脊髄小脳変性症(SCD)の理学療法評価|チェックリスト&使い分け
本ページは SCD の臨床で迷いがちな「入口の確認 → カテゴリ選択 → 再評価固定」を、チェックリストと段階フローで統一します。安全を最優先に、同条件・同指標での経時比較を徹底します(外部リンクは新規タブ)。
最短フロー(安全 → 静的 → 動的 → 歩行)
矢印は左から右(負荷が上がる)で正しい並びです。初回はスクリーン中心、精査は別日に分けても構いません。
評価チェックリスト(入口 → カテゴリ → 再評価固定)
- 入口の確認:主訴/転倒歴/補助具・装具/既往(脳梗塞・末梢神経障害など)/睡眠・疲労/起立性低血圧の有無。
- カテゴリ選択(必要に応じて追加)
- 総合重症度:SARA(基軸)/ICARS(精査)
- バランス:ロムベルグ/mCTSIB → FRT・四方向リーチ → Mini-BESTest(精査)
- 歩行:10 m・TUG(装具/補助具・介助量も固定)
- 協調:指鼻・膝打ち・踵膝・回内外反復(速度×正確性)
- 眼球運動:滑動追従・サッケード・注視眼振(所見の方向と誘発条件)
- 体幹・姿勢:座位保持・立ち上がり・方向転換の安定性
- 構音・嚥下:発話明瞭度/EAT-10・RSST(必要に応じ VF/VE)
- ADL/IADL:FIM(している ADL)/Lawton IADL(買い物・金銭・服薬など)
- 自律神経:起立試験(血圧・心拍)/便秘・排尿障害の聴取
- 再評価を固定:同時間帯・同環境・同設定(床面/靴/足位/補助具/開始姿勢)で実施し、内服タイミングと疲労度を必ず併記。
代表指標の使い分け(要点早見)
| 領域 | 代表指標 | 目的 | 要点(SCD でのコツ) | 注意 |
|---|---|---|---|---|
| 総合重症度 | □ SARA/◆ ICARS | 運動失調の重症度と経時変化 | 順路固定・説明は簡潔。疲労の影響に留意。 | 同条件で再評価。動画記録が有用。 |
| 静的バランス | □ ロムベルグ/□ mCTSIB | 入力依存(視覚・前庭・体性感覚) | 床面・足位・靴を固定。最大保持秒で記録。 | 高リスクでは近接監視・支持者配置。 |
| 動的バランス | □ FRT/□ 四方向リーチ/◆ Mini-BESTest | 姿勢変換・リーチ時の安定性 | 身長・腕長を併記(比較補正)。代償動作を言語化。 | 踏み換えの有無を所見で残す。 |
| 歩行 | □ 10 m/□ TUG | 速度と機能的移動能力 | 助走 2 m+計測 10 m+余裕 2 m。介助量・補助具を固定。 | 小脳性失調歩行の特徴(歩隔・測定変動)を併記。 |
| 協調 | □ 指鼻・膝打ち・踵膝 | dysmetria/dysdiadochokinesia の把握 | 速度×正確性で採点。崩れ方(過小過大・反復で悪化)を書く。 | 疼痛・ROM 制限の影響を除外。 |
| 眼球運動 | □ 追従/サッケード/注視眼振 | 小脳・脳幹所見のスクリーニング | 方向・誘発条件(側方注視など)を固定語彙で記録。 | 複視・めまい強いときは中止・安静。 |
| 構音・嚥下 | □ 明瞭度/□ EAT-10・RSST(VF/VE 連携) | 窒息・誤嚥リスクと介入要否 | 体位と食形態を揃える。薬剤性口渇に注意。 | スクリーニングの限界を説明し ST と連携。 |
| ADL/IADL | □ FIM(している ADL)/□ Lawton IADL | 支援設計・家族教育 | 介助様式・時間・環境条件を具体化。 | 介護者負担感も評価。 |
記録テンプレ(同条件で再評価)
| 項目 | 設定・条件 | 結果 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ロムベルグ/mCTSIB | 足位/靴/床面(フォーム)/視覚 | 保持 s(最長 30–60) | ふらつき方向・支持物の有無 |
| FRT/四方向リーチ | 腕長 cm/開始姿勢/方向 | 到達 cm(3 回平均) | 体幹屈曲・踏み換え |
| 10 m 歩行 | 2 m+10 m+2 m/補助具・装具 | m/s(3 回平均) | 歩隔・左右差・ふらつき |
| TUG | 椅子高/靴/介助量 | 秒(×3 回) | 立ち上がり・方向転換の安定性 |
| SARA | 順路固定/説明簡潔 | 合計 /40 | 崩れ方(協調低下の特徴) |
実務のコツ
- 一度に全部やらない:疲労で成績が崩れます。スクリーン→精査で段階化。
- “崩れ方”を言語化:数値+代償(方向・タイミング・反復で悪化)を短文で残す。
- 起立性低血圧の管理:起立前の水分・弾性ストッキング・腹帯の装着手順と再評価をセットに。
参考文献(DOI / PubMed)
- Schmitz-Hübsch T, et al. Scale for the Assessment and Rating of Ataxia (SARA). Neurology. 2006. PMCID:PMC6927357
- Trouillas P, et al. International Cooperative Ataxia Rating Scale (ICARS). J Neurol Sci. 1997;145:205-211. PubMed:9149072
- Franchignoni F, et al. Mini-BESTest. J Rehabil Med. 2010;42:323-331. PubMed:20461334
- Duncan PW, et al. Functional Reach. J Gerontol. 1990;45(6):M192-M197. DOI:10.1093/geronj/45.6.M192
- Dite W, Temple VA. Four Square Step Test. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83(11):1566-1571. DOI:10.1053/apmr.2002.35469
- Podsiadlo D, Richardson S. Timed “Up & Go”. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. DOI:10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x
- Belafsky PC, et al. EAT-10. Ann Otol Rhinol Laryngol. 2008;117:919-924. PubMed:19140539
- Lawton MP, Brody EM. IADL Scale. Gerontologist. 1969;9(3):179-186. PubMed:5349366
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
おわりに
実地では「安全の確保 → 段階刺激(静的→動的→歩行) → スケール記録 → 再評価」というリズムが最重要です。数値とともに崩れ方を短文で残すと、チーム共有から介入設計まで一気通貫になります。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、面談準備チェック(A4)と職場評価シート(A4)も活用してください。印刷してそのまま使えます。


