【褥瘡治療に必要な栄養素とは】創傷治癒効果を高める褥瘡の栄養管理

褥瘡対策
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リハビリくん
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こんにちは!リハビリくんです!

この記事では「褥瘡の治療に必要な栄養素」をキーワードに内容を整理していきます。

   

褥瘡予防において重要なこととして、「栄養管理」「体圧分散」「スキンケア」の3つを挙げることができます。褥瘡対策においては予防が治療の骨幹でもあるため、治療においてもこの3つが重要となります。

   

この中でも栄養管理については特に重要な項目になります。栄養管理が上手くできていない場合、治るはずの褥瘡も治癒が停滞することが予想されます。

そのため、褥瘡対策における栄養管理としては、褥瘡が発生する以前の身体の変化や摂食機能の確認することは勿論、生活環境など総合的な視点からアプローチする必要があると考えられます。

  

今回のメインテーマである栄養素についてですが、エネルギーやたんぱく質が必要になることは想像がつくけど、その他の必要となる栄養素については、いまいち自信がない方もいらっしゃると思います。そんな人のために、こちらの記事をまとめました!

   

この記事を読むことで、褥瘡の治療に必要な栄養素についての理解を深め、臨床で一歩ステップアップした褥瘡対策を講じることができるようになることを目標にします。是非、最後までご覧になってください!

リハビリくん
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【簡単に自己紹介】

30代の現役理学療法士になります。

理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。

現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。

臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。

そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。

  

理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです

登録理学療法士

脳卒中認定理学療法士

褥瘡 創傷ケア認定理学療法士

3学会合同呼吸療法認定士

福祉住環境コーディネーター2級

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士として働いていると、一般的な会社員とは異なるリハビリ専門職ならではの苦悩や辛いことがあると思います。当サイト(rehabilikun blog)ではそのような療法士の働き方に対する記事も作成し、働き方改革の一助に携わりたいと考えております。

  

療法士の働き方に対する記事の 1 つが右記になりますが、"理学療法士は生活できない?PTが転職を考えるべき7つのタイミング"こちらの記事は検索ランキングでも上位を獲得することができております。興味がある方は、こちらの記事も目を通してくれると幸いです☺

褥瘡予防の三本柱

褥瘡予防の三本柱は以下の通りになります。また、褥瘡対策においては予防が治療の骨幹でもあります。

  1. 体圧分散(徐圧・減圧)
  2. 栄養管理
  3. スキンケア

褥瘡予防の三本柱を紹介しましたが、この中でも栄養管理の重要性は特に高いと考えられます。

一般的に栄養障害や低栄養は、長期にわたる摂食不良によって発生することが多いといわれています。言い換えると、長期にわたって必要量食べ物を食べることができていない人が、褥瘡発生リスクが高いと説明することができます。

在宅で生活してきた高齢者が入院することになった場合、何かしら手術や治療(大腿骨頚部骨折後の手術、誤嚥性肺炎の治療、尿路感染症の治療 etc..)を必要とするケースが多いと思います。

これらの場合には、原疾患の治療上必要となる手術後のストレス、炎症、感染症などによる消耗状態に応じてエネルギー消費量が増大します。

エネルギー消費量の増大が予想された場合、エネルギーの均衡をとるためにエネルギー摂取量も増大させないといけない状況になります。

しかし、前述のように栄養障害や低栄養状態をきたしている人は、長期にわたって食事摂取量が減っていることが多く、エネルギー摂取量を増やしたくても摂取できない状態にあるため、褥瘡の発生リスクが高くなります。

更に褥瘡が形成された場合には、褥瘡を治すための栄養素が不足するため、創傷治癒が遅延したり難渋する可能性が考えられます。

以上のことから褥瘡対策における栄養管理は重要になります。褥瘡対策における栄養管理としては、具体的にどのような栄養素に注目すればいいのか後述していきます。

褥瘡予防のためには体圧、接触圧の測定が欠かせません。このテーマについては、他の記事で詳しくまとめています!《【褥瘡予防における体圧、接触圧の測定方法】基準は32mmHg以下》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️

エネルギー

エネルギーとは、あらゆる生命活動、生活活動、運動・トレーニング等に必要不可欠となります。人は生きるだけでも一定のエネルギー量を消費します。

そのため、摂取するエネルギー量が減少すると、代謝や活動性の低下に繋がり、ADLが低下したり長期臥床に陥る可能性が高くなります。

また、摂取するエネルギー量が減少すると痩せてしまうことも考えられます。痩せによって、皮下脂肪・皮下組織が薄くなり、骨突出部の皮下組織が圧迫されやすくなり褥瘡発生および悪化のリスクが上昇します。

更に、褥瘡が形成されると炎症反応としてエネルギーが使用されてしまったり、治癒を促進させるためのエネルギーが別途で必要になりますので。通常時よりも必要となるエネルギー量が増大します。

そのため、褥瘡が形成されている場合には、普段より多くのエネルギーを摂取できるように支援する必要があります。エネルギー量をどのくらい増やせばいいのかについては、全身状態と褥瘡の状態にもよりますのでケースバイケースになると考えられます。

エネルギー摂取の目安としては、褥瘡の栄養管理に関するガイドライン(褥瘡予防・管理ガイドライン)によると「基礎エネルギー消費量(BEE)の1.5倍以上」のエネルギーを補給することが推奨されています。また、NPUAP/EPUAP/PPPIA合同制作のガイドラインによると「30〜35kcal/kg/日」が望ましいといわれています。これら2つを計算するとだいたい同等の数値になるため、これらをエネルギー投与量の目安にしながら、褥瘡の状態を注意深く観察していくことが必要になります。

  • 基礎エネルギー消費量(BEE)の1.5倍以上
  • 30〜35kcal/kg/日

エネルギーの算出方法の1つに、Harris-Benedictの式や活動係数やストレス係数を活用した方法があります。このテーマについては、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、下記の記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【ハリス-ベネディクトの式についての記事はこちらから

たんぱく質

たんぱく質とはアミノ酸が多数結合した高分子化合物で、筋肉や臓器など体を構成する要素として非常に重要な栄養素となります。アミノ酸の組み合わせや種類、量などの違いによって形状や働きがそれぞれ異なり、酵素やホルモン、免疫物質としてさまざまな機能を担っているのがたんぱく質になります。

たんぱく質は20種類のアミノ酸から構成されています。アミノ酸のうち、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンの9種類は、体内で必要量を合成できないため、食事から摂取する必要があります。これらのアミノ酸を必須アミノ酸と呼びます。

残りの11種類については非必須アミノ酸といい、必須アミノ酸とは異なり体内で合成することができます。非必須アミノ酸は、グリシン、アラニン、グルタミン酸、グルタミン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、チロシン、システイン、アルギニン、プロリンの11種類になります。

人体のおよそ20%はたんぱく質で構成されています。そして残りを、60%の水分、15%の脂肪、5%の無機質で構成されています。

たんぱく質は人体の様々なところで活用されており、筋肉や骨・臓器・皮膚・爪などの主成分となっております。そのため、褥瘡の創傷治癒においても非常に重要な栄養素になります。

たんぱく質の中でもコラーゲンについては、創傷治癒において特に重要性が高いものになります。先ほど説明した人体における20%のたんぱく質のうち、約30%はコラーゲンが占め、結合組織・骨・皮膚に多く存在します。因みにコラーゲンの主成分は、タンパク質が分解された非必須アミノ酸の「グリシン」になります。

たんぱく質は、褥瘡の生じる皮下組織において重要な構成要素であり、褥瘡治癒過程でたんぱく質の合成は重要になります。

創傷治癒過程においてたんぱく質は様々な役割を担っております。白血球機能の改善、線維芽細胞の増殖および機能維持、組織の新生にたんぱく代謝が必要とされていたり、創傷治癒過程の炎症期では褥瘡創面から浸出液としてたんぱく質が放出されることで壊死組織の除去や殺菌機能を果たしております。浸出液として喪失してしまうたんぱく質のためにも補給が必要となります。

たんぱく質の摂取量について、褥瘡の栄養管理に関するガイドライン(NPUAP/EPUAP/PPPIA合同制作のガイドライン)によると「1.25〜1.5g/kg/日」が推奨されています。

しかし、腎機能が低下している高齢者に高たんぱく質を投与すると尿素窒素が上昇することも考えられる為、「1.25〜1.5g/kg/日」よりも低い値から開始し経過を観察しながら、たんぱく質投与量の見直しを行うことも必要になります。

エネルギーやたんぱく質について、日本褥瘡学会の『褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)』では以下のように記されております。

「CQ4.2 低栄養患者の褥瘡予防にはどのような栄養介入を行うとよいか」

  • 蛋白質・エネルギー低栄養状態(PEM)の患者に対して、疾患を考慮したうえで、高エネルギー、高蛋白質のサプリメントによる補給を行うことが勧められる。(推奨度B)

アルギニン

アルギニンとはたんぱく質の項目で説明した通り、11種類ある非必須アミノ酸のうちの1つになります。

しかし、このアルギニンですが褥瘡が形成されている状況、すなわち侵襲化においては条件付きで必須アミノ酸になると言われています。

アルギニンは、コラーゲンの合成促進、血管拡張作用、血流改善、免疫細胞の賦活化などの作用を有します。褥瘡患者でのアルギニン摂取の目安は7g以上と報告されております。

先行研究によるとサプリメントでアルギニンを9g/日摂取した結果、褥瘡の治癒が促進したとの報告もあることから、創傷治癒過程における炎症期などで補給することは効果的であると考えれられます。

しかし、重症の敗血症患者などでは一酸化窒素の産生が高まる可能性があり、炎症が遷延化するかもしれないため、対象者の状態に応じて慎重な補給を心掛ける必要があります。

アルギニンについて、日本褥瘡学会の『褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)』では以下のように記されております。

「CQ4.10 褥瘡患者に特定の栄養素を補給することは有効か」

  • 亜鉛、アスコルビン酸、アルギニン、L-カルノシン、n-3系脂肪酸、コラーゲン加水分解物など疾患を考慮したうえで補給してもよい。(推奨度C1)

また、日本静脈経腸栄養学会の『静脈経腸栄養ガイドライン(第3版)』では以下のように記されております。

「B 褥瘡の治療:Q6.褥瘡の治癒促進を目的とした栄養補助食品の使用は有効か?」

  • 適切な栄養管理を実施したうえで、アルギニン、ビタミンC、亜鉛などを強化した栄養補助食品を付加する栄養療法は、褥瘡治療の一つの手段として推奨される。(推奨度BII)

脂質、必須脂肪酸

脂質は、細胞膜の構成成分であり皮膚の統合性維持や組織の維持などの働きを担っています。

また脂質は、質量あたりのエネルギーが高く、トリグリセライドの分解は侵襲時でも保たれているため、効率のよいエネルギー源としても重要な栄養素になります。低栄養時には、中性脂肪や総コレステロールが低値を示すことがあるため、客観的評価尺度として使用することができます。

必須脂肪酸の欠乏は、皮膚の乾燥や落屑その他の皮膚病変、免疫機能の低下をきたし、創傷治癒遅延を引き起こします。長期の静脈栄養では必須脂肪酸は欠乏に陥りやすく、イントラリポス輸液などの脂肪製剤の投与を検討する必要があります。

ビタミン

体の調子を整え、皮膚や粘膜の保護に重要な役割
を有しているため創傷治癒において重要性が高い栄養素となります。創傷治癒においては、特にビタミンA、ビタミンC、ビタミンEの摂取が必要になります。

ビタミンは体内では合成できないため、絶食が持続した場合は欠乏してしまいます。そのため、日本人の食事摂取基準を参考にして、必要量を補給していく必要があります。

ビタミンAはコラーゲン合成と免疫機能に重要な役割を担っております。また、上皮組織の正常な分化を調節します。

ビタミンCはビタミンAと同様にコラーゲン合成と免疫機能に重要な役割を担っております。また、鉄の吸収やビタミンEの再利用に関係しています。

ビタミンEは末梢血管を拡張し血液循環を改善させる機能があります。抗酸化作用も有しております。

微量栄養素

微量栄養素は、骨や歯の構成成分、消化液や腸液中にも含まれる成分で体の各機能を調整しています。創傷治癒においては、亜鉛・鉄・銅・カルシウムが特に重要となります。経口摂取ができていれば欠乏することは稀となります。

亜鉛

亜鉛は褥瘡の治癒過程で、線維芽細胞がコラーゲンを生成するときに必要であり、たんぱく質の合成や各種酵素の代謝に関与しています。

亜鉛の欠乏は創傷治癒の遅延や味覚異常、食欲低下につながり、口内炎・舌炎・皮膚症状の原因ともなります。褥瘡の治癒過程においても、たんぱく質の合成や各種酵素の代謝に関与しています。

ヘモグロビンの合成には鉄が必要になります。血清鉄が不足すると赤血球数が減少し、皮膚や軟部組織への酸素供給量が減少するため、皮膚や軟部組織の脆弱化を招きます。

プロコラーゲンに含まれるプロリン、リシンは水酸化酵素によりヒドロキシプロリンとヒドロキシリシンに変換され、コラーゲンの三重らせん構造を形成します。

この水酸化酵素の作用補助因子として、ビタミン C、鉄に加えて銅が必須になります。また、銅はコラーゲンの量を増やすために必要なリシル酸化酵素の補助因子としても重要になります。

また、銅は造血に関与するため銅が欠乏することにより、貧血を生じる可能性があります。

カルシウム

カルシウムが欠乏することで、コラーゲン生成や架橋形成が低下し、創傷治癒が遅延することが考えられます。

水分

体内の水分量は、年齢や性別、体脂肪量により異なります。一般的には、人体のおよそ60%を水分で占め、残りを20%のたんぱく質、15%の脂肪、5%の無機質で構成されています。

水分不足は、皮膚や口腔粘膜、舌の乾燥に繋がります。水分は創傷治癒過程において、様々な物質を溶かして栄養素を消化したり、体液の濃度を調節しております。

水分は生命維持自体に必要不可欠なものになりますが、やはり創傷治癒の効果を高めるためにも必要となります。機能に問題がないときは、尿量と同程度の水分補給が推奨されます。

必要水分量の目安は以下の式により算出することができます。

必要水分量(mL/)=体重(kg)×年齢別必要水分量(mL/kg/)

[年齢別必要水分量]

  • 25〜54歳:35mL/kg/日
  • 55〜64歳:30mL/kg/日
  • 65歳以上:25mL/kg/日

褥瘡 栄養補助食品 おすすめ

褥瘡の創傷治癒のためには上記で説明した栄養素をバランス良く摂取していくことが重要になります。対象者の状態に応じて、経口摂取あるいは中心静脈栄養、末梢点滴と適切な栄養摂取方法を選択して栄養管理を図ることになりますが、経口摂取が可能な場合には株式会社クリニコが扱う商品が条件に適した商品を選択することが可能であり、非常におすすめといえます。

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございます!

この記事では「褥瘡の治療に必要な栄養素」をキーワードに考えを述べさせていただきました。

こちらの記事で褥瘡の治療に必要な栄養素についての理解を深めることで、臨床における褥瘡対策の一助になれば幸いです。

こちらの記事でも度々でてきた創傷治癒過程については、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【創傷治癒の過程についての記事はこちらから

参考文献

  1. 鈴木文.褥瘡と栄養.昭和学士会誌.第74巻,第2号,2014,p120-127.
  2. 田中芳明,石井信二.褥瘡*.静脈経腸栄養 .Vol.27,No.2,2012,p69-76.
  3. 日本褥瘡学会.褥瘡予防・管理ガイドライン第5版.照林社.2022年4月.
  4. 日本静脈経腸栄養学会.静脈経腸栄養ガイドライン第3版.照林社.2013年5月.
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