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この記事は「摂食嚥下障害」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
摂食嚥下障害に対するリハビリテーションでは、多職種による専門的な介入が要求されます。理学療法士(physical therapist:PT)の専門性は運動機能に対する貢献であることから、摂食嚥下障害に対しては「姿勢」や「呼吸機能」への介入が特に求められると思います。
しかし、「姿勢」や「呼吸機能」と言われても具体的にどのような評価を行っていけばいいのか少し難しい分野だと思います。そのため、摂食嚥下障害に対するPTの専門性を活かした理学療法評価を6種類、紹介していきたいと思います。

【簡単に自己紹介】
30代の現役理学療法士になります。
理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。
現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。
臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。
そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。
理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです
登録理学療法士
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
理学療法士による摂食嚥下障害への支援
摂食・嚥下障害のリハビリテーションにおいて、言語聴覚士(ST)が中心的な役割を担うことは広く知られています。
ST は口腔・咽頭領域の機能評価や訓練、嚥下造影(VF)や嚥下内視鏡(VE)などを用いた高度な診療技術を有しており、摂食・嚥下障害に対する最も専門的な職種といえるでしょう。
しかし、摂食・嚥下障害の対応は ST 単独で完結するものではなく、医師、看護師、歯科衛生士、栄養士、作業療法士、そして理学療法士(PT)など、多職種によるチームアプローチが不可欠です。
理学療法士は、姿勢制御、筋力、可動域、呼吸機能など、身体機能全般に関する専門的な知識と技術を有しています。これらの知識は摂食・嚥下機能にも密接に関係しており、PT による関与は極めて重要です。
たとえば、適切なシーティングの調整によって安全な食事姿勢を確保し、座位保持能力の改善を目的としたバランス訓練を行うことで、誤嚥リスクの低減につながります。また、体幹や腹筋群の筋力強化を通じて、有効な咳嗽や呼吸機能の維持を図ることも可能です。これらの身体的側面へのアプローチは、摂食・嚥下障害の間接的な改善に寄与します。
「嚥下」という行為は、単に食塊を飲み込む動作にとどまらず、食事を認識する段階から始まり、口腔内への取り込み、咀嚼、食塊形成、嚥下動作という一連の過程によって成立します。この一連のプロセスには、頭頚部、体幹、上肢など多部位の協調運動が求められます。つまり、摂食・嚥下は全身機能の協働による複合的な動作であり、PT の知見が活かされる場面は数多く存在します。
また、PT が関与することで、食事という行為を「活動」から「社会参加」へとつなげる支援が可能になります。家族と一緒に食卓を囲む、友人との会食に参加するなど、食事を通じた社会的交流を取り戻すことが、QOL の向上にもつながるのです。
今後、理学療法士が摂食・嚥下障害に対して、より質の高い支援を提供するためには、従来の運動機能リハビリに加えて、嚥下生理や栄養学、呼吸・姿勢制御の観点からの知識の深化が求められます。チームの一員として、そして全身機能に精通した専門職として、PT ならではのアプローチを積極的に活用していくことが期待されます。
摂食嚥下障害とは

摂食・嚥下障害は、食物の認識から摂取、咀嚼、食塊の形成、嚥下、そして胃への送り込みに至る一連の過程に障害が生じる状態を指します。この障害は、脱水や栄養不良、誤嚥、窒息など生命維持に直結する重大なリスクを伴うことから、医療・介護の現場において早期発見と迅速な対応が極めて重要です。
他の疾患・病態と同様に、摂食・嚥下障害においても重症度や緊急度に基づいたトリアージを行い、早急な対応が必要なケースを見落とさないことが求められます。特に以下のような患者では、迅速な評価と専門的介入が必要です。
- 誤嚥性肺炎の合併や全身状態の急激な悪化を伴う患者
- 経口摂取が困難で、代替的な栄養管理が検討される患者
- 脳血管障害、神経筋疾患、進行性が予測される悪性腫瘍など、摂食・嚥下機能の急速な低下が懸念される患者
摂食・嚥下障害の原因は多岐にわたります。高齢による加齢性変化をはじめ、脳血管障害やパーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患、認知症、口腔・咽頭・喉頭・食道の器質的疾患、消化管の蠕動運動異常や胃食道逆流症(GERD)などの消化器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など呼吸器疾患による呼吸と嚥下の協調障害も関与します。さらに、全身状態の悪化や意識障害などが嚥下機能に影響を及ぼすこともあります。
近年では、サルコペニア(加齢や疾患による筋量・筋力の低下)に起因する摂食・嚥下障害に注目が集まっています。全身の筋肉と同様に、舌や咽頭、喉頭挙上筋、呼吸筋といった嚥下関連筋群も加齢や活動性低下により機能低下を起こします。その結果として、以下のような現象が生じやすくなります。
- 舌圧や舌の厚みの低下
- 咀嚼筋力の低下
- 咽頭収縮力や喉頭挙上機能の低下
- 咽頭腔の開大や咽頭残留の増加
- 咽頭内圧の低下
- 咳嗽力の低下による誤嚥物の排出困難
これらの変化は、誤嚥や誤嚥性肺炎の発症リスクを高める要因となります。
摂食・嚥下障害は単なる口腔機能の問題ではなく、全身状態や身体機能の変化とも密接に関係しています。そのため、理学療法士、言語聴覚士、作業療法士、看護師、歯科衛生士、管理栄養士など多職種が連携して、包括的な視点からアプローチすることが重要です。
嚥下のメカニズムと不良姿勢

嚥下障害の支援においては、単に口腔や咽頭の機能だけを評価・介入するのでは不十分です。
嚥下は、頭頚部や体幹、呼吸器系を含む全身の協調運動によって成立する複雑な生理機能であり、姿勢の影響を強く受ける動作でもあります。
不良姿勢が嚥下メカニズムに及ぼす影響を正しく理解しなければ、安全で効果的なリハビリテーションを実現することは困難です。
理学療法士と言語聴覚士がそれぞれの専門性を生かし、嚥下のメカニズムと姿勢制御の関係性を深く理解することが、質の高いチームアプローチの第一歩となります。
嚥下のメカニズムとその構成要素
嚥下は、先行期(認知・認識)→準備期(咀嚼・食塊形成)→口腔期→咽頭期→食道期という一連の流れによって構成される高度に統合された運動機能です。
言語聴覚士はこれらの各相における筋の協調や神経支配、反射機能などを精密に評価し、訓練計画を立案します。特に咽頭期における嚥下反射の誘発や咽頭収縮、喉頭閉鎖のメカニズムは、誤嚥・窒息のリスクと直結するため、専門的な知識が不可欠です。
不良姿勢が及ぼす嚥下機能への影響
嚥下機能は口腔や咽頭のみに局所化した機能ではなく、全身の姿勢制御や安定性と密接に関連しています。不良姿勢により生じる嚥下障害のリスクには以下のような点が挙げられます。
- 【頭部前方突出や過屈曲】
→喉頭の前上方移動が制限され、喉頭閉鎖不全や誤嚥の原因となる - 【体幹の後弯・骨盤後傾】
→食道の走行が歪み、嚥下物の流れが停滞しやすくなる - 【座位不安定性】
→咀嚼や食塊の移送に必要な上肢の安定性が低下し、食事動作全体の効率が低下する - 【呼吸と嚥下の協調障害】
→呼吸筋群や胸郭の不安定性が、嚥下中の適切な呼吸停止(swallowing apnea)に影響を及ぼす
言語聴覚士と理学療法士による連携
このような影響に対して、ST と PT の専門性を組み合わせたアプローチが極めて効果的です。
- 【ST の役割】
→嚥下反射や嚥下圧、咽頭残留、喉頭挙上などの細かな機能評価および訓練指導を行う - 【PT の役割】
→姿勢評価、体幹・頸部のアライメント調整、筋力・バランス訓練により、安定した食事姿勢を確保する
摂食・嚥下機能の改善には、全身の構造的・機能的統合が不可欠です。不良姿勢が引き起こす嚥下障害を予防・軽減するためには、ST の機能的評価と PT の身体的評価が連携して行われることが理想的です。
チーム医療の中で両者が協働することで、対象者にとって安全で快適な食事環境の提供と、生活の質(QOL)の向上を支援することが可能になります。
摂食嚥下障害に有効な理学療法評価
理学療法における嚥下機能評価は、身体機能との関連性について評価され、全身の姿勢調節を含めた多くの情報が多職種と共有されます。
急性期から在宅まで病期を限定することなく、臨床で役立つ身体機能と嚥下機能に直結する 6 つの理学療法評価についてわかりやすく解説します。
相対的喉頭位置

喉頭の位置を確認することは、摂食・嚥下障害における重要な評価項目となります。一般的に食べ物や水分を嚥下する時に喉頭が挙上することで、食塊通過に伴う喉頭蓋の閉鎖と食道入口部の開大の確保に繋がります。
しかし、加齢や廃用により喉頭の位置自体が下方に偏位しやすいことを理解する必要があります。喉頭の位置自体が下方に偏位すれば、嚥下する際に十分な高さまで喉頭を挙上することが困難になることが考えられます。
以上のことを念頭に置きながら矢状面や前額面で喉頭の高さを観察します。喉頭位置が低い場合は嚥下のタイミング不良や嚥下持続時間の延長を予測することができます。
測定方法
測定肢位はベッド上で側臥位とし、痛みが生じない範囲で頚部は伸展位とします。位置の指標として、「オトガイ(下顎骨の先端部)」「甲状軟骨上端」「胸骨上端(頚切痕)」の 3 箇所をランドマークとして扱います。
メジャーを使用して距離を測定します。測定部位は以下の 2 箇所となります。
- オトガイと甲状軟骨上端間の距離:GT
- 甲状軟骨上端と胸骨上端間の距離:TS
計算方法
GT ÷(GT+TS)で算出された値を相対的喉頭位置とします。
例題して、オトガイと甲状軟骨上端間の距離が 7.5 cm、甲状軟骨上端と胸骨上端間の距離が 5.5 cmだった場合の相対的喉頭位置を計算してみます。
GT ÷(GT+TS)= 7.5 ÷(7.5 + 5.5)
=7.5 ÷ 13 ≒ 0.58
この場合、相対的喉頭位置は 0.58 となり喉頭位置が下方に偏位していると考えられます。高齢者における相対的喉頭位置の基準値は 0.41 ± 0.05と報告されています。相対的喉頭位置は、値が大きいほど喉頭位置が上方にあることを意味しています。
測定結果の解釈
喉頭位置や舌骨上筋群および舌・口唇の運動機能.姿勢や呼吸は嚥下にかかわるため、嚥下運動を阻害する因子についての評価は重要になります。
相対的喉頭位置の偏位は、嚥下運動の阻害因子となります。例えば加齢などによって、舌骨上下筋群の筋力、筋肉量、筋緊張が低下すると喉頭位置は一般的に下方に偏位します。
喉頭位置が下方に偏位することにより、嚥下時の喉頭挙上が遅れ、喉頭蓋の閉鎖が不十分となります。また、それに伴い食道入口部の拡大も阻害される可能性が高くなります。
舌骨上筋群の筋力評価:GSグレード

測定方法
背臥位で頚部を他動的に最大前方屈曲位にします。対象者への説明としては「下顎を引いて顔の向きをそのままの状態で保持してください」と指示してから検者の手を離します。頭部が落下する程度を 4 段階のグレードで評価します。
判定基準
- 完全落下:頭部の落下を途中で静止させることができず、床上(ベッド上)まで落下する
- 重度落下:頚部屈曲可動域の 2 分の 1 以上落下するが、床上までは落下せずに途中で静止させ保持することができる
- 軽度落下:ある程度頭部が落下するが、可動域の 2 分の 1 以内の範囲で落下を静止させ保持することができる
- 静止保持:全く落下することなく、頭部最大屈曲位で保持することができる
Seated Side Tapping Test(SST)
座位におけるバランス能力を評価方法になります。摂食嚥下では座位姿勢が及ぼす影響が極めて高いことから座位におけるバランス能力は重要視するべき項目になります。
評価は対象者を背もたれのない座面高 41 cm の椅子に着座させて実施します。
両上肢を側方挙上させた状態で指尖から 10 cm 遠方かつ 72 cm の高さに目標物を設置します。
できるだけ速く交互に目標物を 10 回叩く所要時間を計測します。
立ち直り反応(righting reaction)
姿勢反射では、中脳レベルで立ち直り反応が統合されています。ある抗重力姿勢を保持するときには、ゆっくりとした軽微な外乱が加わります。または抗重力姿勢を連続して動作させる際にできるだけ左右対称の位置関係を一直線に保つような正中位へ姿勢を立ち直らせる一連の反応になります。
姿勢が崩れた体軸の傾斜に対して、立ち直り反応の有無について嚥下時間が検討されており、傾斜条件でも立ち直り反応の出現が認められれば正中位と比して差を生じず、傾斜条件で立ち直り反応が出現しなければ嚥下時間が延長すると報告されています。
咳嗽時最大呼気流速(PCF)
摂食嚥下障害を呈する場合には、反復唾液嚥下テストや水飲みテスト等によるスクリーニングテストによる誤嚥リスクの抽出に加えて、誤嚥した唾液や飲食物を咳嗽によって排出できるかどうかが肺炎発症リスクに関連します。
咳嗽の評価は知覚的側面および運動的側面からの評価に分類することができます。前者はクエン酸や酒石酸をネブライザーで吸入させる咳テスト、後者は咳嗽時最大呼気流速(Peak Cough Flow)という検査で評価することができます。
咳嗽時最大呼気流速(Peak Cough Flow)は略称で PCF とも呼ばれています。咳嗽時最大呼気流速(PCF)値は、咳漱力の有効性を反映する指標としてその信頼性や再現性が報告されています。
下肢筋力と握力
嚥下筋や舌については、摂食から咀階、嚥下に至る全過程において重要な役割を担っているため、口腔機能の評価において、これらの運動機能を評価することは不可欠になります。
しかし、摂食嚥下に関係しているのは口の中の筋肉だけではなく、四肢骨格筋も大きく関与していることが判明してきています。
先行研究によると、高齢の呼吸器疾患(肺炎)では呼吸筋や嚥下筋だけではなく四肢骨格筋の筋萎縮が引き起こされることが報告されています。
また、他の研究においても、嚥下障害では嚥下筋の筋肉量だけではなく四肢骨格筋量の減少、特に下肢筋肉量の減少との関連も示されています。
四肢骨格筋量を簡便に評価する方法、指標として握力があげられます。握力は摂食嚥下機能との関連性が認められており、最大舌圧が大きければ握力や全身の筋力が高く、舌圧と握力には強い相関関係があることが報告されています。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「摂食嚥下障害に対する理学療法評価」をキーワードに解説させて頂きました。
こちらの記事を読むことで摂食嚥下障害についての理解が深まり、臨床における摂食嚥下障害に対するリハビリテーション診療の一助へとなれば幸いです。
参考文献
- 内田学.PT / OTから診た嚥下障害 : 姿勢・呼吸を中心に.難病と在宅ケア.30(3),p47-50,2024.
- 藤原葉子,長谷公隆,永島史生,沖塩尚孝.嚥下障害患者における咳嗽時最大呼気流速の継時的変化.言語聴覚研究.12(4),p264-271,2015.
- 中村智之,美津島隆.摂食嚥下障害.臨牀と研究.101(4),p445-450,2024.