」を可視化し、活動量の設計や自主練の安全域、環境調整の優先順位を決めるために使います。筋力やバランスが改善しても、本人の不安が強いままだと活動が増えず、転倒リスク低下につながりにくいことがあるためです。
ただし、PROM は気分や直近の出来事の影響を受けます。客観テスト( TUG / 5xSTS / Mini-BESTest など)と組み合わせて、能力と主観を並べる運用が実務的です。
まずはここだけ固定:自信(ABC)か、不安(FES 系)か
同じ転倒関連 PROM でも、評価軸は一致しません。最初の 1 本を選ぶ時点で、介入設計の精度が変わります。
| 見たいもの | 向きやすい尺度 | 臨床での使いどころ | ズレやすいポイント |
|---|---|---|---|
| できる自信 | ABC | 活動拡大や屋外課題への移行判断 | 遠慮・理想回答で高め/慎重回答で低めに出る |
| 転倒への不安 | FES 系 | 不安が強い活動の抽出と段階づけ | 直近の転倒・痛みで一時的に上がりやすい |
| 自己効力感 | FES 系(派生含む) | 在宅生活での行動再開設計 | 住環境差(段差・動線)で回答がぶれやすい |
ABC・FES 系を “使い分け” で見る早見表
重要なのは尺度の優劣ではなく、問いの立て方です。「歩けるか」ではなく「その活動を自信をもってできるか/不安が強いか」を問うことで、次の介入が具体化しやすくなります。
| 場面 | まず見たい軸 | おすすめ | 次の一手(例) |
|---|---|---|---|
| 外来 | 屋外・複雑課題への自信 | ABC | 低得点活動を抽出し、課題難度を 1 段ずつ上げる |
| 回復期 | 活動拡大のボトルネック | ABC+必要に応じて FES 系 | 病棟 ADL と実生活課題の連続性を作る |
| 訪問 | 生活場面の不安・回避 | FES 系+必要に応じて ABC | 環境調整+成功体験の反復で再開を促す |
迷いを減らす型:客観テスト+PROM を並べて判断する
PROM は主観、客観テストは能力です。臨床では一致しないケースが多く、同時点で並べることで解釈が安定します。たとえば客観が改善しているのに主観が伸びない場合は、課題設定・失敗体験・環境要因を優先して見直します。逆に主観が高いのに客観が不安定な場合は、注意機能やデュアルタスク条件の調整が有効です。
評価を横断で整理する際は、歩行・バランス評価ハブを起点にすると、主観と客観を同じ流れで設計しやすくなります。
現場の詰まりどころ/よくある失敗
PROM は「点数を取る」だけでなく、「次の行動」を決めるための情報です。詰まりを先に潰すと、介入の再現性が上がります。
よくある失敗
| よくある失敗 | 起きること | 対策(現場での型) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 回答条件が毎回バラバラ | 経時変化が比較できない | 同じ場所・同じ説明・同じ補助具条件で実施 | 実施日、場所、補助具、同席者 |
| 点数だけ見て終わる | 介入が具体化しない | 低得点項目を段階づけ課題に変換する | 低い活動トップ 3、次回課題 |
| 不安が強いまま負荷を上げる | 回避が強まり活動が減る | 安全策(手すり・見守り・補助具)を先に固定 | 安全策の有無、見守りレベル |
| 説明が曖昧 | 回答の再現性が落ちる | 「普段の生活で、今のあなたなら」で統一 | 説明テンプレの固定 |
回避手順(3 ステップ)
- ステップ 1:評価条件(場所・補助具・説明文)を固定する
- ステップ 2:低得点項目から「生活上の重要活動」を 1 つ選ぶ
- ステップ 3:安全策を固定して段階づけ、次回再評価条件も同時に記録する
各尺度の詳しい運用(子記事)
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
ABC と FES-I はどちらを先に使うべきですか?
初回は目的で決めます。活動を広げる判断をしたいなら ABC、不安・回避行動を特定したいなら FES 系が向きます。まず 1 本を軸に運用し、必要時にもう 1 本を追加すると実務で回しやすくなります。
ABC と FES-I は併用した方がいいですか?
目的が異なるため、併用は有効です。ABC は「できる自信」、FES 系は「不安の強さ」を拾いやすく、能力と主観のズレを把握しやすくなります。運用を崩さないため、最初はどちらか 1 本を固定する方法が安全です。
認知機能が低い患者でも ABC / FES-I は使えますか?
使用可能ですが、説明統一が前提です。「普段の生活を想像して答える」ことを先に共有し、必要に応じて具体例を提示します。回答が不安定な場合は、PROM に固執せず客観テストと観察を優先してください。
点数が低いとき、介入は何から始めればいいですか?
低得点項目の中から、生活上の優先度が高い活動を 1 つ選びます。安全策を固定して成功体験を重ねると、回避行動が減りやすくなります。PROM は点数を上げるためでなく、活動再開の道筋を作るために使います。
再評価の頻度はどれくらいが目安ですか?
回復期など変化が速い時期は短め、外来・訪問の維持期は長めが目安です。頻度より重要なのは同条件で比較できることです(場所・補助具・説明文の固定)。
次の一手:迷わない導線(おすすめ順)
- 全体像を先に整理する:歩行・バランス評価ハブ
- すぐ実装する:ABC スケール(運用プロトコル)
参考文献
- Powell LE, Myers AM. The Activities-specific Balance Confidence (ABC) Scale. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 1995;50A(1):M28-M34. PubMed
- Tinetti ME, Richman D, Powell L. Falls Efficacy as a Measure of Fear of Falling. J Gerontol. 1990;45(6):P239-P243. DOI
- Yardley L, Beyer N, Hauer K, et al. Development and initial validation of the Falls Efficacy Scale-International (FES-I). Age Ageing. 2005;34(6):614-619. DOI
- Podsiadlo D, Richardson S. The Timed “Up & Go”: a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. DOI
- Whitney SL, Wrisley DM, Marchetti GF, et al. Clinical measurement of sit-to-stand performance in people with balance disorders: validity of Five Times Sit-to-Stand Test. Phys Ther. 2005;85(10):1034-1045. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


