JSS(脳卒中重症度スケール)の評価|計算方法と NIHSS との違い

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JSS(脳卒中重症度スケール)の評価【計算の流れと使い分け】

臨床で迷わない評価の進め方(最短フローを見る)

JSS(Japan Stroke Scale)は、急性期の神経症候を重み付き(加重値)で数値化するスケールです。各項目で A / B / C を選び、右欄の加重値を合計し、定数 CONSTANT -14.71 を加算してスコアを算出します(値が大きいほど重症)。本記事は公式票の転載を避けつつ、評価の流れ・使い分け・各項目の「見方」と観察のコツ・運用上の注意点を現場仕様で整理します。

最終更新:2025-12-13

現場の詰まりどころ

  • 「計算は合っているのに解釈がブレる」:加重値の合計は正しくても、前提条件(意識レベルや失語、注意障害など)が揃っていないと比較が難しくなります。同一検者・同一条件をできるだけ守りましょう。
  • 「視野欠損なのか無視なのか」:探索エラーは同名半盲でも起こります。視野と無視はセットで観察し、どちらが主因かを言語化して記録します。
  • 「疼痛・固定具・失行で運動が評価できない」:麻痺そのもの以外(疼痛、整形外科的制限、失行、注意低下)を先に切り分けると、経時変化の説明がラクになります。
  • 「数値だけが一人歩きする」:JSS は連続値で感度が高い一方、単独で判断せず、画像、嚥下、ADL、合併症リスクと統合して運用します。

評価の流れ( 5 ステップ )

  1. 安全確認:意識・呼吸循環・SpO2・疼痛・不整脈などのレッドフラッグを確認し、評価の可否を判断します。
  2. 初回 JSS:可能な限り早期に「初回値」を取り、以後の比較軸を作ります。
  3. 併用尺度の選択:症候の見取り図は NIHSS、運動中心なら JSS-M、高次脳中心なら JSS-H を検討します(使い分けは後述)。
  4. 統合:画像・嚥下・転倒リスク・ADL 所見と合わせて、リスク管理と介入優先順位を決めます。
  5. 再評価:日次(または状態変化時)に再評価し、初回からの変化( Δ )を記録します。

JSS の計算手順

JSS の計算は「数式」よりも、手順の固定化が重要です。まず各項目で A / B / C を 1 つ選択し、右欄の加重値をメモします。全項目の加重値を合計し、最後に CONSTANT -14.71 を加算して総合スコアを得ます(値が大きいほど重症)。

  • JSS:加重値合計 +( -14.71 )
  • JSS-M:加重値合計 +( +14.60 )
  • JSS-H:加重値合計 +( +14.00 )

ポイントは「同じ条件で繰り返す」ことです。初回だけ丁寧にやっても、再評価条件が変わると比較の意味が薄れます(鎮静、疲労、疼痛、固定具、指示理解の変化など)。

使い分け早見表( JSS / NIHSS / JSS-M / JSS-H )

スマホでは表が横スクロールできます。

JSS と関連スケールの使い分け(成人・急性期中心)
尺度 主目的 項目の傾向 強み 注意点 一次情報
JSS 急性期の重症度を重み付きで総合評価 意識、言語、無視、視野、眼球運動、瞳孔、感覚、運動など 連続値で経時変化を追いやすい 公式票の加重値に基づく計算が必須 JSS PDF
NIHSS 神経学的欠落症状の標準化評価 意識、視野、顔面、上下肢、失語、構音、消去など 急性期評価の共通言語として普及 誘導(コーチング)で結果が変わりやすい NIHSS Manual
JSS-M 運動機能障害の重症度 座位、立位、歩行、上下肢の動作レベルなど 運動面のフォローに向く 定数( +14.60 )の取り違えに注意 JSS-M PDF
JSS-H 高次脳機能の広がりの把握 注意、行動・意欲、課題遂行の観察など 「できない理由」の整理に向く 定数( +14.00 )の取り違えに注意 JSS-H PDF

項目の趣旨・観察ポイント(転載なし要約)

ここでは項目本文・選択肢・加重値の転載はせず、臨床で迷いやすいポイントだけを要約します。実際の判定は必ず公式票で確認してください。

  • 意識( LOC ):評価の土台です。呼名→刺激の順で、最初の反応を尊重します。評価中に反応が変わる場合は「状態変化」として別枠で記録します。
  • 言語:理解と表出を分けて観察します。聴力低下、構音障害、失行が混ざると見かけが変わるため、「何が障害されているか」を言語化します。
  • 半側空間無視:探索課題の偏りは視野欠損でも起こります。視野とセットで観察し、「見えない」のか「見ていない」のかを切り分けます。
  • 視野:注意障害があると偽陰性になりやすいので、提示位置・順序を変えて確認します。
  • 眼球運動:随意運動と追視は別物です。共同偏視の疑いがあるときは、安静時の眼位も含めて記録します。
  • 瞳孔:左右差や対光反射の変化はレッドフラッグです。数値化よりも「変化の有無」を即時共有する運用が重要です。
  • 顔面:安静時の左右差と随意運動の左右差を分けて観察します(疲労や疼痛の影響もメモします)。
  • 感覚:末梢神経障害や疼痛過敏があると解釈が難しくなります。左右差だけでなく「再現性」を確認します。
  • 運動(上肢・下肢):麻痺だけでなく、疼痛、関節可動域制限、固定具、失行、注意低下を先に除外すると評価が安定します。

閾値と解釈(運用の目安)

JSS は連続量で、単一の公的カットオフに頼る運用は推奨されません。現場では、①初回値と経時変化( Δ ) ②症候の内訳(何が足を引っ張っているか) ③画像・嚥下・ADL 所見との統合、の 3 点で解釈するとブレにくくなります。

重症度の「目安」を作る場合も、院内で条件(対象、時期、測定条件)を揃えて、同じルールで回すことが先です。数値の便利さより、比較可能性(再現性)を優先してください。

カルテ記載テンプレ(観察→評価→解釈→対応)

【JSS】 10:30、同一条件で再評価。JSS=(加重値合計)+( -14.71 )。前回比 Δ=〇。
【内訳】 LOC=〇、言語=〇、無視=〇、視野=〇、眼球=〇、瞳孔=〇、感覚=〇、運動(上肢/下肢)=〇。疼痛/固定具/失行/注意低下の影響=〇。
【統合】 画像=〇、嚥下=〇、ADL=〇、合併症リスク(転倒/誤嚥/ VTE など)=〇。
【解釈】 主要な変化は〇。リスクは〇。介入優先順位は〇。
【対応】 監視強化/主治医共有/嚥下評価依頼/ポジショニング調整/家族説明。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

JSS と NIHSS の違いは何ですか?

JSS は「重み付き(加重値)合算+定数」による連続値で、経時変化の追跡に向いた設計です。NIHSS は神経所見を標準化して共有しやすく、急性期での共通言語として広く使われます。現場では、目的(共有したいのか、変化を追いたいのか)で使い分け、必要に応じて併用します。

JSS-M と JSS-H はいつ使うのが良いですか?

運動面のフォローを厚くしたいときは JSS-M、高次脳機能の広がりや「できない理由」を整理したいときは JSS-H が向きます。どちらも定数が異なるため( JSS-M は +14.60、JSS-H は +14.00 )、算出時の取り違えに注意してください。

「視野」と「無視」の切り分けが難しいです

視野欠損でも探索は偏ります。視野の確認(提示位置や順序を変える)と、探索課題(線分、描画、視覚探索など)をセットで観察し、「見えない」なのか「見ていない」なのかを言語化して記録すると、チームでの共有がスムーズです。

公式票を記事に載せない理由は?

本記事は運用の理解を最優先にし、公式票(項目本文・選択肢・加重値)は一次情報で確認できる形にしています。実務では、必ず最新版を参照して運用してください。

おわりに

JSS は「安全の確保 → 条件を揃えた観察 → 加重値の合算 → 定数の加算 → 経時変化( Δ )で再評価」というリズムで回すと、数値がチームの共通言語になります。評価の精度を上げたいときは、面談準備チェックと職場評価シートも使いながら準備を整えると、次の行動(相談・見学・環境調整)に移りやすいです:マイナビコメディカル(面談準備チェック&職場評価シート)を見る

参考文献・一次情報

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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