ST は労災で何ができる?職業復帰支援の実務整理

制度・実務
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ST は労災で何ができる?

2026 年の労災診療費算定基準改定で、言語聴覚士( ST )が関われる職場復帰支援の業務が広がりました。今回まず押さえたいのは、職業復帰訪問指導料リハビリテーション情報提供加算職場復帰支援・療養指導料の 3 つです。制度名だけ見ると似ていますが、実際には「訪問でみる場面」「情報をつなぐ場面」「復職を支える場面」で役割が異なります。

本記事では、ST に何が追加されたのか、3 つの業務はどう違うのか、現場で何を確認・共有・記録すると使いやすいのかを実務ベースで整理します。制度速報で終わらず、自分はどこで何をすればよいかが見える形にまとめます。

2026 年改定の全体像を先に整理したい方へ

2026 改定のリハ実務まとめを見る

2026 年改定で ST に追加された 3 業務

今回の改定で、医師の指示を受けて行う職種として ST が追加されたのは、職業復帰訪問指導料リハビリテーション情報提供加算職場復帰支援・療養指導料の 3 業務です。つまり、ST は復職を見据えた訪問、情報提供、説明・指導の各場面で、より制度上明確に関与しやすくなりました。

大事なのは、3 つをひとまとめにせず、どの場面で何を担う制度かを分けて理解することです。訪問で環境をみるのか、情報を他職種や関係者へ渡すのか、就労に向けた説明や指導を行うのかで、記録の要点も連携先も変わります。

ST が関わる 3 業務の違いを整理した比較図
職業復帰訪問指導料、リハビリテーション情報提供加算、職場復帰支援・療養指導料の違いを 1 枚で整理した図版です。
2026 年改定で ST が関われるようになった 3 業務の全体像
業務 主な場面 ST の主な役割
職業復帰訪問指導料 復職予定先の確認、訪問指導 就労場面でのコミュニケーションや安全面の確認
リハビリテーション情報提供加算 医療機関・関係者への情報共有 復職に必要な機能面・配慮点の整理と共有
職場復帰支援・療養指導料 就労に向けた説明・指導 業務遂行を見据えた助言、自己管理支援、連携

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職業復帰訪問指導料で ST は何をする?

職業復帰訪問指導料は、復職予定先や就労場面を見据えて、必要な訪問指導を行う場面で考えると理解しやすい制度です。ST が入る意義は、単に「話せる・話せない」をみることではなく、実際の仕事のやり取りで困る場面や、指示理解、電話対応、対人コミュニケーション、食事・休憩場面の安全性などを具体的に確認できる点にあります。

訪問で見るべきポイントは、仕事内容そのものよりも、その仕事を遂行するために必要な機能と配慮です。たとえば、騒音下での聞き取り、複数指示への対応、メモ活用の可否、対面説明と電話説明の差、昼休憩時の嚥下上のリスクなどを整理すると、復職後の困りごとを先回りして見つけやすくなります。

訪問時に確認したいポイント

訪問では、業務内容を漠然と眺めるより、コミュニケーション・認知・嚥下のどこが就労に影響するかを見に行く方が実務で使いやすくなります。ST 視点では、相手の説明が聞き取れる環境か、指示を復唱・メモ化できるか、疲労で注意が落ちたときにエラーが増えないか、休憩や食事の安全が保てるかなどを押さえると整理しやすいです。

職業復帰訪問指導料で ST が見たい観察ポイント
観点 見ること 記録に残したい要点
コミュニケーション 対面・電話・周囲の騒音下でのやり取り 聞き返し回数、伝達手段、支援の有無
理解・注意 複数指示、手順保持、疲労時の変化 指示の入り方、メモ活用、エラー場面
嚥下・食事 休憩時の食形態、水分摂取、むせ 安全性、必要な配慮、自己管理の可否

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リハビリテーション情報提供加算で何を伝える?

リハビリテーション情報提供加算は、単に所見を並べる制度ではなく、復職に必要な情報を相手が使える形で渡すための整理と考えると実務に落としやすくなります。ST の情報提供では、失語・構音・高次脳機能・嚥下などの症状名だけでなく、仕事場面でどう困るか、何ができると安定するかまで言葉にすることが大切です。

伝える内容は多いほどよいのではなく、復職判断や配慮につながる要点に絞る方が相手に伝わります。たとえば、口頭指示より文書が理解しやすい、静かな環境では会話可能、電話より対面の方が安定、昼食は形態調整が必要、疲労で注意が落ちやすい時間帯がある、などの具体化が有効です。関連:2026 改定のリハ実務まとめ

情報提供で押さえたい 4 点

情報提供が抽象的になると、「結局どう配慮すればよいか」が相手に伝わりません。現在の機能就労上の困りごと必要な配慮再評価したい点の 4 点に分けると、文書も口頭説明も整理しやすくなります。

リハビリテーション情報提供加算で ST が整理したい内容
項目 具体例
現在の機能 対面会話は安定、電話は聞き取り低下が目立つ
就労上の困りごと 複数指示で抜けが出やすい、疲労時に集中が落ちる
必要な配慮 文書提示、復唱確認、静かな説明環境、休憩設定
再評価したい点 復職後のやり取り量、食事場面、疲労による変動

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職場復帰支援・療養指導料での ST の役割

職場復帰支援・療養指導料は、復職に向けて必要な説明や指導を行う場面で考えると分かりやすい制度です。ST がここで担いやすいのは、仕事中の伝達手段、疲労への対処、食事や水分管理、失語や高次脳機能障害へのセルフマネジメントなど、働きながら続けるための具体策を整理することです。

今回の通知では、高年齢被災労働者( 60 歳以上 )に対し、就労に当たっての療養上必要な指導事項と就労上必要な指導事項を記載した指導管理箋を交付した場合、150 点を加算できる取扱いも示されました。ST にとっては、本人への説明だけで終わらせず、就労上の注意点を文書で残す発想がより重要になったといえます。

ST が関わりやすい説明・指導の例

職場復帰支援・療養指導料では、症状を説明するだけでなく、働く場面でどう対処するかまで落とし込むことが求められます。たとえば、電話対応は短時間から始める、指示は文書と併用する、昼食は安全な食形態を選ぶ、疲労が強い時間帯は複雑な業務を避けるなど、行動レベルまで具体化すると使いやすくなります。

3 つの業務の違い【比較】

3 つの制度は似て見えますが、見る場面・渡す情報・支える目的が違います。迷ったときは、「現場を見に行くのか」「情報を渡すのか」「本人へ説明・指導するのか」の 3 つに分けると整理しやすくなります。

実務では、この違いが曖昧だと記録も連携もぼやけます。先に役割を分けておくと、訪問で見たことを情報提供にどうつなぐか、説明や指導にどう落とすかが見えやすくなります。

職業復帰訪問指導料・リハビリテーション情報提供加算・職場復帰支援・療養指導料の違い
項目 主な目的 ST がみる / すること 記録で残したいこと
職業復帰訪問指導料 就労場面の確認と訪問指導 仕事環境、やり取り、休憩・食事場面の確認 訪問場面、困りごと、配慮案
リハビリテーション情報提供加算 復職に必要な情報共有 機能、困りごと、必要な配慮を整理して伝える 共有先、共有内容、要配慮事項
職場復帰支援・療養指導料 本人への説明と復職支援 自己管理、業務調整、生活・就労上の助言 指導内容、理解度、継続課題

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現場の詰まりどころ

現場で止まりやすいのは、「 ST がどこまで関わるのか分からない」「制度名は分かるが、実際の記録が書けない」という場面です。とくに就労支援では、失語や高次脳機能、嚥下の問題を医療内だけで完結させず、仕事場面の困りごとへ翻訳する必要があります。ここが曖昧だと、訪問しても情報提供しても、実務で使える支援につながりにくくなります。

もう 1 つの詰まりは、相手に伝える内容が抽象的になることです。「注意障害あり」「失語あり」では、職場や他職種は動きにくいことがあります。どの場面で困るか、何があると安定するかまで具体化すると、説明も連携もぐっと通りやすくなります。

よくある失敗

よくある失敗は、制度名だけ覚えて中身が曖昧なまま進めてしまうことです。職業復帰訪問指導料なのに情報提供だけで終わる、情報提供加算なのに症状名の列挙だけで終わる、職場復帰支援・療養指導料なのに本人への具体的な助言が弱い、といったズレは起こりやすいです。

もう 1 つ多いのは、復職「前」だけを見て、復職「後」の困りごとを想像しないことです。電話対応、対人やり取り、食事、疲労、メモ活用、ミスの振り返りなど、復職後に問題が出やすい場面をあらかじめ考えておくと、訪問・情報提供・指導の質が上がります。

ST の労災対応で起きやすい失敗と回避策
よくある失敗 起きる理由 回避策
制度名だけで区別する 役割の違いが整理できていない 訪問・共有・指導に分けて考える
情報が抽象的 症状名の列挙で終わる 仕事場面の困りごとまで具体化する
本人説明が弱い 医療側の説明だけで終わる 就労中の自己管理方法まで助言する
復職後を想像しない 復職前評価で止まる 電話・対人・食事・疲労まで先回りする

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5 分で確認する実務フロー

制度を覚えるより先に、実務の順番を固定しておくと迷いが減ります。ST の労災対応では、対象者の状況を把握し、復職で困る場面を整理し、必要な訪問・共有・指導に落とす流れが基本です。

まずは次の 5 ステップを押さえておくと、職業復帰訪問指導料、リハビリテーション情報提供加算、職場復帰支援・療養指導料のどれを考える場面でもブレにくくなります。

  1. 対象者の仕事と復職予定を確認する
  2. コミュニケーション・認知・嚥下の課題を整理する
  3. 困りごとを就労場面の言葉に置き換える
  4. 訪問・情報提供・指導のどこが必要か決める
  5. 記録に「配慮点」と「次の確認事項」を残す

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

ST に追加されたのは何ですか?

2026 年の労災改定で、医師の指示を受けて行う職業復帰訪問指導料、リハビリテーション情報提供加算、職場復帰支援・療養指導料の対象職種に ST が追加されました。

3 つの業務の違いは何ですか?

大まかには、職業復帰訪問指導料は「訪問でみる」、リハビリテーション情報提供加算は「情報を共有する」、職場復帰支援・療養指導料は「本人へ説明・指導する」と整理すると分かりやすいです。

ST は何を記録しておくと実務で使いやすいですか?

症状名だけでなく、仕事場面での困りごと、必要な配慮、本人ができる対処、次回確認したい点まで残しておくと、訪問・共有・指導のどの場面でもつながりやすくなります。

高年齢被災労働者への加算は何ですか?

今回の通知では、高年齢被災労働者( 60 歳以上 )に対し、就労に当たっての療養上必要な指導事項などを記載した指導管理箋を交付した場合、職場復帰支援・療養指導料に 150 点を加算できる取扱いが示されました。

制度名を覚えるだけでは足りませんか?

足りません。実務では、どの制度で、どの場面を見て、誰に何を伝え、本人へどこまで助言するかまで整理してはじめて使いやすくなります。

次の一手

まずは、今回の 3 業務を「訪問」「情報共有」「説明・指導」に分けて理解してください。そのうえで、自分の現場で ST が関わりやすい場面を 1 つ決め、記録に残す観点を固定すると、制度が実務へ落ちやすくなります。

制度を読んで終わりにせず、訪問・共有・指導のどこで自分が関わるかまで具体化しておくと、現場での動き出しがかなり楽になります。


参考情報

著者情報

rehabilikun のプロフィール画像

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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