PGCモラールスケールとは?【PGCMS:17 項目でみる生活満足・心理的安定】
PGC モラールスケール(PGCMS:Philadelphia Geriatric Center Morale Scale)は、高齢者の生活満足・希望感・心理的安定を多面的に捉える 17 項目の QOL(生活の質)尺度です。所要時間は 3〜5 分程度で、聞き取り(面接)でも自記式でも実施できます。抑うつやフレイルの兆候を早期にとらえ、介入前後の変化を繊細に追いやすい点が臨床的な強みです。
pgcモラールスケールは、スクリーニング単独で診断的に用いるよりも、日常の活動・社会参加・栄養・疼痛・睡眠など周辺因子とあわせて解釈することで、ケア目標の合意形成に直結します。再検のたびに小さな変化を拾えるよう、同じ環境・同じ説明・同じ順序で実施する標準化が重要です。
| 項目数 | 対象・場面 | 所要時間 | 採点 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 17 項目(Yes / No) | 地域・外来・病棟の高齢者全般(面接/自記) | 3〜5 分 | 肯定 1・否定 0(逆転項目は反転)合計 0〜17 | 逆転項目の取り違え/誘導質問/第三者回答に注意 |
対象・準備・環境づくり
対象は高齢者全般で、特にフレイルや抑うつが心配される方の生活満足評価・希望感評価・心理的安定評価に適しています。失語・聴覚障害・視覚障害がある場合は、読み上げや拡大文字・補聴器調整など合理的配慮で本人回答を優先します。介護者や家族の代答は、本人の表出が困難な場合の補助にとどめます。
準備物は pgcモラールスケールの評価用紙(またはタブレット画面)と筆記具です。静かな場所を確保し、導入時に「正解はありません。今の気持ちに近い方を選んでください」と説明します。質問の順序を変えないこと、pgcモラールスケール 17 項目すべてを原則実施することをチームで共有しておきます。
実施手順(やり方・使い方のコツ)
面接では 1 問ずつ原文どおりに読み上げ、選択肢は「はい/いいえ」の二択でシンプルに提示します。言い換えが必要な場合も、感情を誘導しないニュートラルな表現にとどめます。自記式では読み間違いを避けるため、設問番号とマーク位置を最初に確認し、途中でも「番号ずれ」がないか時々チェックします。
途中で雑談に逸れやすい方には「あと数問で終わります」と予告して集中を保ちます。疲労が強い日やせん妄が疑われるタイミングでは、無理に続行せず中断・延期も選択肢とします。pgcモラールスケールのやり方は一見シンプルですが、「静かな環境」「同一手順」「本人のペース」の 3 点を守ることでデータの信頼性が高まります。
点数の付け方とカットオフの考え方
各項目は肯定 1・否定 0 を基本とし、逆転項目は反転して合計します。合計点の範囲は 0〜17 で、数値が高いほどモラール(生活満足・意欲)の高い傾向を示します。pgcモラールスケールのカットオフは研究により異なり、一律に「何点以下で低モラール」と決めるのではなく、施設の利用者像や他評価との組み合わせで運用基準を定めておくとよいです。
個人の経過観察では、合計点の増減に加えて「孤立感」「健康不安」「現在満足」など下位概念ごとの項目変化を確認します。グループ比較では平均値と標準偏差、個別経過では最小可検変化(MDC)を意識して解釈し、他の QOL 尺度・抑うつ尺度との整合性もあわせて検討します。
臨床での使いどころ(PT・OT・ST の役割)
pgcモラールスケールは、特に作業療法(OT)の評価場面でよく用いられますが、理学療法士(PT)・言語聴覚士(ST)にとっても、運動療法・コミュニケーション支援・摂食嚥下リハなどの前後で「生活満足」「希望感」「心理的安定」の変化を把握する手段として有用です。退院前の自己効力低下、慢性疼痛・多病併存、独居や介護者負担が大きいケースで特に力を発揮します。
運動・栄養・社会参加プログラムの前後で PGCMS を繰り返し実施し、面接記録と組み合わせて「何が効いたか」を言語化します。多職種カンファレンスでは、pgcモラールスケールの点数と短い所見を共有することで、「生活満足を上げるためにどの領域を優先するか」という議論がスムーズになります。
現場の詰まりどころ(よくある迷いと対応)
1)認知症・せん妄がある方への適用範囲に迷う
中等度以上の認知症やせん妄が疑われると、「本当にこの点数を信じてよいのか?」と迷いやすくなります。この場合は PGCMS 単独で判断せず、認知機能評価や家族の観察情報とセットで解釈し、「数値」ではなく「反応の質」や「変化の方向性」に注目することがポイントです。
2)質問に対して「なんでもいいよ」と返されてしまう
抑うつが強い方や、評価そのものに不信感がある方では「どうでもいい」「どっちでも同じ」といった返答になりがちです。評価前に「今の生活の満足感を一緒に整理して、これからの支援を考えるための質問です」と目的を共有し、最初の 2〜3 問はゆっくり時間をかけて丁寧に進めると、次第に回答が具体的になりやすくなります。
3)点数だけが一人歩きして介入に結びつかない
多職種カンファでは「PGCMS 10 点でした」で終わってしまい、「具体的に何を変えるか」まで踏み込めないことが少なくありません。スコアを報告するときは、「孤立感に関する項目で否定的回答が多い」「健康不安は少ないが、現在満足が低い」など、下位概念を一言添えることで、介入の優先順位が見えやすくなります。
4)評価用紙の管理・保管が煩雑になる
紙ベースでの運用では、再検時に過去の結果が見つからない、逆転項目の処理ミスが埋もれてしまうといった問題が起こりがちです。評価用紙は時系列で並べて保管し、電子カルテや Excel シートに合計点だけでも転記しておくと、次回のカンファレンスで経過が振り返りやすくなります。
よくある誤りと対策
- 逆転項目のミス:評価用紙に逆転チェック欄を設け、集計前に 2 名以上でダブルチェックします。
- 誘導質問:「最近あまり楽しくないですよね?」のような誘導的な言い方は避け、沈黙は 5 秒ほど待ってから原文を繰り返す程度にとどめます。
- 第三者の代答:家族や介護者の代答は、本人回答が困難な場合の補足情報として別記し、スコア自体は本人の反応を優先します。
- 環境・タイミングのばらつき:昼夜逆転や疼痛増悪時などはスコアが不安定になりやすいため、できるだけ同じ時間帯・同じ環境で実施します。
ダウンロード|pgcモラールスケール記録用紙(A4・印刷ボタン付)
臨床でそのまま使える「pgcモラールスケール 評価用紙(記録用シート)」の HTML テンプレートを用意しました。
PGCMS 記録用紙(A4・項目本文なし・自動合計)
※ 本テンプレートは評価項目の本文を含みません。各施設で管理する正規の質問文と併用し、逆転項目の指定・カットオフの取り扱いを必ず確認してから使用してください。
FAQ(よくある質問)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
所要時間の目安は?急性期でも使えますか?
多くの方で 3〜5 分が所要時間の目安です。急性期でも、疼痛・せん妄・不眠の影響が強い時期を避け、循環や意識レベルが落ち着いたタイミングであれば、生活満足・心理的安定の評価として有用です。項目を省略する短縮版は基本的に推奨されません。
再検の間隔はどのくらいがよいですか?
介入の強度と目的に応じて 2〜4 週間が実務上扱いやすいレンジです。短期の院内プログラムでは入退院時の 2 点、外来・通所では 1〜3 か月ごとに実施し、他の QOL 尺度・抑うつ尺度とあわせて経過をみるケースが多いです。
結果を本人や家族にどう説明すればよいですか?
合計点の高低だけでなく、「孤立感」「健康不安」「現在満足」のどこに強い反応が出たかを具体的に共有します。そのうえで、次の面談までの行動目標(例:週 2 回の交流参加、睡眠や痛み対策の見直しなど)を 1〜2 個に絞って提案すると、本人・家族ともイメージしやすくなります。
おわりに|モラール評価を「面接のリズム」に組み込む
PGC モラールスケール(PGCMS)は、「安全の確保→丁寧な導入→質問紙によるスケール記録→多職種での再評価」というリズムの中で使うと、単なるスコアではなく「生活満足や希望感の変化」をチームで共有しやすくなります。特に退院前面談や外来フォローアップでは、モラールの低下を早めに拾うことで、孤立や抑うつの悪循環を断ち切るきっかけになります。
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参考文献
- Lawton MP. The Philadelphia Geriatric Center Morale Scale: a revision. J Gerontol. 1975;30(1):85–89. https://doi.org/10.1093/geronj/30.1.85
- Morris JN, Sherwood S. A retesting and modification of the Philadelphia Geriatric Center Morale Scale. J Gerontol. 1975;30(1):77–84. https://doi.org/10.1093/geronj/30.1.77
- Loke SC, et al. Assessment of factors influencing morale in the elderly. Clin Interv Aging. 2011;6:181–189. PubMed Central
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


