脳卒中リハ:評価項目の全体像(病期別フロー付き)
脳卒中リハビリの評価は「何を・なぜ・いつ測るか」を病期(急性期/回復期/生活期)で整理すると迷いが減ります。本ページは 評価項目の全体像を“病期別フロー”で可視化し、代表スケールの役割分担と再評価のリズムまで一望できる 総論としてまとめました。
網羅ではなく 目的適合が原則です。数値は 動作観察と 本人の主観(困りごと/生活背景)とセットで扱い、ゴール(生活再建)に接続してください。外部文献リンクは新規タブで開きます。
評価の“型”を整えると、臨床の伸びと働き方の選択肢が一緒に増えます。 理学療法士の転職ガイド|臨床スキルと両立する進め方(#flow)
病期別フロー(図解)
急性期 → 回復期 → 生活期で、目的・優先評価・補助評価・実務ヒントを 1 枚に整理しました。スマホでは横にスクロールすると読みやすいです。
病期×目的×優先評価(早見表)
| 病期 | 主目的 | 優先評価(例) | 記録ポイント | よくある失敗 |
|---|---|---|---|---|
| 急性期 | 安全判定・二次悪化予防・離床可否 | NIHSS/JSS、JCS/GCS、BP・HR・SpO₂、起立性低血圧、嚥下スクリーニング | 体位・補助の有無・測定タイミング(前/中/後)を固定して残す | 点数だけ残して、条件(体位/酸素/薬剤)を書かない |
| 回復期 | 障害像の特定とターゲティング | SIAS、BRS、ROM/MMT、体幹(FACT/TCT)、注意・無視(CBS)、プッシャー(SCP) | 主要アウトカムは“同条件”で週次、日々はボトルネック動作で追う | 評価が増えすぎて介入が薄くなる(測る順番を決めない) |
| 生活期 | 転倒リスク・耐久・参加最適化 | BBS/TUG/FRT/10 m 歩行、ADL(Barthel/FIM)、IADL(Lawton/老研式)、心理(HADS/GDS) | 屋内/屋外、補助具、疲労(Borg)をセットで記録して“再現性”を担保 | 「できる(能力)」と「やっている(実行)」を混ぜて結論がズレる |
現場の詰まりどころ(最短でほどくコツ)
| 場面 | 詰まりどころ | 対策(型) |
|---|---|---|
| 急性期 | 離床可否の判断が人でブレる | 体位変換→端坐位→立位の“段階刺激”に固定し、各段階でバイタル・意識・症状を同じ順で確認する |
| 回復期 | 評価が多くて介入ターゲットが散る | 週次アウトカム(例:SIAS/体幹/歩行)を 2〜3 本に絞り、日々は“主ボトルネック動作”で再評価する |
| 生活期 | 転倒と参加の見立てが弱い | バランス(BBS/TUG/FRT)+歩行速度( 10 m )+IADL をセット化し、屋外課題と環境調整を同時に進める |
代表的スケールの要点(超要約)
神経学的重症度|NIHSS/JSS
急性期の標準。NIHSS は 0–42 点で高点=重症。JSS は急性期の日本版スケールとして用いられます。離床・検査/治療・観察強度の優先順位付けに直結するため、評価条件(体位・酸素・薬剤・時間帯)を必ず併記します。
運動機能|SIAS・BRS・ROM・MMT
SIAS は障害像を“地図化”する枠組みです。BRS は上肢/手指/下肢をステージ I–VI で整理し、課題難易度の段階化に向きます。ROM/MMT は個別ボトルネック(拘縮・筋出力)を特定し、介入の優先順位を決めます。
体幹|FACT・TCT
体幹は移乗・立位・歩行の“土台”です。FACT は体幹コントロールの可否を、TCT は寝返り/起き上がり/座位保持など基本動作の成立を捉えます。体幹の改善が他課題へ波及するため、回復期の中核に置きやすい指標です。
バランス・移動|BBS・TUG・FRT・10 m
BBS は静的〜準動的バランスの代表。TUG は起立→歩行→方向転換→着座の総合力、FRT は前方リーチの余裕を簡便に見ます。10 m は速度・歩数・ケーデンスを同時に追うと、介入の当たり外れが早く分かります。
高次脳機能|CBS・SCP・時計描画
CBS は日常場面における半側空間無視を行動観察で捉える尺度です。SCP はプッシャーの重症度を整理し、移乗・立位練習の安全管理に役立ちます。時計描画は視空間・計画・遂行のスクリーニングとして“追加評価の要否”を判断する目的で用います。
ADL・IADL|Barthel・FIM・Lawton・老研式
Barthel は「できる ADL」、FIM は「している ADL(介護量)」の側面が強く、退院支援や情報共有に向きます。IADL は買い物・移動・服薬など生活自立に直結し、サービス設計や家族教育(環境調整)に繋げやすい指標です。
心理・呼吸循環|HADS・GDS・mMRC・Borg
心理の落ち込みや不安は活動性の低下に直結します(早期に拾って支援へ)。運動耐容の安全管理は mMRC と Borg を、安静→運動中→回復で連続評価すると“その日の上限”が見えやすくなります。
安全管理・中止基準(目安)
| 項目 | 目安 | 記録・運用のコツ |
|---|---|---|
| SpO₂ | < 90% またはベースから −4% 以上低下 | 呼吸数、努力呼吸、咳嗽・痰、体位を併記 |
| 血圧 | 収縮期 > 180 または < 90 mmHg、急変動 | 起立性低血圧( 20/10 低下)では中止し、座位で回復を確認 |
| 心拍 | 安静比 1.4 倍超、もしくは不整脈出現 | β 遮断薬等の影響に留意し、症状(動悸・胸部不快)も確認 |
| 症状 | 胸痛、重度呼吸困難、めまい/失神前駆、神経症状悪化 | 症状→即時中止→再評価→記録(何が増悪したか) |
※数値は一例です。患者背景・医師指示・施設基準を厳守してください。
再評価の頻度(目安)
| 病期 | 日次で追うもの | 週次で追うもの | 節目で追うもの |
|---|---|---|---|
| 急性期 | バイタル、意識、症状、離床耐性 | (必要時)重症度の推移 | 病棟移動・治療変更・退院前の説明時 |
| 回復期 | 主ボトルネック動作(移乗、立位、歩行の一部) | 機能アウトカム(例:SIAS、体幹、歩行指標) | 装具変更、退院前訪問、目標見直し時 |
| 生活期 | 活動量、疲労(Borg)、安全面の変化 | バランス/歩行速度/IADL | 転居・復職・サービス変更など生活イベント時 |
評価→介入→再評価の回し方
| ステップ | やること | 残す記録 |
|---|---|---|
| 1 | 仮説立案:病期・合併症・主訴から主要ボトルネックを仮決め | 主訴、生活背景、優先課題( 1〜2 個 ) |
| 2 | 最小限計測:病期に適合した優先スケールで安全/機能をスクリーニング | 体位、補助、酸素、時間帯、前/中/後の値 |
| 3 | ターゲット介入:体幹・分離運動・バランス・IADL を回路化して段階刺激 | 課題難易度、環境、成功条件(何ができたか) |
| 4 | 再評価:同指標でフィードバック(週次は機能、日次は安全・動作) | 同条件での比較、変化量、次の調整点 |
| 5 | 共有:チームで見える化(図表/数値/動画)→目標と支援策を同期 | 短い結論( 1 行 )+次アクション( 1 行 ) |
おわりに
実地では「安全の確保→段階刺激→スケール記録→再評価」というリズムが最重要です。病期別に目的適合の評価を選び、数値と動作観察を束ねて生活再建に接続していきましょう。
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よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
急性期に「やってはいけない」評価はありますか?
神経症状が不安定、血圧・心拍・SpO₂ に急変動がある状況では、起立や長距離歩行など 生理負荷の大きい評価は行いません。まずはバイタル/意識/症状(めまい・胸部不快・呼吸困難など)を再評価し、体位変換→端坐位→立位の 段階刺激で進めます。
回復期で評価が増えすぎたとき、何を削ればいいですか?
週次で追う 主要アウトカムを 2〜3 本に絞り、その他は「主ボトルネック動作(例:移乗の一部、立位保持、 10 m の一部)」で日々の変化を拾う運用が現実的です。評価の“順番”と“条件”を固定すると、削っても臨床判断の質が落ちにくくなります。
同じスケールなのに点が揃いません。原因は?
多くは 条件の違いです(体位、補助具、装具、靴、環境、声かけ、練習回数、疲労の程度)。点数と一緒に「条件」をテンプレ化して残すと、施設内の再現性が上がります。
生活期で“転倒予測”に強い評価はどれですか?
単体よりも、バランス(BBS/TUG/FRT)+歩行速度( 10 m )+ IADL を セットで追うと見立てが安定します。屋外課題や公共交通など“実生活課題”へ段階的に接続し、環境調整と教育(家族含む)を並走させます。
“できる ADL”と“している ADL”はどう使い分けますか?
「できる(能力)」は介入の上限を見積もるのに有用で、「している(実行/介護量)」は退院支援・連携に直結します。両者がズレるときは、環境・見守り・手順・疲労・注意障害など“阻害因子”を特定すると、支援策が具体化します。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
参考文献
- Brott T, Adams HP Jr, Olinger CP, et al. Measurements of acute cerebral infarction: a clinical examination scale. Stroke. 1989;20(7):864–870. https://doi.org/10.1161/01.STR.20.7.864
- Duncan PW, Weiner DK, Chandler J, Studenski S. Functional Reach: A new clinical measure of balance. J Gerontol. 1990;45(6):M192–M197. https://doi.org/10.1093/geronj/45.6.M192
- Podsiadlo D, Richardson S. The Timed “Up & Go”: A test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142–148. https://doi.org/10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x
- Berg KO, Wood-Dauphinee SL, Williams JI, Maki B. Measuring balance in the elderly: validation of an instrument. Can J Public Health. 1992;83(Suppl 2):S7–S11. PubMed
- 千野直一. Stroke Impairment Assessment Set(SIAS). リハ医学. 1994;31(2):119–125. https://doi.org/10.2490/jjrm1963.31.119


