WMFTの評価方法|やり方・採点・FASの結論
WMFT(Wolf Motor Function Test)は、脳卒中後などの上肢運動機能を、主に課題の所要時間(TIME)と動作品質(FAS:Functional Ability Scale)から評価するパフォーマンステストです。WMFTを再評価に使うときは、単に「速くなったか」だけでなく、同じ条件で実施し、TIMEとFASを並べて比較することが重要です。
広く用いられる17項目版では、15の機能課題と2つの筋力課題で構成されます。機能課題は原則120秒を上限として測定し、TIMEの代表値には中央値、FASには0〜5点の6段階評価を用います。この記事では、PT・OTがWMFTを実施するときに迷いやすい15項目/17項目の違い、120秒の扱い、FAS 2〜5点の境界、再評価条件、変化量の読み方まで整理します。
先に結論
- 広く用いられるWMFTは15の機能課題+2つの筋力課題で構成される
- 機能課題は原則120秒を上限として測定し、未完了は「120+」として記録する
- TIMEの代表値は中央値で扱う
- FASは0〜5点で動作の質を評価する
- 再評価では物品配置・椅子位置・開始条件・指示などをそろえる
WMFTは15項目?17項目?最初に整理
WMFTでは資料によって「15項目」と「17項目」という表記がみられます。ここを整理してから採点方法を確認すると混乱しません。
UABのWMFTマニュアルで示される17項目版では、15の機能課題に2つの筋力課題を加えた計17項目で構成されています。2つの筋力課題は、重量を用いた課題と握力測定で、その他の15課題についてTIMEとFASを記録します。
一方、日本語版WMFTの信頼性・妥当性を検討した報告では、運動項目6項目と物品操作項目9項目の計15項目として示されています。そのため、日本国内の資料を読むと「WMFT=15項目」と表現されることがあります。
| 表記 | 構成 | この記事での扱い |
|---|---|---|
| 17項目版 | 15の機能課題+2つの筋力課題 | UABマニュアルに基づく標準的な構成として整理 |
| 15項目 | TIME・FASでみる機能課題 | 採点と再評価の中心として解説 |
この記事では、TIMEとFASを評価する15の機能課題を中心に解説し、2つの筋力課題は別枠として扱います。

注意:FASは単純な「できる/できない」の段階ではありません。特に0点と1点、2点と3点、3点と4点では、検査側上肢が機能的に参加しているか、反対側上肢の助けが必要か、共同運動・努力性・遅さ・精度低下がどの程度あるかを区別します。
WMFTの準備|まず標準条件をそろえる
WMFTで再評価可能なデータを得るには、採点より前にセットアップを標準化することが重要です。条件が変わると、患者の能力ではなく環境差によってTIMEやFASが変化する可能性があります。
UABマニュアルでは、机・椅子・物品配置・開始位置などが具体的に定められています。臨床環境上の理由で標準条件から変更する場合は、変更点を記録し、次回も同じ条件を再現できるようにします。
| 確認項目 | 基本方針 | 再評価で残す情報 |
|---|---|---|
| 机・椅子 | 標準条件を基本とし、身体寸法に合わせた変更は記録する | 高さ、椅子位置、変更内容 |
| 物品配置 | 毎回同じ位置・向きに配置する | テンプレート、配置位置 |
| 開始肢位 | 各課題の所定の開始位置から始める | 標準条件からの変更 |
| 説明・実演 | 課題ごとの標準手順に沿って行う | 追加説明や再説明の有無 |
| 評価前状態 | 疼痛・疲労など結果へ影響する要因を確認する | 前回と異なる条件があれば備考へ記録 |
UABマニュアルでは、身体寸法に合わせて椅子位置などを変更した場合、その位置を測定して記録し、後の評価でも再現することが示されています。「施設で独自に決めればよい」のではなく、標準手順を基準にし、必要な変更を記録するという考え方が基本です。
WMFTのやり方|実施手順と120秒ルール
WMFTでは、検査者による説明や実演、開始方法、測定上限まで含めて手順をそろえます。特に重要なのが、課題を自己流で練習させないこと、120秒上限を統一すること、再試行を任意に増やさないことです。
- 標準セットアップを準備する
椅子・机・物品配置と開始位置を確認します。 - 検査者が課題を説明・実演する
UABマニュアルでは、各課題を説明し、2回実演してから測定します。評価前の課題練習は行いません。 - 決められた開始合図で測定する
対象者には可能な範囲で速く課題を遂行してもらい、ストップウォッチでTIMEを測定します。 - TIMEとFASを記録する
機能課題は最大120秒とし、完了できない場合は「120+」として記録します。
両上肢を評価する場合:UABマニュアルでは、まず障害の少ない側を一通り評価し、その後に障害の大きい側を評価する方法が示されています。課題理解による影響を減らし、比較材料を得るための手順です。
120秒を超えたらどうする?
UABマニュアルでは、各timed taskの最大時間は120秒です。課題を完了できなかった場合は「121秒」「150秒」のように測定を続けるのではなく、120+として記録します。
また、明らかに課題完了が困難と判断される場合は、対象者の過度な落胆を避けるために120秒より前に終了しても、記録上は120+とする考え方が示されています。ただし、一部課題には再試行や2回目の試行に関する個別ルールがあるため、課題ごとの正式な実施条件はWMFTマニュアルを確認してください。
再試行は自由に行わない
「失敗したからもう一度」「今のは遅かったから再測定」と任意に試行を増やすと、練習効果が混ざり、前回との比較が難しくなります。
一方、UABマニュアルには、開始合図より前に動き始めた場合、課題を誤って理解した場合、物品を落として復帰に時間を要した場合など、再試行に関する条件が示されています。再試行の有無は検査者の感覚で決めず、マニュアルに定められた条件に従うのが基本です。
WMFTの採点|TIMEとFASを分けて記録する
WMFTの機能課題では、TIME=どれくらい速く遂行できたかと、FAS=どのような質で遂行できたかを別々に評価します。速さと質は必ずしも同じ方向へ変化しないため、片方だけで改善を判断しません。
TIMEの採点|代表値は中央値
UABマニュアルでは、timed taskの最終的なTIMEスコアとして中央値を用います。時間データでは、一部の著しく遅い課題や120+が平均値へ大きく影響しやすいため、中央値を用いることで代表値を整理できます。
TIMEの記録原則
完了した課題は秒数を記録し、未完了は120+のまま残します。120+を一律に「120秒」と置き換えて独自計算するのではなく、研究・施設で別の集計法を用いる場合は、その方法を明記して同じ方法で比較してください。
FASの採点|0〜5点をどう分けるか
FASは0〜5点の6段階で、課題遂行時の機能的参加、反対側上肢の助け、試行回数、共同運動、努力性、速度、精度、協調性、流暢性などから動作品質を評価します。
以下は、UABマニュアルの採点内容を臨床で確認しやすいように要約したものです。正式な採点時には原文マニュアルも確認してください。
| FAS | 判断の目安 | 境界で見るポイント |
|---|---|---|
| 0 | 検査側上肢で課題を試みない | 「失敗した」ではなく、検査側上肢による試行自体がない |
| 1 | 試行はするが、検査側上肢が機能的には課題遂行へ参加できない | わずかな動きの有無より「機能的に参加したか」を見る |
| 2 | 課題は行えるが、反対側上肢の補助、複数回の試行、著しい遅さなどを伴う | 自力で成立する3点との違いを確認する |
| 3 | 課題は成立するが、共同運動、明らかな遅さ、努力性などがみられる | 「できた」だけで4点にしない |
| 4 | 正常に近いが、軽度の遅さ、精度・協調性・流暢性の低下が残る | 小さな質的差が残るなら5点ではなく4点を検討する |
| 5 | 正常に近い自然な課題遂行 | 障害の少ない側や発症前の利き手も比較材料にする |
迷いやすいFAS 2・3・4・5の境界
FASで検者差が生じやすいのは、中間点です。次の順番で確認すると整理しやすくなります。
| 境界 | 低い点数を考える所見 | 高い点数を考える所見 |
|---|---|---|
| 2 ↔ 3 | 反対側上肢の補助、何度も試す、極端に遅いなど | 自力で成立するが、共同運動・遅さ・努力性が残る |
| 3 ↔ 4 | 共同運動や努力性、明らかな遅さが目立つ | ほぼ正常で、残る問題が軽微 |
| 4 ↔ 5 | 軽い遅さ、ぎこちなさ、精度・協調性・流暢性の差が残る | 観察上、正常に近い自然な遂行 |
「課題を完了できたから4点」「少し動いたから1点」のように、達成度だけで決めないことがポイントです。
FASは合計?平均?
15の機能課題を各0〜5点で評価するため、FASを合計すると0〜75点になります。一方、研究では平均FAS(0〜5点)として報告されることもあります。
臨床で経時比較する場合は、合計値と平均値のどちらを使うかを明確にし、途中で指標を混在させないことが重要です。個々の課題で何が変化したかも確認したい場合は、代表値だけでなく課題別FASと備考を残します。
2つの筋力課題はTIME・FASと分ける
17項目版に含まれる2つの筋力課題は、15の機能課題と同じTIME・FASの枠で採点するものではありません。UABの記録フォームでは、重量を用いた課題と握力を筋力値として別に記録します。
そのため、17項目すべてを「0〜5点で採点する」と理解しないよう注意してください。
WMFTの結果の見方|TIMEとFASを並べて解釈する
WMFTの強みは、速さと質を分けて変化を確認できることです。同じ「改善」でも、TIMEとFASの組み合わせによって意味は異なります。
| 変化 | 考えられる状態 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| TIME改善・FAS横ばい | 速度は向上したが、動作戦略や代償は大きく変わっていない | 共同運動、体幹代償、肩甲帯の動きなど |
| FAS改善・TIME横ばい | 動作品質は改善したが、速度変化は小さい | 精度、流暢性、努力性がどう変化したか |
| TIME・FASとも改善 | 速度と質の両面で課題遂行が改善している | 実生活で麻痺側上肢の使用が増えたか |
| 悪化・ばらつき増加 | 運動機能以外の条件が影響している可能性もある | 疼痛、疲労、体調、評価条件の違いなど |
WMFTだけでは、実生活で麻痺側上肢をどの程度使っているかまで直接判断できません。WMFT上の改善がみられた場合も、必要に応じて実生活場面での使用状況や他の上肢評価と組み合わせて解釈します。
WMFTのMDC|「何秒変われば改善?」を一律に決めない
WMFTでは最小検出可能変化(MDC)が報告されています。ただし、1つのMDCをすべての患者へ共通のカットオフとして使うのは適切ではありません。対象者、評価間隔、統計方法、信頼水準などによって値が異なるためです。
| 研究 | 対象・条件 | TIME | FAS |
|---|---|---|---|
| Fritz et al., 2009 | 脳卒中発症3〜9か月、96例、MDC95 | Performance Time:0.7秒 | 平均FAS:0.1点 |
| Lin et al., 2009 | 脳卒中患者57例、MDC90 | 4.36秒 | 0.37点 |
このように、研究によって数値は一致しません。MDCを使う場合は「WMFTでは0.7秒変われば改善」と数字だけを切り取らず、どの研究の、どの対象・集計法・信頼水準の値なのかまで確認してください。
また、MDCは測定誤差を超えた変化かどうかを考える指標であり、「患者にとって臨床的に意味のある改善量」と同じ意味ではありません。TIME、FAS、課題別の変化、実生活での上肢使用を合わせて判断します。
再評価でブレを減らす記録ポイント
WMFTを経時評価として使うなら、スコアそのものと同じくらい評価条件を残すことが重要です。
UABマニュアルでは、初回のセットアップ記録を後の評価で再現する一方、前回のスコアが記載されたデータシートは再評価時に参照しない考え方が示されています。前回値に引っ張られず、今回の動作を独立して評価するためです。
| 残すもの | 理由 |
|---|---|
| 椅子・机・物品配置 | 環境差によるTIME・FASの変化を減らす |
| 標準条件からの変更 | 次回も同じセットアップを再現する |
| 120+となった課題 | 代表値だけでは分からない遂行可能性の変化を追う |
| 主な代償・努力性 | 同じFASでも動作戦略の変化を確認する |
| 疼痛・疲労など | 運動機能以外の影響を解釈するときに使う |
再評価の実務ポイント
前回のセットアップ条件は見る、前回の点数に合わせて今回の採点を決めない、という切り分けをすると再評価の再現性を保ちやすくなります。
WMFTでよくある採点ミス
WMFTは数値化しやすい一方、実施方法が変わると「患者が変化したのか、測定条件が変わったのか」が分からなくなります。特に次の4点は注意が必要です。
- 120秒を超えて測り続ける:未完了は120+として記録し、独自に121秒、150秒などへ延長しない。
- FASを達成度だけで決める:完了できても共同運動、努力性、遅さ、精度低下があればFASへ反映する。
- 毎回セットアップが変わる:椅子位置や物品配置など、標準条件からの変更を記録して再現する。
- 前回スコアを見ながら採点する:セットアップ記録と採点結果を分け、今回の動作を独立して評価する。
また、疼痛増悪や強い疲労などによって安全な継続が難しい場合は、評価の完遂そのものを優先せず中断を検討します。中断した場合は、課題番号だけでなく中止理由と評価時の状態を記録しておくと再評価時の判断材料になります。
WMFT記録シート|A4・印刷用
WMFTのTIME・FAS・120+と、再評価時にそろえたい条件を1枚で記録できるA4シートです。15の機能課題を記録するためのrehabilikunblog独自シートで、WMFTの公式設問・課題文は掲載していません。
また、17項目版に含まれる2つの筋力課題の記録欄は含まれていません。実際のWMFT実施・採点では、公式マニュアル等を確認したうえで補助記録用として使用してください。
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WMFTのよくある質問
Q1. WMFTは15項目ですか、17項目ですか?
広く用いられるUABの17項目版は、15の機能課題と2つの筋力課題で構成されます。一方、日本語版WMFTの報告では運動6項目・物品操作9項目の計15項目として示されています。使用する版・マニュアルを確認し、混在させないことが重要です。
Q2. 120秒で終わらなかった課題は120秒として記録しますか?
原票では「120+」として記録します。独自に121秒や150秒まで測定したり、元データを一律に120秒へ書き換えたりせず、別の数値化方法を採用する場合は、その方法を明記してください。
Q3. FASは合計と平均のどちらを使いますか?
15課題の合計では0〜75点になり、研究では平均FASとして示されることもあります。どちらを使う場合も、同じ患者の経時比較では集計方法を統一してください。
Q4. 再評価するとき前回のWMFTスコアを見てもよいですか?
セットアップ条件は再現する必要がありますが、UABマニュアルでは過去のデータ収集用紙を後の評価時に見ない方法が示されています。前回値に採点が引っ張られないよう、セットアップ情報とスコアを分けて管理すると整理しやすくなります。
Q5. WMFTとARATはどう使い分けますか?
WMFTはTIMEとFASから課題遂行の速度と質を追えることが特徴です。ARATなど他の上肢評価とは評価軸が異なるため、何を確認したいかで選びます。評価選定そのものは上肢評価の全体像から整理してください。
次に確認する上肢評価
WMFT単独で評価を完結させるのではなく、目的に応じて他の上肢評価と組み合わせます。
上肢評価全体から選び直す
物品操作の達成度を確認する
参考文献
- Wolf SL, Catlin PA, Ellis M, Archer AL, Morgan B, Piacentino A. Assessing Wolf motor function test as outcome measure for research in patients after stroke. Stroke. 2001;32(7):1635-1639. doi: 10.1161/01.STR.32.7.1635
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- Lin KC, Hsieh YW, Wu CY, Chen CL, Jang Y, Liu JS. Minimal detectable change and clinically important difference of the Wolf Motor Function Test in stroke patients. Neurorehabil Neural Repair. 2009;23(5):429-434. doi: 10.1177/1545968308331144
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- 高橋香代子, 道免和久, 佐野恭子, 竹林崇, 蜂須賀研二, 木村哲彦. 新しい上肢運動機能評価法・日本語版Wolf Motor Function Testの信頼性と妥当性の検討. 総合リハビリテーション. 2008;36:797-803. 論文情報
- UAB CI Therapy Research Group. Wolf Motor Function Test (WMFT) Manual. University of Alabama at Birmingham; 2011. WMFT Manual
- Shirley Ryan AbilityLab. RehabMeasures Database: Wolf Motor Function Test. Updated January 27, 2026. RehabMeasures Database
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

