EIHとは?運動誘発性疼痛抑制の確認方法と運動処方

臨床手技・プロトコル
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EIHとは、運動直後に疼痛感受性が低下する反応です

まずは「安全確認 → 運動 → 直後評価 → 翌日確認」の順番を押さえます

運動療法ハブで全体像を見る

疼痛評価全体は疼痛評価ハブ、EIHが出ない場合の詳しい分岐はEIH非反応・逆反応の分岐プロトコルで確認できます。

EIH(exercise-induced hypoalgesia:運動誘発性疼痛抑制/運動誘発性鎮痛)は、1回の運動後に疼痛閾値が上がる、または同じ刺激に対する痛みが小さくなる反応です。運動前後の疼痛感受性を比較することで、その日の運動に対する反応を把握する手掛かりになります。

ただし、慢性運動器痛ではEIHが常に生じるわけではありません。反応が弱い人、変化しない人、運動後に痛みが増える人もいます。また、運動直後にEIHが確認できないことだけで、運動療法そのものが無効とは判断できません。

この記事では、EIHの基本、運動前後の確認方法、初回の運動条件、フレアが起きた場合の調整、記録と再評価までを整理します。

図解:EIHを確認しながら運動を調整する5分フロー

運動処方では、最初から鎮痛効果を狙って負荷を上げるのではなく、実施可能な条件から始めて直後と翌日の反応を確認します。

EIHを確認しながら運動を調整する5分フロー。安全確認、少量の運動、直後評価、反応分類、次の調整を行う流れ
EIHの反応を、良好・変化なし・痛み増悪に分け、直後と翌日の反応から次回の運動を調整する流れ

EIH記録シートをダウンロードする

EIHの確認では、運動内容だけでなく、運動前、運動直後、翌日の条件をそろえて記録することが重要です。以下の記録シートでは、固定項目、運動処方、直後反応、翌日反応をA4用紙1枚にまとめられます。

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ver. 2026-03-04(A4/1ページ)

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EIHには複数の疼痛調節機構が関係します

EIHは、単一の機序では説明できません。運動によって生じる末梢からの入力と、中枢神経系による疼痛調節、心理的要因などが複合して生じる反応と考えられています。

  • 下行性疼痛調節系の変化
  • 内因性オピオイド系やエンドカンナビノイド系の関与
  • セロトニンやノルアドレナリンを介した疼痛調節
  • 注意、期待、不安、運動に対する認知の影響
  • 運動部位からの感覚入力による疼痛感受性の変化

ただし、これらの機序がすべての患者に同じように働くわけではありません。慢性疼痛では、疼痛調節機能、睡眠、疲労、心理社会的要因、疾患特性、運動への期待などによって反応が変わります。

そのため、EIHを「運動すれば必ず痛みが下がる仕組み」と説明するのではなく、運動後に生じ得る反応の一つとして扱うことが適切です。

EIHは運動前後で同じ刺激と課題を比較します

EIHを確認するときは、運動前と運動直後で測定条件をそろえます。臨床では、疼痛閾値の測定だけでなく、患者が普段困っている動作の変化も併せて確認します。

EIHを確認するときの基本項目
確認項目 具体例 確認のポイント
自覚的な痛み NRSなどによる痛みの強さ 運動前後で同じ姿勢、同じ動作、同じ部位を比較する
疼痛感受性 圧刺激などに対する痛みの感じ方 測定部位、刺激方法、測定者、測定間隔をそろえる
機能課題 立ち上がり、歩行、上肢挙上など 患者が困っている再現可能な課題を選ぶ
心理的反応 不安、安心感、継続できそうか 痛みの数値だけでなく運動への受け止め方も確認する
遅発反応 数時間後から翌日の症状 直後に問題がなくても翌日反応を確認する

痛みの数値がわずかに下がっても、歩行が不安定になった、疲労が強くなった、翌日まで症状が増えた場合は、良好な反応とは判断しません。反対に、NRSが変わらなくても、動作が滑らかになり不安が減った場合は、次回処方を考えるうえで重要な情報になります。

慢性運動器痛ではEIHの反応に大きな個人差があります

健常者では、有酸素運動や動的レジスタンス運動後に疼痛感受性が低下する傾向が報告されています。一方、慢性運動器痛を対象とした研究は限られ、運動様式や疾患によって結果が一致していません。

したがって、慢性疼痛患者に対して「この強度・時間ならEIHが起きる」と一律に予測することは困難です。研究で用いられた運動条件を、そのまま臨床上の標準処方や最小有効量として扱わないようにします。

重要:EIHが確認できないことは、運動療法が無効であることを意味しません。EIHは急性の疼痛感受性をみる反応であり、長期的な身体機能、活動量、自己効力感、生活障害の改善とは分けて評価します。

初回は評価できる少量の運動から始めます

初回の目的は、大きな鎮痛効果を引き出すことではありません。安全に実施でき、運動前後の反応を比較できる条件を作ることです。

運動時間、強度、回数には一律の標準値がないため、患者の通常活動量、併存疾患、運動経験、症状の変動、当日の全身状態を踏まえて設定します。

EIHを確認するときの開始条件例
運動様式 開始条件の例 確認する反応 調整例
有酸素運動 会話を維持できる低~中強度で、短時間から開始 痛み、息切れ、疲労、動作、安心感 時間短縮、休息、分割、運動様式の変更
動的レジスタンス フォームを維持できる軽負荷・少ない種目数から開始 運動中の症状、直後の疼痛感受性、翌日反応 負荷、反復回数、可動範囲、対象部位を変更
等尺性運動 症状を誘発しにくい関節角度と収縮時間から開始 収縮中の痛み、終了直後の変化、症状の残存 収縮時間短縮、休息延長、有酸素運動への変更
非疼痛部位の運動 疼痛部位への直接負荷が難しい場合に選択 全身反応、遠隔部の疼痛感受性、運動への不安 反応を見ながら疼痛部位を含む課題へ移行

初回から複数の運動を組み合わせると、どの刺激に対する反応か分かりにくくなります。まずは運動様式と条件を絞り、運動前後の比較ができる処方にします。

初回から継続運動へ進める運用テンプレート

初回では安全性と急性反応を確認し、その後は再現性、翌日反応、生活機能の順に評価範囲を広げます。

初回から継続運動へ進める運用例
段階 目的 実施内容 進行判断
初回 安全に比較できる条件を作る 実施可能な少量の運動を1種類選ぶ 運動中の安全性、直後の痛み、動作、疲労を確認する
初期 反応の再現性を確認する 同程度の条件を複数回試す 直後反応と翌日反応が許容範囲に収まるか確認する
漸増期 運動量と活動範囲を広げる 時間、頻度、負荷、種目のいずれかを段階的に増やす 生活活動、機能、自己効力感、症状の週単位の変化を確認する
定着期 生活の中で継続できる形にする 本人が選択・調整できる運動へ移行する 症状変動時にも中断せず調整できるか確認する

漸増するときは、時間、頻度、負荷、種目を同時に増やさないことが重要です。原則として一度に変更する変数を1つに絞り、直後だけでなく翌日まで確認します。

EIHが出ない場合は処方の失敗と決めつけません

EIHが確認できない場合は、まず測定条件と運動条件を見直します。急性の疼痛抑制が生じない理由には、運動量の問題だけでなく、測定誤差、疲労、睡眠、心理的要因、症状の変動などが含まれます。

よくある失敗

EIHの確認で起こりやすい失敗と修正方法
よくある失敗 問題点 修正方法
運動前後で測定条件が違う 姿勢、部位、課題が異なり比較できない 測定部位、姿勢、動作、説明方法を固定する
初回から負荷を上げすぎる 疲労や症状増悪がEIHの評価を妨げる 反応を判定できる少量の運動から開始する
痛みの数値だけで判断する 機能、疲労、不安、翌日反応を見落とす 動作と患者の受け止め方も記録する
EIHが出るまで強度を上げる 急性鎮痛を目的化し、フレアを招く可能性がある EIHの有無と長期的な運動効果を分けて評価する
直後だけで進行を決める 数時間後や翌日の症状増悪を見落とす 次回までの遅発反応を確認してから漸増する

運動後に痛みが増えた場合の調整順序

運動後痛が増えた場合は、症状の性質と持続時間を確認したうえで、変更する項目を1つに絞ります。

  1. 運動時間を短くする:症状が後半に増える場合は、総時間を減らします。
  2. 運動を分割する:連続運動を短い複数回へ分け、休息を挟みます。
  3. 可動範囲や対象部位を変える:疼痛部位への直接負荷が難しい場合は、非疼痛部位から始めます。
  4. 運動様式を変える:レジスタンス運動が難しい場合は、有酸素運動などへ変更します。
  5. 負荷を下げる:フォームと呼吸を維持できる範囲まで負荷を下げます。
  6. 再評価する:変更後の直後反応と翌日反応を同じ条件で確認します。

詳しいスクリーニングと分岐は、EIH非反応・逆反応の分岐プロトコルで確認してください。

運動前に中止・相談が必要な症状を確認します

運動開始の可否は、痛みの数値だけでは決められません。本人の通常の症状からの変化、外傷や炎症所見、神経症状、呼吸循環症状、全身状態を確認します。

運動を延期・中止して再評価する主な症状
確認領域 慎重に調整して実施する例 中止・相談を優先する例
痛み いつもの範囲内で、運動条件の調整により軽減する痛み 突然生じた強い痛み、急速に悪化する痛み、通常と異なる夜間痛
神経症状 既知の症状が安定している 新たな筋力低下、感覚障害の拡大、膀胱直腸障害など
局所所見 慢性的で変化の少ない軽度のこわばりや腫脹 外傷後の変形、著明な腫脹・熱感、急速に広がる発赤
呼吸循環症状 通常範囲内の息切れや疲労 胸痛、失神・失神前症状、強い動悸、冷汗、呼吸困難の急な増悪
全身状態 休息で改善する軽度の疲労 発熱、急性疾患が疑われる状態、意識状態の変化

症状が通常の変動範囲か判断できない場合や、新しい神経症状・全身症状がある場合は、EIHの確認よりも原因評価と医師への相談を優先します。

記録では運動条件と反応をセットで残します

「運動後に痛みが下がった」とだけ記録しても、次回の処方にはつながりません。少なくとも、運動前の状態、運動条件、直後反応、遅発反応を残します。

  • 運動前:痛み、対象動作、疲労、睡眠、当日の体調
  • 運動条件:様式、部位、時間、負荷、反復回数、休息
  • 運動直後:痛み、同じ機能課題、疲労、安心感
  • 遅発反応:数時間後と翌日の痛み、活動量、生活への影響
  • 次回方針:維持する条件と、1つだけ変更する項目

チームで共有するときは、「EIHあり・なし」だけではなく、どの運動条件で、何が、どの程度変化し、いつまで続いたかを伝えます。

反応が出にくいときは測定条件と実施可能性を見直します

EIHが確認できないときに、直ちに負荷を上げる必要はありません。以下の順で確認すると、処方と評価のどちらに問題があるか整理しやすくなります。

  • 運動前後で同じ部位・姿勢・課題を比較したか
  • 運動による疲労が評価を妨げていないか
  • 疼痛部位への注意や不安が強くなっていないか
  • 睡眠不足や体調不良など、当日の変動要因がないか
  • 本人が継続しやすい運動様式を選べているか
  • 直後だけでなく翌日の反応を確認したか

急性の疼痛抑制が確認できなくても、運動を安全に継続でき、生活機能や活動量が改善している場合は、その変化を優先して評価します。

EIHに関するよくある質問

各項目名をタップすると回答が開きます。

EIHが出たかどうかは、現場でどう確認しますか?

運動前と運動直後に、同じ条件で痛みまたは疼痛感受性を比較します。併せて、立ち上がりや歩行などの機能課題、疲労、運動への安心感も確認します。直後の変化だけでなく、数時間後から翌日の症状も記録してください。

EIHが確認できなければ、運動療法は効いていないのでしょうか?

そうとは限りません。EIHは1回の運動後に生じる急性反応です。長期的な運動療法による機能、活動量、自己効力感、生活障害の変化とは分けて判断します。

運動後に痛みが増えた場合は中止すべきですか?

まず、痛みの性質、通常との差、持続時間、神経症状や全身症状の有無を確認します。赤旗所見がなければ、時間短縮、分割、休息、部位や様式の変更などで調整できる場合があります。通常と異なる強い症状や神経症状、胸部症状などがある場合は中止して再評価します。

有酸素運動と筋力トレーニングはどちらを優先しますか?

EIHだけを基準に一律には決められません。安全性、運動経験、本人の希望、機能目標、症状の反応から選びます。初回は反応を比較しやすい運動を1種類選び、必要に応じて別の運動様式を追加します。

痛みが下がるまで運動強度を上げてもよいですか?

EIHを引き出すことだけを目的に負荷を上げることは推奨できません。急性の鎮痛反応がなくても、運動の安全性や長期的効果は別に評価できます。負荷は機能目標、翌日反応、継続可能性に基づいて段階的に調整します。

次の一手

EIHの基本を確認したあとは、反応に応じた分岐を具体化します。

運用を整えたあとに、職場環境の詰まりも点検しておきましょう

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参考文献

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  3. Tomschi F, et al. Hypoalgesia after aerobic exercise in healthy subjects: systematic review and meta-analysis. J Sports Sci. 2024;42(7):574-588. doi:10.1080/02640414.2024.2352682
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著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。医療機関、介護福祉施設、訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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