高次脳機能評価ハブ|USN・注意・遂行機能・失行・アパシーを迷わず引ける索引
高次脳機能の評価は「検査を増やすほど良い」ではなく、主役(USN/注意/遂行/失行/アパシー)を当てて、ADL のズレとして所見化するだけで精度が上がります。特に脳卒中では複数の症状が重なりやすく、机上では整って見えても病棟で転倒・取りこぼしが起きがちです。
このハブでは、①ベッドサイド(5 分)で当たり→②作業場面で工程のズレを言語化→③同条件で再評価の順で、必要な記事に最短で飛べるように整理します。全体像の地図は 評価ハブ、脳卒中の評価全体は 脳卒中ハブ もあわせてどうぞ。
評価の引き出しを増やすほど、教育体制・症例の回り方・記録文化の影響も受けます。まずは全体像だけ押さえておくと安心です。
このハブの使い方|「主役を当てる→ADL で所見化→同条件で再評価」
最初にやるのは「検査の選定」ではなく、主役の当たりです。ベッドサイドで短時間に拾い、作業場面で“どの工程でズレたか”として書ける状態にしてから、必要時だけ標準化検査へ進みます。
OT 視点の「順番と所見化」は 高次脳機能障害の作業療法評価 にまとめています(検査名より運用が揃います)。
最短で飛べるリンク集|領域別の「親→子→記録シート」
表は横にスクロールできます。迷ったら親記事(総論)→代表小記事(各論)の順に読むと、運用がブレにくいです。
| 領域 | まず読む(親/総論) | 代表小記事(各論) | 記録・運用に直結 |
|---|---|---|---|
| USN(半側空間無視) | USN 評価|5〜10 分フローと ADL 観察 | 抹消課題(キャンセレーション) / 線分二等分 / 二重同時刺激(DSS) | CBS(ADL 観察で拾う) |
| 注意(持続・選択・分配) | OT 評価:USN・注意・遂行を「順番」で固定 | 机上課題は施設運用で差が出やすいので、まずは逸脱/中断/疲労で崩れる条件を所見として揃えます。 | 前提(覚醒・せん妄)を揃える:意識評価ハブ / CAM-ICU |
| 遂行機能(段取り・自己修正) | OT 評価:工程のズレとして言語化 | 手順課題(更衣・整容・服薬・調理の一部)で「どこで工程が抜けたか/戻れたか」を記録します。 | OT 評価の全体像(順番と最小セット) / OT 評価ハブ |
| 失行(道具操作・模倣・系列) | 失行を「麻痺/失語」と混同しない見立て | 模倣/道具使用/系列動作を「できる/できない」ではなく誤り方で残します。 | OT 初期評価チェックリスト(注意・遂行・失行を含む) |
| アパシー(意欲低下) | 意欲評価の使い分け(やる気/観察/参加度) | やる気スコア(Apathy Scale) / Vitality Index / PRPS | 「抑うつと混ざる/促し待ち」を所見化:BPSD 評価の進め方(観察→再評価) |
ベッドサイド 5 分フロー|まず「見落としやすい 5 つ」を拾う
ベッドサイドは短時間で“主役の当たり”をつける場面です。ここで拾った所見を、作業場面で深掘りしていきます。
| 領域 | まず見るサイン | よくある見落とし | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| USN | 視線・探索の偏り、衝突、食事の偏り | 机上テストは OK でも ADL で出る | CBS で ADL を観察 |
| 注意 | 指示が入りにくい、逸脱、中断が多い | 眠気/せん妄/疲労と混ざる | 覚醒の前提を先に揃える |
| 遂行機能 | 段取りの崩れ、自己修正の乏しさ | 「できない」ではなく「やり方がズレる」 | 手順課題(更衣・整容)で工程を分解 |
| 失行 | 道具操作の誤り、模倣困難 | 麻痺や失語の影響と混同 | 模倣/道具使用で切り分け |
| アパシー | 開始が遅い、促し待ち、自発性が弱い | 抑うつと混同して対応がズレる | やる気スコアで共有しやすくする |
作業場面:ADL で「困りごと」を工程として言語化する
高次脳は机上の成績より、生活の困り(危険・介助量・やり直し)が重要です。失敗を「能力低下」で終わらせず、“どの工程でズレたか”として分解すると、介入と再評価が一直線になります。
書き方の型は 高次脳機能障害の作業療法評価(工程のズレを所見化)をベースに揃えるのがおすすめです。
| 困りごと | ズレやすい工程 | 関与しやすい領域 | 記録の一言例 |
|---|---|---|---|
| 食事で左側を残す | 探索・注意配分 | USN/注意 | 左側探索が乏しい。声かけで改善あり。 |
| 更衣で順番が崩れる | 段取り・自己修正 | 遂行機能 | 工程の飛ばしあり。修正の自発性は乏しい。 |
| 歯磨きで道具操作が不自然 | 道具使用・模倣 | 失行 | 手順理解は保たれるが、道具操作で誤りが出る。 |
| 開始が遅く、促しがないと動けない | 開始・動機づけ | アパシー | 開始は遅いが、開始後は一定の遂行が可能。 |
再評価:頻度より「条件の統一」でブレを減らす
高次脳は日内変動が大きく、比較が崩れやすい領域です。再評価は頻度よりも条件(時間帯・環境・声かけ・課題)を揃えるだけで読み取りがラクになります。
| 項目 | 揃える理由 | 運用例 | 記録メモ例 |
|---|---|---|---|
| 時間帯 | 覚醒・疲労で成績が変わる | 午前の同じ枠で実施 | 10 時台、食後 30 分 |
| 環境 | 刺激量で注意がブレる | 静かな場所、同席人数を固定 | 病室/ 1 対 1 |
| 声かけ | 介入量で結果が変わる | 声かけルールを統一 | 開始合図のみ、途中介入なし |
| 課題 | 課題差で比較できない | 同じ課題(同工程)で比較 | 上衣更衣:袖通しまで |
現場の詰まりどころ|評価が増えるほど「運用」が崩れる
高次脳は「気になるから検査を追加」になりやすく、気づくと誰も回せない状態になりがちです。まずは最初に拾う 5 つとADL 観察の書き方だけでも統一すると、チーム共有が揃ってきます。
| 詰まり | NG(起きがち) | こう直す(最小) | 記録の型 |
|---|---|---|---|
| スクリーニングが統一されない | 担当者ごとに検査が違い、経過比較できない | USN/注意/遂行/失行/アパシーの「拾い方」だけ固定 | 主役+根拠 1 行(例:左探索乏しい) |
| ADL 観察が抽象的 | 「注意低下」「遂行不良」で終わり、介入に落ちない | 困り→工程→関与領域→一言例で分解 | 工程(どこで)+介入反応(どう変わる) |
| 再評価条件が揃わない | 良くなった/悪くなったの理由が分からない | 時間帯・環境・声かけ・課題を最低限固定 | 条件セットを毎回 1 行で残す |
| 机上と生活の乖離を見落とす | 机上 OK で安心し、病棟で事故が起きる | 机上+ADL 観察(CBS など)で拾い直す | 危険場面(移乗・車椅子・更衣)で所見化 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
最初に何をやればいいですか?検査を決める前に見るべきことは?
最初は検査選定よりも、ベッドサイドで拾う 5 つ(USN/注意/遂行機能/失行/アパシー)のどれが主役かを当てにいくのが早道です。主役の見当がついたら、ADL 観察で「どの工程でズレるか」を言語化し、必要最小限の評価へ絞っていきます。
USN は机上テストで陰性でも疑うべきですか?
はい。机上で整って見えても、ADL では探索や注意配分の偏りが出ることがあります。食事・移動・更衣で偏りや衝突がある場合は、CBS(観察) などで困りを拾い、同じ条件で再評価して変化を追うと整理しやすいです。
注意障害と「眠気/せん妄/疲労」の区別が難しいです
混ざりやすいので、まずは評価成立条件(覚醒)を揃えるのが先です。時間帯・環境(刺激量)・疼痛/呼吸苦などをメモし、同条件で再観察すると見分けがしやすくなります。前提の整理は 意識評価ハブ、せん妄の実務は CAM-ICU も参照できます。
抑うつとアパシーの区別が難しいです
まずはラベルよりも「開始が遅い」「促し待ち」「自発性が弱い」など行動として書き出し、チームで共有できる形にします。主観の“やる気”を共有したいなら やる気スコア、観察で意欲を拾うなら Vitality Index、参加の質まで見るなら PRPS を使い分けると迷いが減ります。
再評価の頻度はどのくらいがいいですか?
目的次第ですが、頻度よりも「条件の統一(時間帯・環境・声かけ・課題)」が最優先です。条件が揃っていれば、少ない回数でも変化が読み取りやすくなります。
次の一手(このあと何を読む?)
運用を整える → 共有の型を作る → 環境の詰まりも点検まで揃えると、評価が継続しやすくなります。教育体制・記録文化・標準化の観点で、職場環境を一度点検したい場合は、チェックシートも使えます。
働きやすい環境を点検する(無料チェックシート)参考文献
- Azouvi P, et al. Behavioral assessment of unilateral neglect: psychometric properties of the Catherine Bergego Scale. Arch Phys Med Rehabil. 2003;84(1):51-57. doi:10.1053/apmr.2003.50062. PubMed
- Dubois B, et al. The FAB: a Frontal Assessment Battery at bedside. Neurology. 2000;55(11):1621-1626. doi:10.1212/WNL.55.11.1621. PubMed
- Starkstein SE, et al. Reliability, validity, and clinical correlates of apathy in Parkinson’s disease. J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 1992;4(2):134-139. doi:10.1176/jnp.4.2.134. PubMed
- Wilson B, Cockburn J, Halligan P. Development of a behavioral test of visuospatial neglect. Arch Phys Med Rehabil. 1987;68(2):98-102. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


