MFS とは?高齢者の運動機能を 14 項目で評価

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MFS( Motor Fitness Scale )とは?(自己申告で運動機能を 0–14 点で見える化)

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MFS( Motor Fitness Scale )は、高齢者の運動機能(移動・筋力・バランス)を、本人の自己申告で 0–14 点に可視化する 14 項目の質問紙です。道具や広いスペースが不要で、短時間に「今の動ける感」を拾えるため、地域・外来・通所・在宅のスクリーニング経時モニタリングに向きます。

ただし、自己申告は「痛み」「恐怖心」「認知・理解」「抑うつ」などの影響も受けるため、MFS は単独で結論を出すというより、現場で回る評価セットの入口として使うと安定します。評価全体の配置に迷うときは、まず評価ハブで「目的→評価→介入→再評価」の並べ方を確認しておくと、リンク設計も崩れにくいです。

MFS がハマる場面(転倒リスク・活動性低下の早期把握)

MFS は「実際のパフォーマンスを測るテスト( SPPB や TUG )の前に、まず本人の体感を拾って優先順位をつけたい」場面で役立ちます。たとえば、初回面談で情報が少ないとき、屋外歩行や立ち上がりを実測する前に、危ない動作がどこかを短時間で当たりづけできます。

また、介入後の再評価でも、歩行速度が同じでも「怖さが減った」「外出が増えた」など、パフォーマンスに出にくい変化が先に出ることがあります。MFS はそうした変化を拾いやすい一方で、実測値の裏づけも必要です。歩行・バランス系の評価の役割分担をまとめた記事(続けて読む:歩行・バランス評価の選び方)とセットで運用すると、追加評価を選びやすくなります。

MFS の構成( 3 つの下位領域:移動性/筋力/平衡性)

MFS は 14 項目を、概ね移動性(移動・歩行に関する項目)、筋力(立ち上がり等に関する項目)、平衡性(バランスや不安定場面に関する項目)として捉えると、介入先が見えやすくなります。得点が低い領域が、そのまま「詰まりどころ候補」になります。

実務では、MFS の結果を見て「まず転倒回避の安全設計(環境・歩行補助具・見守り)」「次に筋力寄りか、バランス寄りか」「最後に活動量・外出」へ、介入の順番を作るのが簡単です。評価は、同じ順で回して記録を残すほど、次回以降の再評価が速くなります。

採点( 0–14 点 )と解釈のコツ(点数より “どこで詰まるか” )

MFS は各項目を自己申告で確認し、合計で 0–14 点(点が高いほど良好)として扱います。運用のコツは、合計点だけで判断せず、「移動」「立ち上がり」「不安定場面」のどこに困りが集中しているかを先に見立てることです。

研究では、要介護発生などのアウトカム予測における MFS の有用性が報告されており、カットオフとして男性 ≤ 11 点/女性 ≤ 9 点が用いられる研究もあります(集団・目的により変動)。ただし臨床では、カットオフに当てはめるより、「点が落ちた項目=介入と安全管理の優先度」として使う方が、実装しやすいです。

実施手順( 3 分で回す:確認→具体例→安全確認)

MFS は「質問して答えてもらう」だけで終わらせると、誤差が増えやすい評価です。おすすめは、①質問(できる/できない)→ ②具体例(いつ・どこで・どの程度)→ ③安全確認(転倒歴・痛み・補助具・環境)をワンセットにして、短く深掘りするやり方です。

  • 具体例:「できる」と言っても、屋内だけ/屋外は不安、などの差が出ます。
  • 前提条件:杖・歩行器・手すりの使用、痛み止めの有無、靴・路面を確認します。
  • 危険サイン:最近の転倒、立ちくらみ、急な活動量低下があれば、実測評価の前に安全設計を優先します。

MFS と実測テストの使い分け(自己申告 × パフォーマンスの “ズレ” を見る)

MFS の強みは「簡便さ」と「本人の体感」を拾えること、弱みは「実際の能力とズレる」可能性があることです。ズレが出たときは、ズレ自体が臨床情報になります(恐怖心が強い/痛みが強い/認知・注意が落ちている等)。

MFS と実測評価の比較(目的別の使い分け)
観点 MFS(自己申告) 実測(例: SPPB / TUG / 歩行速度 ) 臨床での使い方
時間・準備 短い/道具不要 環境・器具・安全配慮が必要 初回の当たりづけは MFS、介入効果は実測で裏づけ
拾える情報 体感・不安・生活場面 能力(速度・時間・回数) ズレが大きいほど “心理・痛み・認知” を評価に追加
転倒リスク 主観の回避行動を拾える 動作中のバランス破綻を見つけやすい 転倒歴がある場合は、まず安全設計→次に実測
経時変化 早期の「楽になった」を拾う 数値で比較しやすい MFS と実測を “同じ順・同じ条件” で回して記録

現場の詰まりどころ(よくある失敗 → 直し方)

MFS は簡便なぶん、運用が雑になると一気に信頼性が落ちます。特に多いのは「できる/できない」をそのまま点数化して、生活場面の条件を聞かずに終えてしまうケースです。たとえば「歩ける」は、屋内なら歩けるが屋外は不安、ということがよくあります。

MFS 運用で起きやすいミスと対策(再評価の再現性を上げる)
よくあるミス なぜ起きる? 対策(その場でできる) 記録ポイント
生活場面の条件を聞かない 質問紙=聞くだけで終わる 「屋内/屋外」「補助具」「段差」「人混み」を 1 つだけ深掘り できる条件・できない条件を 1 行で残す
痛み・息切れの影響を無視 運動機能だけを見てしまう 痛み(部位)と息切れ( Borg )を同時に確認 痛み NRS、息切れ Borg、日内変動
前回と前提条件が違う 靴・杖・手すりが毎回変わる 補助具・靴・環境を固定し、変えたら理由を書く 補助具/靴/路面/見守り量
合計点だけで介入を決める 時間がなく “点数” で判断 低得点の領域(移動/筋力/平衡性)を先に特定 低得点領域と、優先介入 1 つ

MFS の評価用紙(記録シート)

現場で使いやすいように、記録用の MFS シートを用意しています。面談や訪問で回すときは、先に「前提条件(補助具・靴・環境)」をメモしてから質問に入ると、再評価の比較が楽になります。

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1.MFS は認知症の方にも使えますか?

使える場面はありますが、回答の信頼性が下がることがあります。本人の理解が難しい場合は、家族・介護者の観察情報(「実際にやっているか」)も併用し、必要なら実測評価で裏づけします。

Q2.点数が低いとき、最初に何を優先しますか?

まずは転倒回避の安全設計(環境・補助具・見守り)です。そのうえで、低得点が集中している領域(移動/筋力/平衡性)を 1 つに絞って、介入を組み立てます。

Q3.MFS の変化はどのくらいで評価しますか?

介入頻度や対象者の状態によりますが、現場では 2–4 週での再評価が回しやすいことが多いです。前提条件(補助具・靴・環境)をそろえるほど、変化の解釈が明確になります。

Q4.MFS と実測( TUG など )が食い違うときは?

食い違い自体が重要情報です。恐怖心、痛み、注意・遂行機能、生活環境の違いが背景にあることが多いため、問診の深掘りや観察、必要な追加評価(疼痛、息切れ、注意)を検討します。

おわりに(安全の確保 → 段階刺激 → 記録 → 再評価)

MFS は「実測の前に、どこが詰まっているか」を短時間で拾えるのが強みです。安全の確保 → 段階刺激 → 記録 → 再評価のリズムで回すと、自己申告とパフォーマンスのズレも臨床情報として整理しやすくなります。

評価の型を整えたら、次は面談準備チェックと職場評価シートで、学びやすい環境を選ぶ準備も進められます:/mynavi-medical/#download

参考文献

  1. Kinugasa T, Nagasaki H. Reliability and validity of the Motor Fitness Scale for older adults in the community. Aging Clin Exp Res. 1998;10(4):295-302. DOI: 10.1007/BF03339791 / PubMed: PMID: 9825020
  2. Hoshi M, Hozawa A, Kuriyama S, et al. The predictive power of physical function assessed by questionnaire and physical performance measures for subsequent disability. Aging Clin Exp Res. 2012;24(4):345-353. DOI: 10.3275/8104 / PubMed: PMID: 22102425
  3. Guralnik JM, Simonsick EM, Ferrucci L, et al. A short physical performance battery assessing lower extremity function: association with self-reported disability and prediction of mortality and nursing home admission. J Gerontol. 1994;49(2):M85-M94. DOI: 10.1093/geronj/49.2.M85 / PubMed: PMID: 8126356
  4. Podsiadlo D, Richardson S. The timed “Up & Go”: a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. DOI: 10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x / PubMed: PMID: 1991946
  5. Yokoi K, Nishimura A, Kato T, et al. Relationship between Fall History and Self-Perceived Motor Fitness in Daily Life among Community-Dwelling People: A Cross-Sectional Study. J Clin Med. 2020;9(11):3649. DOI: 10.3390/jcm9113649

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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