片麻痺上肢の作業療法評価|FMA・ARAT・WMFTの選び方
片麻痺上肢の作業療法評価で迷ったら、最初に決めるのは「どの尺度を使うか」ではなく、今回の評価で何を判断したいかです。運動機能障害を系統的に追うなら FMA-UE、物品操作を含む活動能力まで確認するなら ARAT が基本になります。さらに、課題の所要時間や動作能力の変化を詳しく追いたい場合は WMFT、細かな手指操作が問題になった場合は NHPT などを追加します。
このページでは、脳卒中による片麻痺上肢について、作業目標 → 評価する層 → FMA・ARAT・WMFTの選択 → 最小セット → 記録までを整理します。各尺度の詳細な採点手順や巧緻性テスト、更衣・食事の作業観察は子記事へ分け、ここでは「結局どれを選ぶか」を判断できることを目的にします。
結論|迷ったらFMA-UE+ARAT、目的が違えばWMFTへ切り替える
片麻痺上肢を標準化して評価したい場合、まず候補になるのはFMA-UE+ARATです。FMA-UEは上肢の運動機能障害、ARATは上肢を使った課題遂行能力を異なる層から捉えます。国際的な上肢評価の推奨でも、FMA-UEとARATは臨床・研究で使用するコアセットに位置づけられています。
ただし、すべての症例で2尺度を固定する必要はありません。物品操作を含む課題遂行能力を追いたいならARAT、課題遂行にかかる時間や動作能力の変化を詳しく追いたいならWMFTというように、今回の意思決定に合わせて選択します。細かな手指操作が主要課題になった場合に、NHPTなどの巧緻性評価を追加します。
| 知りたいこと | 主な候補 | 次の判断 |
|---|---|---|
| 運動機能障害を系統的に追いたい | FMA-UE | どの運動要素の変化を追うか整理する |
| 把持・つまみ・到達などの課題遂行能力を見たい | ARAT | 活動能力の変化を作業観察へつなぐ |
| 所要時間や動作能力の変化まで追いたい | WMFT | 速さと動作能力の変化を経時的に確認する |
| 書字・ボタンなど細かな手指操作を深掘りしたい | NHPTなど | 巧緻性が作業を制限しているか確認する |

作業から逆算する|尺度を先に選ばない
作業療法で重要なのは、評価尺度の点数そのものではなく、更衣・食事・整容・書字・家事・復職など、対象者が行いたい作業のどこで上肢が制限になっているかを明らかにすることです。
たとえば「上衣更衣で麻痺手を補助手として使いたい」という目標があれば、まず実際の作業で止まる場面を確認します。そのうえで、原因を運動機能障害として追う必要があればFMA-UE、物品操作能力を定量化したければARATというように、作業から必要な尺度へ戻ります。
つまり、作業観察 → 必要な評価層を決める → 尺度を選ぶの順です。尺度を先に並べて全項目を測定するより、「この結果が変わったら次の介入判断が変わるか」で絞る方が評価を増やしすぎません。
| 層 | 知りたいこと | 代表例 | 作業へのつなぎ方 |
|---|---|---|---|
| 心身機能 | 上肢の運動機能障害を系統的に把握したい | FMA-UE | 作業を妨げている運動要素との関係を確認する |
| 活動能力 | 把持・つまみ・到達などの課題遂行能力を知りたい | ARAT/WMFT | 変化した能力がどの作業で使えるか確認する |
| 巧緻性 | 細かな手指操作の速さや精度を知りたい | NHPT/Purdue Pegboardなど | 書字・ボタン・道具操作・復職課題などへ戻して確認する |
| 実際の作業 | 生活場面で麻痺手を使えている条件を知りたい | 更衣・食事などの作業観察 | 環境・道具・手順・代償方法を調整する |
5分で決める|作業目標→尺度→記録→再評価
評価を増やさないためには、毎回同じ順番で選ぶことが重要です。作業目標を1つ決め、今回必要な評価層を選び、主尺度1本+必要な補助評価までに絞ります。
- 作業目標を1行にする:例)「上衣更衣で麻痺手を補助手として使う」
- 作業を観察する:どの工程で止まり、何が制限になっているかを確認する
- 評価する層を決める:運動機能/活動能力/巧緻性のどこを測るか決める
- 主尺度を選ぶ:FMA-UE、ARAT、WMFTなどから意思決定に必要なものを選ぶ
- 同じ条件で記録する:標準化された手順を守り、再評価条件をそろえる
- 作業へ戻す:点数の変化が実際の作業でどう表れたかを確認する
ダウンロード|片麻痺上肢評価 5分フロー記録シート
記事の選定手順をそのまま現場で整理できるように、作業目標 → 評価層 → 最小セット → 条件固定 → 作業での変化 → 次の一手を1枚で記録できる「片麻痺上肢評価 5分フロー記録シート v2」を用意しました。
Excel版は院内ルールや記録方法に合わせて編集したい場合、PDF版はそのまま印刷・記入したい場合に使えます。
PDFプレビューを表示する
FMA・ARAT・WMFTの違い|迷いやすい3つの境界
3尺度は同じ上肢を評価しますが、まったく同じものを測っているわけではありません。迷ったときは「どれが優れているか」ではなく、今回どの変化を捉えたいかで選びます。
FMA-UEとARAT|運動機能障害か、活動能力か
運動機能障害を系統的に追いたいならFMA-UE、物品を扱う課題遂行能力まで確認したいならARATと整理すると選びやすくなります。
両者は競合する尺度というより、異なる層を補完する組み合わせです。FMA-UEの変化だけで「日常生活で麻痺手が使える」と判断せず、必要に応じてARATや実際の作業観察で活動面を確認します。
ARATとWMFT|課題遂行能力か、時間・動作能力まで追うか
ARATは、把持・握り・つまみ・粗大運動などの課題遂行を段階的に評価します。一方WMFTは、課題遂行時間とFunctional Ability Scale(FAS)を用いて、上肢課題のパフォーマンスを評価します。
そのため、物品操作を含む課題遂行能力の変化を追うならARAT、所要時間と動作能力まで含めて経時変化を詳しく追いたいならWMFTという使い分けができます。両尺度には測定内容の重なりもあるため、最小セットを目的とする場合は毎回両方を実施する必要性を検討します。
巧緻性テストを足す境界|細かな手指操作が意思決定を変えるとき
NHPTなどの巧緻性評価は、すべての片麻痺症例へ最初から追加する必要はありません。書字、ボタン操作、スマートフォン、道具操作、復職課題など、細かな手指操作の能力が次の介入や目標設定を左右する段階で追加します。
片手の巧緻性を時間で追うNHPTと、両手協調やAssembly課題まで含むPurdue Pegboardでは目的が異なります。詳細な実施条件や採点は、NHPT・Purdue Pegboardの評価法と使い分けで確認してください。
最小セット|病期より「今回何を決めるか」で組む
急性期・回復期・生活期という病期は評価選択の参考になりますが、病期だけで使用尺度を固定する必要はありません。同じ回復期でも、重度麻痺の運動機能変化を追う症例と、復職へ向けて手指操作を深掘りする症例では必要な評価が異なるためです。
| 臨床上の問い | 最小セット例 | 確認すること |
|---|---|---|
| 運動機能の変化を中心に追いたい | FMA-UE+作業観察 | 機能変化が実際の作業へ反映しているか |
| 機能と物品操作能力を両方追いたい | FMA-UE+ARAT | 運動機能障害と活動能力を分けて確認する |
| 時間や動作能力の変化まで追いたい | FMA-UE+WMFT | 運動機能と課題パフォーマンスの変化を確認する |
| 細かな手指操作が主要課題 | ARATまたはWMFT+NHPTなど | 巧緻性の変化が具体的な作業へつながるか確認する |
急性期では全身状態、疼痛、注意機能、疲労などによって標準化した評価を完遂できない場合があります。その場合は、無理に点数を埋めるのではなく、実施できなかった理由と再評価条件を記録します。回復期・生活期でも、測定できる尺度を増やすのではなく、目標達成の判断に必要なものへ絞ります。
記録|点数だけで終わらず「作業で何が変わったか」を残す
FMA-UE、ARAT、WMFTなどの標準化尺度は、同じ条件と手順で再評価して初めて経時変化を比較しやすくなります。そのうえで作業療法では、尺度の結果+作業場面での変化+次の介入をセットで記録すると、評価結果を治療計画へつなげやすくなります。
| 記録する項目 | 記録例 | 役割 |
|---|---|---|
| ①尺度の結果 | ARAT:前回より総得点が改善 | 標準化評価の変化を共有する |
| ②作業での観察 | 上衣更衣で麻痺手による衣服保持が可能になった | 点数が生活場面へ反映したか確認する |
| ③次の一手 | 衣服保持から袖操作へ課題を段階づける | 評価結果を介入計画へ変える |
なお、FMA-UEやARATなどで報告されているMCID・MDCは、発症からの時期、対象者、介入内容などによって異なります。単一の数値だけをすべての症例へ当てはめず、研究条件と対象者を確認したうえで解釈する必要があります。
よくある失敗|尺度選択より「何を判断する評価か」を揃える
| よくある失敗 | 問題 | 修正方法 |
|---|---|---|
| FMA-UEだけで上肢の実用性まで判断する | 運動機能障害の変化と実生活での使用は同じではない | 必要に応じてARATや作業観察を組み合わせる |
| ARATとWMFTを毎回両方測る | 測定内容が重なり、評価時間が増える場合がある | 課題遂行能力か、時間・動作能力まで追うかで主尺度を選ぶ |
| 再評価で条件が変わる | 測定条件の違いを機能変化と誤認する可能性がある | 各尺度の標準化された手順を守り、必要な条件を記録する |
| 尺度得点とADLを直接結びつける | 環境、代償方法、手順などでも作業遂行は変わる | 尺度と実際の作業観察を別々に評価して統合する |
| PT・OTという職種名だけで評価を分ける | 施設や対象者によって担当範囲が異なる | 「誰が測るか」より「何を判断するか」で役割を決める |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。
Q1.時間がない場合、最優先の2つは何ですか?
A.上肢の運動機能障害と活動能力を両方確認したい場合は、FMA-UE+ARATが基本候補です。ただし、今回の意思決定に片方しか必要ない場合は、無理に2尺度を実施する必要はありません。
Q2.ARATとWMFTはどちらを選べばよいですか?
A.物品操作を含む課題遂行能力を確認したい場合はARAT、課題の所要時間と動作能力の変化まで詳しく追いたい場合はWMFTと整理すると選びやすくなります。両尺度には測定内容の重なりもあるため、評価目的に合わせて主尺度を決めます。
Q3.FMA-UEが改善すれば、麻痺手も生活で使えるようになりますか?
A.必ずしも一致しません。FMA-UEは運動機能障害を評価する尺度であり、実生活で麻痺手を使うかどうかは作業内容、環境、代償方法などにも影響されます。必要に応じてARATなどの活動能力評価と実際の作業観察を組み合わせます。
Q4.NHPTやPurdue Pegboardはいつ追加しますか?
A.書字、ボタン、スマートフォン、道具操作、復職課題など、細かな手指操作の能力が次の介入判断を左右するときに追加します。すべての症例へ初回から行うのではなく、作業上の必要性から選択します。
Q5.PTとOTで同じ上肢評価をしてもよいですか?
A.職種だけを理由に評価を分ける必要はありません。同じ尺度を使用する場合でも、「運動機能の経過を見る」「作業課題との関係を見る」など、チーム内で評価目的と担当を決めておくと重複を減らせます。
次の一手|尺度を比較する→実際の作業へ戻す
- 他の上肢評価も含めて比較する:上肢機能評価の使い分け|FMA・ARAT・WMFT比較
- 生活場面で確認する:片麻痺の更衣・食事動作の観察ポイント
参考文献
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- 日本作業療法士協会. 作業療法ガイドライン 脳卒中. 協会公開PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

