高次脳機能障害の評価|困り方から必要な検査を選ぶ
高次脳機能障害の評価で迷ったら、最初から検査名を並べるのではなく、生活や動作で何が起きているか → 主に疑う領域を仮置きする → 必要な評価へ進むの順で整理します。
USN・注意・記憶・遂行機能・失行・失語・アパシー・視覚認知などは重なって現れることがあります。このページは、症状を1つに決めつけるためではなく、PT・OT・STが「次に何を評価するか」を選ぶための専門ハブです。評価尺度全体から探す場合は評価ハブ、脳卒中患者の評価全体を整理する場合は脳卒中ハブを確認してください。

高次脳機能評価は3段階で整理する
最初に決めるのは検査名ではありません。評価が成立する状態か → 何に困っているか → どの領域を詳しく見るかの順で進めると、必要以上に検査を増やしにくくなります。
- 評価条件を確認する:覚醒、せん妄の疑い、疲労、疼痛、視覚・聴覚など、結果へ影響する条件を確認します。
- 困り方から主領域を仮置きする:USN・注意・記憶・遂行機能・失行・失語・アパシー・視覚認知など、生活上の問題を説明しやすい領域を候補にします。
- 必要な評価へ進む:候補を1つに断定せず、行動観察や標準化検査を追加して仮説を修正します。
国立障害者リハビリテーションセンターでは、高次脳機能障害の支援対象でみられる主な症状として記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害などを示しており、学術的な高次脳機能障害には失語・失行・失認なども含まれます。12 そのため、「この症状なら必ずこの障害」と1対1で決めるのではなく、複数の可能性を残して評価します。
困り方から疑う領域と次の評価を選ぶ
評価名が分からない場合は、まず実際に起きている困り方に近い行を確認してください。高次脳機能障害では複数の要因が重なることがあるため、最初から1領域だけに絞らず、主候補と副候補を残すのがポイントです。
| 困り方・所見 | 主に疑う領域 | 次に確認すること | 評価の入口 |
|---|---|---|---|
| 片側を見落とす、ぶつかる、食事を片側だけ残す | 半側空間無視(USN) | 探索の偏り、机上課題とADLの差 | USNの評価フロー |
| 作業が続かない、刺激で逸れる、複数のことをすると崩れる | 注意 | 持続・選択・転換・分配のどこで崩れるか | 行動観察から必要な注意検査を選ぶ |
| 新しいことを覚えられない、同じ質問を繰り返す | 記憶 | 記銘・保持・想起、手がかりによる変化 | 記憶のどの過程が問題かを絞る |
| 段取りが崩れる、始められない、途中で修正できない | 遂行機能 | 開始・計画・順序・実行・自己修正 | 機能的認知評価の選び方 |
| 道具の使い方が不自然、模倣や系列動作で誤る | 失行 | 麻痺・感覚障害・失語などで説明できないか | 誤り方と成立条件を観察して切り分ける |
| 言葉が出にくい、理解しにくい、会話が成立しにくい | 失語・言語機能 | 理解・表出・読み書き・実用コミュニケーション | 失語症評価の使い分け |
| 見えているはずなのに認識しにくい、見落としの原因が分からない | 視覚認知・視知覚 | 見えない・気づかない・意味づけにくいを切り分ける | 半盲・USN・視知覚障害の違い |
| 促されないと始めない、自発的な活動が少ない | アパシー・自発性 | 覚醒、抑うつ、疼痛、身体症状などの影響 | やる気スコアの評価 |
| 怒りっぽい、脱抑制、固執、対人場面で問題が生じる | 社会的行動障害 | どの場面・きっかけ・結果で行動が生じるか | 生活・訓練場面の行動を記録して背景を探る |
社会的行動障害には、意欲・発動性の低下だけでなく、感情コントロールの低下、固執、脱抑制などさまざまな形があります。生活や訓練場面で、問題となる行動が「いつ・何をきっかけに・どう生じたか」を確認することが評価の手がかりになります。3
注意低下に見えるときは評価条件を先に確認する
指示が入りにくい、反応が遅い、途中で止まるといった所見があっても、すぐに注意障害と決めるとは限りません。覚醒低下、せん妄、疲労、疼痛、呼吸苦、視覚・聴覚条件などによって、課題への反応が不安定になることがあります。
国立障害者リハビリテーションセンターの注意障害評価でも、覚醒度や易疲労性、活動性、環境刺激への反応、日常生活・職業場面での行動観察が評価項目として挙げられています。3
覚醒や意識状態そのものが不安定な場合は、高次脳機能検査を増やす前に意識・鎮静・せん妄評価ハブで評価の前提を整理します。
1つの所見を1つの障害に決めつけない
高次脳機能評価で迷いやすいのは、同じ生活上の失敗が複数の領域で起こり得ることです。たとえば「更衣の順番が崩れる」という所見だけでは、遂行機能障害だけでなく、注意、記憶、失語、失行などの影響も候補になります。
| 見えている問題 | 考える候補 | 切り分ける視点 |
|---|---|---|
| 更衣の順番が崩れる | 遂行機能/記憶/注意/失行 | 手順を覚えているか、途中で逸れるか、操作そのものを誤るか |
| 食事を片側に残す | USN/視野障害/注意 | 見えていないのか、気づかないのか、探索が続かないのか |
| 指示どおりに動けない | 失語/注意/記憶/失行 | 教示を理解できたか、保持できたか、動作へ変換できたか |
| 促さないと始めない | アパシー/遂行機能/覚醒・疲労 | 開始後は続けられるか、計画できるか、時間帯で変わるか |
高次脳機能障害の評価では、作業の失敗や誤り方を観察し、注意障害や記憶障害など他の要因も含めて機序を考えることが重要です。遂行機能障害についても、国立障害者リハビリテーションセンターは作業を観察し、失敗の起こり方から背景を探る考え方を示しています。3
検査結果はADL・IADLでの困りごとと照合する
高次脳機能評価は、机上検査の点数だけで完結させません。食事、更衣、整容、移動、服薬、金銭管理など、実際の生活行為で何が起きているかを照合します。
国立障害者リハビリテーションセンターの評価資料でも、受傷・発症前の生活歴や行動特性、現在の行動観察を含めて問題の背景を考える必要性が示されています。2
記録のポイント:「注意障害あり」「遂行機能低下あり」だけで終わらせず、どの場面で何が起き、声かけ・環境調整・手がかりによってどう変化したかを残します。
再評価は条件をそろえて変化を見る
高次脳機能の所見は、時間帯、疲労、周囲の刺激、声かけ、課題の難易度などによって変化することがあります。経時変化を比較するときは、可能な範囲で評価条件をそろえます。
再評価で重要なのは、同じ検査を繰り返すこと自体ではありません。前回と今回で何が変わったのか、その変化を介入や環境条件で説明できるかを確認し、必要な追加評価や支援へつなげます。
このハブと各記事の役割を分ける
このページは、高次脳機能障害を疑ったときに「どの領域へ進むか」を決める索引です。検査の詳細な実施方法や採点、作業観察の具体的な進め方、介入方法までを1ページへ詰め込むことはしません。
| 知りたいこと | 読む記事 |
|---|---|
| 困り方から評価領域を選びたい | 本記事:高次脳機能評価ハブ |
| 評価の順番、作業観察、所見化、再評価を知りたい | 高次脳機能障害の評価総論 |
| USN・失語・遂行機能など個別領域を詳しく評価したい | 各領域の子記事 |
| 評価後の介入・課題設定を探したい | 高次脳機能障害ドリルのハブ |
よくある質問
Q1. 高次脳機能障害の評価は何から始めますか?
最初から検査を選ぶのではなく、覚醒や疲労など評価条件を確認し、生活場面で何に困っているかを整理します。その所見から主に疑う領域を仮置きし、必要な行動観察や標準化検査へ進みます。
Q2. USN・注意・記憶・遂行機能など、1つに決める必要がありますか?
最初から1つに決める必要はありません。複数の高次脳機能障害が併存したり、1つの生活上の失敗に複数の機能が関与したりするため、主候補と副候補を残して評価結果から修正します。
Q3. 標準化検査をたくさん行えば評価は十分ですか?
検査数を増やすこと自体が目的ではありません。今回の評価で何を明らかにしたいのかを決め、検査結果とADL・IADLでの行動を照合し、次の支援や再評価へつながる情報を集めます。
評価後は介入・課題設定へつなげる
評価によって主に問題となる領域と、生活上で困る条件が整理できたら、次は介入目標や課題設定を検討します。注意・記憶・遂行機能・USN・失行などの介入記事を探す場合は、高次脳機能障害ドリルの使い分けへ進んでください。
参考文献
- 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部, 国立障害者リハビリテーションセンター. 高次脳機能障害診断基準. [Internet]. [cited 2026 Sep 12].
- 国立障害者リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センター. 高次脳機能障害の評価. [Internet]. [cited 2026 Sep 12].
- 国立障害者リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センター. 医学的リハビリテーションプログラム. [Internet]. [cited 2026 Sep 12].
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

