身体拘束を最小化する PT 実務プロトコル

制度・実務
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この記事の目的と前提(身体拘束の最小化)

本記事は、病棟や介護療養型などで働く PT が、身体拘束を「ゼロにはできなくても、できる限り最小化する」ための実務プロトコルをまとめたものです。法律や施設基準の解説ではなく、転倒・抜管・チューブ自己抜去などのリスクをケアと環境調整で減らす ことに軸足を置きます。

身体拘束の要否や実施判断は、各施設の規定・主治医・看護部門の方針に必ず従ってください。 PT は「拘束するか/しないか」を決める立場ではなく、拘束せずに済む状況を増やすための評価と介入 を担うことを前提とします。施設の 危険因子評価票の運用プロトコル などと組み合わせてお使いください。

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身体拘束の目的と「やむを得ない」場面の整理

身体拘束が問題視されるのは、人権や尊厳を侵害し、廃用やせん妄の悪化など多くの有害事象を引き起こすからです。一方で、生命の保護や治療継続のために緊急やむを得ない場面 が存在することも事実であり、厚生労働省の「身体拘束ゼロ」関連の手引きでも、三要件(切迫性・非代替性・一時性)に基づき例外的な実施が整理されています。

PT が意識したいのは、「拘束を減らす」の前に 拘束の目的を言語化する ことです。例えば「点滴自己抜去の防止」「夜間の転落防止」「高い興奮状態での自己・他害防止」など、目的が明確になると、代替手段(環境調整・ケア・見守り・福祉用具)を具体的に検討しやすく なります。本記事ではこの目的別に介入の糸口を整理していきます。

身体拘束が使われやすい場面を評価で先回りする

身体拘束が検討される患者には共通したパターンがあります。代表的なのは、せん妄・認知症に伴う行動化、易転倒性、侵襲的デバイスの存在 の 3 点です。 PT は初回評価や日々のラウンドの中で、これらを「拘束リスク」として構造的に拾い、看護師・医師と共有しておくことが重要です。

具体的には、①意識レベルとせん妄兆候(昼夜逆転・注意散漫・幻視など)、②認知機能と判断力、③移乗・歩行能力とバランス、④点滴・カテーテル・ドレーン等のデバイス位置と動きやすさ、⑤疼痛・呼吸困難・不快感の強さ、⑥既往歴(認知症・脳卒中・精神疾患)などを、評価ハブ に載せている各種スケールと併用しながら整理します。

ポジショニングとシーティングで「不安とムズムズ感」を減らす

ベッド柵増設やミトンの前にできることの代表が、ポジショニングとシーティングの見直し です。体幹と骨盤が安定せず、足底支持も得られないまま車椅子に座っていると、「落ちそう」「滑り落ちそう」といった不安から立ち上がりや身じろぎが増えます。結果として「危ないから」と拘束を強化する負のサイクルに陥りがちです。

PT は、クッション適合評価プロトコル を参考にしつつ、①骨盤の前後傾と左右傾斜、②体幹の側弯・回旋、③足底接地と膝角度、④前方支持(テーブル・アームサポート)の有無、⑤頭頸部の位置をチェックし、微調整を重ねます。「座位での安心感」が高まるだけで、立ち上がりや徘徊行動が減り、拘束に頼らずに済むケースは少なくありません。

早期離床と活動量調整で昼夜逆転と興奮を防ぐ

高齢患者では、昼間に活動量が少ないほど夜間の不穏・せん妄が増えやすい ことが知られています。昼間ずっとベッド上で寝がちだと、夜間にベッド柵追加やミトンといった拘束が増えるのは自然な流れとも言えます。 PT は「安全な範囲での活動量を底上げする」ことで、この流れを断ち切る役割を担います。

具体的には、①午前中からの離床(座位・立位・歩行)の時間を長くする、②日中の覚醒を保つための簡単な課題(新聞読み、計算、体操など)を取り入れる、③呼吸・循環や疲労兆候を観察しながら 1 日単位で活動量を微調整する、といったアプローチです。誤嚥性肺炎の予防バンドル(誤嚥性肺炎予防バンドル)と同様に、「小さな介入の束」を毎日回すイメージが有効です。

環境調整と見守りで「危険な状況」を減らす

身体拘束を検討する前に、環境とケアの工夫でどこまで危険を下げられるか を整理します。例えば、ベッドの高さ調整・マットレスや転落防止マットの活用・トイレやナースステーションに近い部屋への移動・コールボタンの位置調整など、物理的な工夫だけでも転落リスクは変わります。

また、せん妄や認知症が強い患者では、「誰もいない時間帯」ほど不穏が強くなりやすいため、家族の付き添い依頼や、せん妄ケアチーム・認知症ケアチームとの連携も重要です。 PT 自身も、歩行訓練中だけでなく、体位ドレナージ やポジショニングの場面で、環境要因と行動パターンを観察し、チームにフィードバックしていきます。

デバイス周囲の工夫と「触りたくなる理由」の評価

点滴ライン・経管栄養チューブ・尿道カテーテルなどの自己抜去リスクは、身体拘束の大きな理由の一つです。 PT は医師や看護師の判断を尊重しつつ、「なぜそこを触りたくなるのか」「どうすれば気になりにくいか」 を評価・提案できます。

例えば、ラインを関節部で屈曲させないようルートを工夫する、衣類の上から通す、皮膚トラブルや疼痛がないか確認する、身体図を用いて本人に丁寧に説明する、などの工夫があります。また、せん妄や BPSD が強い場合は、「痛い/苦しい/怖い」といった主観的苦痛が背景にあることも多いため、疼痛コントロールや呼吸苦対策、環境刺激の調整とセットで検討します。

多職種カンファレンスと家族説明で代替案を共有する

身体拘束の是非は、看護・医師・リハ・介護職・家族など多職種での合意形成が不可欠です。 PT は、歩行・移乗能力や活動量、せん妄や認知機能の評価、ポジショニングや離床の工夫 といった自分の専門領域から「拘束以外の選択肢」を提示することで、議論の幅を広げる役割を担います。

カンファレンスや褥瘡・安全対策委員会では、「危険だからやめましょう」ではなく、「この条件なら拘束を一段階緩められる」「日中は拘束ゼロで、夜間は○○の条件で最小限にする」といった 条件付き提案 を心がけます。家族説明時も、褥瘡予防バンドル と同様に、リスクと代替策をセットで説明し、安心材料を増やすことが大切です。

病棟で回す「身体拘束最小化」 7 ステップ

ここまでの内容を、 PT が病棟で回しやすいように 7 ステップの実務プロトコル としてまとめます。すべてを完璧に行う必要はなく、各病棟の体制や対象者に合わせてカスタマイズしてください。

  1. 初回評価で拘束リスクを可視化する 意識・認知・行動・移乗・歩行・デバイス・疼痛などを整理し、「転倒」「自己抜去」「自己・他害」のリスクを評価票に記録します。
  2. ポジショニングと座位環境を整える ベッド上・車椅子ともに、骨盤・体幹・足底支持を優先して調整し、「落ちそう・ずれそう・痛い」を減らします。
  3. 日中の離床と活動量を底上げする 午前中からの離床・歩行訓練・簡単な作業活動などを組み合わせ、昼夜逆転と夜間不穏を予防します。
  4. デバイス周囲の不快感とルートを見直す 触りたくなる原因を評価し、ルート変更・固定法の工夫・疼痛コントロールなどをチームで検討します。
  5. 環境と見守りの選択肢を整理する ベッド高さ、マット、ベッド配置、コール位置、付き添いの可否など、拘束以外の安全確保策を洗い出します。
  6. 多職種カンファで「条件付き緩和案」を提示する 「○○ができればベルトを外す」「昼間は柵 2 本までにする」など、評価に基づいた具体案を提示します。
  7. 経過を記録し、委員会や診療計画書に反映する 拘束の有無だけでなく、ポジショニング調整・活動量・せん妄所見の変化を毎回同じフォーマットで記録し、褥瘡・安全対策委員会や診療計画書の更新時にフィードバックします。

おわりに

身体拘束最小化のリズムは、拘束リスクの把握 → 環境・姿勢・活動量の調整 → チームでの条件付き緩和 → 記録と再評価 の繰り返しです。 PT は「安全のための制限」を減らしつつ、転倒や自己抜去を現実的に防ぐための具体策を提示できる立場にあります。

一方で、拘束最小化の取り組みは、人的リソースや教育体制が整っているかどうかに大きく左右されます。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、見学や情報収集中でも使える 面談準備チェック( A4・5 分)と職場評価シート( A4 ) を用意しました。興味があれば、こちらのダウンロードページ も、次のキャリアを考える際の参考にしてみてください。

よくある質問

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教育体制に不安があるとき、転職はいつ検討すべきですか?

身体拘束最小化やリスクマネジメントにしっかり取り組もうとしても、そもそもスタッフ数や研修・振り返りの仕組みが不十分な職場では、個人の努力だけでは限界があります。目安として、①拘束や転倒が頻発していても改善策が検討されない、②委員会やカンファに PT の意見が反映されない、③教育やフィードバックの場が 6 か月以上ほとんどない、といった状況が続く場合は、キャリアの中長期プランの中で職場変更も選択肢に入れてよいタイミングです。

どこまでを「踏ん張りどき」と考え、どこからを「環境を変えるサイン」と捉えるかの整理には、PT キャリアガイドの注意サイン(red flags) も参考になります。

参考文献

  1. 厚生労働省老健局. 身体拘束廃止・防止の手引き. 2023. 厚生労働省ウェブサイト. https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001248430.pdf
  2. 厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」. 身体拘束ゼロへの手引き〜高齢者ケアに関わるすべての人に〜. 2001. PDF
  3. Fujita S, Michikawa T, Taniguchi T, et al. The Reality of Physical Restraint Implementation During Hospitalization in Older Patients With Hip Fractures. Geriatr Orthop Surg Rehabil. 2025;16:21514593251343499. doi: 10.1177/21514593251343499
  4. Ishida Y, et al. A Cross-Sectional Study of Rehabilitation Training Intensity and Physical Restraints in Patients With Neurocognitive Disorders in an Acute Care Hospital. Cureus. 2025;17(3):e81027. doi: 10.7759/cureus.81027

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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