改訂長谷川式簡易知能評価スケール( HDS-R )は「短時間での認知機能スクリーニング」を現場で再現する
改訂長谷川式簡易知能評価スケール( HDS-R )は、病棟・外来・通所・訪問など「時間が限られる場」でも実施しやすい認知機能スクリーニングです。見当識や遅延再生などの要素を短時間で確認でき、リハの安全管理(指示理解・転倒リスク・自己管理)や、チーム連携(医師・看護・ MSW ・ケアマネ)に役立ちます。
本稿は、設問文は掲載せずに、実施の流れ・採点の考え方・解釈の落とし穴・記録の型を、リハ現場の運用目線でまとめます。
この記事の位置づけ(ハブ → 親 → 小)
本記事は「小記事(単体スケール)」として運用し、上位のまとめ記事(親)で比較・使い分けに接続します。
- ハブ:/hub-evaluation/(評価ハブ)
- 親記事:/cognitive-assessment-selection/(認知機能スクリーニングの選び方)
HDS-R の概要(何が分かる?)
HDS-R は、認知機能のうち見当識・記憶(即時/遅延)・注意/計算・想起などの要素を短時間で確認する検査です。スクリーニングの役割は「診断を確定する」ではなく、追加評価や専門受診が必要そうかを見極めることにあります。
リハの場では、その日の状態(眠気、痛み、感染、低酸素、低血糖、脱水、薬剤影響など)で得点が動くことがあるため、点数だけでなく検査中の様子(反応速度、聞き返し、保続、注意の揺れ)をセットで記録すると、チームで共有しやすくなります。
どんな場面で使う?( PT / OT / ST の実務)
HDS-R は「認知機能の全体像」を把握するというより、リハ実施の前提条件を確認するのに向きます。たとえば次の場面で有用です。
- 転倒・逸脱が多い:見当識や注意の低下が、危険行動の背景にないか
- 運動学習が進みにくい:指示理解や遅延再生の弱さが、反復練習の設計に影響していないか
- 自己管理が不安:服薬・水分・歩行補助具などのセルフマネジメントに必要な能力を推定
- 退院調整:独居・家族支援・サービス調整の材料として、状況説明の共通言語にする
実施の流れ(現場で再現するコツ)
ポイントは「環境調整」と「前提確認」です。聴力や失語、せん妄の疑いがあると、認知機能そのもの以外で点数が下がります。できるだけ同条件で、再評価できる形に整えます。
- 環境:静かな場所、周囲刺激を減らす、眼鏡・補聴器の使用を確認
- 前提:痛み、呼吸苦、発熱、睡眠不足、低血糖、脱水、薬剤(鎮静・抗コリン)などを確認
- コミュニケーション:失語・構音・難聴が疑わしい場合は、反応形式(口頭/指差し)を工夫し、無理に続行しない
- 実施中:答えの正誤だけでなく、迷い方、聞き返し、注意の抜け、反応速度をメモ
採点の基本と「カットオフ」の考え方
HDS-R は 30 点満点です。一般に、一定点以下で「認知機能低下の可能性」を疑う目安として用いられますが、年齢・教育歴・文化的背景などの影響を受けます。とくに教育歴が短い場合は、同じ点数でも解釈が変わり得ます。
実務では、点数を単独で断定せず、①点数 ②検査中の所見 ③ ADL / IADL の実態(行動)をセットで判断するのが安全です。比較・使い分けの観点では、 MMSE のまとめも合わせて確認すると、現場の説明がスムーズになります。
解釈のコツ(点数より「落ち方」を見る)
HDS-R は領域ごとの「弱さ」の見当をつけるのに役立ちます。たとえば、見当識の揺れが強いのか、遅延再生が弱いのか、注意/計算で落ちるのかで、リハの関わり方(指示の出し方、外的手がかり、課題量)を調整できます。
- 見当識が不安定:予定提示(今日の流れ)や、場所・人物の手がかりを増やす
- 遅延再生が弱い:反復・間隔反復、視覚手がかり、メモやチェックリストの導入
- 注意/計算で落ちる:二重課題を避け、課題を分割し、休憩とペース配分を明確化
記録の型(チームに伝わる書き方)
記録は「点数」だけだと再現性が落ちます。次の 4 点をセットにすると、医師や看護師、 MSW にも伝わりやすくなります。
- 実施条件:時間帯、場所、同席者、眼鏡・補聴器の有無、眠気や痛み
- 総得点: HDS-R ○○ / 30 点
- 所見:聞き返し、迷い方、注意の抜け、反応速度、途中離脱の有無
- 次アクション:再評価予定、家族聴取、追加スクリーニング、医師相談など
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
| 場面 | NG | OK | 理由 | 対策/記録ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 聴力・失語が疑わしい | そのまま強行して「低得点=認知症」と決める | 前提条件を明記し、必要なら中止して別手段へ | 認知以外の要因で不利になりやすい | 眼鏡・補聴器、失語所見、反応形式(指差し等)を記録 |
| 疼痛・呼吸苦・発熱 | 状態が悪い日に 1 回だけで評価を終える | 状態が整った日に再評価し、変動も情報化する | 注意や反応速度が一時的に低下する | バイタル、眠気、痛み NRS など「当日の状態」を併記 |
| 点数だけ共有 | 「○点でした」で終える | 点数+検査中の所見+ ADL の実態をセットで共有 | チームが介入方針に落とし込みにくい | 迷い方、聞き返し、注意の揺れ、再現性を短くメモ |
| 教育歴や文化背景 | カットオフを機械的に適用 | 年齢・教育歴を踏まえ、疑い度を調整 | 背景要因で点数が動く | 教育歴(年数)と生活歴の情報を一行で残す |
| 家族説明 | 点数で断定的に説明する | 「スクリーニング結果」として、次の評価や受診につなぐ | スクリーニングは診断確定ではない | 「再評価予定」「追加検査の必要性」をセットで伝える |
よくある質問( FAQ )
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Q1. HDS-R は何分くらいでできますか?
一般的には短時間で実施でき、病棟の合間でも運用しやすい検査です。ただし、聞き返しが多い、注意が続かない、環境が騒がしいなどの条件で所要時間は延びます。「急いで終える」より「同条件で再評価できる」方が臨床価値が高いので、実施条件の記録を優先してください。
Q2. 失語や難聴があるときは使えますか?
そのまま口頭のみで進めると不利になりやすいです。補聴器・眼鏡の確認、静かな環境、反応形式の工夫(指差しなど)を検討し、それでも成立しにくい場合は中止して別の評価に切り替える判断が安全です。結果を残す場合は「前提条件」を必ず併記します。
Q3. 点数が低い=認知症で確定ですか?
確定ではありません。HDS-R はスクリーニングなので、低得点は「追加評価や専門受診を検討するサイン」です。せん妄、抑うつ、疼痛、低酸素、薬剤影響などでも点数が落ちることがあります。点数だけでなく、当日の状態と検査中の所見をセットで解釈してください。
Q4. 再評価はどのタイミングがよいですか?
急性期の状態変動が落ち着いた時期、睡眠・疼痛・内科状態が整った時期など、比較可能な条件での再評価が有用です。退院前の指導や自己管理支援の設計を見直したい場面でも、再評価が役立ちます。
Q5. リハの目標設定にどう使いますか?
HDS-R の結果は「できないこと探し」ではなく、介入の工夫点に翻訳すると活きます。たとえば、遅延再生が弱ければ外的手がかり(メモ・チェック表)を導入し、注意が揺れやすければ課題分割や休憩を増やす、といった形です。
おわりに
HDS-R は、安全の確保 → 短時間スクリーニング → 所見も含めて記録 → 条件をそろえて再評価の流れで運用すると、リハ現場で「使える情報」になります。退院支援や転職準備の観点では、面談準備チェックと職場評価シートも合わせて使えるので、必要ならこちらから確認してください。
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著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


