栄養スクリーニングとアセスメントの違い【モニタリングも含めて整理】

栄養・嚥下
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栄養スクリーニングとアセスメントの違い

臨床では「栄養スクリーニング」「栄養アセスメント」「栄養モニタリング」の違いが分かりづらくなりがちです。まず、栄養スクリーニングとは、低栄養リスクの「有無」を 短時間でふるい分ける一次チェック です。代表的なツールは高齢者向けの MNA-SF や入院患者向けの NRS-2002 などで、数分以内・質問票ベースで実施できます。カットオフに従い「リスクあり/なし」を判定し、陽性であれば次のステップ(アセスメント)へ進めます。

栄養アセスメントとは、低栄養の 重症度と原因を多面的に特定し、介入計画へつなぐ工程 です。身体計測、病勢、摂取量、身体機能、身体所見などを統合し、評価枠組みとして SGA や診断基準としての GLIM を用います。結論として「診断名」「重症度」「介入方針」まで明確にする点が、栄養スクリーニングとの大きな違いです。

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臨床フロー(スクリーン → アセスメント → モニタリング)

実務の流れは、栄養スクリーニング → 栄養アセスメント → 栄養モニタリング という 1 本線で整理できます。入口でリスクをふるい分け、陽性例に対してアセスメントで重症度と原因を明らかにし、その結果に基づいて介入・フォローを行うイメージです。下図は、この一連のフローをシンプルに図解したものです。

栄養スクリーニング → 栄養アセスメント → 栄養モニタリング の臨床フロー 左から順に、栄養スクリーニング、栄養アセスメント、栄養モニタリングの 3 つの箱が矢印でつながった図です。 栄養スクリーニング 低栄養リスクの抽出 栄養アセスメント 重症度・原因の特定 栄養モニタリング 経過観察・計画修正

スクリーニングで陽性となった症例は、「時間ができたら」ではなく、原則として当日〜 48 時間以内にアセスメントを実施し、栄養ケア計画を起案します。陰性でもリスク変動が大きい症例では、入退院や急性増悪などの節目で再スクリーニングを行います。

ここでいう栄養モニタリングは、介入後に体重・摂取量・バイタル・機能などを定期的に追跡し、計画を修正する工程 を指します。病勢悪化、摂取量低下、体重減少などの変化シグナルをトリガーとして、再スクリーニングや早期アセスメントにつなぐことが重要です。看護・リハ・栄養で共有できる書式を準備し、「判定 → 計画 → 実施 → 効果判定 → モニタリング」を 1 枚のシートで追えると安全です(例:スクリーニング運用プロトコル)。

代表ツールの使い分け(現場めやす)

MNA-SF は高齢者全般の入口として扱いやすく、病棟・施設・在宅いずれでも回しやすい 6 項目です。入院初期の全身状態や急性疾患の影響を含めて評価したい場面では NRS-2002 が有用です。アセスメントでは、病歴や身体所見を統合する SGA をベースにし、必要に応じて GLIM の診断基準で重症度を明確化します。

どのツールも「万能」ではないため、対象・場面・目的に合わせて最小限の組み合わせを選ぶ ことがポイントです。例えば、フレイル高齢者の定期フォローには MNA-SF、急性期入院時の評価には NRS-2002、治療計画と重症度定義には SGAGLIM といった形です。栄養モニタリングの局面では、同じツールを用いて経時的に追跡し、スコア変化をもとに介入の妥当性を検証します。MNA-SF については当ブログの MNA-SF 記事 も参照ください。

記録の要点(テンプレの考え方)

記録は、①栄養スクリーニング ②栄養アセスメント ③診断 / 重症度 ④計画 ⑤モニタリングに分けてテンプレ化しておくと整理しやすくなります。①では使用した尺度・得点・閾値・判定と再評価時期、②では体重変化・摂取量・炎症 / 病勢・筋量 / 機能・臨床所見などの主要項目を押さえます。

③では GLIM の表現( Phenotype + Etiology )に沿って診断と重症度を明記し、④で目標エネルギー / タンパク、提供手段、開始時期、多職種連携を書き出します。⑤の栄養モニタリングでは、再評価日、介入変更の基準、退院後の引き継ぎ先を示し、文章は「観察事実 → 解釈 → 判断 → 方針」の順で簡潔にまとめます。身体所見ベースの包括評価については SGA 記事 も参考になります。

比較表(目的・対象・出力の違い)

ここでは 栄養スクリーニングと栄養アセスメントの違い にフォーカスし、栄養モニタリングは「時間軸上で繰り返し行うアセスメント / 評価」の位置づけとして扱います。

栄養スクリーニングとアセスメントの比較(成人・ 2025 年版)
項目 スクリーニング アセスメント
主目的 低栄養リスクの有無を判定し、要精査例を抽出する 低栄養の診断・重症度・原因を整理し、介入につなげる
代表ツール MNA-SF, NRS-2002 など SGA(包括評価)、GLIM(診断基準)
実施者 看護・リハ・栄養など多職種で実施可能 管理栄養士 / 医師が中心(多職種の所見を統合)
所要時間 数分程度(質問票中心) 10〜 30 分程度(面接+身体所見+記録)
出力 リスク陽性 / 陰性、フォロー・再評価時期 診断名、重症度、ケア計画、目標、再評価設計
次アクション 陽性例をアセスメントへ確実に接続 介入開始 → 効果判定 → 必要に応じて計画を再設計

よくある誤解と対策(OK / NG 早見)

スクリーニング / アセスメント / モニタリング運用の OK・NG(成人)
場面 OK NG
入口選定 対象に応じて MNA-SF / NRS-2002 などを使い分ける 対象に関わらず同じ尺度を一律に使用する
判断 カットオフに従い陽性なら速やかにアセスメントへ 陽性にもかかわらず「様子見」で先延ばしにする
モニタリング 体重・摂取量・機能を定期的に評価し、必要に応じて計画を修正する 介入開始後にスコアや所見を追跡せず、「やりっぱなし」で放置する
記録 事実 → 解釈 → 判断 → 方針の流れで簡潔にまとめる 所見の羅列のみで、方針や再評価計画が不明瞭なまま終わる

参考文献

  1. Rubenstein LZ, Harker JO, Salva A, et al. Screening for undernutrition in geriatric practice: developing the MNA-SF. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56(6):M366-M372. PubMed. Full text.
  2. Kondrup J, Rasmussen HH, Hamberg O, Stanga Z; ESPEN Working Group. Nutritional Risk Screening ( NRS-2002 ). Clin Nutr. 2003;22(3):321-336. PubMed. DOI.
  3. Detsky AS, McLaughlin JR, Baker JP, et al. What is subjective global assessment ( SGA ) of nutritional status? JPEN. 1987;11(1):8-13. DOI:10.1177/014860718701100108.
  4. Cederholm T, Jensen GL, Correia MITD, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition. Clin Nutr. 2019;38(1):1-9. PubMed. DOI.
  5. Kaiser MJ, Bauer JM, Ramsch C, et al. Validation of the revised MNA-SF. J Nutr Health Aging. 2009;13(9):782-788. PubMed. DOI.

おわりに

栄養評価の実務は、栄養スクリーニング → 栄養アセスメント → 栄養モニタリング のリズムを崩さないことが肝心です。入口でのふるい分けを徹底しつつ、重症度と原因を明らかにして計画を立て、介入後は「効いているか」「ずれていないか」を経時的に確認する――この一連の流れが整うほど、低栄養の見逃しや「やりっぱなし」を減らせます。

忙しい現場では、評価スケールそのものよりも、フローと記録様式をチームで共有しておくことが安全につながります。本記事をきっかけに、自施設の栄養スクリーニング・アセスメント・モニタリングの導線や、リハがどこに関わるかを一度棚卸ししてみてください。明日からのカンファレンスや記録の精度が一段上がるはずです。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

栄養スクリーニングと栄養アセスメントは、必ず両方実施しないといけませんか?

原則として、栄養スクリーニングは全例、アセスメントはスクリーニング陽性例 に行うイメージです。リスクが陰性であっても、急性増悪や体重減少などの変化があれば再スクリーニングを検討します。一方で、明らかに低栄養が疑われる症例では、形式的なスクリーニングを省略し、早期にアセスメントへ進むこともあります。

栄養モニタリングはどのくらいの頻度で行えば良いですか?

頻度は病期や病勢により異なりますが、急性期では 1〜数日ごと、回復期や慢性期では 1〜 2 週間ごとの評価が一つの目安です。体重・摂取量・バイタル・機能など、施設で追いやすい指標を決めておき、変化シグナルがあればタイミングを前倒しして再評価します。「決めた頻度を守る」よりも「変化に応じて柔軟に前倒しする」 視点が重要です。

リハ職が関わるとき、どこまで栄養アセスメントを行って良いのでしょうか?

最終的な診断・重症度判定は、管理栄養士や医師の責任領域となることが一般的です。一方で、リハは体重推移、摂取量の変化、活動量・筋力・ ADL の変化など、機能面の情報提供 で大きく貢献できます。施設やチームの役割分担を確認しつつ、評価所見を記録・共有し、栄養ケア計画やモニタリングに積極的に関わると良いでしょう。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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