身体拘束の解除と最小化プロトコル|PT・OT が病棟でできる工夫と 7 ステップ

制度・実務
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この記事の目的と前提(身体拘束の最小化)

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本記事は、急性期〜療養病棟・介護療養型などで働く PTOT が、身体拘束を「ゼロにはできなくても、できる限り最小化する」ための実務プロトコルを整理したものです。法律や加算・施設基準の条文解説ではなく、転倒・抜管・チューブ自己抜去などのリスクを、ケアと環境調整でどこまで減らせるか に焦点を当てます。

身体拘束の要否や実施判断は、各施設の規定・主治医・看護部門の方針に必ず従ってください。PT・OT は「拘束する/しない」を決める立場ではなく、拘束せずに済む状況を増やすための評価と介入 を担う立場です。本記事で示す視点は、危険因子評価票やリスクマネジメント委員会の活動と組み合わせ、チームでの検討材料として活用してください。

身体拘束の目的と「やむを得ない」場面の整理

身体拘束が問題視されるのは、人権や尊厳を侵害しうるだけでなく、廃用・せん妄の悪化・転倒リスクの増加など、多くの有害事象と結び付きやすいからです。一方で、生命の保護や治療継続のために緊急やむを得ない場面 が存在することも事実であり、厚生労働省の「身体拘束ゼロ」関連の手引きでも、三要件(切迫性・非代替性・一時性)に基づく例外的な実施が整理されています。

PT・OT が最初に意識したいのは、「身体拘束を減らす」前に 拘束の目的を言語化する ことです。例えば「点滴自己抜去の防止」「夜間の転落防止」「高度興奮時の自己・他害防止」など、目的がはっきりすると、代替手段(環境調整・ケア・見守り・福祉用具)の検討が一気に具体的に なります。本記事ではこの目的別の視点を軸に、リハビリ専門職が取り組みやすい介入の糸口を整理していきます。

身体拘束が使われやすい場面を評価で先回りする

身体拘束が検討される患者には、ある程度共通したパターンがあります。代表的なのは、せん妄・認知症に伴う行動化、易転倒性、侵襲的デバイスの存在 の 3 点です。PT・OT は初回評価や日々のラウンドの中で、これらを「拘束リスク」として構造的に拾い、看護師・医師と共有しておくことが重要です。

具体的には、①意識レベルとせん妄兆候(昼夜逆転・注意散漫・幻視など)、②認知機能と判断力、③移乗・歩行能力とバランス、④点滴・カテーテル・ドレーン等のデバイス位置と可動性、⑤疼痛・呼吸困難・不快感の強さ、⑥既往歴(認知症・脳卒中・精神疾患)などを、院内で共通している評価スケールも参考にしながら整理します。「身体拘束が議題になる前からリスクを見える化してあるか」が、チームで代替案を検討できるかどうかの分かれ目です。

ポジショニングとシーティングで「不安とムズムズ感」を減らす

ベッド柵の追加やミトン装着の前に見直したい代表例が、ポジショニングとシーティング です。体幹と骨盤が安定せず、足底支持も不十分なまま車椅子に座っていると、「落ちそう」「滑り落ちそう」という不安から立ち上がり動作や身じろぎが増え、結果として「危ないから」と身体抑制が強まる負のサイクルに入りやすくなります。

PT・OT は、①骨盤の前後傾・左右傾、②体幹の側弯・回旋、③足底接地と膝角度、④前方支持(テーブル・アームサポート)の有無、⑤頭頸部の位置を順にチェックし、マット・クッション・フットサポートなどで微調整を重ねます。「座位での安心感」が高まるだけで、立ち上がり・徘徊行動が減り、身体拘束に頼らずに済む症例は少なくありません。

早期離床と活動量調整で昼夜逆転と興奮を防ぐ

高齢患者では、昼間の活動量が少ないほど夜間の不穏・せん妄が増えやすい ことが知られています。日中ほとんどベッド上で過ごしていれば、夜間にベッド柵追加やミトン・抑制帯などの身体抑制が増えるのは自然な流れとも言えます。PT・OT は「安全な範囲での日中活動量の底上げ」を通じて、この悪循環を断ち切る役割を担います。

具体的には、①午前中からの離床(座位・立位・歩行)の時間を長めに確保する、②日中の覚醒を保つための簡単な課題(新聞読み、計算、体操、簡単な作業活動など)を取り入れる、③呼吸・循環や疲労徴候を観察しながら、1 日単位で活動量と休息のバランスを微調整する、といったアプローチです。誤嚥性肺炎の予防バンドルなどと同様に、「小さな介入の束」を毎日回す意識が、夜間の身体拘束減少にもつながります。

環境調整と見守りで「危険な状況」を減らす

身体拘束を検討する前に、環境とケアの工夫でどこまで危険を下げられるか を棚卸ししておくことが重要です。例えば、ベッドの高さ調整、マットレスや転落防止マットの活用、トイレやナースステーションに近い部屋への移動、コールボタンや必要物品の配置調整など、物理的な工夫だけでも転落・徘徊リスクは変化します。

また、せん妄や認知症が強い患者では、「誰もいない時間帯」ほど不穏が増えやすいため、家族の付き添い依頼や、せん妄ケアチーム・認知症ケアチームとの連携も重要です。PT・OT 自身も、歩行訓練中だけでなく、ポジショニングや起居動作練習の場面で、環境要因と行動パターンを観察し、「この時間帯・この状況で危険が高まる」といった情報をチームにフィードバックしていきます。

デバイス周囲の工夫と「触りたくなる理由」の評価

点滴ライン・経管栄養チューブ・尿道カテーテルなどの自己抜去リスクは、身体拘束が選択される大きな理由の一つです。PT・OT は医師や看護師の判断を尊重しつつ、「なぜそこを触りたくなるのか」「どうすれば気になりにくいか」 を評価し、提案する立場にあります。

例えば、ラインを関節部で屈曲させないようルートを工夫する、衣類の上から通すことで視覚刺激を減らす、皮膚トラブルや疼痛の有無を確認する、身体図や模型を用いて本人に丁寧に説明する、などの工夫が考えられます。また、せん妄や BPSD が強い場合は、「痛い/苦しい/怖い」といった主観的苦痛が背景にあることも多いため、疼痛コントロールや呼吸苦対策、環境刺激の調整とセットで検討することが重要です。

多職種カンファレンスと家族説明で代替案を共有する

身体拘束の是非は、看護・医師・リハ・介護職・家族など、多職種での合意形成が不可欠です。PT・OT は、歩行・移乗能力や活動量、せん妄や認知機能の評価、ポジショニングや離床の工夫 といった自分の専門領域から「身体抑制以外の選択肢」を提示し、議論の幅を広げる役割を担います。

カンファレンスや安全対策委員会では、「危険だからやめましょう」だけでなく、「この条件を満たせば抑制を一段階緩められる」「日中は身体拘束ゼロで、夜間は○○の条件で最小限にする」といった 条件付き提案 を心がけます。家族説明時も、リスクと代替策をセットで説明し、「何を根拠に・どこまで安全を確保できるのか」を共有することが、安心感につながります。

病棟で回す「身体拘束最小化」7 ステップ

ここまでの内容を、PT・OT が病棟で回しやすいように 7 ステップの実務プロトコル としてまとめます。すべてを完璧に行う必要はなく、各病棟の体制や対象者に合わせてカスタマイズして構いません。

  1. 初回評価で身体拘束リスクを可視化する
    意識・認知・行動・移乗・歩行・デバイス・疼痛などを整理し、「転倒」「自己抜去」「自己・他害」のリスクを評価票に記録します。
  2. ポジショニングと座位環境を整える
    ベッド上・車椅子ともに、骨盤・体幹・足底支持を優先して調整し、「落ちそう・ずれそう・痛い」を減らします。
  3. 日中の離床と活動量を底上げする
    午前中からの離床・歩行訓練・簡単な作業活動などを組み合わせ、昼夜逆転と夜間不穏を予防します。
  4. デバイス周囲の不快感とルートを見直す
    触りたくなる原因を評価し、ルート変更・固定法の工夫・疼痛コントロールなどをチームで検討します。
  5. 環境と見守りの選択肢を整理する
    ベッド高さ、マット、ベッド配置、コール位置、付き添いの可否など、身体拘束以外の安全確保策を洗い出します。
  6. 多職種カンファで「条件付き緩和案」を提示する
    「○○ができればベルトを外す」「昼間は柵 2 本までにする」など、評価に基づいた具体案を提示します。
  7. 経過を記録し、委員会や診療計画書に反映する
    身体拘束の有無だけでなく、ポジショニング調整・活動量・せん妄所見の変化を毎回同じフォーマットで記録し、安全対策委員会や診療計画書の更新時にフィードバックします。

おわりに

身体拘束最小化のリズムは、身体拘束リスクの把握 → 環境・姿勢・活動量の調整 → 多職種での条件付き緩和 → 記録と再評価 の繰り返しです。PT・OT は「安全確保のための制限」をできるだけ減らしつつ、転倒や自己抜去を現実的に防ぐための具体策を提示できる専門職です。

一方で、身体拘束解除や廃止の取り組みは、人的リソースや教育体制、他職種との協働文化の有無に大きく左右されます。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、見学や情報収集中でも使える 面談準備チェック(A4・5 分)と職場評価シート(A4) を用意しました。興味があれば、こちらのダウンロードページ も、次のキャリアを考える際の参考にしてみてください。

よくある質問

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身体拘束最小化の取り組みを始めるとき、PT・OT はまず何から着手すると良いですか?

いきなり「身体拘束ゼロ」を掲げるよりも、まずは自分が担当する病棟・ユニットで、①身体拘束が多い時間帯と場面、②身体拘束やミトン・抑制帯の目的(転倒防止・自己抜去防止など)、③代替手段が十分に検討されていないケース、の 3 点を把握するところから始めるのがおすすめです。そのうえで、ポジショニングや離床量の調整など、PT・OT 主体で完結しやすい介入から小さく試し、うまくいった症例をカンファレンスや委員会で共有していくと、チーム全体の雰囲気も変わりやすくなります。

「どの症例なら身体拘束を緩められそうか」「そのために PT・OT は何を積み上げられるか」という視点で、日々の記録とカンファ内容を振り返ることが、持続可能な最小化の第一歩になります。

参考文献

  1. 厚生労働省老健局. 身体拘束廃止・防止の手引き. 2023. 厚生労働省ウェブサイト. https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001248430.pdf
  2. 厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」. 身体拘束ゼロへの手引き〜高齢者ケアに関わるすべての人に〜. 2001. PDF
  3. Fujita S, Michikawa T, Taniguchi T, et al. The Reality of Physical Restraint Implementation During Hospitalization in Older Patients With Hip Fractures. Geriatr Orthop Surg Rehabil. 2025;16:21514593251343499. doi: 10.1177/21514593251343499
  4. Ishida Y, et al. A Cross-Sectional Study of Rehabilitation Training Intensity and Physical Restraints in Patients With Neurocognitive Disorders in an Acute Care Hospital. Cureus. 2025;17(3):e81027. doi: 10.7759/cureus.81027

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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