NPI/NPI-NH とは?(目的と使いどころ)
NPI( Neuropsychiatric Inventory )は、認知症の BPSD(行動・心理症状) を 12 ドメインに整理し、面接での聞き取りから 有無 → 具体例 → 頻度( 0–4 )×重症度( 0–3 ) を用いて症状負荷を定量化するツールです。どの症状が、どのくらい、どんな誘因で生じているかを「見える化」できるため、非薬物的介入や薬物療法の優先順位決定に役立ちます。
施設版の NPI-NH では、主情報提供者が家族ではなく 介護・看護スタッフ となり、施設での日常場面(食事・排泄・夜間など)を前提にした質問運用が特徴です。外来・在宅では NPI、病棟や老健・特養などでは NPI-NH を使うことで、「誰が」「どの場面で」評価しても再現性の高い BPSD 評価が行いやすくなります。
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NPI と NPI-NH の違い(まずここを押さえる)
どちらも基本構造は同じですが、「誰に何を聞くか」「どの場面を前提にするか」が異なります。導入時には、施設としてどちらを標準にするかを決めておくと、カンファレンスでの議論や経時比較がスムーズです。
| 項目 | NPI | NPI-NH |
|---|---|---|
| 主情報提供者 | 家族・キーパーソン | 介護・看護スタッフ(施設観察) |
| 実施者 | 医療・介護専門職 | 医療・介護専門職(施設ルールに準拠) |
| 質問法 | 半構造化面接+具体例提示 | 施設場面に即した質問運用・追加設問 |
| 所要時間 | 約 10–20 分 | 約 10–15 分(観察共有で短縮しやすい) |
| スコア | 頻度( 0–4 )×重症度( 0–3 )→ドメイン( 0–12 ) | 同様(スタッフ負担感の把握を併用しやすい) |
| 向いている場面 | 外来・在宅・家族同席のカンファ | 病棟・老健・特養など施設ケア |
12 ドメイン(質問項目)
評価は「有無 → 具体例 → 頻度 → 重症度」の順に確認します。聞き取りの型に迷いやすい方は、あらかじめ 評価面接の基本フロー を自分なりに固定しておくと、時間短縮と再現性の両立につながります。
- 妄想( Delusions )
- 幻覚( Hallucinations )
- 興奮・攻撃性( Agitation / Aggression )
- 抑うつ・ディスフォリア( Depression / Dysphoria )
- 不安( Anxiety )
- 多幸( Euphoria / Elation )
- 無関心・アパシー( Apathy / Indifference )
- 脱抑制( Disinhibition )
- 易刺激性・感情不安定( Irritability / Lability )
- 異常行動(常同行動・目的のない歩行など/ Aberrant Motor )
- 夜間行動・睡眠( Night-time Behavioral Disturbances )
- 食欲・摂食異常( Appetite / Eating Abnormalities )
採点と解釈(計算例つき)
各ドメインで 頻度 0–4( 0=なし, 1=時々, 2=ときどき, 3=しばしば, 4=ほぼ常に )と、重症度 0–3( 0=なし, 1=軽度, 2=中等度, 3=重度 )を掛け合わせ、ドメインスコア 0–12 点 を算出します。合計点は 原著 10 ドメインなら最大 120 点、現在よく用いられる 12 ドメイン版では最大 144 点 です。どちらの上限を採用しているかを記録様式に明記し、再評価時も同じ基準で比較します。
計算例:妄想=頻度 3 ×重症度 2= 6 点、無関心= 2 × 3= 6 点、易刺激性= 2 × 2= 4 点 … → 合計 24 点。合計点の高さだけでなく、どのドメインが高いか を見て優先的に介入する領域を決め、時間帯・状況・人物などの誘因も併記して多職種で共有します。
評価用紙と実務のコツ
現場で使いやすいのは、各ドメインを 1 行にまとめた A4 版です。ドメイン名の横に「有無 → 具体例 → 頻度 → 重症度 → 負担感 → 合計」の欄を並べ、右端に再評価欄を設けると、時間経過による変化がひと目で追えます。
- A4 1 枚で 12 ドメインが俯瞰できるレイアウトにし、再評価時は同じシート上に追記する。
- 観察例は日勤・夜勤で最低 1 件ずつ集め、「夕食前の待機で易刺激性↑」など具体的に書く。
- 週 1 回のカンファでスコアと具体例を確認し、非薬物的介入の効果判定に活用する。
- 電子カルテでは「ドメイン名/誘因/対応/結果」をテンプレ化し、記録時間を短縮する。
運用フロー(最短版)
NPI/ NPI-NH を導入するときは、「評価そのもの」と「日常観察」とを切り離さず、チームでのルーチンとして設計することがポイントです。以下の 5 ステップを 1–2 週間ごとのサイクルで回すと、介入の PDCA を回しやすくなります。
- 準備:直近 1 週間の具体例をスタッフから収集(時間・場面・誘因・対応・結果)。
- 面接:NPI/ NPI-NH の半構造化質問で、有無 → 頻度 → 重症度 → 代表的な具体例を聴取。
- 採点:各ドメインスコアと必要に応じて介護者負担を算出し、合計点とともに記録する。
- 共有:高スコアのドメインを優先し、非薬物的介入案(環境調整・スケジュール変更など)を決定。
- 再評価: 1–2 週間ごとに同手順で再測し、スコア推移と具体例の変化から効果を確認する。
よくある質問( FAQ )
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NPI と NPI-NH はどう使い分ける?
家族からの情報が中心となる 在宅・外来 では NPI、日々の観察を行う 病棟・老健・特養などの施設 では NPI-NH が実務的です。同じ利用者でも、在宅から入所へ切り替わるタイミングで評価法をスイッチし、どちらを使っているか記録上で分かるようにしておくと混乱を防げます。
合計点は 120 と 144 のどちらを使えばよい?
原著の 10 ドメイン版では最大 120 点、 12 ドメインを評価する運用では最大 144 点になります。施設やチームでどちらを採用するかを決め、「評価用紙とカルテ様式の両方」に上限値を明記しておくことが重要です。再評価も必ず同じ上限値・同じドメイン構成で比較しましょう。
短時間でざっと把握したいときは?
ベッドサイドで概況を素早くつかみたい場合は、簡易版の NPI-Q を用い、介護者の負担感も同時に確認できます。ただし 介入の設計や効果判定 まで行う場合は、ドメインごとのスコアと具体例が整理できる NPI/ NPI-NH を併用するほうが安全です。
おわりに
認知症の BPSD マネジメントは、「日常観察 → NPI/NPI-NH での見える化 → チームでの介入調整 → 再評価」のサイクルを途切れさせずに回し続けることが基本リズムです。スコアや合計点に加えて、具体例・誘因・対応までをセットで記録しておくことで、「どの関わりが効いたのか」が少しずつ見えやすくなります。
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参考文献(原著・ DOI )
- Cummings JL, Mega M, Gray K, Rosenberg-Thompson S, Carusi DA, Gornbein J. The Neuropsychiatric Inventory: Comprehensive assessment of psychopathology in dementia. Neurology. 1994;44(12):2308–2314. https://doi.org/10.1212/WNL.44.12.2308
- Wood S, Cummings JL, Hsu M-A, et al. The NPI—Nursing Home version ( NPI-NH ): Development and validation. Am J Geriatr Psychiatry. 2000;8(1):75–83. https://doi.org/10.1097/00019442-200002000-00010
- Kaufer DI, Cummings JL, Christine D, et al. Validation of the NPI-Q, a brief clinical form of the Neuropsychiatric Inventory. J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 2000;12(2):233–239. https://doi.org/10.1176/jnp.12.2.233
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


