- 嚥下カンファの進め方:多職種で「条件」と「決定」をそろえる
- なぜ「多職種で決める」と嚥下が安定しやすいのか
- このページのフレーム: POS → T 位置 → GS → SBAR
- 嚥下カンファ 5 分フロー:会議前後に何をそろえるか
- 記録シートダウンロード
- POS(姿勢管理):嚥下安全の土台をそろえる
- T 位置:形態の偏りを短く共有する
- GS:舌骨上筋群筋力を優先順位に変える
- SBAR:会議を「決める場」に変える書式
- 決定事項の最小セット:誰が・何を・いつまでに・どう測るか
- モニタリング:現場で回る 8 項目
- 現場の詰まりどころ:条件の揺れで所見がブレる
- よくある失敗( OK / NG 早見)
- よくある質問
- 次の一手(同ジャンルで最短導線)
- 参考文献
- 著者情報
嚥下カンファの進め方:多職種で「条件」と「決定」をそろえる
このページで答えるのは、嚥下カンファで何を先に共有し、誰が何をいつまでに決めるかです。結論は、POS → T 位置 → GS → SBAR の順に並べると、会議が「報告」で終わらず「決定」まで進みやすくなります。
一方で、ここでは嚥下調整食分類の細かなコード解説や、各スクリーニング検査の詳細手順までは扱いません。この記事は、ベッドサイドで得た所見を多職種でそろえ、翌日からの運用に落とすための実務ページです。
評価の型は、個人の努力だけで身につくとは限りません。
今の職場で教育体制がない、相談相手がいない、教材に触れにくい、適切なアセスメントの見本が少ないと感じるなら、学び方と環境の整え方を先に整理しておくと動きやすくなります。
PT キャリアガイドを見るなぜ「多職種で決める」と嚥下が安定しやすいのか
嚥下は、安全性だけでなく、摂取量、服薬、食事時間、疲労、 QOL まで同時に見なければならない領域です。しかも、病棟・施設・在宅では姿勢、介助者、食事環境が変わるため、同じ患者でも条件がずれるだけで所見が変わりやすいのが実際です。
そこで会議のゴールを「評価結果の報告」ではなく、条件の統一と決定事項の固定に置きます。誰が見ても同じ姿勢条件で観察し、同じ言葉で機能の優先順位を共有し、再評価の期限まで決めておくと、現場のブレが減りやすくなります。
このページのフレーム: POS → T 位置 → GS → SBAR
このページの核は、姿勢を先にそろえ、形態の偏りを見て、機能の優先度を置き、最後に SBAR で短く決めるという流れです。 T 位置 と GS は、それ自体を細かく論じるより、会議で「何を先に直すか」をそろえる材料として使うと運用しやすくなります。
つまり、POS は土台、 T 位置は相対的な形態の偏り、 GS は機能の目安、 SBAR は決定の書式です。 4 つを分けて考えると、会議中の議論が散りにくくなります。
| 順番 | 見るもの | 会議で決めること |
|---|---|---|
| 1 | POS | 続く姿勢の条件を固定する |
| 2 | T 位置 | 形態の偏りを共通言語にする |
| 3 | GS | 機能面の優先順位を決める |
| 4 | SBAR | 担当・期限・再評価を固定する |
嚥下カンファ 5 分フロー:会議前後に何をそろえるか
このページの独自価値は、嚥下カンファを 5 分の流れに落としている点です。長い議論より、会議前 1 分で条件をそろえ、会議中 3 分で決め、会議後 1 分で記録を固定するほうが、翌日からの運用につながりやすくなります。
「情報は多いのに結論が出ない」ときは、情報量ではなく順番が崩れていることが多いです。下の流れをそのまま会議の進行表として使うと、担当と期限まで落としやすくなります。
| 時間帯 | やること | アウトプット |
|---|---|---|
| 会議前 1 分 | POS ・一口量・ペース・観察条件を確認 | 比較条件の統一 |
| 会議中 1 分 | POS の崩れと維持条件を共有 | 姿勢条件の標準化 |
| 会議中 1 分 | T 位置 と GS で優先順位を共有 | 介入の順番を合意 |
| 会議中 1 分 | SBAR で担当・期限・再評価項目を決める | 議事録の骨子完成 |
| 会議後 1 分 | 病棟・介助者へ条件を共有 | 翌日から同条件で運用 |
記録シートダウンロード
会議の流れを実際の運用に落とすときは、記録欄の形を先にそろえておくとブレにくくなります。今回の PDF は、患者情報 → POS → T 位置 → GS → SBAR → 再評価メモの順で 1 枚にまとめた、嚥下カンファ用の A4 記録シートです。
まずは紙 1 枚で回し、必要に応じて病棟や施設の運用に合わせて追記欄を増やす形が扱いやすいです。下のボタンから開き、必要ならプレビューで見た目を確認してください。
POS(姿勢管理):嚥下安全の土台をそろえる
嚥下を安定させたいとき、最初にそろえるべきなのは局所所見ではなく姿勢条件です。骨盤、足底、体幹、頭頸部、上肢支持が毎回ぶれると、むせや食事時間の変化が「機能低下」なのか「条件差」なのか判別しにくくなります。
実務では、疲労なく続けられる姿勢を標準条件として固定します。座位なら骨盤中間位、足底全接地、体幹左右対称、頭頸部中間位を優先し、臥位中心なら頭部挙上角度と頸部支持を固定して比較できるようにします。
| 項目 | 見るポイント | 記録例 |
|---|---|---|
| 骨盤 | 後傾・側屈・支持面の安定 | 骨盤:中間位、クッション 1 枚 |
| 足底 | 全接地、左右差、踏み込み | 足底:全接地、足台 2 cm |
| 体幹 | 前崩れ、回旋、疲労での崩れ | 体幹:軽度前傾で安定 |
| 頭頸部 | 顎上がり、前方頭位、支持の有無 | 頸部:中間位、枕高さ固定 |
| 上肢 | 肘支持、食具操作、テーブル高 | 前腕支持あり、テーブル高固定 |
T 位置:形態の偏りを短く共有する
T 位置は、オトガイ、甲状軟骨上端、胸骨上端を基準に、喉頭周囲の相対的位置関係をみる考え方です。臨床では、単独で断定する指標というより、「どこに偏りがありそうか」を多職種でそろえる補助線として扱うと使いやすくなります。
会議では、数値の細かさよりも、中間・上方寄り・下方寄りのように短く共有できることが大切です。そのうえで、頸部可動域、筋緊張、支持条件と合わせて、次の介入順を決める材料にします。
| 項目 | 方法 | 記録例 |
|---|---|---|
| 基準点 | オトガイ・甲状軟骨上端・胸骨上端を触診 | 3 点同定済み |
| 計測 | GT と TS を 2 回測って平均 | GT 5.2 cm、TS 7.5 cm |
| 算出 | T 位置 = GT /( GT + TS ) | T 0.41 |
| 共有 | 中間・上方寄り・下方寄りでまとめる | 中間〜下方寄り |
GS:舌骨上筋群筋力を優先順位に変える
GS は、舌骨上筋群の筋力を簡便に共有する枠組みです。ここで大事なのは、GS そのものを細かく論じることではなく、強化を先に置くか、姿勢・ ROM ・支持条件を先に置くかをチームでそろえることです。
実務では、GS 低下 × T 位置が下方寄りなら強化を優先しやすく、GS 低下 × T 位置が上方寄りなら緊張や支持、頸部可動域の修正を先行しやすい、という形で使うと会議が短くなります。目安として共有し、単独で結論づけないのがコツです。
| 項目 | 方法 | 記録例 |
|---|---|---|
| 体位 | 背臥位で頸部前屈位保持を指示 | 背臥位・前屈位保持 |
| 判定 | 保持の可否と落下程度で共有 | GS: Gr.2(保持困難) |
| 補足 | 疲労で悪化するか、再現性があるか | 反復で低下あり |
SBAR:会議を「決める場」に変える書式
情報が多い嚥下カンファほど、最後は短い書式に落とさないと現場で実行されません。そこで有効なのが SBAR です。 SBAR の役割は、所見を増やすことではなく、決定事項だけを短く残すことにあります。
コツは、 A(評価)を POS ・ T 位置 ・ GS の 3 行で固定することです。細かな所見は別欄に残し、 SBAR には「翌日から何をそろえるか」だけを書きます。
| 枠 | 書く内容 | 例 |
|---|---|---|
| S | 今困っていること・リスク | むせ増、湿性嗄声、完食率低下 |
| B | 疾患・経過・直近の変化 | 脳卒中後 2 週、離床量増で疲労増 |
| A | POS ・ T 位置 ・ GS を 3 行で記載 | POS:骨盤後傾あり、T 0.46、GS Gr.2 |
| R | 担当・期限・再評価を決める | 座位条件固定、一口量 5 g、7 日で再評価 |
決定事項の最小セット:誰が・何を・いつまでに・どう測るか
会議の最後に固定したいのは、所見の感想ではなく運用の条件です。ここが曖昧だと、翌日から姿勢や一口量や介助方法がずれ、再評価しても比較になりません。
下の表は、病棟・施設・在宅のどこでも使いやすい最小セットです。全部を一度に変えるのではなく、まずは POS と一口量、再評価期限の 3 つを固めるだけでも会議の質はかなり安定します。
| 決める項目 | 担当 | 内容 | 再評価期限 |
|---|---|---|---|
| POS | PT / 看護 | 骨盤中間位+足底全接地+頸部中間位を標準条件 | 7 日 |
| 一口量・ペース | ST / 看護 | 一口量 5–7 g、急ぎ食い回避、 2 口ごとに確認 | 7 日 |
| 食形態・水分 | ST / 栄養 | 制限は最小限から開始し、短期再評価前提で運用 | 7–14 日 |
| 訓練優先順位 | PT / ST | POS → ROM / 支持条件 → 必要なら強化 | 7–14 日 |
| 検査相談 | 医師 / ST | 必要時に VFSS / FEES を検討 | 随時 |
モニタリング:現場で回る 8 項目
指標は多いほど良いわけではありません。現場で毎日回すなら、誰が見ても同じように書ける項目に絞ったほうが再評価につながります。とくに、臨時カンファを開くトリガーは先に決めておくと迷いが減ります。
おすすめは、むせ、声質、呼吸、食事時間、摂取量、体位逸脱、 FOIS 、体重・脱水の 8 項目です。抽象的な「悪そう」ではなく、前週比や連続日数で書けるものを優先します。
| 項目 | 観察・測定 | トリガー例 |
|---|---|---|
| むせ/咳 | 1 食あたり回数 | 前週比で増、または連日 3 回以上 |
| 声質 | 湿性嗄声の有無 | 食前後で湿性が持続 |
| 呼吸 | 呼吸数・ SpO₂ ・息切れ | 息切れ増加、 SpO₂ 低下 |
| 食事時間 | 配膳から終了までの分数 | 60 分超が連日 |
| 摂取量 | 主食/副食%、飲水量 | 完食率 50%未満が連日 |
| 体位逸脱 | 骨盤後傾、顎上がり、前方頭位の回数 | 1 食で 3 回以上 |
| FOIS | 1–7 段階で共有 | 降段が出現 |
| 体重・脱水 | 体重、尿量、口腔乾燥など | 摂取低下+乾燥進行 |
現場の詰まりどころ:条件の揺れで所見がブレる
嚥下カンファがうまく回らない最大の原因は、評価技術そのものより、姿勢・一口量・ペース・環境・介助者が毎回変わることです。条件が揺れると、昨日の所見と今日の所見を並べても、変化が機能なのか環境なのか読めなくなります。
まずは POS と一口量を標準条件として固定し、同条件で観察できる状態を作るのが先です。会議が長くなるときほど、下の 3 つに戻すと立て直しやすくなります。
よくある失敗( OK / NG 早見)
| 場面 | NG | OK |
|---|---|---|
| 会議 | 所見が多くて結論が出ない | POS → T 位置 → GS の順で 3 行に圧縮して SBAR へ |
| 介助 | 介助者ごとに姿勢や一口量が変わる | POS と一口量を標準条件として掲示・共有する |
| 制限 | 不安で制限を強めたまま戻せない | 最小制限から開始し、 7–14 日の再評価をセットで決める |
| 再評価 | 比較条件が違って変化が読めない | 同条件で測る項目を先に固定する |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 嚥下カンファで一番大事なことは何ですか?
A. まず POS と一口量、ペースを固定し、同条件で再評価できる状態を作ることです。条件が揺れたままだと、所見を並べても解釈がぶれやすくなります。
Q2. T 位置 と GS は毎回測るべきですか?
A. 毎食での測定より、同条件で比較できる頻度を決めて共有するほうが現実的です。目的は細かな数値管理ではなく、介入の優先順位をそろえることです。
Q3. SBAR に書き切れないときはどうしますか?
A. A(評価)を POS ・ T 位置 ・ GS の 3 行に固定すると短くなります。細かな所見は別欄に残し、 SBAR には決定に必要な最小情報だけを書きます。
Q4. 臨時カンファを開く目安はありますか?
A. むせ増、湿性嗄声の持続、摂取量の急落、体位逸脱の増加、 FOIS の降段など、事前に決めたトリガーに一致したときです。先にトリガーを決めておくと迷いが減ります。
次の一手(同ジャンルで最短導線)
参考文献
- Yoshida T, Uchiyama Y. Clinical Characteristics of Swallowing Disorders Caused by Cerebrovascular Disease: A Study Using Newly-developed Indices for the Basic Elements of Swallowing Movement and Neck Range of Motion. J Jpn Phys Ther Assoc. 2007;10(1):11-15. doi:10.1298/jjpta.10.11. PubMed
- Crary MA, Carnaby Mann GD, Groher ME. Initial psychometric assessment of a functional oral intake scale for dysphagia in stroke patients. Arch Phys Med Rehabil. 2005;86(8):1516-1520. doi:10.1016/j.apmr.2004.11.049. PubMed
- Gandolfi M, Smania N, Bisoffi G, Squaquara T, Zuccher P, Mazzucco S. Improving post-stroke dysphagia outcomes through a standardized and multidisciplinary protocol: an exploratory cohort study. Dysphagia. 2014;29(6):704-712. doi:10.1007/s00455-014-9565-2. PubMed
- Lo L, Rotteau L, Shojania K. Can SBAR be implemented with high fidelity and does it improve communication between healthcare workers? A systematic review. BMJ Open. 2021;11(12):e055247. doi:10.1136/bmjopen-2021-055247. PubMed
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食委員会. 嚥下調整食学会分類 2021. 日摂食嚥下リハ会誌. 2021;25(2):135-149. 学会ページ
- ASHA. Adult Dysphagia. Practice Portal
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


