WMFT のやり方と採点(結論)
WMFT( Wolf Motor Function Test )は、脳卒中などで低下した上肢機能を、課題の所要時間と動作品質( FAS : Functional Ability Scale )で追う評価です。この記事で決めるのは、どう実施し、どう採点し、どう再評価で比較可能にするかです。
対象は、回復期〜生活期で上肢機能を継続して追いたい PT / OT です。結論として、WMFT でブレを減らす鍵は、①セットアップ条件を固定する、②各課題を 120 秒上限でそろえる、③時間は中央値、 FAS は平均または合計で施設ルールを決める、の 3 点です。
1 分要約(先に結論)
WMFT は速度(時間)と質( FAS )を同時に追えるため、介入前後の変化を “連続値” として説明しやすい評価です。上肢が「できる / できない」で止まらず、遅いのか、代償が強いのか、両方なのかを分けて考えられます。
臨床で回すコツは、再現性の設計を先に決めることです。椅子・机の高さ、物品配置、開始肢位、指示文、休憩ルールまで固定すると、担当者が変わっても “比較できる評価” になります。
WMFT はいつ使う(評価セット内の位置づけ)
上肢評価は、運動障害( impairment )、活動( activity )、実生活での使用に分けると選びやすくなります。WMFT は activity 寄りですが、時間と質を同時に追えるため、 impairment と activity の橋渡しに向く評価です。選定全体で迷う場合は、上肢評価ハブから全体像を先に整理すると迷いが減ります。
このページでは WMFT 単体の運用に絞り、他スケールの詳細手順までは広げません。比較は “位置づけを迷わないための早見” に留めます。
※以下の表は横にスクロールできます。
| 指標 | 主に測るもの | 強み | 弱み / 注意 | WMFT と併用するなら |
|---|---|---|---|---|
| WMFT | 上肢課題の速度+質(時間 / FAS ) | 「遅さ」と「代償」を同時に追える | 条件差がそのまま結果差になりやすい | 活動の変化を具体的に追う基準にする |
| FMA-UE | 運動障害(分離運動・協調性など) | 麻痺の変化を系統的に追える | 作業として使えるかは別軸が要る | WMFT の変化の “理由” を説明しやすい |
| ARAT | 物品操作の達成度 | 課題成功の把握が速い | 速度や質の細かな連続変化は拾いにくい | 達成度を押さえ、WMFT で伸び幅を見る |
| NHPT / Purdue | 巧緻性(手指の速さ / 正確性 ) | 手指要素を短時間で深掘りできる | 近位・体幹代償までは追いにくい | WMFT で広く、巧緻性で細かく見る |
セットアップ(再現性を担保する準備)
WMFT は “条件差” がそのままスコア差になりやすい評価です。再評価のたびにブレないよう、数値とマークで固定します。
特に、机と椅子の高さ、物品の位置、開始肢位、指示文が曖昧だと、「改善した」のか「条件が楽だった」のかが分かりにくくなります。
- 椅子・テーブル高:座面高 / 天板高を cm 単位で記録する。
- 物品配置:位置と向きを固定し、天板に目印を残す。
- 姿勢:体幹・肩甲帯の開始肢位をそろえ、代償の許容ラインを先に決める。
- 説明:「できるだけ速く、しかし安全に」など、毎回同じフレーズで伝える。
実施ルール( WMFT やり方の基本 )
運用で揉めやすいのは、時間上限とやり直しです。ここを先にルール化しておくと、担当者が変わっても指標として使えます。
初回から完璧なスピードを求めるより、まずは比較可能な条件で実施することを優先します。
※以下の表は横にスクロールできます。
| 論点 | 推奨ルール | なぜ必要か | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 時間上限 | 各課題は最大 120 秒。未完了は “ 120+ ” | 上限の揺れがそのまま改善量の錯覚になる | “ 121 秒” など実測で残さない |
| 再試行 | 外的要因で無効になった場合のみ再試行 | 練習効果が混ざると “評価” になりにくい | 再試行時は理由を備考へ残す |
| 声かけ | タスク間の声かけは定型にする | 励まし方の差が結果に影響しうる | 指示文はテンプレ化が安全 |
| 安全 | 肩痛・疲労・バイタル変動は即休憩 / 中止を検討 | 痛み増悪が能力低下と誤認されるのを防ぐ | 中止理由を必ず残す |
採点(時間 / FAS )と集計のコツ
WMFT は速度(時間)と質( FAS )がズレることがあります。片方だけ見て結論を急がないことが大切です。
臨床では、「速くなったが雑になった」「見た目は良いが時間は縮まらない」が実際によく起きます。だからこそ、時間と FAS を並べて読む必要があります。
時間(秒)の扱い:中央値を基本にする
時間は外れ値が出やすいため、臨床では中央値が運用しやすいです。未完了は “ 120+ ” として記録し、集計に入れる場合は「 120 とみなす」など施設ルールを固定します。重要なのは、同じやり方で繰り返すことです。
FAS( 0–5 ):境界を “観察ルール” に落とす
FAS は、滑らかさ、代償、独立性を見て決めます。迷ったときは、境界を “院内の言葉” に置き換えておくとブレが減ります。
- 2 ↔ 3 :達成はするが、非常に遅い / 努力感が強い / 代償が目立つなら 2〜3。
- 3 ↔ 4 :課題は概ね成立し、欠点が軽微なら 4 寄り。
- 4 ↔ 5 :ためらい・修正がほぼなく、自然さが高ければ 5 に近い。
※以下の表は横にスクロールできます。
| 軸 | 代表値 | 迷ったとき | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 時間 | 中央値 | 未完了( 120+ )の扱いを統一 | 時間:中央値 38 秒(未完了 3 / 15 ) |
| FAS | 平均 or 合計 | 代償の種類を備考へ残す | FAS:平均 2.9(体幹側屈と肩挙上が主) |
解釈(“変わった” の判断と次の一手)
WMFT は単一カットオフで “良い / 悪い” を決めるというより、変化量と変化の質を追う評価です。時間と FAS のズレをどう読むかが、次の介入を決める鍵になります。
研究では、WMFT の最小検出可能変化( MDC )も報告されています。ただし、症例で使うときは数字だけでなく、代償の種類、疲労、痛み、注意の持続も一緒に見て判断するのが安全です。
※以下の表は横にスクロールできます。
| 変化 | 起きていること(仮説) | 次の介入 | 再評価の軸 |
|---|---|---|---|
| 時間だけ改善 / FAS 横ばい | 速くなったが質は同等、または代償が固定 | 成功率を保ちながら代償を 1 つだけ減らす | 備考欄で代償の種類を定点観察 |
| FAS 改善 / 時間横ばい | 質が上がり、安定したが速度はまだ不足 | 同一課題で反復量やテンポを段階づける | 疲労で崩れる条件(回数 / 時間 ) |
| 両方改善 | 課題遂行の効率が上がっている | 食事・更衣など生活課題への転移を具体化する | 実生活での使用場面を確認する |
| 悪化 / ばらつき増大 | 痛み・痙縮・疲労・覚醒低下などの影響 | 評価前状態の確認項目を固定する | 中止基準と再評価タイミングを見直す |
現場の詰まりどころ(よくある失敗 / 中止基準)
WMFT は “やれば点が出る” 反面、運用が曖昧だと改善量が信用しにくくなります。現場で詰まりやすいのは、条件ズレ、 120+ の扱いの不統一、FAS の境界が言語化されていないことです。
チームで共有するときは、「同じ高さ・同じ配置・同じ指示・同じ上限で測る」まで 1 セットで固定すると、引き継ぎがかなり楽になります。
※以下の表は横にスクロールできます。
| 場面 | OK(推奨) | NG(避ける) | 中止 / 再評価の目安 |
|---|---|---|---|
| セットアップ | 椅子・机の高さ、物品配置を固定して記録 | 毎回高さや配置が変わる | 疼痛増悪、強い不安、バイタル逸脱で中止 |
| 採点 | 120 秒上限と “ 120+ ” 記録を徹底 | 担当者ごとに上限や集計が違う | 理解困難、注意力低下、疲労蓄積なら休憩して再評価 |
| 安全管理 | 肩痛・姿勢崩れ・疲労を事前に確認 | 無監視で進める / 急に反復量を増やす | 肩痛悪化、顔色不良、息切れ増悪で中断し原因評価 |
WMFT 記録シート( A4 ・印刷用 )
記入欄と集計欄を中心にした、臨床用のワークシートです(項目文の掲載はしていません)。セットアップ条件まで一緒に残すと、再評価のブレが減ります。
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よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. “ 120+ ” はどう集計すべきですか?
未完了は “ 120+ ” として記録し、集計に入れる場合は「 120 として扱う」など施設ルールを固定します。最優先は、同一ルールで繰り返し、症例内で比較可能にすることです。
Q2. 時間が良くなったのに FAS が上がりません。悪いことですか?
必ずしも悪いとは限りません。速度が上がる過程で代償が固定化している可能性があります。次は「代償を 1 つだけ減らす」「成功率は維持する」など、課題の狙いを絞ると介入に接続しやすくなります。
Q3. WMFT と ARAT はどちらを優先しますか?
「課題の達成度を手早く押さえたい」なら ARAT、「できるが遅い / 質が悪いまで含めて伸び幅を追いたい」なら WMFT が向きます。迷ったら、比較ハブで位置づけを先に整理すると選びやすくなります。
Q4. 所要時間が取れません。短縮する方法はありますか?
初回は説明と試行で長くなりやすいです。 2 回目以降は、①セットアップ条件を固定、②指示文をテンプレ化、③物品配置を手順書どおりに準備、の 3 点で短縮しやすくなります。
Q5. 変化量はどう読めばいいですか?
時間だけでなく FAS と備考を一緒に見ます。小さな短縮でも、代償が増えていなければ前向きに評価できます。逆に速くなっても代償が増えれば、戦略変更として読み替える方が安全です。
次の一手(回遊の最短導線)
- 全体像に戻る:上肢評価ハブ
- 達成度で補う:ARAT の実践ガイド
参考文献
- Wolf SL, Catlin PA, Ellis M, Archer AL, Morgan B, Piacentino A. Assessing Wolf motor function test as outcome measure for research in patients after stroke. Stroke. 2001;32(7):1635-1639. doi: 10.1161/01.STR.32.7.1635
- Morris DM, Uswatte G, Crago JE, Cook EW, Taub E. The reliability of the Wolf Motor Function Test for assessing upper extremity function after stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2001;82(6):750-755. doi: 10.1053/apmr.2001.23183
- Fritz SL, Blanton S, Uswatte G, Taub E, Wolf SL. Minimal detectable change scores for the Wolf Motor Function Test. Neurorehabil Neural Repair. 2009;23(7):662-667. doi: 10.1177/1545968309335975
- Hsieh YW, Wu CY, Lin KC, Chang YF, Chen CL, Liu JS. Responsiveness and validity of three outcome measures of motor function after stroke rehabilitation. Stroke. 2009;40(4):1386-1391. doi: 10.1161/STROKEAHA.108.530584
- UAB CI Therapy Research Group. Wolf Motor Function Test ( WMFT ) Manual. 公式 PDF
- RehabMeasures Database. Wolf Motor Function Test. SRALab. 公式ページ
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


