移乗の中止基準と方法変更の判断|転倒を防ぐ実務フロー

臨床手技・プロトコル
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移乗の中止基準と方法変更の判断|転倒を防ぐ実務フロー

移乗で事故が起きやすいのは、介助技術の不足よりも「止める判断」が遅れる場面です。特に、新人 PT が迷いやすいのは、危険サインが出ているのに「もう 1 回ならできるかも」と続行してしまうことです。

本記事は、移乗の中止基準を「転倒リスク・疼痛・理解/注意・循環動態」の 4 軸で整理し、立位回旋からスクワットピボット、2 人介助、機器移乗へ切り替える判断を実務フロー化します。動作分析の全体像は ベッド⇄車椅子移乗の動作分析(親記事) を参照してください。

中止基準の基本原則(先に安全側へ倒す)

判断の軸は「できるか」より「安全に再現できるか」です。単発で成功しても、再現性が低い移乗は事故につながりやすく、チーム運用では不適切です。したがって、危険サインが 1 つでも明確なら、方法変更を優先します。

移乗中止・方法変更の基本原則(実務での優先順位)
原則 実務での意味 よくある誤り 修正ポイント
安全優先 危険サイン 1 つで続行を再検討 「一度だけなら」で続行 中止/変更の閾値を事前合意
再現性重視 誰が実施しても同程度に安全 特定スタッフ依存の手技 手順短文化と申し送り標準化
条件固定 角度・距離・座面差を統一 環境が毎回ばらつく 実施前チェックをルーチン化
早期変更 崩れ始めで方法を切り替える 崩れてから支える 赤旗サインの即時停止ルール

中止・方法変更の判断基準(4 軸)

中止基準は、職種や経験年数でぶれやすい領域です。以下の 4 軸で「OK」「方法変更」「中止」を明示しておくと、判断の一貫性が上がります。

移乗の中止基準と方法変更の目安(4 軸)
判断軸 OK(継続可) 方法変更(要切替) 中止(当日見送り)
転倒リスク 浅い離殿と短時間安定が可能 膝折れ/後方重心が反復 支持しても姿勢保持不能
疼痛 NRS 0–3 程度で継続可 疼痛で防御反応が増える 急性増悪・強い疼痛で動作不可
理解・注意 「止まる/待つ」が可能 手順逸脱が散見される 指示不通で急な動きが頻発
循環動態 症状なくバイタル安定 立位でめまい/顔色変化 失神前兆・強い息切れ・胸部症状

立位回旋を避ける赤旗サイン

「立位回旋を選ばない」ことが最善な場面は明確です。赤旗サインが出たら、技術で押し切らず、回旋要求を下げる方法へ移行します。

立位回旋を避けるべき赤旗サイン
赤旗サイン 観察場面 リスク 推奨対応
離殿直後の膝折れ 立ち上がり(初期) 前方/側方転倒 スクワットピボットへ切替
後方重心の固定化 立位〜回旋前 後方転倒、介助者巻き込み 続行中止、座位へ戻す
麻痺側足の追従不能 回旋開始 足部引っかかり転倒 角度/距離を再設定して再評価
急な動き(衝動性) 全相 予測不能な崩れ 一旦中止し手順を再提示
めまい・気分不良 立位保持時 失神・転倒 中止しバイタル確認

方法変更アルゴリズム(立位回旋→代替ルート)

判断をアルゴリズム化すると、経験差によるばらつきを減らせます。続行の可否は「安全に再現できるか」で判定し、曖昧なら安全側へ倒します。

移乗方法の切替アルゴリズム(実務版)
判定ステップ 確認内容 YES の場合 NO の場合
1 安全前提 赤旗サインがないか ステップ 2 へ 立位回旋は中止
2 短時間安定 浅い離殿後に安定できるか ステップ 3 へ スクワットピボットへ変更
3 指示追従 短い合図に反応できるか 立位回旋またはSPで実施 2 人介助/機器を検討
4 再現性 同条件で再現可能か 標準手順として採用 方法を 1 段階下げる

申し送りテンプレ(病棟・在宅で共通化)

中止基準は、記録と申し送りで初めて機能します。以下の型で共有すれば、次シフトでも同じ判断がしやすくなります。

中止基準の申し送りテンプレ(そのまま使える型)
項目 記載例 記録のポイント
現在の方法 スクワットピボット(1 人介助) 方法名と介助人数を固定表記
中止基準 膝折れ反復、めまい訴えで中止 症状を具体語で残す
方法変更条件 指示不通時は 2 人介助へ 条件と変更先をセットで記載
環境設定 角度 35°、近接、座面同高 数値・配置を可能な限り明示
声かけ 「足後ろ→鼻をひざ→止まる」 短文コールを統一

現場の詰まりどころ(止め時の遅れを防ぐ)

中止判断で詰まる原因は、判断の曖昧さより「判断後の行動が決まっていないこと」です。止める基準と同時に、切替先をセットで運用すると迷いが減ります。

中止判断でよくある失敗と修正
失敗パターン 起きる理由 修正策 再発予防
危険サインを見てから悩む 事前基準が未合意 中止基準を表で明文化 朝カンファで基準共有
中止後の方法が決まっていない 代替ルート未準備 SP/2 人/機器の順で決定 切替先を記録テンプレ化
スタッフごとに判断が違う 言語化不足 短文コールと条件固定 申し送り様式を統一
患者説明が長く混乱する 合図が冗長 1 文 1 指示へ短文化 共通フレーズで運用

よくある質問(FAQ)

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Q1. 中止基準は厳しくしすぎると訓練機会が減りませんか?

A. 中止基準は訓練を止めるためではなく、方法変更を早く行うための基準です。立位回旋を中止しても、スクワットピボットや 2 人介助へ切り替えれば、練習機会を保ちながら安全性を上げられます。

Q2. どの時点で 2 人介助に切り替えるべきですか?

A. 膝折れが反復する、指示が通らない、循環症状が出るなど、1 人での制御が不安定な兆候があれば切り替えます。迷う時点で安全側に倒す運用が現場では有効です。

Q3. 病棟と在宅で中止基準は変わりますか?

A. 基本軸は同じです。違うのは環境条件(スペース、床、手すり、介助者数)なので、基準自体は共通化し、運用条件だけを場面別に調整します。

Q4. 新人スタッフへ最短で共有する方法は?

A. 「赤旗サイン」「切替アルゴリズム」「短文コール」の 3 点セットで伝えると定着しやすくなります。加えて、申し送りテンプレを同じ書式に統一すると判断の再現性が上がります。

次の一手

教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。

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参考文献

  1. Schenkman M, Berger RA, Riley PO, Mann RW, Hodge WA. Whole-body movements during rising to standing from sitting. Phys Ther. 1990;70(10):638-648. doi: 10.1093/ptj/70.10.638PubMed
  2. Janssen WGM, Bussmann HBJ, Stam HJ. Determinants of the sit-to-stand movement: a review. Phys Ther. 2002;82(9):866-879. doi: 10.1093/ptj/82.9.866PubMed
  3. Kitamura S, et al. Reliability and Validity of a New Transfer Assessment Form for Stroke Patients. PM R. 2021;13(3):282-288. doi: 10.1002/pmrj.12400PubMed
  4. Tsai CY, Boninger ML, Hastings J, Cooper RA, Rice LA, Koontz AM. Immediate Biomechanical Implications of Transfer Component Skills Training on Independent Wheelchair Transfers. Arch Phys Med Rehabil. 2016;97(10):1785-1792. doi: 10.1016/j.apmr.2016.03.009PubMed
  5. Tsai CY, Boninger ML, Bass SR, Koontz AM. Upper-limb biomechanical analysis of wheelchair transfer techniques in two toilet configurations. Clin Biomech (Bristol). 2018;55:79-85. doi: 10.1016/j.clinbiomech.2018.04.008PubMed

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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