労災(障害補償給付)で「評価依頼」が来る理由
労災(障害補償給付)の請求では、医師が作成する診断書に、障害の状態を裏づける所見が求められます。現場では、その裏づけに使える ROM ・筋力・移動・ ADL などの情報を、リハ職に依頼して集めるケースが多いです。
ポイントは「数値を出す」よりも、測定条件(体位・方法・補助具の有無)と、仕事・生活の場面(どの動作で安全に継続できないか)がセットになっていることです。ここが揃うと、書類作成側(医師)の手戻りが減り、あなたの評価も“使える情報”になります。
書類対応で消耗するなら、環境の整え方も一緒に
教育体制・記録文化・標準化が噛み合わない状態が続くと、書類対応はさらに重くなります。選択肢を整理しておくと動きやすいです。
PT 転職の全体像を 5 分で確認まず確認する 4 点(ここが曖昧だと手戻りが増える)
依頼を受けたら、測定に入る前に「何を、どの条件で、いつの状態として」残すかを合わせます。ここが揃わないと、同じ ROM でも意味がズレます。
労災の書類は、“仕事の動作(負荷・反復・持続)”の情報があるほど、所見が使われやすくなります。まずは以下の 4 点を揃えます。
| 確認ポイント | なぜ重要か | 聞き返す一言(例) |
|---|---|---|
| ① どの様式か(業務災害/通勤災害、障害の請求) | 用紙・添付書類・書き方の前提がズレると手戻りが増える | 「どの様式で進めていますか?共有いただけますか?」 |
| ② 時点(治ゆ・症状固定の時点、評価日) | “いつの状態” かで解釈が変わる(変動があるときは条件の価値が上がる) | 「この書類は “いつの状態” として作成しますか?」 |
| ③ 障害部位と主訴(片側/両側、痛み・しびれ等) | 押さえる方向(関節・筋・神経症状、代償)が決まる | 「主症状(例:右肩の挙上痛)をどれで押さえますか?」 |
| ④ 仕事の動作(負荷・反復・持続)と安全条件 | “できる/できない” より “安全に継続できない条件” が所見になりやすい | 「業務で多い動作(例:中腰・ 10 kg 持ち上げ・反復)を教えてください」 |
最小セット(労災)|まずはこの 5 つを揃える
労災は、関節単体の数値だけでは伝わりにくいです。そこで「数値(機能)+仕事/生活の止まり方(活動)」のセットで、最低限そろえると書類が強くなります。
迷ったら、 ROM →筋力/運動機能→移動・ ADL →仕事動作(反復・持続)→条件(補助・疼痛・安全)の順で整理すると、医師が転記しやすいです。
| 項目 | 最低限の書き方 | 記録ポイント(例) |
|---|---|---|
| ROM | 体位/他動・自動/角度/制限因子 | 「肩屈曲:座位・他動 0–90°、疼痛で終末制限」 |
| 筋力・運動機能 | 主要筋の段階+代償/協調性 | 「股関節外転: MMT 3 、体幹側屈で代償」 |
| 移動・ ADL | 介助量+“できない理由” を 1 行で | 「階段:手すり必須、下りで膝折れが出やすく監視」 |
| 仕事動作(作業) | 負荷/姿勢/反復/持続の条件つき | 「中腰保持: 2 分で疼痛増悪、立位へ移行が必要」 |
| 条件(再現性・安全) | 補助具/装具/疼痛/疲労/日内変動 | 「午後に疼痛増悪、同条件で再現性あり」 |
仕事(作業能力)を短文化するコツ(安全に継続できない条件を書く)
労災の書類では、仕事の制限が伝わると強いです。そこで「できる/できない」だけで終わらず、姿勢(どの形)+負荷(どれくらい)+反復/持続(どの程度で崩れる)を短文で添えます。
文章は長くしなくて大丈夫です。むしろ “ 1 行で条件つき” が最強です。
| 場面 | NG 例 | OK 例( 1 行で条件つき) |
|---|---|---|
| 中腰 | 「中腰がつらい」 | 「中腰保持: 2 分で疼痛増悪、立位へ移行が必要」 |
| 持ち上げ | 「重い物は無理」 | 「 5 kg 以上の持ち上げで疼痛増悪、反復で動作が崩れる」 |
| 反復 | 「繰り返すとだめ」 | 「反復屈伸: 10 回で膝折れが出やすく安全性が低下」 |
| 歩行 | 「長く歩けない」 | 「平地歩行: 10 分で疼痛増悪、休息が必要」 |
医師へ返すメモ( 3 行テンプレ )
依頼元が忙しいほど「長文」は読まれません。 3 行(条件 → 数値 → 仕事/生活)に圧縮すると、転記されやすく手戻りが減ります。
| 行 | 書く内容(型) | 例 |
|---|---|---|
| 1 行目(条件) | 評価時点/補助具条件/仕事動作の前提 | 「症状固定後、普段条件(杖なし)で評価。業務は中腰・反復が多い」 |
| 2 行目(数値) | ROM ・筋力の要点(体位・方法つき) | 「膝屈曲:背臥位・他動 0–110°、疼痛で終末制限/ MMT 3 」 |
| 3 行目(仕事/生活) | 作業の止まり方(安全に継続できない条件) | 「中腰保持: 2 分で疼痛増悪。反復屈伸は 10 回で膝折れが出やすい」 |
ROM の書き方テンプレ(条件がない数値は弱い)
ROM は「何度」だけだと、書類側が解釈に困ります。体位・方法・制限因子の 3 点を固定すると、同じ数値でも情報量が跳ね上がります。測定法は、国内で標準化された資料に沿わせると安心です(参考:評価の全体像(まとめ))。
おすすめは、次のテンプレに当てはめる書き方です。
| 要素 | 書く内容 | 例文 |
|---|---|---|
| 体位 | 立位/座位/背臥位など | 「背臥位で測定」 |
| 方法 | 自動/他動、固定の要点 | 「他動、骨盤固定で実施」 |
| 角度 | 開始・終末角度(必要なら左右) | 「股関節屈曲: 0–80°」 |
| 制限因子 | 疼痛/痙縮/拘縮/恐怖など | 「大腿後面の伸張痛で終末制限」 |
| 再現性 | 同条件で再測定し同程度か | 「 2 回測定で差は 5° 以内」 |
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
よく詰まるのは、この 2 つです。(リンク先はこの記事内の該当節です)
| NG (起こりがち) | なぜ弱いか | OK (直し方) |
|---|---|---|
| 角度だけ返す(体位・方法なし) | 同じ数値でも意味が変わり、転記できない | 体位/自動・他動/制限因子を 1 行で添える |
| ADL が「介助」だけ | どの動作で、なぜ介助かが不明 | 介助量+理由+場面を 1 行で具体化する |
| 仕事動作が「つらい」だけ | 安全に継続できない条件が伝わらない | 姿勢+負荷+反復/持続を “条件つき 1 行” にする |
| 補助具条件が混在 | 装具あり/なしが混ざると解釈不能 | 「普段条件」など条件を先に固定して記載 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 依頼が曖昧で、何を測ればいいか分かりません。
まずは「様式」と「時点(固定後か)」を確認します。次に、最小セット( ROM ・筋力・移動・ ADL ・仕事動作・条件)だけを先に揃え、追加が必要なら後追いで増やします。最初から全部盛りにすると、条件が混ざりやすく手戻りが増えます。
Q2. 痛みで ROM が出ません。どう書けばいいですか?
“出ない” を隠す必要はありません。むしろ 疼痛で終末制限と明記し、体位・方法を揃えた上で「どの仕事動作で止まるか(反復・持続)」をセットで返すと、書類として意味が通ります。
Q3. 日によって状態が変わります(疲労・浮腫など)。
変動は“条件”として価値があります。午前/午後など、書類側が理解しやすい単位で「どの方向に変わるか」「安全上の問題が出る場面」を短く残します。評価日を増やせない場合は、同日内で条件を揃えて再測定し、再現性の範囲を添えるだけでも強くなります。
Q4. 仕事の情報(職種・動作)が分かりません。
分からないまま推測で書くより、“分かる範囲の条件”だけで返す方が安全です。最低限は「姿勢(立位・中腰)」「反復」「持続」で、どれが引き金になるかを押さえます。依頼元へ確認できるなら「重さ」「回数」「時間」のどれか 1 つだけ聞くと、 1 行が作れます。
次の一手(運用を整える → 共有の型 → 環境も点検)
書類対応は「個人の頑張り」で回すほど消耗します。次の順で整えると、現場がラクになります。
- 運用を整える:最小セットとテンプレを、チームで共通言語にする
- 共有の型を作る:返却メモ( 3 行テンプレ)をフォーマット化して、手戻りを減らす
- 環境の詰まりも点検:教育体制や標準化が噛み合わないなら、外部の選択肢も確認する
続けて読む:書類対応で評価依頼が来たときの “最小セット” (総論) / 交通事故(後遺障害診断書)で評価依頼が来るとき
参考文献
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

