
こんにちは!リハビリくんです!
こちらでは「バランス評価ツールとして臨床で使用されているFour Square Step Test(FSST)」をキーワードに記事を書いていきます!
バランス能力は日常生活活動、特に歩行自立度を決定する要因として重要な位置を占めております。転倒との関連も数多く報告されており、医療従事者としてバランス能力を評価することは必須になります。
バランス評価ツールとしては、様々なものが開発されています。どれも長所や短所があり、どれか1つのバランス評価ツールを使いこなせば大丈夫、というわけではなく複数のバランス評価ツールを組み合わせて対象者のバランス能力を評価するべきだと思います。
Four Square Step Test(FSST)については、杖が数本あれば実施できるため、場所を選ばずに行うことができます。そして非常に短時間で評価することができるため、日々の診療で継続的に評価することが可能になります。このあたりが最大の長所になると考えています。FSSTについて、初めて耳にしたという方もいらっしゃると思います。
- FSSTって何?
- 評価方法やカットオフ値が知りたい
- 入院や入所中の転倒の弊害について
- FSSTと敏捷性について
- FSST以外のバランス評価ツール
Four Square Step Test(FSST)について様々な疑問を抱えることがあると思います!そんな方のために、こちらの記事を読むことで上記の疑問が解決できるようにしたいと思います!是非、最後までご覧になってください!

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士として働いていると、一般的な会社員とは異なるリハビリ専門職ならではの苦悩や辛いことがあると思います。当サイト(rehabilikun blog)ではそのような療法士の働き方に対する記事も作成し、働き方改革の一助に携わりたいと考えております。
理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです
登録理学療法士
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
転倒対策の重要性について
入院や施設入所中の患者が転倒すると、骨折などの外傷がなくても、動作遂行に対する恐怖心や不安感が増大し、自信を奪われます。その結果、リハビリテーションへの意欲が低下し、進行を阻害することがあります。
日本における転倒の疫学

日本国内の調査では、地域在住の高齢者では年間転倒発生率が 10〜25%、施設入居者では 10〜50% に上ると報告されています。さらに、転倒に伴う外傷は約 54〜70% にのぼり、その中で骨折に至るケースは 6〜12% に達します 。他にも、介護施設入所者の年間転倒率が 45% と報告されており 、非常に高い発生率であることがわかります。
また、地域高齢者では「少なくとも 3 人に 1 人が毎年転倒し、転倒した 5 人に 1 人が重症、10 人に 1 人が骨折」するという報告もあり、長期入院のリスクが高いことが明らかです。
悪循環と社会コスト
転倒経験は「転倒に対する恐怖」を増大させ、歩行などの日常活動の回避につながります。その結果、下肢や体幹の筋力低下、バランス能力低下という悪循環を招く恐れがあります。
さらに、骨折や打撲、大腿頚部骨折などの合併症は、寝たきり状態へとつながりやすく、結果的に入院期間の延長や医療費の増加などの社会問題を引き起こします。たとえば、厚生労働省のデータでは、住宅内での転倒による傷害搬送件数が多くを占めており、死亡に至るケースも少なくありません。このような実情から、転倒対策の重要性は明らかとなります。
敏捷性の評価
これまで転倒予防の評価は主に下肢筋力や静的バランスに重点が置かれてきました。しかし、近年の研究では日常生活での安全な動作には敏捷性(agility)が不可欠であり、その評価と介入が転倒対策に重要であることが示されています。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が臨床で敏捷性に着目することは、より包括的な転倒予防戦略に直結します。
敏捷性とは何か
敏捷性とは「環境の変化や予期せぬ外乱に対して、素早くかつ適切に身体動作を切り替える能力」を指します。これは筋力やバランスといった単一の体力要素だけでは説明できず、認知機能(注意・判断)、バランス制御、筋力発揮速度の統合的能力として位置づけられます。
実際、転倒は「つまずきやすい」という単純な筋力低下だけでなく、「不意にバランスを崩した際に立ち直れない」という敏捷性の不足が関与していることが多く報告されています(Shimada et al., 2011)。
敏捷性低下と転倒リスク
高齢者における敏捷性の低下は、転倒の独立したリスク因子とされています。特に以下の要素が関連します。
- 【方向転換動作の遅延】
- 廊下や室内での方向転換時に転倒が多い
- 【二重課題下での反応低下】
- 会話しながら歩く、物を持ちながらの移動でリスク増加
- 【反応時間の延長】
- 環境変化に即応できないことがつまずきや転倒につながる
Shimadaらの研究(J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2011)では、敏捷性評価を行うことで筋力やバランス評価のみでは捉えられない転倒予測が可能であると報告されています。
FSST(Four Square Step Test)とは
高齢者リハビリテーションや転倒予防の臨床現場において、**敏捷性(agility)**を評価することは極めて重要です。筋力や静的バランスだけでは、実生活で遭遇する予期せぬ外乱や障害物回避能力を十分に反映できません。
こうした背景から、2002 年に Dite らによって開発された Four Square Step Test(FSST) は、臨床で簡便に敏捷性を測定できる方法として注目されています(Dite & Temple, Arch Phys Med Rehabil. 2002)。
FSSTの概要
FSST は、床に配置された 4 つの正方形(通常はテープで区切る)を用いて、前後・左右に素早くステップを踏む課題を行い、その遂行時間を測定します。
- 目的:多方向への素早いステップ能力=敏捷性を評価
- 特徴:低い障害物を跨ぐ動作を含み、バランス・協調性・下肢筋力を統合的に評価
- 所要時間:数分で実施可能
- 対象:地域在住高齢者、神経疾患患者、整形外科疾患患者など幅広い集団に適応
このテストは、日常生活で必要とされる複雑な移動動作(例:方向転換、障害物回避)を模倣している点に大きな臨床的意義があります。
バランス評価に求められること
バランス評価における評価のポイントとして以下の 5 つがあげられます。
- テストの判別性が高い
- 判断基準が明確である
- 評価が簡易に実施できる
- 短時間で評価出来る
- 安全性が高く、患者の負担が少ない
Four Square Step Test(FSST)は上記 5 項目を全て満たした評価指標となります。実際に筆者も臨床でバランス能力を評価する一環として使用している指標となります。
評価方法

4 本の杖 (床面からの高さ 2 cm)を十字に並べて 4 区画にわけます。前後左右にできるだけ素早く杖をまたぎながら移動して、往復する速度を測定します。
スタート位置は左手前の区画とし、時計回りに一周して左手前の区画に移動した後、続けて反時計回りに 1 周して左手前の区画に戻るまでの時間を計測します。
実施における説明としては 「杖にふれることなくできるだけ早く順序通りに移動してください」「両足をそれぞれの区画に接地させてください」「可能なかぎり身体の向きを変えずに前方を向いて行ってください」とお伝えします。
1 回練習した後に、2 回計測しタイムが早い方を記録とします。測定中に杖に接触したり、転倒を防ぐ介助が必要になった時は、測定し直しとします。
信頼性と妥当性
Diteら(2002)の報告では、FSST は再現性が高く(ICC=0.99)、転倒歴のある高齢者とない高齢者を有意に区別できることが示されています。
また、パーキンソン病患者や脳卒中片麻痺患者に対しても有効であることが後続研究で報告されており、神経疾患患者における転倒予測指標としての活用が広がっています(Blum & Korner-Bitensky, 2008)。
カットオフ値と臨床的意義
地域在住高齢者では 15 秒以上を要する場合、転倒リスクが高いとされています(Dite & Temple, 2002)。
脳卒中患者においても、同様に 15 秒がカットオフ値として妥当であるとの報告があります。 パーキンソン病患者ではさらに高い基準値が提案されており、疾患特性に応じた解釈が必要です。
FSST は、転倒既往の有無・歩行自立度・認知機能とも関連することが知られており、包括的なリスク評価の一部として活用できます。
リハビリテーションへの応用
FSST は評価だけでなく、臨床での介入設計にも応用可能です。
- 運動療法
- FSST 課題そのものを繰り返し練習することで敏捷性を改善
- 二重課題トレーニング
- 計算課題や会話を同時に行い、認知機能との統合を図る
- 機能的トレーニング
- 方向転換・障害物回避・段差昇降などを組み合わせ、実生活動作に直結させる
こうしたプログラムは、単なる筋力訓練や静的バランス練習では得られない効果をもたらし、転倒予防効果を高めます。
その他のバランス能力評価指標について
Four Square Step Test(FSST)は有用なバランス能力評価指標となりますが、バランス能力については複数の指標を組み合わせて判断した方が、より信頼性は高くなると考えられます。本邦で使用頻度が高い Four Square Step Test(FSST)以外の評価指標についてご紹介します。
- Timed Up and Go test(TUG)
立ち上がりと方向転換を組み合わせた歩行速度のテストになります。もともとは移動能力の評価として開発されましたが、歩行能力の視点から転倒リスク評価として使用されています。 - 片脚立位時間
立位姿勢の安定性評価になります。支持物を持たずに、腰に手を当てた状態または腕を組んだ状態で、片方の足を 10 cm 程度浮かせ、その保持時間を計測します。 - Functional Reach test(FRT)
安定性の限界を評価する方法になります。足を動かさずに利き腕で前方へ到達できる最大距離を測定します。 - Berg Balance Scale(BBS)
バランス評価を目的とした総合的な評価ツールになります。座位・立位・歩行時のバランスについて 14 項目の課題動作を観察し、各項目 0 点から 4 点の 56 点満点で採点します。
BBS や TUG については、他の記事で詳しくまとめています!《【歩行の評価尺度】10m歩行、6MWT、FAC、TUG、BBS》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
FSST は、敏捷性を簡便かつ信頼性高く測定できる評価法であり、高齢者や神経疾患患者の転倒リスクを把握するうえで有用です。
臨床現場では、筋力や静的バランス評価と併用することで、より包括的な転倒リスク評価が可能となります。理学療法士・作業療法士が FSST を積極的に取り入れることは、リハビリテーションの質を高めるうえで欠かせないアプローチです。
参考文献
- 藤原求美,山口実果,手塚康貴,太田忠信.Four Square Step Testの信頼性と妥当性につい て.理学療法学.第33巻,第67号,2006年,p330-333頁.
- 平賀篤.バランス・転倒に関する最前線.国際エクササイズサイエンス学会誌.5(2),2022,p14-19.