FSSTは「条件固定→記録→再評価」まで決めて運用する
FSST(Four Square Step Test)を臨床で活かすには、タイムを測るだけでなく、どの条件で実施したか、どこで動きが乱れたか、次回何を比較するかまで残すことが重要です。このページでは、FSSTの正式な測定手順を繰り返すのではなく、中止・再測定の判断、記録項目、再評価、生活場面や介入へのつなげ方をPT向けに整理します。
測定方法やステップ順、無効条件、カットオフを確認したい場合は、先にFSSTの評価方法|手順・無効条件・カットオフをご確認ください。本記事では、「測った後まで同じ型で運用すること」に焦点を当てます。
FSSTの中止・再測定は「標準手順」と「施設SOP」を分ける
FSSTを安全に運用するには、FSSTとして定められた実施条件と、施設で安全管理のために追加する運用ルールを混同しないことが重要です。
標準的な実施では、評価者によるデモを行うことができ、理解確認のための練習試行を1回設け、2回の試行から良いタイムを採用する方法が示されています。一方、体調変化や転倒危険性に対する具体的な中止判断は、対象者の状態と施設の安全管理基準を優先します。
| 項目 | 基本的な考え方 | 記録すること |
|---|---|---|
| 練習・試行 | 理解確認のため練習試行を設け、2試行から良いタイムを採用する方法が示されています。 | 練習の有無、各試行タイム、採用値 |
| 手順上の失敗 | 順序誤り、杖・棒への接触、両足が各区画へ入らないなど、標準条件から外れた内容を確認します。 | 失敗内容、試行番号、再測定の有無 |
| 安全上の中止 | 明らかな姿勢制御の破綻、転倒回避のための介助、体調変化、本人の中止希望などがあれば、測定継続より安全を優先します。 | 中止理由、介助の有無、実施できた範囲 |
| 施設SOP | 見守り位置、歩行帯の使用、再試行上限などは、対象者と施設の安全基準に合わせて決めます。 | 標準条件から追加・変更した内容 |
重要なのは、「FSSTの標準的な実施条件」と「安全のため施設で追加した条件」を同じものとして扱わないことです。条件を変更した場合は、その事実を残して次回の比較時に確認できるようにします。
FSSTはタイムだけでなく「条件+所見」を記録する
FSSTの記録では、採用タイムだけでなく、測定条件と動作所見をセットで残すと、再評価と介入へつなげやすくなります。
下の図版では、FSSTを「測定条件 → タイム → 失敗・動作所見 → 再評価 → 生活・介入」の流れで整理しています。ポイントは、タイムだけで比較しないことです。

実際の記録では、下のA4記録シートPDFを使用できます。各試行タイムだけでなく、条件や所見も残せる形にしています。
FSST 記録シート PDF をプレビューする
最低限残したい記録項目
- 結果:各試行タイムと採用タイム
- 条件:履物、使用した支持物・補助、見守り・介助など
- 手順:練習の有無、順序誤り、杖・棒への接触、再測定の有無
- 動作所見:前方・側方・後方のどこで減速したか、踏み損ね、足部の引っかかり、方向転換時の乱れ
- 生活との対応:同様の問題が台所、トイレ、廊下、方向転換などでみられるか
FSSTの記録例
S) 台所やトイレで切り返すときに足がもつれる不安あり O) FSST 試行1:13.1秒 / 試行2:12.4秒 / 採用:12.4秒 練習1回実施。杖・棒への接触なし。転倒回避介助なし 後方から側方へ移る場面で減速し、リード脚の切替に時間を要した A) FSST全体の時間だけでなく、後方→側方への切替で動作が不安定 生活場面で訴える狭所の方向転換と共通する可能性がある P) 多方向ステップと方向転換課題を実施 次回は同一の測定条件を確認したうえでFSSTを再評価する
「遅かった」「ふらついた」だけでは、次回どこを比較するかが曖昧です。どの方向・切り返しで何が起きたかまで残すと、再評価の意味が明確になります。
FSSTの所見を介入へつなげる
FSSTでは合計タイムだけで介入内容を決めるのではなく、どの方向へのステップや切り返しで問題が出たかを次の評価や介入を考える手掛かりにします。
| 観察された所見 | 次に確認すること | 介入へつなぐ考え方 |
|---|---|---|
| 後方ステップで減速する | 後方への重心移動、恐怖、足部位置、支持性 | 原因を確認し、支持環境を調整しながら後方ステップを段階化する |
| 側方への切替で乱れる | 側方荷重、支持脚の安定性、足の運び方 | 側方ステップと方向転換を分けて確認・練習する |
| 杖・棒への接触が繰り返される | 足部クリアランス、視覚情報、空間認識、注意 | 原因を確認してから障害物またぎ課題へつなげる |
| 順序誤りがみられる | 手順理解、注意、記憶、視空間処理 | 単純な運動能力低下と決めつけず、認知的要因も確認する |
| 検査では安定するが生活場面では不安定 | 環境、疲労、注意配分、狭所、実際の動線 | FSSTだけで判断せず、問題が起こる生活場面を直接観察する |
ここで示す要因は、FSSTだけで確定できる診断ではありません。所見から仮説を立て、必要に応じて筋力、感覚、認知、歩行、バランスなどの追加評価へ進みます。
再評価は「条件が同じか」を確認してから変化を読む
FSSTの再評価では、数秒の変化を先に評価するのではなく、前回と比較できる測定条件かを最初に確認します。
- 測定条件を確認する:設置方法、履物、支持物・補助、練習、試行回数などを確認します。
- タイムを見る:採用タイムと各試行の変化を確認します。
- 失敗を見る:接触、順序誤り、再測定などが変化したか確認します。
- 動作の質を見る:減速、踏み損ね、方向転換の乱れが変化したか確認します。
- 生活場面と照合する:FSSTの変化が実際の方向転換や移動へつながったか確認します。
MDCは対象集団を確認して使う
MDC(minimal detectable change)は、測定誤差を超えた変化かどうかを考えるときに役立ちます。ただし、FSSTにすべての患者へ共通する「○秒改善すれば変化あり」という数値があるわけではありません。
たとえば、股関節変形性関節症を対象とした報告では、FSSTのSEMは0.77〜0.86秒、MDC90は1.8〜2.0秒と報告されています。ただし、この数値を脳卒中、パーキンソン病、前庭障害、高齢者などへそのまま適用することは避けます。
| 軸 | 確認内容 |
|---|---|
| 測定値 | タイムがどの程度変化したか |
| 測定誤差 | 対象集団に対応したSEM・MDCなどの報告があるか |
| 動作・生活 | 失敗、減速、方向転換、実生活での不安定性がどう変化したか |
FSSTは複数の成人集団で信頼性・妥当性が検討されていますが、対象集団や研究方法は同一ではありません。カットオフやMDCを対象を問わず一律に使用せず、対象に対応した研究と動作所見を合わせて解釈することが重要です。
FSSTの所見を生活場面へ翻訳する
FSSTで確認した多方向ステップや切り返しの問題は、実生活では台所、トイレ、廊下の角、ベッド周囲、狭い場所での方向転換などに現れることがあります。
ただし、自宅や病室でFSSTと似た動きを行ったからといって、その結果をFSSTの測定値として扱うことはできません。生活場面では、FSSTの所見を手掛かりに、「どの方向で」「どの場面で」「どの足の切替で」不安定になるかを確認します。
たとえば、FSSTで後方から側方への切替が遅い場合は、台所で後ろへ一歩下がって横へ移る場面や、トイレ内で向きを変える場面を観察すると、検査所見と実生活を結び付けやすくなります。
FSST運用でよくあるミス
FSSTを再評価へつなげにくくする原因は、タイムそのものより測定条件と記録のばらつきです。次の5点を避けるだけでも、前後比較の意味が整理しやすくなります。
| NG | 問題 | 修正 |
|---|---|---|
| タイムだけ記録する | 何が変化したのか判断しにくい | 条件・失敗・動作所見を一緒に残す |
| 練習の有無が毎回違う | 学習の影響を区別しにくい | 練習と本試行の条件をそろえて記録する |
| 前回と条件が違うのに秒数だけ比較する | 変化の原因を判断しにくい | まず比較可能な条件か確認する |
| カットオフだけで転倒リスクを断定する | 対象集団や生活背景を十分に反映できない | 転倒歴、他の評価、生活場面と合わせて解釈する |
| FSSTの所見から原因を断定する | 筋力・感覚・認知など複数要因を見落とす可能性がある | 所見を次の評価へ進む仮説として扱う |
よくある質問
FSSTは何回測定しますか?
標準的な方法では、理解確認のための練習試行を1回設けることができ、その後2試行を行って良いタイムを採用します。再評価でも練習や試行回数をそろえておくと比較しやすくなります。
途中で杖・棒に触れた場合はどう記録しますか?
接触した事実と試行番号、接触した場面を記録し、標準条件を満たしているか確認して再測定の要否を判断します。「失敗した」という一語だけでなく、何が起きたかを残すことが重要です。
再評価でタイムが改善すれば効果ありと考えてよいですか?
タイムだけでは判断しません。まず測定条件が比較可能かを確認し、対象集団に対応するMDCなどの報告があれば参考にします。あわせて、接触や減速などの動作所見と実生活での変化を確認します。
次に確認する記事
FSSTそのものの設置方法、ステップ順、無効条件、カットオフを確認した後は、歩行・バランス評価全体の中でFSSTをどこに位置づけるか整理すると、評価を選びやすくなります。
参考文献
- Dite W, Temple VA. A clinical test of stepping and change of direction to identify multiple falling older adults. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83(11):1566-1571. PubMed | DOI
- Whitney SL, Marchetti GF, Morris LO, Sparto PJ. The reliability and validity of the Four Square Step Test for people with balance deficits secondary to a vestibular disorder. Arch Phys Med Rehabil. 2007;88(1):99-104. PubMed | DOI
- Duncan RP, Earhart GM. Four Square Step Test performance in people with Parkinson disease. J Neurol Phys Ther. 2013;37(1):2-8. PubMed | DOI
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- Moore M, Barker K. The validity and reliability of the Four Square Step Test in different adult populations: a systematic review. Syst Rev. 2017;6:187. PubMed | DOI
- Shirley Ryan AbilityLab. Four Square Step Test. RehabMeasures Database. Website
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

