Vitality Index(バイタリティーインデックス)とは
Vitality Index(バイタリティーインデックス)は、高齢者の「意欲」を 起床・意思疎通・食事・排泄・活動 の 5 項目から客観的に評価するスケールです。各項目を 0/1/2 点で判定し、合計 10 点で活力度を把握します。1 回あたりの所要時間が短く、観察主体で評価できるため、認知症や重度身体障害を持つ方にも使いやすい指標です。
特に要介護高齢者では、ADL やフレイル指標だけでは捉えきれない「やる気」「自発性」の変化を可視化でき、生命予後や歩行自立などとの関連も報告されています。厚生労働科学研究班や老年医学領域の研究でも広く用いられている、代表的な意欲指標の 1 つです。
実施手順(観察を標準化するポイント)
Vitality Index の評価は、可能な限り 日中の同一時間帯 に、普段に近い環境で行うことが基本です。評価直前に夜間不眠・せん妄・急性疾患・薬剤変更などがあれば、スコアの解釈に影響するため、カルテや記録に必ず一言メモを残しておきます。
5 項目はいずれも「介助量」より その人から自発的に出ている行動・意思表示 に着目します。意思疎通はことばだけでなく、表情・ジェスチャー・握手などの反応も含めて評価します。食事・排泄・活動は、「声かけや環境調整をすれば関わろうとしているか」「促しても動きが出ない状態か」を丁寧に観察することが重要です。
採点・判定と再評価(カットオフ値の考え方)
各項目を 0–2 点の 3 段階で採点し、合計点は 0–10 点となります。施設や研究によって区分は異なりますが、実務上は 7 点付近 を境に群分けする報告が多く、7 点以上を「活力度が概ね保たれている」目安とする使い方がよくみられます。
例として、大腿骨近位部骨折患者を対象とした後ろ向き研究では、入院時 Vitality Index による退院時歩行自立のカットオフ値が「6.5 点(実務上は 7 点以上)」と報告されています(感度約 78%・特異度約 83%)。ただし、対象疾患・場面が変わればカットオフも変動するため、「7 点未満は要注意群として、低下要因を整理する」といった運用が現場向きです。
5 項目の観察ポイント(要約)
- 起床:定時に自発的に覚醒・起き上がるか、促しが必要か。
- 意思疎通:言語・表情・ジェスチャーなどでの意思表示の頻度。
- 食事:自発的に摂取するか、声かけ・介助が必要か、拒否が目立つか。
- 排泄:自発的なトイレへの移動・意思表示があるか、誘導で可能か。
- 活動:離床・散歩・体操などに自発的に関わるか、促しで参加するか。
0/1/2 点の基本的な考え方
- 2 点:声かけや促しがなくても、その行動や関わりが自発的かつ継続的にみられる。
- 1 点:声かけ・最小限の支援があれば実行できるが、自発的には不十分。
- 0 点:十分に促しても実行が難しい、あるいは拒否が目立つ状態。
各項目×0/1/2 点の具体例(言い換え)
| 項目 | 2 点(自発的) | 1 点(促しで実行) | 0 点(実行困難・拒否) |
|---|---|---|---|
| 起床 | 定時に自発的に覚醒し、起き上がって次の活動へ向かう | 声かけで起床する/起き上がりまで時間がかかる | 十分に促しても起きない、起床を強く拒否する |
| 意思疎通 | 表情・言語・ジェスチャーで自発的に意思表示がみられる | 促しや質問に対して、ある程度意思表示が返ってくる | 促しても反応が乏しい、意思表示がほとんどみられない |
| 食事 | 自発的に着座し、途中で中断せず食事を継続できる | 声かけで開始するが、途中で箸が止まりやすい/再促しが必要 | 促しても拒否が目立つ、ほとんど摂取しない |
| 排泄 | 自発的にトイレへ向かう/排泄欲求を明確に伝えられる | 誘導や声かけによりトイレ排泄が可能 | 促しても実行困難、失禁が主体となっている |
| 活動 | 離床・散歩・体操・レクリエーションに自ら参加しようとする | 声かけで活動に参加するが、自発性は乏しい | 促しても活動参加が難しい、拒否が強い |
※上表は観察の基準化のための自作例です。施設ごとに表現を調整し、評価会議で統一してください。
合計点と生活行動の読み合わせ
Vitality Index の合計点は「点数だけで完結させる」のではなく、日々の生活行動やケア方針とセットで解釈することが重要です。たとえば 6 点前後で推移している方でも、疼痛や便秘、環境調整が不十分なだけで、対応により 8–9 点まで改善するケースも少なくありません。
一方で、重度認知症や終末期では、点数を上げること自体よりも「残っている意欲をどう支え、尊厳を守るか」が優先されます。下表のように、合計点ごとに状態の目安とケアの焦点を整理しておくと、チームで共有しやすくなります。
| 合計点 | 状態の目安 | ケア・リハビリの焦点 |
|---|---|---|
| 8–10 点 | 活力度は概ね保たれている | 自主活動の維持、生活目標の共有、活動機会の確保 |
| 5–7 点 | 意欲低下の傾向がみられる | 疼痛・睡眠・便秘など身体要因の是正、離床時間の確保、好きな活動の探索 |
| 0–4 点 | 著明な意欲低下・活動性低下 | せん妄・感染・薬剤などの原因検索、家族・多職種連携、短時間頻回の声かけや関わり |
現場の詰まりどころ(どこで迷いやすいか)
実際の運用で最も迷いやすいのは、「1 点か 2 点か」「0 点か 1 点か」の境目です。たとえば、食事場面で着座までは声かけが必要だが、そのあとは自立しているケースなど、どの行動を重視するかで判定が揺れがちです。その場合は、「自発的にどこまで継続できているか」 を基準にチームで表現をそろえると、ブレが減っていきます。
もう 1 つの詰まりどころは、「意欲」と「身体能力」「環境要因」が混ざってしまうことです。起き上がりが困難で 0 点と判定したが、実は疼痛や不適切なポジショニングが原因だった、というケースは少なくありません。Vitality Index はあくまで「意欲の表出」を見る指標なので、評価時には必ず ADL・痛み・環境 の情報も横に置き、点数が下がった理由を多角的に確認することが重要です。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。
Q1. Vitality Index のカットオフ値は「6 点」か「7 点」どちらで考えればよいですか?
研究ごとに設定が異なるため、「万能のカットオフ値」はありません。大腿骨近位部骨折患者を対象とした後ろ向き研究では、退院時の歩行自立を予測するカットオフとして 6.5 点(実務上は 7 点以上) が報告されていますが、これは特定の集団・アウトカムに固有の値です。
臨床では「7 点未満なら意欲低下のサインとして、身体要因・環境要因を含めて要因整理をする」など、スクリーニングの目安として柔軟に使うのが現実的です。必ず ADL・フレイル指標・診療情報と組み合わせて判断してください。
Q2. 重度認知症でコミュニケーションがほぼ取れない方にも使えますか?
Vitality Index はもともと認知症高齢者を含む入所者を対象に開発されており、表情やジェスチャー、身振りといった非言語的な反応も評価対象に含まれます。言語応答が乏しい方でも、「呼びかけで顔を向ける」「好きな活動に表情が変わる」など、わずかな反応の変化をチームで共有するのに有用です。
ただし、反応性が急に落ちた場合は、せん妄・感染・薬剤性など急性要因の可能性も高いため、点数だけで意欲低下と判断せず、必ず医師や看護師と連携して背景を確認してください。
Q3. Barthel Index やフレイル評価とどう組み合わせればよいですか?
Vitality Index は「意欲の表出」に特化したスケールであり、ADL やフレイルの全体像をカバーするものではありません。実務上は、ADL(例:Barthel Index)+フレイル指標+Vitality Index の 3 点セットで評価し、「できるかどうか」と「やろうとしているか」を分けて捉えるとケア方針が立てやすくなります。
たとえば、ADL は保たれているのに Vitality Index が低い場合は、抑うつ・疼痛・生活目標の不一致など心理社会的要因を重点的にチェックする、といったサインとして活用できます。
Q4. Vitality Index だけでリハビリ介入の適否やゴールを決めてもよいですか?
Vitality Index はあくまで「意欲」という 1 つの側面を定量化するツールであり、単独でリハビリ介入の適否やゴールを決めるべきではありません。疾患の安定性、ADL、認知機能、家族の意向、終末期かどうかなど、多くの要素を統合して判断する必要があります。
点数の変化は「状態が良くなっている/悪くなっている可能性がある」というシグナルとして捉え、カンファレンスや家族説明の際の材料として活用する位置づけが適切です。
おわりに|点数より「理由」をチームで共有する
Vitality Index(バイタリティーインデックス)は、高齢者の「やる気」や「その人らしさ」を 5 つの行動からシンプルに可視化できるスケールです。しかし、重要なのは点数そのものではなく、「なぜ今この点数なのか」「何を整えれば、その人らしい生活に近づけるのか」をチームで言語化し、ケアやリハビリへ落とし込むプロセスです。
意欲評価全体の位置づけや他スケールとの使い分けについては、意欲評価 総論 で整理しておくと、後輩指導や院内教育にも活用しやすくなります。本記事の記録シートやメモ欄も活用しつつ、「意欲低下だから様子を見る」ではなく、「意欲低下の理由を探し、できることから介入する」流れをチームで共有していきましょう。
配布:記録・集計用シート
Vitality Index の項目本文は転載せず、記録・集計に必要な枠組みだけを自作したシートです。院内規定や原著・ツール配布元のルールを確認したうえでご利用ください。
意欲評価シリーズで共通して使えるツール:
参考文献(外部リンク・新規タブで開きます)
- Toba K, Nakai R, Akishita M, et al. Vitality Index as a useful tool to assess elderly with dementia. Geriatr Gerontol Int. 2002;2(1):23–29. https://doi.org/10.1046/j.1444-1586.2002.00016.x
- Fujita T, Yamamoto R, Sato T, et al. Vitality index predicts walking independence in patients with hip fracture: A retrospective study. Medicine (Baltimore). 2024;103(51):e41042. PubMed
- Japanese Society of Geriatrics. 高齢者診療におけるお役立ちツール(Vitality Index を含むツール集). 日本老年医学会. https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
親ページ:意欲評価 総論(Vitality Index を含む意欲評価スケールの全体像・選び方を整理したページ)


