脳卒中上肢リハの tDCS 実務|学習の土台を整えて反復を効かせる運用ガイド
脳卒中上肢リハで tDCS を使う目的は、刺激を単独で評価することではなく、反復課題練習の学習効率を上げる土台を整えることです。特に「練習はできるが上達が遅い」「翌週に再現しにくい」といった局面で、前処置としての tDCS と反復設計をセットで固定すると、介入の再現性が上がります。
本記事は、現場で迷いやすい「導入判断」「実施後の反復設計」「失敗の立て直し」「安全管理」「最小記録」を、運用順で整理します。細かい条件より先に、ねらい・課題難度・評価軸をチームでそろえる前提で読める構成です。
まずの結論|迷ったらこの 3 点だけ
- tDCS は前処置として使う:迷ったら「前処置 → 反復 → 短い再評価」で固定する。
- 成功率 7 割で反復を回す:難度を下げても成功反復を維持し、代償固定を防ぐ。
- 判定は翌週の再現性まで見る:直後効果だけでなく同一課題の再現性で判断する。
tDCS の役割|どの局面で導入するか
tDCS は、課題そのものは成立するが「学習が伸びにくい」局面で候補になります。実装では、刺激直後に反復課題を置く設計が重要です。練習なしで終えると、学習への接続が弱くなりやすいためです。
| 判断項目 | 導入を考える局面 | 見送りを考える局面 | 実務ポイント |
|---|---|---|---|
| 課題成立 | 課題は成立するが上達が遅い | 課題が不成立で難度調整が先 | まず課題成立条件を固定する |
| 学習定着 | 翌週の再現性が低い | 練習量不足が明らか | 同一課題で再現性を比較する |
| 安全・体調 | 皮膚状態・体調が安定 | 皮膚トラブル、不快感が強い | 開始前チェックを固定する |
| チーム運用 | 記録項目が統一されている | 評価軸が担当者でばらつく | 成功率・代償・翌週再現を固定記録 |
1 セッションの型|準備 10 分 → 前処置 → 反復 20 分 → 再評価 3 分
- 準備( 5–10 分 ):疼痛、疲労、覚醒、皮膚状態を確認し、今日のねらいを 1 つ決める(例:把持成功率)。
- 前処置( tDCS ):施設 SOP に沿って実施し、不快症状や皮膚反応の有無を確認する。
- 反復( 20–30 分 ):実施直後に課題練習へ接続し、成功率 7 割を目安に難度を調整して反復回数を確保する。
- 再評価( 2–3 分 ):同一課題で成功率・所要時間・代償を記録し、次回の難度設定に接続する。
実施後の反復設計|学習が残る形にする
tDCS の効果を臨床で活かすには、実施後の反復設計が中心です。課題が難しすぎると成功反復が切れ、易しすぎると学習刺激が不足します。成功を保ちつつ 1 段階ずつ負荷を上げる設計が、再現しやすい運用です。
| 調整軸 | 開始設定 | 崩れたときの対策 | 次回の進め方 |
|---|---|---|---|
| 課題難度 | 成功率 7 割前後 | 工程分割して成功を回復 | 成功維持で 1 段階上げる |
| 反復量 | 短ブロックで回数確保 | 休憩を固定して回数維持 | 翌週再現を見て増減する |
| 代償管理 | 肩すくめ・体幹代償を監視 | 回数を一時調整して質を回復 | 代償許容ラインを共有する |
| 定着確認 | 同一課題で短く再評価 | 指標を絞って記録統一 | 翌週の再現性で継続判断 |
現場の詰まりどころ|失敗の入口を先に潰す
tDCS の詰まりは「刺激不足」より、反復設計と記録の不統一で起きることが多いです。まず よくある失敗 を確認し、続けて 記録テンプレ で再発を防いでください。指標全体を見直す場合は 評価ハブ で関連評価をまとめて確認できます。
- 実施後に課題を固定しないと、効果判定がぶれます。
- 回数だけ増やすと、代償が増えて質が落ちます。
- 翌週再現を見ないと、定着の判断を誤りやすくなります。
よくある失敗|原因 → その場の対策
| よくある失敗 | 原因 | その場の対策 | 次回の予防 |
|---|---|---|---|
| 実施後の反復が少ない | 課題選定が曖昧で開始が遅れる | 事前に課題 2 パターンを準備 | 前日までに課題固定を徹底 |
| 直後は良いが翌週に戻る | 定着確認をしていない | 同一課題で短い再評価を追加 | 翌週再現を固定指標にする |
| 代償が増えて質が低下 | 難度設定が高すぎる | 難度を 1 段下げて成功率回復 | 成功率 7 割ルールを運用 |
| 不快感で中断しやすい | 開始前確認が不十分 | 体調・皮膚状態を再確認 | 開始前チェックを記録化 |
安全管理|中止・延期基準を表で固定する
| 確認場面 | 中止・延期の目安 | 見落としやすい点 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 開始前 | 皮膚状態不良、体調不良、強い不安 | 乾燥・発汗、前回の皮膚反応 | 実施可否理由、同意確認 |
| 実施中 | 強い痛み、不快感増悪、継続困難 | 我慢して続けてしまう | 症状の程度、発生時刻、対応 |
| 実施後 | 反復成立困難、疲労蓄積 | 難度過多、休憩不足 | 反復量、成功率、翌日影響 |
記録テンプレ| 1 分で残す最小セット
| 項目 | 書き方の例 | 目的 |
|---|---|---|
| 今日のねらい( 1 つ) | 把持後のリリース成功率を上げる | 介入焦点を固定する |
| 課題(固定) | リーチ 30 回、把持・離し 20 回 | 再現性を担保する |
| 反復回数 / 成功率 | 成功 35 / 50( 70 % ) | 量と成立度を可視化する |
| 代償チェック( 2 項目) | 肩すくめ:軽度、体幹代償:なし | 質低下を早期発見する |
| 安全反応 | 皮膚トラブルなし、不快感軽度 | 継続可否を判断する |
| 次回の一手 | 難度を 1 段上げて同課題継続 | 継続介入へ接続する |
よくある質問(FAQ)
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頭に機器を当てることは本当にあるのですか?
あります。tDCS は頭皮に電極を貼って弱い直流電流を用いる非侵襲的手法です。手術は不要で、単独で完結させるのではなく、実施後の課題反復と組み合わせて運用するのが基本です。
tDCS はどのタイミングで入れるとよいですか?
迷ったら前処置として実施し、その直後に課題反復へ接続します。先に反復課題を決めておくと、実施後の流れが途切れにくくなります。
効果判定は直後の変化だけで十分ですか?
直後評価は重要ですが、翌週に同じ課題が再現できるかも確認してください。臨床では「同一課題の成功率」と「代償の質」を固定すると判定がそろいます。
不快感が出た日は中止した方がよいですか?
強い不快感や継続困難な症状がある場合は中止・延期を検討します。軽度でも繰り返す場合は、体調・皮膚状態・運用手順を見直し、施設 SOP に沿って対応してください。
課題が難しくて失敗が続くときはどう立て直しますか?
難度を 1 段下げて成功率 7 割へ戻し、工程分割で反復を再開します。成功が戻ってから段階的に統合すると、質を保ったまま回数を確保しやすくなります。
チームで運用をそろえる最短の方法は?
「課題」「反復回数」「成功率」「代償 2 項目」「翌週再現性」を固定記録にします。担当者が変わっても評価軸がぶれにくくなります。
次の一手
- 運用を整える:上肢ニューロモデュレーション総論(全体像)
- 共有の型を作る:FES / NMES 実務(反復回数を増やす型)(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Butler AJ, Shuster M, O’Hara E, et al. A meta-analysis of the efficacy of anodal transcranial direct current stimulation for upper limb motor recovery in stroke survivors. J Hand Ther. 2013;26(2):162-170. doi: 10.1016/j.jht.2012.07.002 / PubMed: 22964028
- Yu L, Chen H, Chen C, et al. Efficacy of anodal transcranial direct current stimulation for upper extremity function after ischemic stroke: A systematic review of parallel randomized clinical trials. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2025;34(1):108112. doi: 10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2024.108112 / PubMed: 39505058
- Elsner B, Kugler J, Pohl M, Mehrholz J. Transcranial direct current stimulation (tDCS) for improving aphasia in patients after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2020;12:CD009760. doi: 10.1002/14651858.CD009760.pub4
- Kang N, Summers JJ, Cauraugh JH. Transcranial direct current stimulation facilitates motor learning post-stroke: A systematic review and meta-analysis. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2016;87(4):345-355. doi: 10.1136/jnnp-2015-311242
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


