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脊髄小脳変性症によって生じる機能障害と活動制限
脊髄小脳変性症(Spinocerebellar Degeneration: SCD)は、小脳および脊髄を中心とした神経変性疾患群であり、進行性に運動機能や協調運動能力が低下していくことが特徴です。
代表的な症状は小脳性運動失調であり、歩行の不安定性、四肢の協調運動障害、言語の不明瞭化(構音障害)などがみられます。特に歩行障害は転倒リスクを高め、日常生活の自立度に大きな影響を及ぼします。
さらに、眼球運動障害や体幹失調により、立位保持や方向転換といった基本動作も困難となります。嚥下障害が進行すると誤嚥性肺炎のリスクが増加し、栄養状態や QOL の低下につながります。
進行に伴い ADL(日常生活活動)の自立度は低下し、食事、更衣、排泄、移動といった基本的行為に介助が必要となるケースも多く、社会参加(IADL)の制限も顕著です。
理学療法士は、姿勢・バランス能力の評価や歩行訓練を通じ、二次的合併症を予防しながら活動性の維持を図る役割を担います。
主な機能障害
脊髄小脳変性症で生じる機能障害の一例として以下のような症状があげられます。
- 小脳性運動失調
- 脊髄小脳変性症の代表的な症候で、小脳の障害により運動のタイミングや強さが適切に調整できなくなります。歩行時には左右へのふらつきや酩酊様歩行がみられ、立位保持や方向転換が困難になります。四肢運動では、目標物に近づくほど振戦が強くなる企図振戦や、急速交互運動の拙劣さが特徴的です。これにより、食事動作や書字といった巧緻動作にも著明な支障をきたします。
- 構音障害・嚥下障害
- 小脳性構音障害は、発声が途切れ途切れで不明瞭となり、会話の理解や意思疎通が困難になります。さらに嚥下障害は進行とともに顕著となり、嚥下反射の遅延や咽頭収縮の弱化によって誤嚥が生じやすくなります。これらは誤嚥性肺炎のリスク増大や栄養不良の要因となり、生命予後や QOL に直結するため、ST との連携を含めた早期対応が不可欠です。
- 眼球運動障害
- 小脳や脳幹の障害により、眼球運動の協調性が失われます。特に注視眼振や追従運動の障害、衝動性眼球運動の異常が認められ、視覚的な安定性が損なわれます。これにより、頭部や体幹の動きに伴いめまい・ふらつきが誘発され、歩行や日常生活の安全性が低下します。
- 体幹失調
- 体幹筋の協調性低下により、座位保持や立位保持に大きな困難を伴います。軽度では姿勢の揺らぎが主体ですが、進行により支持なしでは座位が保持できない、立位が極めて不安定で転倒しやすいといった重度の障害に至ります。体幹失調は下肢機能だけでなく上肢巧緻動作や嚥下動作にも影響するため、総合的な運動機能の低下をもたらします。
活動制限の具体例
脊髄小脳変性症で生じる活動制限として以下のような具体例があげられます。
- 基本動作の低下
- 起き上がりや立ち上がりでは体幹の不安定性と協調運動障害により、介助を要する場面が増えます。歩行では転倒リスクが高く、杖や歩行器などの補助具が不可欠になる場合もあります。
- ADL の自立度低下
- 食事では手の震えや巧緻動作障害により、箸やスプーンの操作が困難となります。更衣や排泄では体幹不安定性のため動作の持続が難しく、入浴では転倒や溺水のリスクが高まります。これらは生活全般の介助依存度増加に直結します。
- IADL の制限
- 買い物や調理、交通機関の利用など複雑な行為は、小脳失調による動作拙劣さと認知的負担増加により困難になります。就労継続が難しくなるケースも多く、早期から社会参加の制限が顕在化します。
- 社会的孤立・心理的影響
- コミュニケーション障害(構音障害)や外出制限は、家族以外との交流を減少させ、孤立感や抑うつを招きやすい傾向があります。心理的ストレスは身体機能の低下と相互に悪循環を形成するため、心理社会的な支援や家族教育も不可欠です。
このように脊髄小脳変性症は、小脳性運動失調を中心に多系統の機能障害が連鎖的に進行し、ADL・IADL の制限 → 社会参加の制限 → QOL 低下へとつながる疾患です。理学療法士は障害像を多面的に理解し、機能的アプローチと生活支援の双方を組み合わせることが重要となります。
脊髄小脳変性症 評価項目
脊髄小脳変性症は、進行性に小脳失調や体幹・四肢の協調運動障害、構音・嚥下障害など多様な症状を呈する疾患群です。症状の出現様式や重症度は個人差が大きく、経過とともに変化するため、理学療法における的確な評価が欠かせません。
一律の評価だけでは患者ごとのニーズに十分対応できず、個別性を反映したアプローチが困難となります。したがって、対象者の運動機能や ADL・IADL の状態に応じて評価項目を選択し、リハビリプログラムを適切に設計することが重要です。
脊髄小脳変性症の理学療法評価は大きく 4 つに分類することができます。
- 疾患特異的評価(失調重症度)
- SARA、ICARS などの評価尺度
- 運動機能評価
- 協調運動、関節可動域、筋力、筋緊張、バランス、歩行、基本動作能力
- 生活機能評価
- ADL・IADL(FIM、Barthel、FAI など)、疲労・QOL評価
- 嚥下・構音・その他の関連症状
- 嚥下スクリーニング、構音観察、二次的合併症リスク(転倒・誤嚥)
SCD は進行性疾患であるため、評価は一度きりではなく定期的かつ継続的に行い、病期や症状の変化に応じてリハビリ内容を更新することが求められます。
疾患特異的評価(SARA / ICARS)
脊髄小脳変性症(SCD)は進行性に小脳失調を主体とする症状が悪化するため、重症度を的確に評価することがリハビリテーション戦略の立案に不可欠です。
代表的な評価法として、SARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)と ICARS(International Cooperative Ataxia Rating Scale)が挙げられます。これらは歩行や立位の安定性、四肢の協調運動、構音、眼球運動などを多角的に評価することができ、疾患の進行度や介入効果のモニタリングに有用です。
理学療法士はこれらのスケールを用いることで、症状変化を数値化し、介入内容の妥当性や進行に応じたプログラム修正に活かすことが可能となります。定期的な評価を通じて患者・家族と情報を共有し、生活の質(QOL)の維持に向けた包括的支援を行うことが重要です。
SARA
SARA は小脳性運動失調の重症度を簡便に評価できるスケールで、8 項目・40 点満点から構成されています。各項目は 0点(正常)から高得点(重度障害)で採点され、合計点が高いほど失調が強いことを意味します。
- 特徴と臨床での利点
- 所要時間は約 10 分と短く、ベッドサイドでも実施可能
- 小脳性失調の主要症状を網羅的に評価でき、臨床研究から外来フォローまで幅広く活用される
- 短期間での変化検出も可能で、リハ効果の判定に有効
ICARS
ICARS は SARA と比較しても、より詳細で包括的な失調評価スケールであり、100 点満点で構成されます。評価は 4 つの領域に分かれ、小脳性運動失調を多角的に測定します。
- 評価領域の内訳
- 姿勢・歩行(34 点):歩行、立位保持、起立動作の安定性
- 運動失調(52 点):上肢・下肢の協調運動(指鼻試験、踵膝試験、交互運動)
- 言語(8 点):発話の明瞭性、リズム、抑揚
- 眼球運動(6 点):眼振、追従運動、サッケードの評価
- 特徴と臨床での利点・制約
- 所要時間は約 20 ~ 30 分と長く、詳細な評価が可能
- 小脳失調をより多次元的に把握でき、特に臨床研究や薬物治験で標準的に使用される
- 日常診療での活用は負担が大きいため、臨床では簡便な SARA が優先されるケースが多い
運動機能評価
脊髄小脳変性症(SCD)では、小脳性運動失調を中心に、協調運動障害、バランス不良、歩行障害が進行性に出現します。これらは日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)に直結するため、理学療法士は運動機能を多面的に評価し、適切な介入計画に反映させる必要があります。
評価は単一の項目に依存せず、協調運動や筋力、筋緊張に加え、姿勢制御や歩行能力の評価を組み合わせることで包括的に行います。さらに、進行性疾患であることを踏まえ、定期的な再評価を通じて変化を捉え、介入方針を更新することが求められます。以下に代表的な評価項目を示します。
協調運動機能の評価
脊髄小脳変性症(Spinocerebellar Degeneration: SCD)では、小脳性運動失調により協調運動が障害され、巧緻動作や歩行、姿勢制御に大きな影響を及ぼします。
協調性の低下は、動作の滑らかさやリズムが失われ、速さや正確性が著しく損なわれることで明確に現れます。これらの障害を的確に捉えることは、リハビリテーションにおけるターゲット動作の選定や進行度の把握に直結します。
協調運動機能の評価方法にはいくつか種類があり、大別すると四肢の協調運動機能の検査、測定障害の検査、反復障害の検査に分類することができます。また、SARA や ICARS などの評価スケールにも協調運動障害の評価は組み込まれています。
【四肢の協調運動機能の検査】
- 指鼻試験
- 指指試験
- 指鼻指試験
- 膝打ち試験
- 足趾手指試験
- 踵膝試験
- 足踏み試験(foot pat)
- 向こう脛叩打試験
【測定障害の検査】
- Arm Stopping Test
- コップつかみ運動
- 過回内試験
- 線引き試験
【反復障害の検査】
- 手回内、回外試験
- Finger wiggle
理学療法士はこれらの所見を多角的に解釈し、ADL・IADL への影響を推定しながら介入計画を調整することが求められます。
関節可動域検査(ROM)
脊髄小脳変性症(SCD)では、主症状である小脳性運動失調が中心となりますが、進行に伴う廃用や不良姿勢の持続により、関節可動域(ROM)の制限が二次的に生じやすくなります。特に体幹・股関節・足関節では柔軟性の低下が顕著となり、立位や歩行の安定性低下、転倒リスク増大に直結します。
また肩関節の可動域制限は更衣や整容動作を妨げ、頸部・体幹の硬さは嚥下や呼吸機能にも影響を及ぼす可能性があります。したがって、ROM 検査は単に可動域を測るだけでなく、ADL 制限や合併症のリスク要因を明らかにし、個別性の高いリハビリテーションを計画するうえで不可欠な評価項目です。

MMT(徒手筋力テスト)
脊髄小脳変性症(SCD)では主症状は小脳性運動失調ですが、進行に伴い活動量の低下や廃用による筋力低下が二次的に出現します。特に体幹や下肢の筋力低下は、立位保持や歩行の安定性を損ない、転倒リスクの増大や ADL 自立度の低下に直結します。
さらに、協調運動障害による動作効率の低下も筋力発揮を妨げる要因となり、失調と廃用の双方を考慮することが重要です。MMT(徒手筋力検査)は主要筋群の随意的筋出力を定性的に把握でき、進行度や生活機能への影響を反映する有用な指標です。定期的な MMT の実施は、リハビリ介入効果の判定や適切な運動療法の立案に欠かせません。
筋緊張の評価
脊髄小脳変性症(SCD)では、小脳性運動失調が主症状ですが、病型や進行により筋緊張の異常が併発することがあります。代表的には固縮や痙性がみられ、体幹や四肢の動作効率を低下させ、姿勢保持や移動動作に大きな影響を及ぼします。
筋緊張の異常は転倒リスクや ADL の障害を助長するため、理学療法計画において重要な評価項目です。評価には徒手的な触診に加え、Modified Ashworth Scale(MAS)などが用いられ、筋緊張の分布や程度を定量的に把握することが可能です。
定期的な評価により、ストレッチや装具使用、介助方法の工夫といった介入の有効性を検証でき、運動機能の維持・改善に直結します。
基本動作能力の評価
脊髄小脳変性症(SCD)は小脳性運動失調を主体とし、進行に伴って寝返り・起き上がり・立ち上がり・歩行といった基本動作に支障をきたします。特徴的なのは動作の不安定さや協調性の欠如であり、動作開始から終了までに時間を要することや、途中で姿勢が崩れることが多くなります。
これらの変化は転倒リスクや介助量の増加に直結し、ADL の自立度を大きく左右します。基本動作能力の評価は、自立度の把握に加えて、在宅生活の継続可能性や介護サービス導入の判断にも有用です。
理学療法士は、単に動作の可否を評価するだけでなく、どの段階で支援が必要となるかを詳細に観察し、リハビリ目標や介入内容を具体化する必要があります。
Basic Movement Scale(BMS)
Basic Movement Scale は、寝返りや乗り移りなど 9 項目の基本動作から構成されています。
上肢活用有無による動作遂行可否および 5 点から 1 点の 5 段階評定を判定尺度に用いるとともに、イラストによる動作の視覚化によって使用者および第三者の理解が得られやすいことが特徴の一つに挙げられます。

ABMS-2(Ability for Basic Movement Scale)
ABMS-2 は基本動作能力を簡易的に評価するスケールになります。「寝返り」「起き上がり」「座位保持」「立ち上がり」「立位保持」の 5 つの基本動作をそれぞれ、1 ~ 6 点で評価します。
基本動作(起居動作)のみで構成された評価尺度であり、ベッドやプラットフォーム等の横になる環境さえあれば、評価において特別な道具は不要となります。短時間で評価することができる点も特徴になります。

バランスの評価
脊髄小脳変性症(SCD)では、小脳障害に伴う体幹失調や姿勢制御障害が特徴的であり、静的・動的バランスの低下によって転倒リスクが著しく高まります。特に立位保持の不安定さや方向転換時のふらつきは、日常生活動作や歩行自立度に大きな影響を及ぼします。
そのため、理学療法士はバランス能力を多面的に評価し、転倒予防や介助量の見積もりに役立てることが求められます。代表的な検査として Berg Balance Scale(BBS)があり、立位・起居・移動の安定性を網羅的に評価可能です。
また、Timed Up and Go test(TUG)、Functional Reach Test(FRT)、Four Square Step Test(FSST)なども併用することで、動的バランスや外乱応答を定量的に把握できます。バランス検査の結果は、環境調整やリハビリ介入内容の具体化に直結し、安全な在宅生活の継続を支援する上で不可欠です。
ファンクショナルバランススケール
Functional Balance Scale は日常生活に密接に関連した機能的な動作 14 項目から構成されており、各項目を 0 ~ 4 点の 5 段階で評価し合計点を算出します。
合計点の得点範囲は最大 56 点、最低 0 点となり、点数が高いほど機能が高く、点数が 0 点に近いほど機能が低いことを示しています。

Timed Up & Go test(TUG)
TUG は椅子に座った状態から立ち上がって歩き出し、3 m 先の目印で折り返して再度椅子に座るまでの時間を計測するテストになります。
移動(歩行)に加えて、椅子からの起立・着座や方向転換を含むことから、歩行能力だけではなくバランスや筋力、判断能力などを必要とします。そのような特性から、ADL や易転倒性との関連が強いことが報告されています。
ファンクショナルリーチテスト
ファンクショナルリーチテスト(Functional Reach Test)とは、1990 年に Duncan らによって提案された動的バランス機能に対する評価方法であり、略称で FRT とも呼ばれています。
自然立位において上肢を可能な限り前方にリーチさせ、その距離を計測するテストになります。

Four Square Step Test(FSST)
Four Square Step Test(FSST)は 2002 年に Dite らが開発した、バランス能力(敏捷性)の評価方法となります。
FSST は低い障害物を越えて、前後・左右に素早くステップをするスピードを測定する評価法になります。信頼性や妥当性も認められており、転倒の予測にも有用であると報告されています。

歩行能力の評価
脊髄小脳変性症(SCD)では、小脳性運動失調により歩行の協調性が著しく低下します。典型的には酩酊様歩行と呼ばれるふらつき歩行や、歩行路がジグザグになる偏倚、方向転換の困難がみられ、転倒リスクが高まります。さらに体幹失調に伴う歩幅の不安定さやリズムの乱れは、在宅生活や社会参加の制限要因となります。
理学療法士は歩容観察に加え、10 m歩行テストやTUG(Timed Up and Go test)を用いて、速度・安定性・移動能力を定量的に評価することが求められます。また、方向転換や二重課題下での歩行を観察することで、実生活に近い状況でのバランス能力を把握できます。
歩行評価は進行度の把握だけでなく、転倒予防プログラムや環境調整、リハビリ介入効果の判定に直結する重要なプロセスです。
生活機能評価
脊髄小脳変性症(SCD)は進行性に運動失調が悪化し、基本的日常生活動作(ADL)や手段的日常生活動作(IADL)、さらには生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼします。そのため、理学療法士は運動機能のみならず、生活機能を包括的に評価することが重要です。
ADL 評価には FIM(Functional Independence Measure)や Barthel Index が広く用いられ、介助量や支援の必要性を可視化できます。IADL 評価としては Frenchay Activities Index(FAI)や老研式活動能力指標が活用され、社会的役割や応用動作の把握に有効です。
また、進行性疾患に特有の心理的・社会的影響を考慮するため、SF-36 などの QOL 尺度を組み合わせることが推奨されます。定期的な生活機能評価は、リハビリテーション目標の再設定や在宅生活継続の支援に直結します。
Barthel Index(バーセルインデックス)
Barthel Index(バーセルインデックス)とは、1965 年に米国の医師(Mahoney)と理学療法士(Barthel)によって開発された ADL 評価尺度です。
日常生活動作(ADL)の中でも特に重要性が高い 10 項目により構成され「できる ADL」を評価します。得点範囲は 0 ~ 100 点、得点が高いほど ADL 能力が高いと判定します。

FIM(機能的自立度評価法)
FIMとは「Functional Independence Measure」の略語で、1983 年に Granger らによって開発された ADL 評価法になります。
FIM の目的は、介護者の負担度を評価することになります。負担度をみることが目的のため、「できる ADL 」ではなく「している ADL 」を評価することが FIM の最大の特徴になります。

Lawton(ロートン)の尺度
Lawton(ロートン)の尺度とは 1969 年に Lawton、Brody らが開発した IADL 評価尺度になります。
性別によって評価項目が異なるというところが Lawton の尺度の特徴となっており、男性は 5 項目、女性は 8 項目から構成されています。

SF-36
脊髄小脳変性症(SCD)は進行性に小脳失調や体幹・四肢の協調運動障害、嚥下・構音障害を呈し、日常生活の自立度だけでなく社会参加や心理面にも影響を及ぼします。そのため、理学療法士は運動機能評価に加え、患者自身の主観的健康感や生活の質(QOL)を把握することが不可欠です。
代表的な尺度として SF-36® があり、身体機能、日常役割、社会生活、精神的健康など 8 領域を包括的に測定できます。短時間で実施可能であり、疾患特異的ではない一方、幅広い健康概念を評価できる利点があります。QOL 評価は治療やリハビリの効果判定、生活指導、介護支援計画に直結し、患者と家族を含めた包括的な支援を行う上で重要な役割を果たします。
嚥下・構音・その他の関連症状
脊髄小脳変性症(SCD)は進行に伴い、小脳性運動失調だけでなく、嚥下障害や構音障害といった生活機能に直結する症状が出現します。嚥下障害は誤嚥性肺炎や低栄養のリスクを高め、構音障害は意思伝達や社会参加を妨げるため、QOL 低下の要因となります。
理学療法士は直接的な嚥下訓練や言語訓練を担うわけではありませんが、嚥下時の努力感、食形態の適応状況、発話の明瞭度や声の変化を観察し、初期スクリーニングとして多職種へ情報共有する役割を担います。
また、認知機能や疲労感、二次的に起こる転倒や褥瘡なども評価対象となり、包括的な支援の基盤となります。これらの評価はリスク予防や早期介入を可能にし、在宅生活の安全性を高めるために不可欠です。
摂食・嚥下機能
脊髄小脳変性症(SCD)では、進行に伴い嚥下機能の低下が高頻度で出現し、誤嚥性肺炎や低栄養の主要なリスク因子となります。
小脳失調による協調運動障害は嚥下動作のタイミングやリズムを乱し、咀嚼から咽頭期への移行が不安定になることが特徴です。特に、咳反射が生じない「不顕性誤嚥」は臨床で見逃されやすく、早期からのスクリーニングが重要です。
摂食嚥下評価では、VE(嚥下内視鏡検査)や VF(嚥下造影検査)といった精密検査が有効ですが、まずは簡便な検査や観察を通じてリスクを捉えることが推奨されます。
理学療法士は直接的な嚥下訓練の主担当ではありませんが、姿勢調整、呼吸機能評価、食事環境の整備を通じて誤嚥予防と QOL 維持に貢献します。
簡易嚥下状態評価票(EAT-10)
脊髄小脳変性症(SCD)では、進行に伴い嚥下障害が高頻度で出現し、誤嚥性肺炎や低栄養の主要なリスク因子となります。嚥下動作の協調性が損なわれることで、咀嚼から嚥下への移行が不安定になり、不顕性誤嚥を含めた重篤な合併症に直結します。
簡易嚥下状態評価票(EAT-10)は、嚥下障害の早期発見を目的とした自己記入式スクリーニングツールであり、10 項目を 0 ~ 4 点で評価し、合計 3 点以上で嚥下障害の可能性が示唆されます。簡便かつ短時間で実施可能なため、外来・在宅・施設と幅広い場面で活用でき、SCD 患者の嚥下機能のモニタリングや経過観察に有効です。理学療法士は EAT-10 の結果をもとに、姿勢調整や食事環境の工夫を検討し、多職種連携に繋げることが求められます。
咳テスト
脊髄小脳変性症(SCD)では、進行に伴い嚥下機能の低下がみられ、誤嚥性肺炎の大きなリスク因子となります。特に「不顕性誤嚥」は咳反射が生じにくいため見逃されやすく、早期に嚥下障害をスクリーニングすることが重要です。
咳テストは、咳反射を誘発する薬剤(クエン酸など)を吸入させ、その反応を観察する簡便な評価法であり、不顕性誤嚥の有無を推測するのに有用です。実施は短時間で可能であり、外来や在宅など幅広い臨床場面で活用できます。
理学療法士は直接的に嚥下訓練を行う立場ではありませんが、咳テストを通じて嚥下リスクを早期に捉え、必要に応じて言語聴覚士や医師と連携することが求められます。定期的な評価により、安全な食形態の選択や誤嚥予防プログラムの立案に繋げることが可能です。
構音機能
脊髄小脳変性症(SCD)では、小脳性運動失調により発話のリズムや調節が乱れ、運動性構音障害(dysarthria)が高頻度に出現します。特徴的には、言葉が途切れ途切れになる断綴性言語や、声の強弱・抑揚の異常による聞き取りにくさがみられ、患者の意思伝達や社会参加を大きく制限します。
構音機能の評価では、発話の明瞭度、リズム、音の歪みを多角的に観察することが重要です。理学療法士は直接的な構音訓練の主担当ではありませんが、発話の変化を早期に捉え、言語聴覚士と連携することで包括的なリハビリ計画につなげる役割を担います。さらに、呼吸・発声・姿勢制御との関連も踏まえた評価を行うことで、QOL 維持に直結する支援が可能となります。
認知機能
脊髄小脳変性症(SCD)は小脳性運動失調を中心とした疾患ですが、近年では小脳が認知機能にも関与することが明らかとなり、注意障害、遂行機能障害、記憶障害などの認知機能低下が報告されています。これらは運動学習やリハビリ指導の理解に影響し、介入効果や在宅生活の安全性を大きく左右します。
そのため、理学療法士は運動機能だけでなく認知面を評価し、支援計画に反映することが求められます。簡易的な評価としては HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)や MMSE(Mini-Mental State Examination)が有用であり、必要に応じて MoCA-J(Montreal Cognitive Assessment)なども活用されます。
評価結果は多職種で共有し、指導内容の理解度や学習方法を個別化することで、包括的なリハビリテーションにつなげることが重要です。
HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は、認知症の早期発見を目的としたスクリーニング検査で、記憶・見当識・計算・言語などの認知機能を総合的に評価します。
全 9 項目、満点 30 点で構成され、20 点未満は認知機能低下の可能性を示唆します。脊髄小脳変性症では遂行機能や記憶力の障害が進行とともに現れるため、HDS-R による定期的な認知機能のモニタリングが重要です。

MMSE(Mini-Mental State Examination)
MMSE(Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)は、認知機能のスクリーニングとして広く用いられる検査です。見当識、記憶、注意、計算、言語、構成能力などの項目で構成され、最大 30 点で評価されます。
脊髄小脳変性症では、遂行機能や注意障害、記憶障害が進行に伴い出現するため、早期からの認知機能評価が重要です。MMSE は簡便かつ短時間で実施でき、認知症の有無や重症度の判定に有効です。

褥瘡発生リスク
脊髄小脳変性症(SCD)は進行性に体幹・四肢の協調運動障害や歩行障害が悪化し、やがて起居動作や移動の自立度が低下します。その結果、臥床時間や座位時間が長くなり、褥瘡の発生リスクが高まります。
褥瘡は一度発生すると治療に長期間を要し、感染や生活の質(QOL)の低下につながるため、早期予防が不可欠です。そのため、Braden Scale や OHスケールといった褥瘡リスクアセスメントスケールを活用し、皮膚の状態、活動性、移動能力、栄養状態、摩擦・ずれのリスクなどを定量的に評価することが重要です。
理学療法士はこれらの評価を通じて、体位変換、体圧分散寝具の導入、ポジショニング指導など予防的介入を提案できます。定期的なスクリーニングによりリスクの変化を把握し、早期から多職種と連携して包括的なケアを実施することが求められます。
ブレーデンスケール
脊髄小脳変性症(SCD)は進行性に運動失調や歩行障害が悪化し、活動量の低下や臥床時間の増加を招きやすい疾患です。これにより褥瘡リスクが高まり、在宅生活や入院治療において重要な管理課題となります。
ブレーデンスケール(Braden Scale)は、褥瘡発生リスクを予測するために開発された国際的に標準化されたアセスメントツールであり、感覚認知、湿潤、活動性、可動性、栄養、摩擦・ずれの 6 項目を評価します。
SCD 患者では体幹失調による不安定な座位・臥位保持、歩行困難に伴う活動性低下、嚥下障害による栄養不良などがリスク因子として重なりやすいため、定期的なスコアリングが不可欠です。
理学療法士は評価結果をもとに、ポジショニング指導や体圧分散寝具の導入、体位変換の工夫を提案することで、褥瘡予防に主体的に関与できます。ブレーデンスケールの活用は、SCD 患者の QOL 維持と包括的ケアの実現に直結します。
OHスケール
脊髄小脳変性症(SCD)は進行に伴い歩行障害や体幹失調が悪化し、臥床や長時間の座位が増えることで褥瘡発生リスクが高まります。褥瘡は感染や ADL 低下を引き起こし、在宅生活継続を阻害する重大な合併症です。
OH スケールは厚生労働省長寿科学総合研究班の調査を基に開発された日本発の褥瘡リスク評価ツールで、大浦武彦氏と堀田聰子氏の頭文字に由来します。高齢者に多い危険因子を反映しており、日本人の臨床現場に即した実用性が特徴です。
評価項目には年齢、活動性、食事・水分摂取、皮膚の状態などが含まれ、簡便にスクリーニングできるため、SCD 患者における褥瘡予防の初期介入に有効です。理学療法士は OH スケールを活用し、ポジショニングや離床訓練、栄養支援を多職種と連携して実践することで、褥瘡予防と生活の質(QOL)の維持に貢献できます。
理学療法士が行う評価結果の活用法
脊髄小脳変性症(SCD)の評価は、単なる状態把握にとどまらず、リハビリテーション戦略を構築する基盤となります。
例えばバランス検査で不安定性が強い場合は、転倒予防プログラムや補助具導入を優先し、筋力低下が認められれば廃用予防のための筋力強化や持久性訓練を組み込みます。
さらに嚥下や構音の評価結果は、ST との連携や食事環境の調整に直結します。定期的な再評価を通じて、進行に応じたリハビリ目標を柔軟に更新し、患者・家族と共有することで、納得感のある介入計画を立案できます。
理学療法士は評価を「診断」ではなく「行動指針」として活かし、ADL 維持と QOL 向上を支える役割を担います。
多職種連携の重要性
脊髄小脳変性症(SCD)のリハビリテーションでは、理学療法士だけでなく多職種の連携が欠かせません。
嚥下障害や構音障害に対しては言語聴覚士(ST)が専門的訓練を行い、理学療法士は姿勢調整や呼吸機能の観点から支援します。作業療法士(OT)は更衣や食事など IADL の工夫を担当し、自助具や環境整備を提案します。
また管理栄養士は栄養不良や体重減少に対応し、看護師は皮膚・褥瘡管理を担います。医師は疾患進行や薬物治療を統合的にマネジメントします。
理学療法士は評価結果を多職種に共有し、課題をチームで解決するハブ的役割を担うことが重要です。こうした包括的な連携により、ADL 維持と QOL 向上がより確実に実現されます。
まとめ
脊髄小脳変性症(SCD)は進行性に小脳性運動失調を主体とする多様な障害を生じ、ADL や QOL に大きな影響を及ぼします。そのため理学療法士は、疾患特異的評価(SARA・ICARS)から運動機能評価、生活機能評価、嚥下・構音など関連症状まで多面的に把握し、適切なリハビリ戦略を構築することが求められます。
評価は一度きりでなく、定期的かつ継続的に行い、進行に応じて目標や介入内容を柔軟に更新することが重要です。また、多職種と連携しながら包括的な支援を行うことで、転倒や褥瘡、誤嚥などの二次的合併症を予防し、患者・家族が安心して生活を継続できるよう支えることが可能になります。
理学療法士は評価を通じて、SCD 患者の生活と人生に寄り添う役割を担います。
参考文献
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