HDS-R の実施手順と採点・解釈のポイント
HDS-R は 9 項目・ 30 点満点の認知機能スクリーニングです。本稿では準備から実施、採点、結果の読み取りまでをコンパクトに整理し、現場で迷いやすい点を具体的に補います。評価は同じ流れで繰り返せるよう、チェック項目を標準化しておくと共有がスムーズです(関連:評価ハブ)。
結果を読む際は、年齢・教育歴・聴こえ/見え・服薬・体調・睡眠などの影響を念頭に置きます。合計点だけでなく反応の特徴(潜時、ヒントの要否、誤りの型)をメモして、再評価や追加評価の計画に活かしましょう。
項目の趣旨・判定の考え方・観察ポイント(一般化)
| 領域 | 趣旨 | 判定の考え方 | 観察ポイント | 記録例(1 行) |
|---|---|---|---|---|
| 見当識:時間 | 年月日・曜日など時間的見当識の把握。 | 即答の正確さ、修正の有無、ヒント要否を段階で捉える。 | 掲示物依存、昼夜逆転、入院直後の影響に注意。 | 「年・月◯/日×/曜△、潜時 8 秒、掲示物依存」 |
| 見当識:場所 | 現在地(施設→病棟→部屋など)の階層同定。 | どの階層まで自発同定できるかを記す。 | 直前の移動や案内表示の影響。 | 「施設階層は可、病棟名不可、誘導で自発正答」 |
| 個人情報 | 自己に関する基本情報の保持。 | 即答の有無と誤差幅で保持を推測。 | 家族の代答回避、補聴器・眼鏡の装着確認。 | 「年齢 ±1 歳、即答、再確認不要」 |
| 記銘(即時) | 新規情報の短期記銘。 | 反復回数と保持率(学習曲線)を要約。 | 話速・明瞭性の一定化、雑音コントロール。 | 「 2 回提示で 3/3、復唱良好、潜時 3 秒」 |
| 遅延再生 | 遅延後の自発想起と手がかり効果。 | 自発>手がかり>不能の順で記録。 | 妨害課題の長さ・質を一定化、潜時は秒で記載。 | 「自発 1/3→手がかり 3/3、潜時 12 秒」 |
| 注意・作動記憶 | 注意の持続・更新、ワーキングメモリ。 | 系列長を段階化、誤り方(脱落/逆順化)を分類。 | 復唱の固執・反復、聴覚処理負荷に配慮。 | 「短系列クリア、長系列で脱落、反復傾向あり」 |
| 系列計算 | 規則的操作と遂行機能の側面。 | 停止・規則逸脱・桁借りミスの型で捉える。 | 緊張で停止しやすい。励ましはヒント化に注意。 | 「開始良好→途中停止、規則維持は可、再開で完了」 |
| 語想起 | 制限時間内のカテゴリー語流暢性。 | 件数だけでなく反復・固着・偏りも併記。 | 時間管理を厳密に。カテゴリ例示は開始前に簡潔に。 | 「 60 秒で 8 語、反復 2 回、固着あり」 |
| 総括 | 反応プロファイルから追加評価・再評価計画へ。 | 合計点+潜時/ヒント要否/誤り型で判断。 | 背景要因(教育歴/感覚/体調/服薬/睡眠)を踏まえる。 | 「合計 xx/30、遅延再生で自発低下、 2 週後再評価」 |
合計点の目安(カットオフ)
- 30 点中 20 点前後を目安に扱う報告が多いが、対象・文脈で変動。
- 点数のみで重症度を断定しない。背景要因と併せて読む。
- 境界域では一定期間での再評価や他尺度の併用が有用。
実施の標準化チェックリスト
| 段階 | 要点 | チェック |
|---|---|---|
| 前準備 | 静かな環境、補聴器/眼鏡、疼痛コントロール、服薬確認、ラポール形成。 | 環境・感覚・体調の三点確認。 |
| 説明 | 目的と流れを簡潔に伝える。聞き返しがあれば整えてから開始。 | 聞こえ/見え/理解の確認。 |
| 実施 | 時間計測/中断の記録。反応の質・潜時・ヒント要否をメモ。 | 同じ手順で再現できるように。 |
| 採点 | ルールに沿って採点し、根拠メモを添える。 | 合計点+反応プロファイルで保存。 |
| 解釈 | 背景要因を踏まえ、必要に応じて再評価や他尺度へ。 | 家族・多職種と共有。 |
ダウンロード
臨床共有に使いやすい A4 の記録用シートです。
よくある質問(FAQ)
※各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 所要時間の目安は?
個人差はありますが、準備を含めて短時間で実施可能です。中断が入った場合は時刻や理由をメモしておくと再評価に役立ちます。
Q2. 点数が境界付近のときは?
当日の体調や睡眠、感覚機能、服薬などの影響を考慮し、一定期間での再評価や別尺度との組み合わせを検討します。
Q3. 共有時のポイントは?
合計点だけでなく、反応の特徴や所要時間、必要だった配慮を簡潔に共有すると経過観察がしやすくなります。
参考文献
- 日本老年医学会. 高齢者診療におけるお役立ちツール:HDS-R. Web / 質問票 PDF tool_05.pdf.
- Gong Q, et al. Utility of a shortened Hasegawa Dementia Scale Revised questionnaire to rapidly screen and diagnose Alzheimer’s disease. Psychogeriatrics. 2021. PubMed: 34250428 / DOI: 10.1002/agm2.12152.
- Honjo Y, et al. Attention to the domains of Revised Hasegawa Dementia Scale according to age and education in AD. Psychogeriatrics. 2024. PubMed: 38403287.
- 東京都民医連. 改訂 HDS-R の使い方(資料). 「得点による重症度分類は行わない」等の実施上の注意を解説. PDF.
- 長谷川和夫, 加藤伸司. 『「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」の手引き』中央法規出版, 2020. 出版社情報: molcom.jp.


