失語症評価の使い分け| SLTA ・ WAB ・ CADL 比較
失語症評価で迷いやすいのは、「どの検査が優れているか」ではなく、いま何を決めたいかが曖昧なまま検査名だけを並べてしまうときです。このページでは、 SLTA ・ WAB ・ CADL を病期と目的でどう使い分けるかに絞って整理します。
結論はシンプルです。急性期は WAB で全体像、回復期は SLTA で苦手の地図、生活期は CADL で生活場面の困りごとを先に押さえると、評価が介入と共有につながりやすくなります。点数の説明よりも、「次に何をするか」が決まる形で読めるように作っています。
回遊(同ジャンル):まずは親記事で ST 評価の全体像を揃えると、このページの役割が見えやすくなります。
関連:脳卒中ハブ(全体像)
続けて読む:構音・音声の ST 評価(兄弟記事)
先に比較| 3 つの検査で「何が決まるか」を整理
迷いが出るのは、全体像をみる検査と詳細をみる検査と生活場面をみる検査が混ざるからです。まずは目的で切り分けると、選び方が速くなります。
| 検査 | 最短の役割 | 強い場面 | 弱い場面 | 先に共有したいこと |
|---|---|---|---|---|
| WAB | 全体像と重症度 | 短時間で「失語の輪郭」をつかみたい | 読み書きなど細かな苦手の地図は残りやすい | どれくらい助ければ会話が通るか |
| SLTA | 苦手の地図づくり | 訓練の優先順位を決めたい | フル実施は負担が大きくなりやすい | どのモダリティを先に練習するか |
| CADL | 生活場面の会話能力 | 家族説明や在宅支援に落としたい | 状態が不安定な時期は実施の質が落ちやすい | どの場面で、どう支えれば伝わるか |
選び方フロー|「病期 × 目的」で最小セットを決める
検査は「全部やる」より、いま欲しい意思決定に合う 1 本を軸にする方が実務では回ります。病期ごとの優先順位を先に固定しておくと、評価がぶれにくくなります。
| 病期 | まず決めたいこと | 優先しやすい検査 | 運用のコツ |
|---|---|---|---|
| 急性期 | 安全に評価できる上限と全体像 | WAB +観察 | フル実施より「いま取れた範囲」を固定して再評価する |
| 回復期 | 訓練の優先順位と目標設定 | SLTA +必要に応じて WAB | 苦手モダリティを「介入の順番」に変換して共有する |
| 生活期 | 生活で困る場面と支援設計 | CADL +会話観察+聴き取り | できる / できないではなく「どうすればできるか」を決める |
配布物ダウンロード|失語症評価の使い分け 5 分フロー
記事の内容を 1 枚で持ち出したい方向けに、病期 × 目的で選ぶ流れを整理した A4 PDF を用意しました。カンファ前の確認や、評価の優先順位を揃えたいときに使いやすい構成です。
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結果を共有文に変える| 3 行テンプレで介入までつなぐ
点数やタイプ名だけでは、病棟も家族も動きにくいです。評価結果は、いま何が起きているか、何なら通るか、次にどう支えるかの 3 行に翻訳すると使いやすくなります。
| 枠 | 書く内容 | 短い例 |
|---|---|---|
| ①いま何が起きているか | 全体像(理解 / 発語 / 読み書きの大枠) | 短文理解は比較的保たれるが、発語は遅延が強い |
| ②何ができるか | 通る手段・保たれる手段 | 指差しと二択提示で意思確認は通りやすい |
| ③次に何をするか | 介入と環境調整 | 指示は 1 文を短く区切り、選択肢提示で成功率を上げる |
- WAB:重症度と大枠で「全体像」を 1 行にする
- SLTA:苦手モダリティを「どこから練習するか」に変える
- CADL:生活場面の困りごとを「支援の設計」に変える
各検査の使いどころ| SLTA ・ WAB ・ CADL
ここでは、設問の全文や細かな採点法ではなく、現場で迷いやすい「いつ使うか」だけを押さえます。
SLTA:苦手の地図を作って、訓練の優先順位を決める
SLTA は、理解・表出・読み書きなどを幅広くみて、どこが弱く、どこが保たれているかを整理したい場面に向きます。急性期に毎回フルで回すより、回復期以降に重点項目を固定し、経時で比較できる形にすると使いやすいです。
WAB:短時間で全体像をつかみ、再評価の軸を揃える
WAB は、限られた時間で失語の輪郭と重症度をつかみたいときに相性がよいです。急性期では「まず今どこまで通るか」を揃える役割が大きく、読み書きの細かな訓練設計は別の評価で補うほうが実務に合います。
CADL:生活場面の困りごとを見つけて、支援設計へ直結させる
CADL は、病棟や在宅で実際にどの場面で困るかを掴みたいときに有効です。結果は点数だけで終わらせず、代償手段・環境調整・家族の関わり方に直訳して共有すると価値が出ます。
現場の詰まりどころ|読めばその場で修正できる 3 本だけ
ここはページ内で解決するゾーンです。まずは「どこで崩れやすいか」を先に押さえてください。
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、書き方や手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。評価・記録・報告の「型」をまとめて整理したい方は、PT キャリアガイドも参考になります。
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よくある失敗|時間がないのに “全部やる” で崩れる
失語症評価が回らない原因は、検査そのものより設計ミスであることが多いです。よくある崩れ方と最短の修正を表で固定します。
| 失敗(NG) | なぜ起きるか | 修正(OK) |
|---|---|---|
| 急性期に SLTA をフルで回そうとする | 目的(全体像)と手段(詳細)が逆転する | 急性期は WAB と観察で「上限」と「再評価軸」を先に作る |
| 点数だけを共有して終わる | チームが行動に変換できない | 3 行テンプレで「できる手段」と「支援の一手」を添える |
| 1 回で全部終わらせようとする | 疲労で反応が崩れ、結果が荒れやすい | 評価を分割し、どこまでできたかを固定して追う |
| 検査結果と生活の印象がズレて混乱する | 構造化場面と自然場面の差を見落とす | CADL や会話観察で生活の強みを拾い、支援設計に直結させる |
回避の手順|評価 → 介入 → 共有を 1 本にする
失語症評価は「検査を終えること」ではなく、「次にどう支えるか」を決める作業です。迷わないために、手順を固定しておきます。
- 目的を 1 行で決める:全体像 / 訓練設計 / 生活支援のどれを優先するか
- 軸となる検査を 1 つ選ぶ: WAB / SLTA / CADL を中心にする
- 結果を翻訳する:点数 → できる / 難しい → どうすれば通るか
- 3 行で共有する:病棟・家族・チームが同じ対応を取りやすくする
- 再評価条件を固定する:時間帯、疲労、声掛け、提示方法を揃える
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
SLTA ・ WAB ・ CADL は全部やるのが理想ですか?
理想は「全部」ではなく、目的に対して必要十分であることです。急性期は WAB で全体像、回復期は SLTA で訓練設計、生活期は CADL で生活支援というように、病期と目的で優先順位を決める方が実務では回りやすくなります。
急性期で疲れやすく、検査が途中で止まります。どう扱えばいいですか?
無理に最後まで進めるより、どこまでできたかを記録し、その範囲で意思決定に必要な情報へ変換します。次回は同条件で再実施し、変化を拾える形にすると、評価が積み上がります。
検査結果をカンファでどう説明すれば伝わりますか?
点数よりも、通る手段と支援の一手が伝わるとチームが動きやすくなります。「いま何が起きているか → 何ができるか → 次に何をするか」の 3 行で言い切ると、家族説明にも流用しやすいです。
SLTA と CADL の印象が噛み合わないことがあります。
構造化された検査場面と生活場面では、見え方がずれることがあります。ズレ自体が情報なので、会話観察や家族からの聴き取りも合わせて、「生活でどう支えれば通るか」に落とすと整理しやすくなります。
次の一手|同ジャンルで理解をつなげる
- 全体像に戻る:脳卒中の ST 評価まとめ(最小セット)
- 兄弟記事で広げる:構音・音声の ST 評価( 10–15 分最小セット)
参考文献
- Morioka E, Kanai T, Takahashi S. 失語症の言語機能とコミュニケーション能力の関連性─ SLTA から読み取れる実用的言語能力の可能性─. 高次脳機能研究. 2013;33(2):253-261. DOI: 10.2496/hbfr.33.253
- Bakheit AMO, Griffiths S, Searle K, Carrington S. High scores on the Western Aphasia Battery correlate with good functional communication skills (as measured with the Communicative Effectiveness Index) in aphasic stroke patients. Disabil Rehabil. 2005;27(6):287-291. DOI: 10.1080/09638280400009006
- Hammond L, Christensen T, Fridriksson J, den Ouden DB. Assessing Functional Communication in Persons With Aphasia: A Scoping Review of Formal and Informal Measures. Int J Lang Commun Disord. 2025;60(3):e70051. DOI: 10.1111/1460-6984.70051 / PubMed: 40346989
- 綿森淑子. 実用コミュニケーション能力検査( CADL )と失語症の訓練について. 失語症研究. 1993;13(2):191-199. DOI: 10.2496/apr.13.191
検査の実施法・購入情報は、各公式ページも確認してください。SLTA / WAB 日本語版 / CADL
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


