- MFS( Motor Fitness Scale )とは?(自己申告で運動機能を 0–14 点で見える化)
- MFS がハマる場面(転倒リスク・活動性低下の早期把握)
- MFS の構成( 3 つの下位領域:移動性/筋力/平衡性)
- 採点( 0–14 点 )と解釈のコツ(点数より “どこで詰まるか” )
- 実施手順( 3 分で回す:確認→具体例→安全確認)
- MFS と実測テストの使い分け(自己申告 × パフォーマンスの “ズレ” を見る)
- 現場の詰まりどころ(よくある失敗 → 直し方)
- MFS の評価用紙(記録シート)
- よくある質問( FAQ )
- おわりに(安全の確保 → 段階刺激 → 記録 → 再評価)
- 参考文献
- 著者情報
MFS( Motor Fitness Scale )とは?(自己申告で運動機能を 0–14 点で見える化)
MFS( Motor Fitness Scale )は、高齢者の運動機能(移動・筋力・バランス)を、本人の自己申告で 0–14 点に可視化する 14 項目の質問紙です。道具や広いスペースが不要で、短時間に「今の動ける感」を拾えるため、地域・外来・通所・在宅のスクリーニングや経時モニタリングに向きます。
ただし、自己申告は「痛み」「恐怖心」「認知・理解」「抑うつ」などの影響も受けるため、MFS は単独で結論を出すというより、現場で回る評価セットの入口として使うと安定します。評価全体の配置に迷うときは、まず評価ハブで「目的→評価→介入→再評価」の並べ方を確認しておくと、リンク設計も崩れにくいです。
MFS がハマる場面(転倒リスク・活動性低下の早期把握)
MFS は「実際のパフォーマンスを測るテスト( SPPB や TUG )の前に、まず本人の体感を拾って優先順位をつけたい」場面で役立ちます。たとえば、初回面談で情報が少ないとき、屋外歩行や立ち上がりを実測する前に、危ない動作がどこかを短時間で当たりづけできます。
また、介入後の再評価でも、歩行速度が同じでも「怖さが減った」「外出が増えた」など、パフォーマンスに出にくい変化が先に出ることがあります。MFS はそうした変化を拾いやすい一方で、実測値の裏づけも必要です。歩行・バランス系の評価の役割分担をまとめた記事(続けて読む:歩行・バランス評価の選び方)とセットで運用すると、追加評価を選びやすくなります。
MFS の構成( 3 つの下位領域:移動性/筋力/平衡性)
MFS は 14 項目を、概ね移動性(移動・歩行に関する項目)、筋力(立ち上がり等に関する項目)、平衡性(バランスや不安定場面に関する項目)として捉えると、介入先が見えやすくなります。得点が低い領域が、そのまま「詰まりどころ候補」になります。
実務では、MFS の結果を見て「まず転倒回避の安全設計(環境・歩行補助具・見守り)」「次に筋力寄りか、バランス寄りか」「最後に活動量・外出」へ、介入の順番を作るのが簡単です。評価は、同じ順で回して記録を残すほど、次回以降の再評価が速くなります。
採点( 0–14 点 )と解釈のコツ(点数より “どこで詰まるか” )
MFS は各項目を自己申告で確認し、合計で 0–14 点(点が高いほど良好)として扱います。運用のコツは、合計点だけで判断せず、「移動」「立ち上がり」「不安定場面」のどこに困りが集中しているかを先に見立てることです。
研究では、要介護発生などのアウトカム予測における MFS の有用性が報告されており、カットオフとして男性 ≤ 11 点/女性 ≤ 9 点が用いられる研究もあります(集団・目的により変動)。ただし臨床では、カットオフに当てはめるより、「点が落ちた項目=介入と安全管理の優先度」として使う方が、実装しやすいです。
実施手順( 3 分で回す:確認→具体例→安全確認)
MFS は「質問して答えてもらう」だけで終わらせると、誤差が増えやすい評価です。おすすめは、①質問(できる/できない)→ ②具体例(いつ・どこで・どの程度)→ ③安全確認(転倒歴・痛み・補助具・環境)をワンセットにして、短く深掘りするやり方です。
- 具体例:「できる」と言っても、屋内だけ/屋外は不安、などの差が出ます。
- 前提条件:杖・歩行器・手すりの使用、痛み止めの有無、靴・路面を確認します。
- 危険サイン:最近の転倒、立ちくらみ、急な活動量低下があれば、実測評価の前に安全設計を優先します。
MFS と実測テストの使い分け(自己申告 × パフォーマンスの “ズレ” を見る)
MFS の強みは「簡便さ」と「本人の体感」を拾えること、弱みは「実際の能力とズレる」可能性があることです。ズレが出たときは、ズレ自体が臨床情報になります(恐怖心が強い/痛みが強い/認知・注意が落ちている等)。
| 観点 | MFS(自己申告) | 実測(例: SPPB / TUG / 歩行速度 ) | 臨床での使い方 |
|---|---|---|---|
| 時間・準備 | 短い/道具不要 | 環境・器具・安全配慮が必要 | 初回の当たりづけは MFS、介入効果は実測で裏づけ |
| 拾える情報 | 体感・不安・生活場面 | 能力(速度・時間・回数) | ズレが大きいほど “心理・痛み・認知” を評価に追加 |
| 転倒リスク | 主観の回避行動を拾える | 動作中のバランス破綻を見つけやすい | 転倒歴がある場合は、まず安全設計→次に実測 |
| 経時変化 | 早期の「楽になった」を拾う | 数値で比較しやすい | MFS と実測を “同じ順・同じ条件” で回して記録 |
現場の詰まりどころ(よくある失敗 → 直し方)
MFS は簡便なぶん、運用が雑になると一気に信頼性が落ちます。特に多いのは「できる/できない」をそのまま点数化して、生活場面の条件を聞かずに終えてしまうケースです。たとえば「歩ける」は、屋内なら歩けるが屋外は不安、ということがよくあります。
| よくあるミス | なぜ起きる? | 対策(その場でできる) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 生活場面の条件を聞かない | 質問紙=聞くだけで終わる | 「屋内/屋外」「補助具」「段差」「人混み」を 1 つだけ深掘り | できる条件・できない条件を 1 行で残す |
| 痛み・息切れの影響を無視 | 運動機能だけを見てしまう | 痛み(部位)と息切れ( Borg )を同時に確認 | 痛み NRS、息切れ Borg、日内変動 |
| 前回と前提条件が違う | 靴・杖・手すりが毎回変わる | 補助具・靴・環境を固定し、変えたら理由を書く | 補助具/靴/路面/見守り量 |
| 合計点だけで介入を決める | 時間がなく “点数” で判断 | 低得点の領域(移動/筋力/平衡性)を先に特定 | 低得点領域と、優先介入 1 つ |
MFS の評価用紙(記録シート)
現場で使いやすいように、記録用の MFS シートを用意しています。面談や訪問で回すときは、先に「前提条件(補助具・靴・環境)」をメモしてから質問に入ると、再評価の比較が楽になります。
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1.MFS は認知症の方にも使えますか?
使える場面はありますが、回答の信頼性が下がることがあります。本人の理解が難しい場合は、家族・介護者の観察情報(「実際にやっているか」)も併用し、必要なら実測評価で裏づけします。
Q2.点数が低いとき、最初に何を優先しますか?
まずは転倒回避の安全設計(環境・補助具・見守り)です。そのうえで、低得点が集中している領域(移動/筋力/平衡性)を 1 つに絞って、介入を組み立てます。
Q3.MFS の変化はどのくらいで評価しますか?
介入頻度や対象者の状態によりますが、現場では 2–4 週での再評価が回しやすいことが多いです。前提条件(補助具・靴・環境)をそろえるほど、変化の解釈が明確になります。
Q4.MFS と実測( TUG など )が食い違うときは?
食い違い自体が重要情報です。恐怖心、痛み、注意・遂行機能、生活環境の違いが背景にあることが多いため、問診の深掘りや観察、必要な追加評価(疼痛、息切れ、注意)を検討します。
おわりに(安全の確保 → 段階刺激 → 記録 → 再評価)
MFS は「実測の前に、どこが詰まっているか」を短時間で拾えるのが強みです。安全の確保 → 段階刺激 → 記録 → 再評価のリズムで回すと、自己申告とパフォーマンスのズレも臨床情報として整理しやすくなります。
評価の型を整えたら、次は面談準備チェックと職場評価シートで、学びやすい環境を選ぶ準備も進められます:/mynavi-medical/#download
参考文献
- Kinugasa T, Nagasaki H. Reliability and validity of the Motor Fitness Scale for older adults in the community. Aging Clin Exp Res. 1998;10(4):295-302. DOI: 10.1007/BF03339791 / PubMed: PMID: 9825020
- Hoshi M, Hozawa A, Kuriyama S, et al. The predictive power of physical function assessed by questionnaire and physical performance measures for subsequent disability. Aging Clin Exp Res. 2012;24(4):345-353. DOI: 10.3275/8104 / PubMed: PMID: 22102425
- Guralnik JM, Simonsick EM, Ferrucci L, et al. A short physical performance battery assessing lower extremity function: association with self-reported disability and prediction of mortality and nursing home admission. J Gerontol. 1994;49(2):M85-M94. DOI: 10.1093/geronj/49.2.M85 / PubMed: PMID: 8126356
- Podsiadlo D, Richardson S. The timed “Up & Go”: a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. DOI: 10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x / PubMed: PMID: 1991946
- Yokoi K, Nishimura A, Kato T, et al. Relationship between Fall History and Self-Perceived Motor Fitness in Daily Life among Community-Dwelling People: A Cross-Sectional Study. J Clin Med. 2020;9(11):3649. DOI: 10.3390/jcm9113649
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


