はじめに|2026 年に離床アドバイザー/インストラクターを目指す理由
専門資格をキャリアにどう活かすか整理する( PT キャリアガイド )
離床アドバイザー/離床インストラクターは、日本離床学会が認定する「早期離床・モビライゼーションの専門家」を示す資格です。ICU・HCU・救急病棟・周術期病棟などで、安全かつ効果的に離床を進めるための知識と技術を体系的に学び、実践レベルまで高めたことを証明する位置づけといえます。対象は医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・薬剤師・臨床検査技師・管理栄養士など多職種で、チーム全体で離床文化を根付かせることがゴールです。
一方で、認定までには学会セミナー参加やポイント取得、筆記試験や実技試験など、数年スパンの準備が必要です。「興味はあるけれど、どこから始めればいいか分からない」「3 学会呼吸療法認定士や心臓リハ指導士との優先順位が悩ましい」と感じている方も多いと思います。本記事では、2026 年に離床アドバイザー〜インストラクターを目指す医療職を想定し、資格の位置づけ・認定制度の流れ・勉強ロードマップ・ICU/急性期での活かし方を整理します。細かな要件やスケジュールは変更される可能性があるため、最終的には必ず日本離床学会の公式情報を確認してください。
離床アドバイザー/インストラクターとは?
日本離床学会の認定制度は、「離床アドバイザー」「離床インストラクター」を軸に、早期離床に必要な知識・技術・臨床推論能力を評価する仕組みです。離床アドバイザーは、病棟やリハ室で実際に離床を進める実務担当者としての水準を示し、離床インストラクターは院内教育やカンファレンスでの指導・普及まで担う上位資格というイメージです。どちらの資格も、単にスコアや点数を取るためではなく、「安全な離床を現場でやり切る力」を重視している点が特徴です。
認定を受けることで、離床回診や ICU カンファレンスでの発言力が高まり、院内教育やマニュアル作成の中心メンバーとして期待されるケースも増えます。特にリハ職にとっては、呼吸・循環・鎮静管理などを含めた全身管理の理解が深まり、「ベッドサイドの運動療法」から一歩進んだ、モビライゼーションの視点を持てるようになる点が大きなメリットです。
認定制度とレベルの違い(プレアドバイザー〜インストラクター)
日本離床学会の認定制度には、学習の入り口として位置付けられている「プレ離床アドバイザー(プレアドバイザー)」や、離床アドバイザー・離床インストラクターといった複数の段階があります。プレアドバイザーは、講習会参加や簡易的な試験によって「離床の基礎知識が身についているか」を確認するレベルで、まずは早期離床の考え方に触れたい人のスタートラインとして適しています。
離床アドバイザーは、早期離床に関する知識・評価・リスク管理・多職種連携に関する理解を問う筆記試験などを通じて、「現場で自信を持って離床を進められるか」を評価する段階です。離床インストラクターでは、さらに症例提示や実技評価などを含めた試験が行われ、指導者としてのプレゼン能力や、複雑な症例での意思決定能力が求められます。いずれの段階でも、学会セミナー参加や継続的なポイント取得が必要であり、「取りっぱなし」ではなく学び続けることが前提となっています。
取得までの 5 ステップ(2026 年版の流れ)
離床アドバイザー/インストラクターを 2026 年に目指すイメージで、準備の流れを 5 つのステップに分けてみます。
- ステップ 1:日本離床学会の情報を確認し、自分のゴールを決める
まず日本離床学会の公式サイトを確認し、最新の認定要項・試験スケジュール・必要ポイントなどを把握します。そのうえで、「まずはプレアドバイザーで基礎固め」「2〜3 年かけて離床アドバイザー」「長期的にはインストラクターを目指す」といった自分なりのゴールイメージを決めておきましょう。 - ステップ 2:学会セミナー・講習会でポイントを貯める
日本離床学会が主催する年次大会やベーシックセミナー、各種専門コースに参加することで、認定に必要なポイントを蓄積していきます。オンライン開催の企画も増えてきているため、勤務形態に合わせて「年に何回参加するか」をあらかじめ決めておくと、ポイント不足に陥りにくくなります。 - ステップ 3:離床の基礎知識と評価・リスク管理を整理する
セミナーやテキストで学んだ内容を、呼吸・循環・意識・鎮静・筋力・ADL などの観点から自分なりにノート化しておきます。特に、どのような患者が離床ハイリスクなのか、どの段階で何をモニタリングすべきか、といった「離床のフローチャート」を頭の中で再現できるようにしておくと、筆記試験だけでなく臨床でも大きな武器になります。 - ステップ 4:離床アドバイザー試験に向けた対策を進める
必要なポイントを満たしたら、離床アドバイザー試験の受験を検討します。学会の公式テキストや過去の講習資料を中心に復習し、症例ベースで「この患者ならどう離床を進めるか」を自分の言葉で説明できるようにしておきましょう。筆記試験だけでなく、症例問題やケーススタディ対策も意識しておくと安心です。 - ステップ 5:インストラクターを視野に入れた症例経験とプレゼン練習
将来的に離床インストラクターを目指す場合は、ICU・HCU・救急などでの症例経験を意識的に積み、症例検討会や院内カンファレンスで発表する機会を増やします。日常的に「症例をまとめて話す」練習をしておくことで、インストラクター試験に必要なプレゼン力や指導力が自然と磨かれていきます。学び方全体の設計が気になるときは、一度キャリア全体の学び方も見直しておくと、他の認定資格とのバランスも取りやすくなります。
離床アドバイザーまでは 2〜3 年、インストラクターまでは 3〜5 年程度のスパンをイメージしておくと、学会参加・症例経験・試験対策を無理なく分散しやすくなります。
勉強ロードマップと学び方のコツ
離床系の勉強で重要なのは、「座学」と「症例経験」をセットで積み上げることです。まずは日本離床学会が出しているテキストやセミナー資料をベースに、早期離床の意義・合併症・禁忌・注意点・評価項目・プロトコルなどを整理します。同時に、ICU や救急・周術期・急性期病棟での症例を意識して振り返り、「この患者に対して、自分はなぜこのタイミングで離床を提案したか」「今思えば、どこでリスクを見落としていたか」を言語化していくことが大切です。
試験対策としては、講習会で配布された症例問題を繰り返し解いたり、院内の離床カンファレンスで出てきた症例を、学会テキストのフレームで整理し直したりする方法が効果的です。また、3 学会合同呼吸療法認定士や心臓リハ指導士など、他の認定資格で学んだ内容とも重なる部分が多いため、「呼吸・循環」「リスク管理」「運動処方」の共通部分を意識しておくと、勉強負担を減らすことができます。
ICU・急性期リハでどう活かせるか
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士にとって、離床アドバイザー/インストラクターで得られる知識とスキルは、ICU・HCU・救急での役割拡大に直結します。具体的には、「血行動態が不安定な患者に対して、どこまで離床してよいか」「人工呼吸器装着中にどの程度の運動負荷をかけてよいか」「鎮静スケールやせん妄スクリーニングをどう離床判断に組み込むか」といった場面で、自信を持って提案できるようになります。結果として、看護師や医師からの信頼も高まり、離床回診の場で主体的に発言しやすくなります。
看護師にとっては、離床の安全管理やモニタリングのポイントが整理され、夜勤帯や休日でも「この条件なら安全に座位を取れる」「この所見があれば一度離床を見合わせる」といった判断がしやすくなります。また、管理職や教育担当の看護師がインストラクター資格を持つことで、院内研修や新人教育の質を高めることもできます。薬剤師・臨床検査技師・管理栄養士などにとっても、自分の専門領域から離床にどう関われるかを再確認するきっかけとなり、多職種カンファレンスでの議論が深まりやすくなります。
現場の詰まりどころ
最初の大きなハードルは、「学会セミナーに参加するための時間と費用」です。シフト制勤務や当直がある職場では、土日の講習会に参加しづらく、オンライン受講も勤務調整が必要になることがあります。この場合、まずは所属長や同僚と相談し、年度ごとに「最低限この回だけは参加したい」という優先セミナーを決めておくと、スケジュールが組みやすくなります。複数人で参加して情報共有する形にすると、職場としてもメリットを実感してもらいやすくなります。
もう一つの詰まりどころは、「実技試験レベルの症例経験とプレゼン力」に対する不安です。ICU 配属の経験が少ない、重症症例の担当が限られている、症例発表の機会があまりない、といった状況だと、インストラクターを視野に入れづらいかもしれません。その場合は、まず離床アドバイザーをゴールに設定し、日々の症例を簡単なフォーマットで記録するところから始めてみてください。症例ログが蓄積してくると、自分の得意・不得意な領域が見えてきて、次にどのような経験を取りにいくべきかが明確になります。
よくある質問
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まずはプレアドバイザーから受けたほうが良いですか? いきなり離床アドバイザーでも大丈夫ですか?
早期離床に初めてしっかり取り組む場合や、離床学会のセミナー参加がまだ少ない場合は、プレアドバイザーから始めると全体像を掴みやすくなります。一方で、すでに急性期や ICU での離床経験が豊富で、学会セミナーにもある程度参加している方であれば、最初から離床アドバイザーを目標にしても構いません。重要なのは、「自分の臨床経験と勉強時間に見合ったステップを選ぶ」ことです。
3 学会合同呼吸療法認定士・心臓リハビリテーション指導士と比べて、どの順番で取るべきでしょうか?
呼吸管理や心血管病態に関する知識を広く深めたい場合は、3 学会合同呼吸療法認定士や心臓リハビリテーション指導士が土台になります。一方で、「実際にベッドサイドで離床をリードする力」を強化したい場合は、離床アドバイザー/インストラクターが非常に有効です。どちらが先でも構いませんが、呼吸・循環の基礎がある程度身についていると、離床のセミナー内容も理解しやすくなるため、「土台となる資格+離床アドバイザー」という順番を選ぶ方も多い印象です。
ICU の経験がほとんどありません。それでも離床アドバイザーを目指す意味はありますか?
ICU 経験が少なくても、急性期一般病棟や回復期病棟で重症例を多く担当している場合には、離床アドバイザーを目指す意味は十分にあります。むしろ、「ICU に異動する前の準備」として早期離床の考え方を学んでおくことで、異動後の立ち上がりがスムーズになるメリットがあります。症例経験を補うためには、ICU 勉強会への参加や、ICU 担当者との情報共有、回診への同行などを通じて少しずつ経験を広げていくと良いでしょう。
資格を取っても、給与やポジションが変わらない場合にメリットはありますか?
離床アドバイザー/インストラクターに手当やポストを直接紐づけている施設はまだ少ないかもしれませんが、ICU や救急・周術期での評価は高まりやすく、離床回診や教育担当・委員会活動などに関わる機会が増えるケースは多いです。また、転職や部署異動の場面で「離床に強い人材」としてアピールできることや、自身の臨床力を客観的に示せる点も大きなメリットです。資格そのものよりも、その過程で培った症例経験とネットワークが、キャリア全体の強みになっていきます。
おわりに
離床アドバイザー/インストラクターは、早期離床を軸に臨床力を高めたい医療職にとって、非常に実務寄りの学びが得られる資格です。その一方で、学会セミナーへの参加や症例経験の蓄積、試験対策など、日々の業務と並行して取り組むには相応のエネルギーが必要です。「本当にここまでやる意味があるのか」と迷うときは、自分が関わってきた重症例や退院時の患者さんの姿を思い出しながら、「離床の質を上げることで何が変えられたか」を一度振り返ってみてください。
働き方やキャリアの軸を見直したいときには、「どの領域を専門性の柱にするか」「どの程度まで重症度の高い患者さんと関わりたいか」を言語化することも重要です。その際に使える面談準備チェック( A4 ・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。ICU・急性期リハや離床に強い職場を探すときの物差しとしても活用できますので、詳しくはマイナビ医療介護のお役立ち資料ページを確認してみてください。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下、住環境整備

